日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (42)

2023年02月13日 06時36分46秒 | Weblog

 透き通るように澄んだ青空の晴れた日の午後。 毎年恒例となっている町民・商店街合同の親睦リクレーションである野球大会が、小学校内のグラウンドで開催されことになった。
 今年は、事前の打ち合わせで老若男女混合でソフトボール試合をすることになり、秋の柔らかい日差しのもと、町内会長である80歳の呉服屋のご主人が実行委員長でアンパイアーも兼ね、ホームベースの前に4チームが色とりどりの服装で整列して、会長の挨拶を聞いた。
 いざ、開始前になると、会長は一同を見回したあと事前の想定になかった、小学生以下はゴロの投球とする旨突然ルールの変更を説明したあと、更に各町内の女子4名ずつは八百長を避けるために他の町内の女子と入れ替わることにする。と、突然言出だし、1丁目の女子の珠子・奈緒・タマコに保育園のママさんは、2丁目のチームの女子と入れ替えられた。
 観衆の人達は、そのアイデアに盛んな拍手を送って歓迎したが、男子の選手は気心の知れた女子達が離れることに会長に猛然と抗議したが、会長は取り澄ました顔で頑として拒否した。
 そのため、珠子達は2丁目のチームに移り、1丁目の健太や昭二それに大助と対戦することになった。

 観衆の声援の中、試合は順調に運び、同点で最終回の6回裏になり、この回先頭打者の小学6年生のタマコがフォアボールで不服そうな顔をして、ピッチャーの昭ちゃんに「ヘタクソ~ ツマンナイワ~」と叫んで1塁ベースに駆けて行き、2番打者の奈緒が打席に立ってショートを守る大助に対し、透き通った明るい声で
 「大ちゃん そこに打つわヨウ~」
と叫んで2球めの直球を予告通り見事に打ち返すと、普段、守り慣れている大助は見事にトンネルのエラーをして舌を出して苦笑いするや、キャッチャーの健ちゃんに
 「コラッ! 大助 真面目にやれ」
と気合をかけられた。 観衆の主婦達が
 「大ちゃん いい男! それでいいのよ」
と、手拍子混じりに応援だか冷やかしだか判らぬ声援をあびせた。
 一方、2塁に向かったタマコがニンマリ笑って、大助に
 「大ちゃん 奈緒ちゃんが好きで、わざとエラーをしたの?」「大ちゃんは、オンナノコに甘いんだから・・」
と、何時も自分が遊んでもらっている手前、可愛い嫉妬心で大助の尻の辺りを叩き眩しそうな目つきで笑っていた。

 珠子が3番目に打席に立つと、健ちゃんが先日の珠子と昭二の出会いを自分の発案で合わせたが、昭ちゃんの女性に気弱い性格と、デート当日の緊張感と無理に飲ませたアルコールが原因で、予期しないハプニングで失敗したこともあり、気の小さい昭ちゃんに対し、人前もはばからず
 「イイカッ 昭二! 今日は思い切り彼女の内腿付近すれすれに内角を狙い速球を投げろ。わかったか!」
と気合をかけると、昭ちゃんは大勢の観衆の前で赤面しながら小首を振ってうなずき手指で丸を作り笑ったが、これを聞いた珠子が
 「昭ちゃん デットボールは嫌ょ」「ちゃんと投げてネ」
と言い返したので、昭二もどうしたらよいか迷ったが、1球目は彼の本来の速球を外角に投げて見送りのストライクを取ったが、健ちゃんが
 「この バカヤロウ~ 内角ダッ!俺のサイン通り彼女の内腿を狙って投げろ」
 「お前は、俺のサインを無視するから彼女に振られてばかりいるんだ」
と大声で叫ぶと、観衆の中から
 「健ちゃん 無茶したら、今度から、あなたのお店に行かないわよ」
と痛烈に反撃されたが、勝気な健ちゃんは、野球となるとテンションが上がり、主婦達の声援や野次等耳に入らず、昭ちゃんのマウンドに駆け寄ると、彼に細々と指示してホームベースに戻り次の投球を待ち構えたが、根が真面目な昭ちゃんは相手が好きな珠子となると、打席の彼女の顔を見ただけで、健ちゃんの指示も忘れてしまい、2球目をスピードを落とした直球をまっぐ投げたところ、彼女も運動神経が抜群に優れており、難なく打ち返した。
 
 ところが、これがこともあろうに、昭ちゃんの前に強烈なバンドになり、彼は顔面に当てて捕球しそこねて零してしまい、ホームに向かって駆けて来るタマコを見て慌てて拾い上げてキャッチャーの健ちゃんに剛速球で返球したが、3塁ベースから駆けてくるタマコが、手を横に振りながら黄色い声を張り上げて
 「健ちゃ~ん アブナ~イ アブナイッ ソコヲ ドイテ~!」
と叫んで駆けて来た。 彼女の脇には観覧席から飛び出した子犬がシッポを振って追いかけて来た。 健ちゃんは何事かと一瞬ビックリして、昭ちゃんからの返球を不覚にも落球した隙に、彼女は見事生還して観衆から「タマちゃん 上手 上手」と拍手で迎えられ、得意満面の笑顔で皆の席に戻った。
 そのため、2丁目のチームが勝ちと会長から宣告されたが、収まらないのは1丁目の健ちゃんで、昭ちゃんや大助に<お前等が下手糞だから負けてしまったんだ>と気合を入れていたが、珠子から
 「健ちゃん 遊びだからそんなに興奮しないでぇ~」
と慰められると、彼も珠子には昭ちゃんにもまして、心の底で彼女に惚れているので、素直に彼女の言うとおり矛を収めて、全員が笑いと興奮のうちに無事試合は終わった。

 終了後、表彰式に移りチームが整列したところで、会長の閉会の挨拶後、表彰式に移りチームを纏めて会を和やかに盛り上げた殊勲者として珠子の名を読み上げて簡単な表彰状と、観衆の茶菓子の残りを集めて急ごしらえの賞品を袋に入れて渡し
 「次の時はもっと豪華な賞品を用意いたしますから・・・、何を希望されますか?」
と謹厳な顔で聞いたので、珠子は、いたずらっぽく
 「会長さんの様に真面目で、一生懸命に働くイケメンの青年を希望いたしますゎ」
と答えると、会長は怪訝な表情を浮かべて一瞬返事に戸惑ったが、すかさず健ちゃんが大声で
 「ヨシッ! 昭ちゃんできまりだ」「会長さん、次の機会には僕の親友の昭二君の背中に大きい熨斗をつけてきますので、何卒宜しく オネガイ シマ~ス!」
と、大声で野次を入れると、皆が爆笑して盛大な拍手を送った。
 健ちゃんの、こんな友達思いの咄嗟に出る機知に富んだユーモアが、多くの人に愛され店が繁盛することに繋がっている。
 奈緒も、苦手な和子に気兼ねなく、大助と思う存分話あえたので、この上なく上機嫌であったことは言うまでもない。

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