丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

羽ばたく鳥   ③

2005年11月09日 | 作り話
 それはあまりにも突然だった。写真誌に雅博の姿が載った。それも「熱愛デート発覚」などという見出しをでかでかつけられた。 相手は牧子ではなく、ベテランの女優だった。初秋の深夜の街を並んで歩く姿が見開きで載っていた。記事の主役は雅博ではなくむしろ相手の女優だ。雅博よりも芸能界では格上で、恋多き女として有名でもある。  こんな記事が世間に出るなんて夢にも考えた事はなかった。牧子は最初あっけにとられたが . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ④

2005年11月09日 | 作り話
 その日は全く何をする気にもならなかった。静まり返った家の中で、何をするでもなくベランダに出てみたり、物置状態のかつての自分の部屋にはいってみたり、本棚の中の埃臭い小説を引っ張り出してみたり、留守番の猫のようにうろうろしていた。そのうちに眠たくなり、母親のベッド(自分の布団は押入れの中だった)にもぐりこんだ。そういえば、昨夜はほとんど寝ていない。牧子はスイッチが切れたように眠り込んだ。夢も見なかっ . . . 本文を読む

羽ばたく鳥   ⑤

2005年11月09日 | 作り話
 翌朝少し早いめに牧子は家を出た。病院にたどり着くと母がちょうど手術室に向かう前だった。点滴をされながらストレッチャーに載せられた母を見ると、急に不安が増した。それを顔に出さないように明るい表情を作って、母に手を振った。 母が連れて行かれた後、年配の看護師に軽く肩をたたかれる。 「大丈夫よ、心配ないから。」  よほどわざとらしい笑顔だったのだろう。雅博のように役者にはとてもなれそうになかった。 . . . 本文を読む

約 束  「新選組!」番外編

2005年08月09日 | 作り話
 明治28年・夏  その年の大坂の夏は格別暑かった。清との戦争に勝った去年からの浮き足だった雰囲気はまだ巷に漂っており、町は活気に溢れていた。人々の活気が夏の暑さをあおっていたのかもしれない。  賑わう大通りから一筋二筋と奥まった通りは、表通りとは少し違う。文明開化とも、景気の良い裕福な大店とも縁の無い、古ぼけた貧しい界隈になる。そこは幕末からの動乱の時代を経た今に至っても、当時とあまり変わらない . . . 本文を読む