着付け小物のご紹介の中で、着付け学院系のアイテムをいくつかあげたので、避けて通れないと思い、つぶやきます。
……石、投げないでね?
着付け教室、着付け学院、いろいろあります。
「どこがおすすめですか?」「どこがいいですか?」という問いが、ネットでも巷でもあふれていますが、その裏側には「ここは、販売会や講習会で高額な着物を売りつけたりしない?」「器具代や受講料、資格認定料はどれくらい?」という問いがかくれているのです。
結論としては、全国展開の大手着付け学校は、全て各流派独特の着付け小物などを最初に買わされます。よその着付け学校に行った人の話を聞いても、だいだい3万円~4万円くらい。
受講料無料のところは、いずれセミナーや講習会名目の販売会で、充分に利益をあげられる。人件費や光熱費や場所代かかるのに無料っていうのは、必ずその分ペイできる何かがあるということです。着物業界全体があっぷあっぷしているのに、無料着付け教室に業界がお金出すなんて、あり得ない。
宣伝には「当学院の卒業生は、各業界で活躍中」みたいな文句が踊り、そこを修了すれば仕事を斡旋してもらえるかのように書いてありますが、そんなに着付け師の需要ってあるわけなくて、一生懸命販売会で着物を買ったり全てのコースを修了してたくさんお金を払っても、せいぜいがその教室の助手をさせてもらえるくらいと聞きます。
学院によっては、ちゃんと求人を紹介してくれるところもあるらしいですが、お仕事したい人の人数に比べたら、微々たるものです。
わたしは、最初、西陣和装学院という、当時、市田ひろみさんが学院長だった、西陣織工業組合下の着付け学校に行きました。
幸いなことに、そこは、着付け師の養成機関というよりは、京都の着物業界の呉服店、帯屋さん、貸衣装屋さんの跡取りのお嬢さんやお嫁さんが、着物について広く一通り学ぶための学校という色彩が濃かったので、周囲はそういう人ばっかり、同じクラスに自分が結婚式に着物を借りた貸衣装屋さんの跡取り娘さんがいてびっくり。
だから、着付け小物を販売というのも「無いものがあれば販売もしていますけど、あるもの使ってね」というざっくりとしたもので、帯や着物も当然みんな持ってるから、販売会も一切無し。押し売りされる心配は皆無でしたね。
わたしは、古着屋さんで漁ったり、親戚遠縁のおばさんたちからもらった着物で練習していましたが、誰も新しいのを買えなんて言いません。
着付けも、特殊な用具は一切使わずに、紐で着つける昔ながらのやり方でした。
その代わり、十二単も束帯も花嫁さんも舞妓さんもやるけど、それが昇級試験の必須課題ではないので、最後の師範科まで終了して看板をもらっても、それらを自分で一通りできる実技が身についたとはいえませんでした。
ただ、着付けのスタートがそういうところだったのは、わたしにとっては幸運だったと思います。
もし、自分の娘が着付け師を目指したいと言ったら、もし花嫁の担当までしたいと思うのなら、まず、ブライダル系の学科のある、美容専門学校に行くことを薦めます。
着付けしかできないよりは、ヘアもメイクもできる方が仕事の幅が広がるし、着付け教室よりも、そういう専門学校の授業の方が、国家資格受験を見据えたハードなものなので、必ず身につきます。
周囲の美容師さんの、花嫁の着付けをされる方たちを見ていても、その手際の良さは、若い頃に手順やタイムを徹底的に叩き込まれたもの。
私立四年制大学の理系の学部の四年間の学費に匹敵する学費はかかりますが…。
なので、これは、本気でブライダルの仕事をしたい人向けです。
また、ベテランのブライダルの着付け師さんに聞いた言葉が、胸に刺さります。
昔、その方が仕事の上で、美容師さんのミスのはずのところを着付け師のミスとして叱責された時に、さすがに抗議したそうですが、美容師さんに「わたしたちは国家試験をクリアしているから、誇りを持っている」と言われたそうです。
美容師は、厳しい国家試験を経て国家資格の美容師免許を取得している。
しかし、あなたたち着付け師は、各着付け学院が、それぞればらばらな基準で設けている資格があるだけ、全国で統一された基準がある国家資格ではない、ということなのです。
各着物学院の資格の肩書きは、あくまでもその流派の中でしか通用しません。各着物学院の学院長さんは、「全日本○○師会会長」とか「日本和装○○会理事」とかいう、まるで全国レベルの組織の長であるような肩書きを持っていらっしゃいますが、実は、それはその流派の卒業生を統括する団体のトップであることしか、意味しないのです。そういう団体で、各流派を超えた団体や法人と言うのは、多分、存在しないんじゃないかな?
