衿合わせが美しく決まっていると、それだけで仕上がりの印象がぐっと良くなります。
そして、腰紐は着付けの最も重要なポイントの一つで、ここがゆるいと、裾が落ちて大変なことになってしまいます。
着物を着慣れて、自分なりの着こなしを楽しんでいらっしゃる方々でも、この腰紐だけはしっかりと締められています。
逆に、腰紐さえしっかり締めてあれば、着物に慣れて、自分で多少の崩れは直せるのなら、他はかなりゆったり着ても、そう崩れはしないということです。
着物を着ていても、座ったまま立ったままではなく、必ず立ったり座ったりの動作はしなければなりません。
椅子に座るにしろ、畳に座るにしろ、立ったり座ったりする際には、裾を踏んで着物の裾が落ちてしまう危険性があります。
また、歩いていると裾が乱れて開いて来ることもあります。
衿合わせや衣紋の抜き、おはしょりの乱れはある程度直すことはできますが、裾がべろんと落ちたり開いたりすると、非常に直しにくい上に、大変目立ちます。
腰紐は、だいたい5本、帯結びに仮紐を使っても6本あれば足りますが、わたしたちは、その中でも一番条件の良い腰紐を、着物を着る時の腰紐に使います。
滑り具合、締まり具合、体への当たり具合などで、それぞれ個々人のお好みはあると思いますが、普通条件が良いと言われるものは、「ゆるみにくい」「幅の広い」ものになります。
腰紐の素材には、絹、モス、ポリエステル、夏用の麻などがあります。
形状には、平らに幅広に仕立てたもの、ひも状のもの、薄い「きんち」と呼ばれるもがあります。
素材としては、わたしは最初の着付けの学校では、絹の平らなものを薦められました。
滑らかで滑りがよく、きゅっと締まって扱いやすかったです。
欠点としては、お値段が少々高めなこと、生地が薄いので芯を入れて仕立ててあるものが多く、それが邪魔になること、使っているうちに生地が擦り切れたり、汚れても洗えないことなどが挙げられますが、10年以上使い続けて、わたしの腰紐は擦り切れてきましたが、着物を着る度に手をちゃんと清潔にしていれば、擦り切れるより前に洗いたくなるほど汚れることはありません

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同じショップの同じページにある、3本税込787円の標準の太さ(幅4cm)のものはリーズナブルですが、できれば幅広タイプのものが使いやすいと思います。
絹の腰紐の良い点は、何よりも滑りの良さで、後で引き抜く仮紐には最適です。
また、モスなどの硬い素材の腰紐は、とても高価な着物を絶対に痛めたくないという方には、避けた方がいいかと思います。
締める時に力を入れますので、絹とモスが摩擦でこすれあう際に、弱い絹の方が負けて、生地が傷んでしまうことがあるからです。
普通の着物を腰紐で着物の生地が擦り切れてしまうほど着込む方はまれだと思いますが、アンティークで生地が弱っているもの、非常に高価な作家ものなどで、絶対に生地に負担をかけたくないという場合は、絹をお薦めします。
着付けの現場で困ることの一つに、腰紐の保管状態が悪く、脱いで紐をほどいて、そのままくるくるっとくくっただけのものに当たることがあります。
そういう腰紐は、細くひも状によれてしまっています。特に、絹の腰紐に多く見られる現象です。
素材にかかわらず、幅の広い腰紐がいいと言われるのは、腰に締めた時に、面積が広い方が、力が分散するので痛くないからです。広い面積で押さえると、ずれにくくなるというのもあります。
なので、手間はかかりますが、ご使用後、腰紐は必ず広げながら、鉢巻を畳むように五角形に畳んで保管することをお薦めします。
そうすれば、いつまでも腰紐を状態良く使用することができるのです。
着付けを習い始めた方が、たいてい薦められるのは、モスの腰紐だと思います。
こちらの写真の手前の白とピンクの二本がモスの腰紐です。
モスは羊毛が原料で、摩擦が強くしっかりと締まります。緩みが禁物の腰紐には、一番良いものです。滑りはよくありませんが、緩んでほしくない場所には最適です。リーズナブルで耐久性も高く、これから揃えるという時には、モスを選ばれれば、間違いないと思います。
上記のものは、4.7mmと他社のものより少々幅が広めで、純毛を保障しているので、なかなか良いと思います。
以前、同じようなお値段で、他店の「モスリン腰紐」というものを購入しました。
