NHK-FMの「クラシックカフェ」の前身は「クラシックサロン」という番組だった。「似たような」といえばそれまでだが,パーソナリティがゲストを迎えて話しを聞く趣向の月曜日が抜群に面白かった。その「抜群に面白かった月曜日」を担当していたパーソナリティは,音楽評論家の渡辺和彦氏。わざわざ括弧書きで書くのは,渡辺氏を引き継いだ後任の音楽評論家の方がいて,その月曜日が必ずしも・・・。
故吉行淳之介氏など,昔から「対談の名手」と呼ばれる人がいるが,渡辺和彦氏,その中に入るのではなかろうか。事前の打ち合わせなどもあったのだと思うが,とにかく,ゲストからの話しの引き出し方が上手なのは驚くほどだった。こういう方,他にはあまり思い浮かばない。
秋山和慶氏が共演したヘンリク・シェリングについてした話しなども面白かったもののひとつ。シェリングは,リハーサル時から,差し込む外光が眩しくて演奏できないとかなんとか理屈をつけて我が儘言い放題だったというのだ。秋山氏は,概略,あれは周りに自分を偉く見せたいがための計略だったと思う,と言っていた。こちらは「あの『無伴奏』をいれたシェリングがそんな幼稚なことするかな?」などと,なにか腑に落ちない気持ちで聞いていた。あっ,そうそう。これを前振りに,そのあと,シェリング独奏のシマノフスキのヴァイオリン協奏曲がかかったのではなかったか。渡辺氏が,少し怪しくなった雲行きを払うかのように,「最近はシマノフスキのコンチェルトも人気があるようで・・・」とか言ったところ,あの実直そうな秋山氏が「そんなこともないですよ。曲もたいしたことないし・・・。」みたいなことを言ったっけ。いやはや,とばっちりを喰らったシマノフスキには気の毒だった。因みに,シマノフスキの2番のヴァイオリン協奏曲は私の好きな曲である。
さて,そろそろ本題に入らないと。その渡辺氏の「クラシックサロン」にゲストとしてきた音楽家の中にピアニストのジャン=イヴ・ティボーデがいた。
だいぶ前のことなので,話しの細部は忘れてしまったが,ティボーデがビル・エヴァンスが大好きだと言い,彼自身のアルバム『ワルツ・フォー・デビー~ビル・エヴァンスに捧ぐ』収録の曲がかかったのはよく覚えている。あの時かかったのは,何だったろう。多重録音の「スパルタカス愛のテーマ」だったような気もするが,自信はない。
いずれにしても,この時の放送を聞いてさっそく該CDを購入したのだ。待てよ,あれは体の良い宣伝だったのではあるまいな。でも,まぁ,それならそれで構わない。曲も,演奏も素晴らしいのだから。
この企画の要諦については,ジャズ評論家の岩浪洋三氏がライナーの中で指摘しておられる。これにはちょっと唸ってしまった(植草甚一風)。曰く,「ドビュッシーやラヴェルがラグ・タイムやジャズに歩み寄り,ビル・エヴァンスが印象派に歩み寄ったので,両者が出会ったといえるかもしれない。そして両者の関連性を解いてみせたのが,このアルバムでのティボーデの演奏といえるのではなかろうか。」。「両者の関連性を解(く)」とはうまいことをおっしゃる。さすがは岩浪氏。
この企画,プロデューサーのエリック・カルヴィがティボーデのラヴェルを聴いた瞬間閃いたアイデアだったとか。カルヴィは,ビル・エヴァンスが愛奏した曲を演奏できるのはティボーデ以外にはいないと確信。ティボーデがビル・エヴァンスの大ファンだと知ったのは企画をもちかけた後なのだそうだ。
一応曲目を書いておくことにしよう。
ソング・フォー・ヘレン
ワルツ・フォー・デビー
ターン・アウト・ザ・スターズ
ノエルのテーマ
リフレクションズ・イン・D
ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ
ハロー・ボリナス
スパルタカス愛のテーマ
スィンス・ウィ・メット
ピース・ピース
ユア・ストーリー
ラッキー・トゥー・ビー・ミー
どれもいい演奏だが,ビル・エヴァンスが父を思って書いたという「ターン・アウト・ザ・スターズ」,ジミー・ヴァン・ヒューゼンの佳曲「ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ」,そしてレナード・バーンスタインがミュージカル「オン・ザ・タウン」のために書いた「ラッキー・トゥー・ビー・ミー」がしみじみとした味わい。素晴らしい。