一方、美容師さんと一緒の仕事現場では、地位的には美容師さんが上、着付け師はその下です。これは厳しい現実です。
現場に入れば、必要なのは、その人が「現場で使えるか、使えないか」です。着付けの技術の他に、接客・営業などのスキルも必要とされます。それを持ち合わせているか、そこで必死で身につける努力をするかで、使ってもらえるかが決まって来ます。
また、各現場では、それぞれに合理的なやり方があり、そこの流儀に合わせなければなりません。「手を揃える」というのは、「うちにいる以上は、うちのやり方に従ってもらうわよ」的な意地悪い意味ではなく、お客様からのクレームや問題が起こった時に、手順を統一していると、どこで問題が起こったか明らかにしやすく、いろいろな人間が介在していても、対処が可能だからです。
それは、美容室、ホテル、フォト・スタジオなど、どこでも同じことです。
だから、特定の流派のやり方を極めるよりも、とにかく着付けの現場に飛び込んで、場数を踏むことが、仕事として着付けをすることでは大切だと思います。
自分が着物を着て楽しむことが目的なら、大手着付け学院よりも、地域の小さな着付け教室をお薦めします。
小さな着付け教室でも、系列としては大手着付け学院の階層に属していることもあり、その場合、同じように器具の販売や着物の販売会がついてこることもありますが、その辺は口コミを頼りに見分けるしかありません。
お金を吸い上げるシステムを持つ大きな組織に属さない先生は、ごく当たり前の月謝をとられます。当たり前の月謝を払って習う方が、かえって安心ともいえます。それは教室の場所代であったり、光熱費や維持費、先生の時給であり、何ら不当なものではありません。
良心的なところなら、自分の手持ちの着物や帯で、最低限の着付け小物を使った着付けを教えてくれるはずです。
それこそが、わたしたちが祖先から受け継いだ、民族衣装の着方だと思うのです。
わたしはママ友に紹介された大手着付け学院系列の先生のところで、レッスンを受けたりお仕事させていただいたりもしていますが、その先生はたまたま、生徒に試験受けさせたり販売会に連れて行ったりするよりも、実際の仕事に投入できる人材を求めていらっしゃって、最初の資格だけ取ったら、早々に袴の着付けの現場に投入されました。
先輩方に聞くところによると、その先生は学院の要求するノルマを気にしないでいいくらい力のある先生なのだそうで、その辺の自由さは先生の力関係にもよるみたいです。
末端の先生は、受験数や小物の販売数、販売会やパーティーの動員数に縛られ、各地方校に属する先生方は、それこそ学校の方針にがんじがらめでしょう。
そのようなしがらみから、ある程度自由に行動できる先生の教室であったこと。
それも、幸運だったと思います。
更に、求人広告を見つけて応募した美容室と契約して、そこが入っているホテルや結婚式場のブライダル関連の着付けもさせていただいていますが、そこは、着付けの統括をしている先生の出身校と関わりの無い着付け学院出身者も、経験と現場に合わせる柔軟性さえあれば、ちゃんと使っていただけますし、そこのやり方を一から叩き込んで下さいます。
それも、幸運だったと思います。
仕事をする為に着付けを習うのなら、着付け教室で教えるだけでなく、実際に成人式や卒業式の仕事をしている先生の教室を探して、そこに入るか、一般的な着付け教室で、留袖・振袖くらいまでを一通り習い、求人を自分で探して現場に飛び込み、経験を積むかです。
着付け学院を最後まで修了したからといって、ほいほいお仕事を斡旋してもらえるような世界ではないことを、知っておいて下さい。