待ち合わせの加賀料理の店に、三十路半ばの女性は夫と二人でやって来た。
目元が世を去った男に、どこか似ている人だった。
古いアルバムから抜き取って持って来たヨチヨチ歩きの女の子の写真を数枚、
その人に手渡した。
その人は、写真を大切にしていてくれたと礼を言って涙声になってしまった。
夫の職業は気象予報官だと紹介してくれた。
知人に一人の老気象予報官がいると話してその人の名前を告げた。
夫は驚いた顔をして、一時期その老気象予報官の部下であったと言った。
三十路半ばの女性が、やはり知らぬところで繋がっていたのだと言って
また半泣きの顔になってしまった。
世間は狭いと感じた。偶然とは言え予測し難いことが起こり得るものだと
思った。
共通項に老気象予報官が存在していたとは、すれっからしの現実主義者と
自認していても、この時ばかりは何故か神妙な気分になって、
黙して地酒を飲み干した。
この夜の治部煮の味は辛口だったような気がする。