故吉行淳之介氏など,昔から「対談の名手」と呼ばれる人がいるが,渡辺和彦氏,その中に入るのではなかろうか。事前の打ち合わせなどもあったのだと思うが,とにかく,ゲストからの話しの引き出し方が上手なのは驚くほどだった。こういう方,他にはあまり思い浮かばない。
秋山和慶氏が共演したヘンリク・シェリングについてした話しなども面白かったもののひとつ。シェリングは,リハーサル時から,差し込む外光が眩しくて演奏できないとかなんとか理屈をつけて我が儘言い放題だったというのだ。秋山氏は,概略,あれは周りに自分を偉く見せたいがための計略だったと思う,と言っていた。こちらは「あの『無伴奏』をいれたシェリングがそんな幼稚なことするかな?」などと,なにか腑に落ちない気持ちで聞いていた。あっ,そうそう。これを前振りに,そのあと,シェリング独奏のシマノフスキのヴァイオリン協奏曲がかかったのではなかったか。渡辺氏が,少し怪しくなった雲行きを払うかのように,「最近はシマノフスキのコンチェルトも人気があるようで・・・」とか言ったところ,あの実直そうな秋山氏が「そんなこともないですよ。曲もたいしたことないし・・・。」みたいなことを言ったっけ。いやはや,とばっちりを喰らったシマノフスキには気の毒だった。因みに,シマノフスキの2番のヴァイオリン協奏曲は私の好きな曲である。
さて,そろそろ本題に入らないと。その渡辺氏の「クラシックサロン」にゲストとしてきた音楽家の中にピアニストのジャン=イヴ・ティボーデがいた。
だいぶ前のことなので,話しの細部は忘れてしまったが,ティボーデがビル・エヴァンスが大好きだと言い,彼自身のアルバム『ワルツ・フォー・デビー~ビル・エヴァンスに捧ぐ』収録の曲がかかったのはよく覚えている。あの時かかったのは,何だったろう。多重録音の「スパルタカス愛のテーマ」だったような気もするが,自信はない。
いずれにしても,この時の放送を聞いてさっそく該CDを購入したのだ。待てよ,あれは体の良い宣伝だったのではあるまいな。でも,まぁ,それならそれで構わない。曲も,演奏も素晴らしいのだから。
この企画の要諦については,ジャズ評論家の岩浪洋三氏がライナーの中で指摘しておられる。これにはちょっと唸ってしまった(植草甚一風)。曰く,「ドビュッシーやラヴェルがラグ・タイムやジャズに歩み寄り,ビル・エヴァンスが印象派に歩み寄ったので,両者が出会ったといえるかもしれない。そして両者の関連性を解いてみせたのが,このアルバムでのティボーデの演奏といえるのではなかろうか。」。「両者の関連性を解(く)」とはうまいことをおっしゃる。さすがは岩浪氏。
この企画,プロデューサーのエリック・カルヴィがティボーデのラヴェルを聴いた瞬間閃いたアイデアだったとか。カルヴィは,ビル・エヴァンスが愛奏した曲を演奏できるのはティボーデ以外にはいないと確信。ティボーデがビル・エヴァンスの大ファンだと知ったのは企画をもちかけた後なのだそうだ。
一応曲目を書いておくことにしよう。
ソング・フォー・ヘレン
ワルツ・フォー・デビー
ターン・アウト・ザ・スターズ
ノエルのテーマ
リフレクションズ・イン・D
ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ
ハロー・ボリナス
スパルタカス愛のテーマ
スィンス・ウィ・メット
ピース・ピース
ユア・ストーリー
ラッキー・トゥー・ビー・ミー
どれもいい演奏だが,ビル・エヴァンスが父を思って書いたという「ターン・アウト・ザ・スターズ」,ジミー・ヴァン・ヒューゼンの佳曲「ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ」,そしてレナード・バーンスタインがミュージカル「オン・ザ・タウン」のために書いた「ラッキー・トゥー・ビー・ミー」がしみじみとした味わい。素晴らしい。
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