日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (49)

2023年03月13日 04時53分32秒 | Weblog

 『 美代子さん、この前は遠路お見舞いに来てくださいまして、大変有難う御座いました。
  貴女のことについては、夏休みに山や川で楽しく過ごしたことを、日頃、走馬灯の様に懐かしく想いだしていただけに、予想もしてなかった突然の訪れに、テレパシーと言うのか、或いは、君が日頃熱心に信仰しているマリア様の姿絵を思い浮かべて、心の中で秘かに祈れば夢や願望も叶うもんだなぁ。と思い、心が舞い上がるように嬉しかったです。

 東京も、最近は朝晩冷え込み、校庭や神社の境内等も落ち葉が重なり、晩秋を実感します。 お陰様で全快では有りませんが、なんとか退院できて通学しております。
 貴女の街を取り囲む飯豊山脈の高い峰々も冠雪をいただいていることと思います。
 得意のスキーの季節も近ずいて来て、準備に余念が無いことでしょうね。
 僕も、スキーは好きですが、街場にいると人工的なゲレンデでのスキーですので、どうしても人混みになりますが、自然の山野を自由に滑るスキーのほうが、本能的に自由に行動できるので、どんなに素晴らしいことかと羨ましく思います。

 貴女が帰られたあと、僕の野球仲間や同級生達が入れ替わるように尋ねて来て、看護師から聞いたらしく、金髪の若い美人が見舞いに来ていたと聞いてビックリして、代わる代わる細かいことを聞いてくるので、僕も、詳しいことを説明することは、貴女に御迷惑かけると思い適当に返事をしておきましたが、彼等は僕の話に納得せず、僕も彼等の興味混じりとはいえ鋭い問いかけに返答に窮してしまいました。
 そんな時、相部屋の患者の小父さんが、笑いながらも遠慮気味に話し出したので、僕も、本当のことを言われては嫌だなぁ~。と、心配していたところ、小父さんは、想像以上に思いやりとウイットに富んでおり、退屈紛れもあり、笑いながら大袈裟に
  「何でも映画のロケの合間に、お見舞いに訪れたらしいですが、彼と同じ位の年頃の、細身で背の高い金髪の美人で、勿論、青く澄んだ瞳の中にも意志の強さを象徴するかの様にテキパキとお世話しており、ワシも、近くで見る外国人の女優は初めてで、スクリーンで見るのとは全然美しさが違うもんだなぁ。と、ビックリして会話を聞いていたよ」
 「だけど、反対側を向いていたので、何をしていたかは判んないなぁ」 
と、皆に説明していましたが、貴女も顔見知りの健ちゃんが皆の制止も聞かずに真剣な顔つきで
  「大助と、どんな話をしていたか?」
と、小父さんに執拗に聞いていましたが、小父さんは
  「そんな私的なことを無理に聞くもんでないよ」 
  「彼等二人は、小声でニコヤカに話していたが、勿論、英語で話していたので、教養のないワシには内容なんてまるっきり判らんよ」
と、恍けて返事をすると、彼等は
 「それもそうだなぁ~」「けれども、大助に英会話ができるんか?」
と、半ば呆れかえったよな顔をして、その後は、僕にも詳しいことを聞くこともなく、適当に冷やかして帰って行きましたが、一時は部屋中が賑やかになり看護師さんが心配して覗きに来た程でした。

 来春の受験勉強を頑張ってください。 僕は、未だに進学校を決めておりませんが、家庭的なことも考えて、なんとか公立高校に合格すべく、部活も止めてねじり鉢巻で今までの遅れを挽回すべく頑張ります。
 
 指先がまだ完全に治癒しておりませんので、見苦しい文字になりましたが、お礼を兼ねて近況をお知らせ致しました。
 御家族の人達にも宜しくお伝えください。』

 美代子は、ミッションスクールの見学を終えて、大助君のお見舞いから帰ると、見違えるほど表情が明るくなり、母親のキャサリンの手伝いも積極的にやり、お爺さんの老医師も元気な孫娘の様子を見て我が意を得たりと笑顔をこぼしていた。
 彼女の日常生活にも少し変化が生じ、今までに無かったことだが、門前の郵便受けを覗く習慣が身につき、帰郷後一週間位過ぎたころ、郵便受けを覗いて自分宛の郵便がないことに落胆して二階の自室に入ると、キャサリンがあとを追い駆ける様にして美代子の部屋に顔を出して微笑みながら
 「美代ちゃん、貴女に嬉しいことがあるヮ」
と言って彼女の表情を見つめたので、彼女が
 「お母さん、なによ。 そんなにじらさないで早く教えてョ」
と催促すると、キャサリンは胸元から大事そうに一通の封書を取り出し「ほら 大助君からョ」と、彼女が待ちに待った手紙を渡してくれたので、彼女は
 「ワァ~ ヤットお返事をくれたゎ」「わたし、必ずお便りを出してくれると信じていたの」
と言って、窓際の椅子に腰掛け机の上に置くと、少しの間、はやる気持ちを落ち着けるかの様に封書の宛先を眺めていたが、その様子を見ていたキャサリンが「あとでお母さんにも見せてネ」と言うと、彼女は
 「ウ~ン 内容にもよるヮ」「お母さん、私が大助君の生理現象を手伝ったことは、お爺さんやお父さんに言って無いでしょうネ」
と、帰りの列車の中で約束したことを念を押して確かめたところ、キャサリンも「勿論だヮ」と返事してくれたので「お母さん、有難う」と笑って答えていた。

 美代子も、大助君からの手紙を前にして、窓越しに照り映える飯豊山脈の白い峰を眺め気持ちを落ち着かせ、おもむろに開いて食い入るように繰り返し読み終えると、大助同様に夏の蒼い恋の想いが鮮明に甦り、彼のはにかんだ様な優しい笑顔が脳裏をよぎり、手紙に頬ずりして「大助君 ありがとう」と呟いたあと、高揚した気持ちで何度も頬ずりしていた。

 
 

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