とてもお安かったので、本数が足りない時、お客様に差し上げてもかまわないようにと購入したのですが、ロットによるのか、3回目に購入した際、商品を結束してある帯に「モスリン腰紐・ポリエステル100%」と表記されたものがあったのです。
念のため、三角に綴じてある端の部分を引き出して、糸を抜いて燃やしてみたところ、化学繊維独特の、溶けて固まる現象を確認しました。
「モスリン風腰紐」とでも言うべきなのか、風合いはモスリンに近いけど、もっと薄っぺらでそれほど摩擦を感じないものでした。
今回、商品を紹介する為に、楽天の検索で腰紐を検索した時に、同じ商品を何店舗かで見かけましたが、どこも「モスリン腰紐」として販売しており、HPの商品紹介の素材の欄に「モスリン・毛」と書いてありました。非常に紛らわしいと思います。残念ながら、1本100円程度のお手頃な価格帯のものの、半分近くがその製品でした。
なので、商品の写真に写っている帯に「毛100%」「純毛」などの表記があるものをお選びになるよう、お薦めいたします。
耐久性と言う点では、化繊が一番で、絹のように擦り切れないし、滑りはいいし、洗えます。モスのように虫食いの心配も無く、放ったらかしでも、細いひも状になりにくいです。
が、締めた時に、絹はしっかり締まって緩みにくいのに対して、化繊は、緩みやすいのが最大の欠点です。
その、緩みやすいという欠点を解消したのが、次の商品です。
「あづま姿」のブランド品な為か、モスの腰紐に比べると、ちょっとお値段しますね。
わたしが別店舗で買ったピンクのものは、もっとお安く買えたような気がしますが、セールだったのかな?
ブライダルのレンタル衣装にセットされている腰紐は、花嫁の打ち掛けや留袖の場合、この腰紐が多いです。
化繊のぺらぺらした滑りを、シボの多いサッカー生地にしたことで解消し、滑りにくくなっています。しっかり結べて緩みにくく、使いやすいです。
パルプ原料の合成繊維、レーヨンの腰紐もあります。
平たく仕立てたレーヨンの腰紐の中には、かわいい柄のものがあり、わたしも何本か持っています。
滑りはそこそこ良く、締まりますが、くしゃくしゃになると戻りにくく、個人的に使い勝手は良くないと感じました。せっかく平らに仕立てた意味が無いなぁ…と。絹やモスほどしっかり締まった感も無く、よっぽどこの柄の腰紐が使いたい!という時でなければ、使わないかな~。
原料をざっと紹介したところは、こんな感じです。
あとは仕立て方かな?
紐のように細く丸いタイプは、痛くて使いにくいです。
幅が広く、平らに仕立てているものの他に、非常に幅が広く、薄くてくしゅくしゅの兵児帯みたいなものがあります。
![]() やみつきになる締め心地♪正絹 広巾 縦シボ 絹地きんち腰紐(こしひも)〔アイボリー・ピンク〕【メール便OK】 |
「絹縮」と書いて「きんち」と読ませるらしいです。
とても軽くて薄く、ふわふわしていて、試しに買ってみましたが、わたしには扱いにくい感じがしました。
きゅっと締めた感じが好きというファンも多いそうです。
締める時に、細くならないよう、幅を調節しながら使ったらいいかと思います。
このタイプで、レーヨン素材のものもあります。
わたしが通し矢や卒業式の着付けのお仕事で行っているレンタル会社の腰紐は、このタイプです。
![]() こだわりの小物で着付しよう!緩みにくい腰紐!レーヨン(絹地)腰紐白和装小物メール便OK |
レーヨンと絹は全く別のものなので、この書き方はどうかと思いますが

絹の「きんち」ほどふわふわ頼りなくもなく、しっかり締められて緩みにくいので、仕事で使っていて、安心できます。
平らにしたててあるものと違い、伸ばして五角形に畳むということをしなくていいところも、長所です。
性質上、汚れが他のものよりつきやすい気がすることと、かさばる分おはしょりに響きやすいという点もあります。
ご自分の着付けに対して、どの素材、仕立てのものがいいか、選ばれるとよいでしょう。
番外で、夏用の麻の腰ひもを。
![]() 日本製 麻100% 本麻 夏の腰紐 夏の涼しい麻腰ひも[1484]【メール便OK】 |
夏用の麻の小物は、どれもだいたい割高です。
夏場の季節になると、セールでお安くなったりしますので、急ぐものではありませんし、機会をみて、お手頃なお値段で出ている時に購入されるといいと思います。
また、夏は汗をかきがちなので、腰紐も洗える麻などが重宝かと思います。通気性も良く、わずかなことですが、着付け小物もメッシュや麻素材のものを利用して、少しでも涼しく感じられるといいですね!
