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日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

雪に戯れて (28)

2023年07月25日 08時36分55秒 | Weblog

 キャサリンは、ホテルで早く起床すると身支度を整え、朝食時、美代子に対し
 「あなた、昨晩から、何故、そんなに不機嫌なの?。母さんも切なくなるゎ」
と、節子さんの手助けを得て、気にかけていた城家への挨拶も滞りなく終えてホット息抜きしているのに、彼女の動作が遅く気になったので声をかけると、彼女は
 「ベツニ ナンデモナイヮ」
と素っ気無く答えたので、やっぱり大助君とのことで悩んでいるのかと思いながらも、病院や家事が気になり
 「学校を見学したあと早く帰りましょう」「母さんもお爺さんやお仕事が心配になので・・」
と促して、せきたてるように彼女を連れてミッションスクールを見学して簡単な説明を受けたあと、急ぎ足で帰郷の新幹線に乗った。 
 新潟に向かう途中、美代子はキャサリンの問いかけにも満足に答えず、ボンヤリと窓外の景色を見ていた。 
 キャサリンは、彼女の気持ちが大きく揺れ動いていることは容易に察しられたが、何時もの我侭と思い、日の暮れないうちに帰宅した。

 帰宅後、キャサリンは座敷でお爺さんに対し、早速、上京時の模様を丁寧に話していたが、美代子はお爺さんの
 「どうだ、東京でやってゆけるか?」
との問いかけに「大丈夫だヮ」と返事をしたまま詳しいことはキャサリンに任せていた。 
 お爺さんは美代子の様子から
 「美代ッ!何だ、元気がないな」「なにか、気に食わぬことでもあったのか?」
と、美代子の気落ちした様な態度に疑問を抱いて、再度尋ねたら、彼女は
 「お爺さん心配なさらないで、学校生活にも自信があるヮ」
と言ったあと、俯いて呟くように
 「大助君の周囲には、わたし以外にも女友達がいるみたいで、少し心配なの」
と、タマコちゃんや、耳に入れた奈緒さんのことを話したら、お爺さんは美代子の小さい根性に癇癪を起こして、改めて諭すように

 『そんなこと、当たり前だ!。お前の周囲にもそれなりの友達がいるだろう。
  いいか良く聞け。ワシがお前と大助君のために何時も気を遣っているのが判るか。
  お前みたいなアングロサクソンの血を引く女は、競争心の旺盛さや勝気は良いとしても、内弁慶でレデーフアーストをはきちがえて我儘な子は、いずれ世帯をもったとき亭主は手を焼くもんだ。
  日本では、いまだレデーイフアーストは外国ほど定着していないんだよ。
  洋の東西を問わず男と女は、何時の世も渚の潮の満ち引きの様に、互いを観察しながら時間をかけて愛を育み相手を観察したうえでゴールするんだ。
  お前の性格を考えれば、大助君の様に我慢強く、堅い信念にもとずいて自分の目的に向かい忍耐強く一途に努力する青年は、ワシの目で見て滅多にいないもんだ。
  ワシは、永い人生経験から、お前とは好相性と思って、二人の交際について自由にさせておくんだ。 
  その中には敵もおるのは当たり前で、”知仁勇”がなければ人生において成功しないんだよ。
  美代もそれに負けないように、一人よがりや我儘を謹んで、大助君と仲良くなれる様に努力すればよいのだ。
  人生は、男も女も皆が日常生活の中で幸せを求めて努力してるんだ。全てが競争なんだっ!
  診療所の跡継ぎがどうのこうのと言ったことは、お前が今から考えることではないんだ。わかるか』
と言葉を選びながら静かに話した。 

 美代子は、お爺さんの話しに益々感情が乱れて、反論する様に
 「知仁勇って、そんな古い昔の軍人の言葉なんて、わたしには判んないゎ」
と口答えすると、お爺さんは、孫娘が情けなくなり
 「要するに愛情だよ。相手を真剣に思いやる心だよ」
と渋い顔をして話すと、興奮している美代子は、なをも執拗に
 「それなら、お父さんとお母さんはどうなのよ?」「何故、別れたのよ」
 「愛情なんて言葉は信じられなくなったゎ」
と言うと声を上げて泣き出してしまった。

 キャサリンは、彼女の話に思わず我が身を省みて、自分の愛が至らなかったために尽くし足りず、夫の正雄が他の女性のもとに去って行ったのかと思うと、悲しさと寂しさがこみ上げてきてタオルで顔を覆ってしまった。
 部屋の雰囲気が凍ったように静かになると、キャサリンは気を取り直して冷静になり、美代子が自分と同じ人生を歩むことのないように、もっと彼女の教育に励むことが今の自分に与えられた天与の使命であると再認識した。
 その一方、普段、見ている美代子が、精神的には未だ成長半ばだなと心配しながらも、母親の勘で、彼女の話振りから察して、二人が身体の関係まで深く結ばれてはいないと内心では安堵の溜め息をした。

