日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

雪に戯れて (27)

2023年07月19日 11時46分19秒 | Weblog

 美代子やタマコとの話に夢中になっている大助に、廊下から珠子が
 「大ちゃ~ん。そろそろ、美代子さんのお母さんと節子小母さんがお帰りになるわよ~」
と、手招きして呼んだので、大助達三人がワイワイお喋りしながら家に入り、彼がキャサリンと節子さんに笑顔で挨拶すると、キャサリンは大助に高校入学の祝意を述べたあと
 「春の連休には是非遊びに来て下さいね」「お爺さんも、貴方が来られる日を楽しみにして待っているわ」
 「もしも来られないと、お邪魔したのに君をお誘いしなかったのか。と、私がお爺さんに怒られてしまうゎ」
と、笑いながら話すと、タマコちゃんがすかさず、ピョコンと頭を下げてお辞儀をして、はにかんだ顔で
 「小母さんの金色の髪と宝石のような青い目が、映画やグラビヤの写真で見る様に素敵ダヮ」
と、ウットリとした目で見つめながら、見た感じをそのまま素直に言ったので、キャサリンが微笑みながら
 「オヤオヤ 可愛い貴女にも褒めていただいて・・、ありがとうネ」
と、節子さんや孝子さんと顔を見合わせて笑いながら言うと、タマコちゃんはニコッと笑ったあと
 「わたし達、今日から美代子姉さんとお友達になったの」
 「これからは、大ちゃんは英語が余り得意でないので、お姉ちゃんに教えて貰うことにしたの」
と、嬉しそうに話をした。
 傍らで緊張して座っている大助が、タマコちゃんが余計なお喋りをしなければよいがと気を揉んでいるのを気にかけず、今度は美代子に向かって親しげな目で、とっておきの秘密話を友情になった印として教えてあげるつもりで
 「アノゥ~ お姉ちゃん。 大ちゃんとお話するときは、お兄ちゃんの目をよく見ていてネ」
 「お兄ちゃんが、目をパチパチしたり、片目でしきりにウインクをしているときは、話が本気で無いことがあるのョ」
 「わたし、何度も、オダレラレテ いい気持ちになり、お菓子を騙し取られたので、気をつけてネ」と、経験談を得意げに話すと  
美代子は、タマコちゃんの話に可笑しくなって愉快そうに笑ったが、大助だけはやっぱり余計なことを。と、渋柿を食べたような顔で苦笑していた。

 それでも、珠子は少し緊張気味の美代子に対して
 「この子は近所のミツワ靴店の娘さんで、お爺さんはこの町でも有名な腕は確かな職人さんだが、女物は絶対に手にしないことで評判の頑固なお爺さんなのョ」
 「それなのに、何故か、大助は可愛いがられているのよ」
 「今年の春ころには、大助がタマコちゃんに調子よく話して頼み、理恵子さんの靴を修理して貰ったのよ。しかも無料で・・」
と話すと、タマコちゃんは、その時の話を想いだしたのか
 「あのとき、お爺さんは、翌日、熱を出して寝込んでしまったヮ」
 「お婆さんが、氷嚢をしてやりながら、お爺さんに、やりつけないことをした罰が当たったのよ、イイキミダワ。と、言って口喧嘩していたヮ」
と付け足して話したので、またもや、一同が笑い出したが、美代子だけは如才のないこの子は、やがて自分にとって恋敵になるのかしらと、チラッと不安な思いが心をよぎった。

