この週末、地区の三九郎があった。
小学校の児童とその親が取り仕切っておこなう。
今年は、地区の保護者役員ということもあり、前日の
竹の運搬などから関わった。
暖かい冬に慣れた体には引き締まるような寒さ。
前日の雪模様から、すっきり晴れ渡った。静かな空。
雪の山脈が凛々しい。巨大。
夕方、点火すると、瞬く間に炎が立ち上った。
あっという間に、燃えながら崩れる。
「今年は、勢いのある年になるじ。」
いいではないですか。スバラシイこと方面への進歩があればいいなあ。
こどものこころも、ほんのりと暖めたか。
まずは、みんながまた一年、健やかに成長してくれますように。
傾いた地軸、公転と自転、擾乱と安定。
寒い。西方の山脈に重いねずみ色の、強大な雲が乗っていた。
さすがに日中でも地面が凍み固まっていた。
引き締まった年の暮れとなった。

この20日の麦畑の写真。
厳冬の麦の姿はいい。力強いとかいうより、洒落ている。
巨大なガトーショコラのトッピング。
麦の姿を見に立ったのだが、暮れるその日に立ち会う。

こんなひと時に身を置くために、農に入ったのかもしれない。
ただ、ホンの瞬景に立つために、やや急いで走らねばならない。
一瞬の無心を祈りに変えて。日付では、年が暮れ、年を迎える。
ころん。と、転がった稲の切り株。地に張った根の様子をとどめている。
稲を育み、あれこれ土づくりと言っている深さは、こうしてみると浅い。
それに引き換え、稲がその丈いっぱいに広がっていた空の無限さ。
田んぼ一枚。どこにも動かぬ地表と空に続く無限の空間。
そこにある変わらなく見える田んぼは、人の手入れと、自然のうつろいを受け、
田んぼであり続ける。変化しつづけることが、変わらない系を生む。
惑星表面の一片を耕す。
(11/26撮)

それを気配というのか、幻というのか。
のほほんとした、小春日和のせいだろうか。
透明な目の前の空気の塊に、ふと気を引かれ。
(んなこと言ってないで、片付けなさい、たんぼ)
先ほど配達帰り、あいがもの水田を覗く。
夜の田は、暗闇というだけで別世界の様相を見せる。
あれほど見慣れた場所なのに、広さの感覚を失う。
昼前から午後としっかり雨が降ったが、雨上がりの空に丸く明るい月があった。
満月は明日とのこと。
山々がよく見える。なぞるように雲がたなびいている。
しっとりとした地が、潤った草木が吐く息のよう。
月の光は、霧雲に包まれ、または途切れ、音もなく眩しい。
とがった稲の葉、この今、人知れず勢いづいて伸びているのだ。
そういう夜もあるのだ。
ツチガエルというカエルが当たり一面で鳴いている。
それぞれが求める声なのだ。稲はそれを聞いてまた伸びている。
夜空、山影は暗黒でなく、水彩の藍。
水田の道を車を走らせる。出来ることならこのまま夜間飛行。
蛍も群れ飛んでいる。
稲の伸びる葉音に耳を澄まそうとしたがやめて家路。

(5/5撮)
目の前の風景に、遠い記憶をみる。
眩しい朝日のせいか、強い南風のせいか。
ほんの一枚の田は、深く古い湖のよう。
冬あれほどすくめていた首に、思いっきり温かな風をあてる。

(4/27撮)
寒気が流れ込んだ、晴れ渡る春の朝。そんな日遅霜が懸念されます。
「空の名前」という本をめくれば、遅霜は「忘れ霜」ともいうとありました。
百姓にとっては忘れもできない恐れ霜です。
春の始めに植えたり、播いたりした作物は、それなりに寒さや霜に
耐えられますが、それでも、芽が出たばかりや植えたばかりは、ダメージを
受けますし、氷点下ほどに下がれば影響は避けられません。
そこで、保温資材を活用して養生しておくのですが、この時期、日中は
日差しも強く、そんなときは逆に蒸れてしまいます。
なかなか一筋縄には行きませぬ。
おまけに、春は風が強いことが多いので、それにさらされるのもシンパイ。
ニンゲンも、服を脱いだり着たりの連続。
びっしり忘れ霜が降りた朝、畑に行くと日差しがみるみる霜を溶かしていきます。
勢いよく伸びだした小麦にも、霜華が。雫も凍る朝でした。

近くの景色が、遠くずっと前の記憶に思えることがあります。
朝霧がたちまち晴れていく田んぼにいて、インドに旅したとある朝を思い出しました。
聖地の河岸からの眺め。彼岸は朝靄に陽射しがあたり、広大な銀幕のようでした。
田んぼもようやっと、秋起こししました。
秋の深まりが目に見えるような刈田。
脱穀を終え、籾袋をワラをハザを片付ける。
独特の煙のいい匂い。
夕方まえというのに、ひんやりした湿っぽい空気が流れてくる。
がらんとした田んぼ。里の風景が広くなった気がする。
冬に戻ってくる小鳥が群れをなして通り過ぎる。
一瞬チ・チ・チ・・・チッと囀りの重なりに包まれる。
また、静かになる。
モズが高く鳴く。幼いキジが幾匹も急いで通り過ぎる。
今年の恵みいいこともあれば、残念なこともあった。
雑念と無心を繰り返し、手を動かす。