在沪日記

流れゆく人生を残すブログ マウイ オアフ 上海 シンガポール そして日本

無錫では桃が熟れるころ

2022-07-16 | 上海とはずかたり
 上海にも梅雨がある。

 日本列島に横たわる梅雨前線。

 その西端が華南までのびてくると、上海も梅雨入りだ。

 ただ雨の降り方が違う。

 東京のように何日間も雨が降りつづくことはない。

 日中、数時間だけ強い雨の降る日が2週間ほどつづく。

 それが上海の梅雨。

 梅雨が終わるころ、水蜜桃が旬を迎える。

 華南は桃の産地だ。

 戦前の日本には「上海水蜜桃」という名の桃が流通していたらしい。

 もちろん今でも无锡(江蘇省・無錫)の水蜜桃は名高い。

 かの地から運ばれた水蜜桃が6月半ばから上海の街角に顔を出しはじめる。



 住んでいるフラットの前に移動果物店がやってくる。

 トラックの荷台にフルーツをのせた行商人だ。

 我家では彼らをフルーツ・トラック、略して「フルトラ」と呼んでいる。

 残念ながらフルトラで買うよりも、店舗を構えた果実店の方が品が良い。

 やはり看板をもたない商売は限界がある。

 同じ「看板あり」のフルーツ・ショップでも、繁華街にある立派な店はあまり利用しない。

 一番いいのは小区の入り口にあるような半露店の果物屋。

 上海の人々は夕飯のあと散歩する。

 そしてこのナイト・ウォーキングのついでに明朝食べる果物を買う。

 自分の住む小区の果物屋に並ぶ品がよくなければ、となりの小区の店舗まで行ってしまう。

 なんてったって散歩なんだから。

 少々の距離なんか気にしない。

 いいかげんな品物を置いたら買ってもらえないのは店側もよくわかっている。

 かくして小区の果物屋のレベルは高くならざるえないのだ。



 そんな小区のフルーツ・ショップで无锡の水蜜桃を買う。

 雨上がりの夕方、舗装が悪くてやたらと水溜りだらけの道をあるいて家に帰る。

 西の空は夕焼け。

 明日は晴れそうだ。


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「食い逃げ」in上海

2022-03-06 | 上海とはずかたり
 無銭飲食、つまり「食い逃げ」の現場にでくわしたことがある。

 上海のとある場末のショッピングモールにある「自称日本料理」の店だった。

 その店はモール内の通路との間に壁のない「食い逃げ好適店」だ。

 店側もそれはわかっているから通常ひとり客は前払いを要求される。

 その日、後刻食い逃げ犯だとわかる若い男は「しばらくしたらもうひとり来る」と店員に交渉
し、通路際のテーブルについた。

 「あ、なんかこいつ怪しいな」と思い、僕はヒドくパサついた焼サバを食べながら見るとはなし
に男を観察していた。

 連れ合いがいるなら、飲み物でも頼んで、相手が来るのを待つのが常道だろう。

 ところがこの男、席につくなり値が張るちょっとしたランチコースを二人前注文したのだ。

 怪しくないか?