 美代子は、キャサリンに強く促されて名残惜しそうに城家の玄関をでたとき、珠子さんが彼女の気持ちを察して
 「大ちゃん、駅まで送ってあげなさいょ」
と声をかけると、大助もウズウズしていたのでサンダルをひっかて玄関を飛び出し、珠子が母親の孝子と揃って玄関に出ると、皆の様子を見ていたタマコちゃんも
 「わたしも駅まで送って行くヮ」
と言って二人について来て、大助が中になり美代子とタマコの三人が手を繋いで駅に向かった。
 歩きながらキャサリンが、珠子に
 「美代子が、貴女と理恵子さんに何時でもお逢いできるところにおられるので、わたし、今までの心配が嘘の様に晴れて、すっかり安心しましたヮ」
 「美代子には遠慮なく都会の暮らしについて色々と教えて下さいネ」
と話して、美代子が上京後、彼女の相談相手になってくれるようにと、母親の心遣いから懸命に頼んでいた。

 美代子は歩きながらも、大助に顔を近ずけて呟くように声を潜めて
 「君と二人だけで色々お話したかったけれども、それも叶わず、なんか、心残りだヮ」
 「珠子お姉さんに、君からも私達のことをもっと積極的に話しておいてよ」
と、少し不満そうに言うと、大助は
 「僕達のことは、例え姉や周りの人たちがどの様に思うと関係なく、今迄通り付き合っていれば、自然と理解してもらえると思うょ」
 「まぁ~、これからも、こんなことが、しばしばあるかも知れないけれども、来月東京に来たら、成るべく二人だけの時間を作るようにしようよ」
と、囁くように答え、握り合う手に力を入れて慰めてくれたので、彼女も救われた気持ちになった。

 駅の近くに差し掛かると、健ちゃんが、昭二と六助を連れだって歩いてきたのに出会い、健ちゃんはキャサリンに「お正月には大変お世話になりました」と丁寧に挨拶したあと、昭ちゃんに
 「オイッ! 珠子さんも一緒だし、お前も駅まで行ってやれよ」
と彼の背中を押すと、珠子さんが昭ちゃんに
 「居酒屋さんに行くの?、楽しそうで羨ましいゎ」「たまには私もカラオケで愉快になりたいゎ」
と、健ちゃんの冷やかしの声を遮って先に語りかけたので、健ちゃんは「いやァ~、ヤラレタァ~」と苦笑いし、今度は、大助に「両手に花でモテルナァ~」と矛先を向けたら、美代子が
 「アラッ 健お兄さん、お久しぶりネ」「来月から、東京に来ますので、わたしと大ちゃんの交際を援助してネ」
と、笑いながら話かけたたら、タマコちゃんも「わたしも、オトモダチニなったので・・」と得意そうに話したので、健ちゃんは
 「そうか、良かったなぁ。俺はタマちゃんの友達になることはゴメンだよ」
 「クワバラ クワバラだ。お前のお爺さんに怒られると困るしなァ~」
とからかいつつも、内心では大助に好意を抱いていることを薄々知っていて、時たま自分の店を手伝ってくれる、居酒屋の奈緒ちゃんのことが気になり、大助に
 「奈緒ちゃんに逢わないうちに早よう行け」
 「イイカッ! 美代子さんとは友達以上恋人以下を守れょ。奈緒ちゃんの気持ちも考えてなぁ」
と思わず口走ってしまった。

 美代子は、健ちゃんの一言に反応して、またもや、初めて耳にした奈緒とゆう名の女の子のことが気になり、大助の横顔を覗き込んだら、彼は
 「気にしなくてもいいだんよ。単なる同級生だよ」
 「彼女にも君とのこともある程度話してあるし、彼女も僕達のことを知っているし・・」
と、そっと小声で言ってくれたので、彼女は気を取り直して、東京に来れば田舎の街とは違い、彼の周囲に女友達がいないほうが不自然であり、色々な人が自分の前に現れるだろうけれども、自分は今まで通り大助君一筋に、彼を信じて何処までもついてゆこうと改めて心に誓った。
 美代子は、改札口に入っても、何度も大助の方を振り返りながら名残惜しそうに手を振り、ホームの人影に消えていった。 
 珠子とタマコも、手を振って答えていたが、大助は訳も判らぬ寂しい気持ちがこみ上げてきて、唯、腕を組んで彼女の姿が見えなくなるまで見送った。
 

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