また、腰につかうだけでなく、たすきがけしたり、見せる部分に使う際には、こんなものもいいかもしれません。
![]() ◆オリジナルブランドつゆくさ◆正絹 椿柄 縫い取り刺繍の腰紐 |
通し矢のお仕事に行くと、新成人の方々は、弓を引く為に、着付けに必要な腰紐以外に、たすき用の腰紐もお持ちです。
ピンクや白の、いかにも…という腰紐よりは、他の色や柄の、見せても恥ずかしくないものをちゃんとお持ちの方がほとんどです。
上の椿の腰紐などは、そういう晴れ舞台に、うってつけかと思います。
以上、まとめると、滑りなら絹、緩まないのならモス、サッカー地の化繊、リーズナブルさではモス、耐久性ではモス、サッカーとなります。
仕立ては、できるだけ広幅の、平らに仕立てたもの。
そして、着つける時に、腰紐を締める場所にも気を付けたいです。
だいたい、お客様の腰骨の、ちょっと上あたりに締めると、上にあがりにくく、あまり痛くありません。
これがウェスト辺りでしめるど、お腹が苦しくおはしょりも出なくなります。
腰骨の真上に締めると、痛くてよくありません。
人によっては、おへその位置をお聞きし、その辺を前の中心にして結ぶそうです。
わたしは、腰骨の位置をお聞きし、その上、締めて落ち着きそうなあたりに腰紐を締めます。
わたしはもらいものの着物が多く、丈が短いので、自分でその様な着物を着る時は、腰紐を下の方に締めて、少しでもおはしょりが出しやすいようにしています。
他にも、伸びる素材の、ベルト状のもの、マジックテープで留めるタイプのものがあります。
時々、お客様でこのタイプのものをお持ちの方がいらっしゃいます。
腰紐の本数がなければこれも使いますが、わたしは絶対緩んでは困る場所には使いません。
使い慣れれば楽だとおっしゃる方もありますが、使い慣れていないと緩む危険性が高く、長い年月しまいっ放しで、ゴムが劣化していることもあります。
滅多に使わない場合は、その危険が大です。
また、ゴム製のマジックベルトで留めるタイプのものもあります。
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着付けの試験の為に、同じようなタイプのものを購入しました。
自分ではあまり使いませんが(なんだか、頼りない感じがして)、紐を締めるのを嫌がる子供には、良かったです。ちょっとひっかけてびって引っ張ったら外れてしまいそうな心配はありますが、娘の着付けには重宝しました。
幅がもっと広いものは、伊達締めにも使えます。
帯は中で体が泳ぐほど緩く着るという方でも、腰紐はちゃんとしっかりしめられます。
着付けの仕上がりとその後の着崩れ事故の有無を左右する、大切なポイントなので、腰紐は締まりよく緩まないものを吟味して選んで下さい。
ブライダルの現場は、腰紐の締め方はかなりきついです。
「あんなんで、披露宴の間、ご飯食べられるのかな?」と心配ですが、花嫁さんのウェディングドレスも、後ろをコルセットのように紐で下から締めあげて行くので、かなり苦しそうで、着崩れないようにきつく締めるのは、和装に限ったことではないようです。
そして、ご自分で苦しいと思われても、腰紐と帯締めだけは、決して自己判断でほどかれませんよう、お願い致します。