 
 キャサリンが用意した紅茶とケーキで、城家の人間模様の話から思わぬ方向に話が発展しているとき、突然、三陸沖を震源とする大きな地震が襲い、お爺さんが大きな声で
 「テーブルの下にもぐり込めッ!」
と怒鳴ったので、二人は訳もわからぬまま、リビングの大きいテーブルーの下に潜り込んだが、美代子は思わずお爺さんの足に縋りついてしまった。 
 お爺さんは両足を踏ん張り両手をテーブルについて、泰然としてTVや茶掛けの揺れを見ていたが、美代子の尻がテーブルからはみ出しているいるのを見るや、美代子の大人げない返事に腹を据えかねていた鬱憤を込めて、彼女の尻を手で思いっきり叩いたので、彼女が
 「ナニスルノ オジイサンノ バカッ!」
とヒステリックに叫んだので、お爺さんは
 「頭隠して、尻隠さずダッ」
と怒鳴り返し
 「美代ッ!、お前、ワシの足に掴まっているが、力任せなので、足が痛いゎ」
と言うと、彼女は
 「アッ! テーブルの脚立とマチガエタヮ」
と言ったあと
 「ママのお尻は、はみ出てなかったの?」「タタイテ アゲレバヨカッタノニ」
と言い返していたが、お爺さんが
 「もう、大丈夫だ、出て来い」
と言うと、キャサリンは急いでキッチンに様子を見に行ってしまった。 

 美代子は興奮がさめやらないのか、お爺さんに向かい
 「アノネッ!、わたしのお尻は、大助君でも触ったことがナイノヨ。わたしを子供扱いにしないで」
と、以前、病院で触られたことを隠して文句を言うと、お爺さんは
 「ナニ~ッ、まだ、そんな不甲斐ないことなのか」
 「キャサリン並みに立派な尻をしているが、意気地のないやつだ」
 「そんなことでは、大助君に振られてしまうわ」
と、自分の思い込みに反した彼女の行動を忌々しく思い、苦りきった顔で答えていた。 
 それでも、彼女は、内心では自分達に寄せるお爺さんの期待の大きさが判り嬉かった。

 少し落ち着きを取り戻して話をしているとき、看護師の朋子さんが慌てて居間に現れて
 「美代子さん、東京から電話よ」
と教えてくれたので、彼女はスリッパも履かずにリビングを飛び出して受付の電話にでると、大助が受話器の奥で辺りにも聞こえる様な響いた声で
 「今の地震、大丈夫だったか。東京も大きく揺れたが?」
と聞いたので、美代子は、突然の思わぬ電話に嬉しさと地震の恐怖心が入り混じり、涙声で
 「アリガトウ ダイジョウブダヮ」
と、やっと答えたが、こみ上げる涙でそのあとのことが言葉にならずにいたら、傍らの朋子さんが
 「美代ちゃん ダメョ、大助君が心配してお電話をかけてくれているのに・・」
と言って励ましてくれた。
 彼女は、自分の気持ちを抑えきれずに泣きじゃくり、複雑な思いで続けて言葉が出なかった。 
 朋子さんが、思いあまって受話器を取って彼女に代わり、当時の様子を要領よく説明したところ、彼も納得して安心し
 「ワカッタ ミヨチャンモ ヤッパリ マダ コドモダナ」
と受話器の奥で言っているのが聞こえたので、彼女はその言葉が気にかかり、朋子さんから受話器を取り返して
   「ワタシガ オトナニナレナイノハ collective responsibility to you!」(キミニモ セキニンガアルヮ)
と、心の中を朋子さんに悟られたくなく、ムキになって咄嗟に思い出した英語で叫んでしまった。
 
 それまで、彼女の心の中で、漁火の様にちらついて心の闇となっていた、奈緒やタマコの影が、彼の声で瞬間的に甦り、地震の恐怖を忘れさせるほど強く心を刺激し、我慢の限界を超えて、思いのたけを一気に吐き出す様に言い返すと、大助は思わぬ反論にビックリしたのか暫く無言でいたが、キャサリンが聞きつけて駆け寄ってきて、大助君に上京時のお礼を言って受話器を置いたあと、美代子に対し
 「そんな出鱈目な英語は通じナイヮ」「失礼なことを言って・・」
 「東京へ行ってから、大助君のお荷物にならない様にしてネ」
と、何時も見られない強い調子で言い聞かせていた。
 美代子は、タオルで泣き顔を隠して「ワカッタヮ」と言って、駆け足で自室に篭ってしまった。

 

 

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