 店員も前払いを求めればいいのだが、そこまで強く言うのは面倒くさいのだろうな。

 「2人以上の客なら後払いでいい」というマニュアルだろうし、食い逃げ防止を積極的に遂行する
労働意欲にみあうほど高い給料もらっているわけでもない。

 まあもっともな話だ。

 ランチコースがふたり分運ばれ、くだんの男はすぐに食べ始める。

 「ああ、こいつ十中八九、逃げるな」

 僕はそう思い、不謹慎だがワクワクしながら未来の無銭飲食犯をチラチラと観察していた。

 架空の待ち人はあらわれず、男はあらかたの料理を食べおえる。

 と、その瞬間、予想通り乱暴に椅子を尻で押しのけて、男は立ち上がり従業員用の裏通路の扉めがけて走り出した。

 「あ、やっぱり」

 「脱兎のごとく」とはまさしくこの様子をいうのだろう。

 ウサギのように椅子からはねあがり、店内と通路しきっているロープをピョンと跳び越え、
裏通路へと消えていった。

 従業員たちは一瞬何が起きたのか状況を把握できないようだったが、すぐに近くにいたウエイ
ターが叫びながら男の後を追った。

 だが数分すると戻ってきた。

 計画的な食い逃げ犯だし、捕まえて公安を呼ぶのも面倒臭い。とっくみあいにでもなってケガさ
せられたら割にあわない。

 そんなところだろう。

 それももっともな話だ。

 逃げた男は金に困っていたのだろうか。

 それともこれは彼にとって一種のゲームのようなものなのだろうか。

 場末のショッピングモールの美味でもない「インチキ日式料理店」に対するちょっと
したあてつけとしての無銭飲食だとしたら・・・・・・

 あるいは鬱憤の矛先が反日愛国行動に向いたのか・・・・・・

 前払いのひとり客である不謹慎な日本人の僕はチラっとそんなことを考えて店を出た。

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董家渡路の布市場

2022-02-27 | 上海とはずかたり
 董家渡路の布市場。

 今はもう再開発でこんな風景は見られなくなってるんだろう。

 敗戦後すぐの「闇市」ってやつはこういうものだったのかな。

 もはや日本ではこんな店は見ない。

 かなり原始的な「商売」の形。

 ニシナリ行くとあるのかな。

 あそこはまたちょっと事情が違う気がするが。

 露店の列。

 日本の子供に見せてあげたい。

 こんな露店でもルイ・ヴィトンみたいなブランドショップでも、
お金と身につけるモノを交換するという根本的な機能は変わらないんだ、と思う
と笑い出したくなる。

 同じものの両極端があった上海。

 そこが好きだったんだけど。

 片方の端は、どんどんなくなっていく。



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Y字路

2021-12-19 | 上海とはずかたり
 Y字路が好きだ。

 まさしく「岐路」だから。

 人生をなにかに喩えるのは好みではないけれど、Y字路に立つと
どうしても人生における「選択」について思いをめぐらせてしまう。

 真ん中にある建物で道の行き先が分かれている。

 真ん中にある建物によって2つの未来が分けられている。

 未来の結果は2本の道の選択にかかっている。

 そうするとこの建物が表象している「モノ」や「コト」は一体なんなのだろう。




 日本は放射状に街路のひろがる街が少ないからY字路も少ない。

 あるとすれば線路際とか川沿いかな。

 川沿いの道ともう一本岸寄りの道の間に建物があったりする。



 武康大楼のY字路が好きだ。

 1924年建造。

 当時の最新建築だった武康大楼。

 建築時の名前は”ノルマンディ・アパート”

 その後も多くの著名人が住んだという。

 今でも威風堂々、武康路と淮海中路を隔てている。

 法桐の葉の落ちきったころ、武康路をもういちど歩いてみたい。

 上海の12月、冷く乾いた風が吹いているんだ。


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茶餐庁の店長さん

2021-12-06 | 上海とはずかたり
 
 店長さんはマカナイを食べている、モグモグモグ。

 今日のマカナイは搾菜と細切り肉を炒め。それに白米飯と冬瓜スープだ。



 「甜蜜蜜」というのがこの店の名前。

 8年ほど前にできたショッピング・モールの地下階にある。

 「茶餐庁」形式のレストランだ。

 チェーン店らしい。

 若者相手の店だから安い。

 安いけれどそこそこおいしい。

 上海ではある程度の味を提供できないと飲食店はつづかない。

 僕が上海に来てからもうすぐ5年になるけれど、「安い」だけで「おいしくない」店が何軒も
開店してはあっという間に潰れていった。

 それだけ「安くてそこそこうまい」店の競争が激しい。

 「甜蜜蜜」の菜単品目はたぶん200くらいあるだろう。

 店名からわかるように、香港スタイルの甜品スイーツメニュー、例えばマンゴーポメロとか
タピオカ入り焼きプリンが売り物なのだが、その他に、おかず、それにお粥や麺類ご飯物も揃え
ている。

 要するになんでもある。

 そして、安くてそこそこに美味しい。


 昨夜少し飲みすぎた僕は、朝昼兼用の食事として「ピータン痩肉粥」を食べにきた。

 収銀所のイスに座って店長さんはマカナイを食べている、モグモグモグ。

 店長さんは30歳くらいの女性。けっこうガタいがいい。ガッシりしてる。

 クセ毛をいつもお団子状にして頭の頂上でまとめている。

 春夏秋は店の制服の黒いポロシャツを着ている。

 冬はその上にダウン。

 顔見知りになってからは、「今日も粥か?」とか「健康にいいからブロッコリーを食べろ」
とか声をかけてくれるようになった。

 ホールには服務員がいるけれど、大声を出して捕まえるのがめんどうくさい。

 二日酔いだから。頭痛いんだよ。

 直接キャシャーの店長さんのところに注文しにいく。

 「こんちわ。僕は冷たい塩セブンナップと皮蛋痩肉粥が必要だ」

 悪い発音の変な普通語で店長さんにそう伝える。

 いちおう通じる。

 店長さんはマカナイをたべながらオーダー用の端末に僕の注文を入力してくれる、モグモグモグ。

 「15元」

 その場で支払って席に戻る。

 店長さんはスマートフォンを見ながらマカナイを食べている、モグモグモグ。

 ピータン粥はいつもの味だ。

 すぐに食べられないくらい、熱い。

 上海では珍しい、こんなに熱いのは。

 別にとびきりうまいわけではない。

 でもこれでいい。

 油のまわってしまった油条。

 が、しかし、これをお粥といっしょに食べると結構おいしいんだ。

 店長さんはマカナイを食べ終えて、だれかに電話をかけている、「喂?」

 僕の中国語ヒアリング能力では断片の単語しか聞き取れない。

 僕も粥を食べ終える。

 店長さんごちそうさま。

 またね。

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