音楽と映画の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

藤原滋/秋田市立御野場中学校吹奏楽部 W.ウォルトン『メジャー・バーバラ』

2010-07-21 19:27:11 | 吹奏楽
 去る7月10日,全日本吹奏楽コンクール第52回秋田県中央地区大会の中学校の部が開催された。
土曜日とはいえ,仕事が入ってしまったため,会場の県民会館に着いたのは午後2時半を少し回っていた。ホールのドアの前で待機するスタッフの女子高生に「今(演奏しているのは)どこですか?」と尋ねると,「城南中学校です。」との答え。
演奏終了を待つ間,ロビーでパンフレットを開き,この後演奏するのは,象潟中,雄和中,男鹿東中,城東中,羽城中,北中,飯島中,そしてシードの御野場中,と知る。山王中は,全国大会3年連続出場ということで,特別演奏はあるものの,コンクールの方はお休み。

 御野場の課題曲は,「Ⅲ」の長野雄行『吹奏楽のための民謡「うちなーのてぃだ」』。
穏やかな琉球音階で始まった音楽は,スネアのドラムロールで一気にテンポアップ。そして,金管のベルトーンが鮮やかに決まった瞬間,会場内の空気が一変した。ソロの受け渡しにも隙がなく,御野場の演奏は愉悦に満ち溢れていた。これでもかと吹き続ける「汐風」に錆び付きかけた私の心は,いったんは「迷走」したものの,御野場の演奏でようやく癒された。

 さて,今年御野場が自由曲に選んだのはウィリアム・ウォルトンの『「管弦楽のための”ジョージ・バーナード・ショー的”素描」より メジャー・バーバラ』。一昔前,コンクールでよく取り上げられた曲だが,最近はその名を聞く機会があまりない。理由は定かではないが,思い当たるふしがいくつかある。
「Ⅰメインテーマ」,「Ⅱアンダーシャフトの工場」,「Ⅲ愛の情景」,「Ⅳエンドタイトル」は間断なく演奏されるが,この曲,忌憚なく言うと,Ⅱの後半からⅢ,とりわけⅢがちょっと冗長である。これが,映画の馴染みの薄さなどとも相まって,コンクールでの演奏を躊躇させる一因に・・・,というのは十分考えられる。因みに,YouTube で聴いた或る高校の演奏ではその辺りが相当大胆にカットされていた。やはり,冗長と感じるのは私ひとりではなさそうだ。
以下は,曲の各部に関する私の独断を交えながら,御野場の演奏から受けた印象を簡単に書き留めたものである。

 「Ⅰ」の冒頭の輝かしいファンファーレは,おそらく,救世軍で働くバーバラ・アンダーシャフトの情熱と活力を表すもの。「Ⅰ」では,最後の方でディミヌエンドしながら受け渡されていく「タ・タ・タ・タッ・タ・ター」というフレーズの辺りでアンサンブルに「緩み」のようなものを感じた。
 バーバラの父,アンドリュー・アンダーシャフトは,鉄砲から果ては航空母艦まで製造するという富裕な軍需産業の経営者。商品に正当な代金を支払うなら誰彼かまわず兵器を売るという人物である。救世軍で布教と貧者の救済にあたる娘バーバラからすれば,父はさしずめ「死の商人」といったところ。「Ⅱ」は,巧みな効果音などからして,工場の製造ラインが稼働する様子やそれを目の当たりにしたバーバラの当惑を描いたものと想像する。音楽は,「Ⅰ」から一転,暗い影を帯びながら次第に緊迫の度を増していくが,ピアノが,終始,軽いオブリガード的表現にとどまっていたのには少しもどかしさを感じた。ここはもっとアグレッシヴにいっていいところではなかろうか。
 救世軍が,父アンダーシャフト,そしてアルコール業者ボジャーから活動資金として5千ポンドを受け取ったことに衝撃を受けたバーバラは,失意のうちに救世軍を去ることに。「Ⅲ」は,おそらく,バーバラと彼女を慰める婚約者カズンズを描いたもの。
「Ⅲ」の始まりは,まさかの「コーラス無し」。ここは,声が音楽の一部に成りきっている,というか,それこそが主役と思える箇所。「コーラス無し」の数十秒には,やはり,物足りなさを感じてしまった。あるいは,単に聴き慣れていないせいからか。いずれにせよ,「コーラス無し」となると,それに起因する負担の多くはオーボエが引き受けなければならない。オーボエにはプレッシャーがかかりそう。
 結局,バーバラは,父の誘いを受け,その仕事を手伝うことに。父の思惑はさておき,彼女は,貧者に糖蜜のついたパンを分け与える仕事ではなく,高慢な俗物らの救済を決意する。「Ⅳ」は,おそらく,新たな夢に胸をふくらませるバーバラの姿を描くもの。ここはトランペットやトロンボーンも素晴らしかったが,バーバラの旅立ちを祝福するかのように精力的な演奏を繰り広げたフルート・セクションが出色の出来。とりわけ,ゲネラル・パウゼ直前のユニゾンは素晴らしかった。
あっ,そうそう。御野場の演奏は最後の音を伸ばさずに終わった。この終わり方,私には尻切れトンボというか「強制断」のように思えるのだが・・・。この辺り,他の方たちがどのように感じたか,気になるところではある。

 メジャー・バーバラ(バーバラ少佐)こと,バーバラ・アンダーシャフト(ウェンディー・ヒラー)の朗々たる説教に聞き惚れるギリシャ語教授アドルファス・カズンズ(レックス・ハリソン)。
Major Barbara speaking (1941)


 知り合いの女性マグが救世軍に連れ去られたと誤解した無頼漢ビル・ウォーカー(ロバート・ニュートン)は,救世軍のウエスト・ハム支部に押しかけ,ラミー・ミチンス(マリー・オウルト)とジェニー・ヒル(デボラ・カー)に乱暴狼藉をはたらきます。
それにしても,20歳(19歳?)のデボラ・カーのなんと可憐なこと。

Major Barbara 1941 clip 1


 ビル・ウォーカー(ロバート・ニュートン)は,良心の呵責から,ジェニー・ヒル(デボラ・カー)に1ポンドを差し出し,これでケリをつけようと言います。救世軍のために受け取ってよいかとうかがいを立てるジェニーに対し,バーバラ(ウェンディー・ヒラー)は受け取ってはならない旨厳命し,ビルと向き合いこう言います。「ビル,私たちが欲しているのはあなたの魂です。」。
ここで,父アンドリュー・アンダーシャフト(ロバート・モーリー)が,娘バーバラに,ビルの1ポンドを受け取るなら自分が99ポンド出して100ポンドにしてあげようじゃないかと提案します。もちろん,バーバラは毅然としてこれを断ります。
しかし,この後,そんなバーバラを尻目に,救世軍はアンダーシャフトから活動資金として大金5千ポンドの寄付を受け取ってしまうのです。このことにバーバラは大変なショックを受けます。そして,心の中でこう呟きます。「アルコール中毒と人殺し・・・。神様,なぜ私を見捨てられたのですか。」。

Major Barbara1941 Clip 7

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