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音楽と映画の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

ジャン=イヴ・ティボーデ 『ワルツ・フォー・デビー ~ビル・エヴァンスに捧ぐ』

2010-09-23 23:59:23 | ジャズ
 NHK-FMの「クラシックカフェ」の前身は「クラシックサロン」という番組だった。「似たような」といえばそれまでだが,パーソナリティがゲストを迎えて話しを聞く趣向の月曜日が抜群に面白かった。その「抜群に面白かった月曜日」を担当していたパーソナリティは,音楽評論家の渡辺和彦氏。わざわざ括弧書きで書くのは,渡辺氏を引き継いだ後任の音楽評論家の方がいて,その月曜日が必ずしも・・・。

故吉行淳之介氏など,昔から「対談の名手」と呼ばれる人がいるが,渡辺和彦氏,その中に入るのではなかろうか。事前の打ち合わせなどもあったのだと思うが,とにかく,ゲストからの話しの引き出し方が上手なのは驚くほどだった。こういう方,他にはあまり思い浮かばない。
秋山和慶氏が共演したヘンリク・シェリングについてした話しなども面白かったもののひとつ。シェリングは,リハーサル時から,差し込む外光が眩しくて演奏できないとかなんとか理屈をつけて我が儘言い放題だったというのだ。秋山氏は,概略,あれは周りに自分を偉く見せたいがための計略だったと思う,と言っていた。こちらは「あの『無伴奏』をいれたシェリングがそんな幼稚なことするかな?」などと,なにか腑に落ちない気持ちで聞いていた。あっ,そうそう。これを前振りに,そのあと,シェリング独奏のシマノフスキのヴァイオリン協奏曲がかかったのではなかったか。渡辺氏が,少し怪しくなった雲行きを払うかのように,「最近はシマノフスキのコンチェルトも人気があるようで・・・」とか言ったところ,あの実直そうな秋山氏が「そんなこともないですよ。曲もたいしたことないし・・・。」みたいなことを言ったっけ。いやはや,とばっちりを喰らったシマノフスキには気の毒だった。因みに,シマノフスキの2番のヴァイオリン協奏曲は私の好きな曲である。

 さて,そろそろ本題に入らないと。その渡辺氏の「クラシックサロン」にゲストとしてきた音楽家の中にピアニストのジャン=イヴ・ティボーデがいた。
だいぶ前のことなので,話しの細部は忘れてしまったが,ティボーデがビル・エヴァンスが大好きだと言い,彼自身のアルバム『ワルツ・フォー・デビー~ビル・エヴァンスに捧ぐ』収録の曲がかかったのはよく覚えている。あの時かかったのは,何だったろう。多重録音の「スパルタカス愛のテーマ」だったような気もするが,自信はない。
いずれにしても,この時の放送を聞いてさっそく該CDを購入したのだ。待てよ,あれは体の良い宣伝だったのではあるまいな。でも,まぁ,それならそれで構わない。曲も,演奏も素晴らしいのだから。
この企画の要諦については,ジャズ評論家の岩浪洋三氏がライナーの中で指摘しておられる。これにはちょっと唸ってしまった(植草甚一風)。曰く,「ドビュッシーやラヴェルがラグ・タイムやジャズに歩み寄り,ビル・エヴァンスが印象派に歩み寄ったので,両者が出会ったといえるかもしれない。そして両者の関連性を解いてみせたのが,このアルバムでのティボーデの演奏といえるのではなかろうか。」。「両者の関連性を解(く)」とはうまいことをおっしゃる。さすがは岩浪氏。
この企画,プロデューサーのエリック・カルヴィがティボーデのラヴェルを聴いた瞬間閃いたアイデアだったとか。カルヴィは,ビル・エヴァンスが愛奏した曲を演奏できるのはティボーデ以外にはいないと確信。ティボーデがビル・エヴァンスの大ファンだと知ったのは企画をもちかけた後なのだそうだ。

 一応曲目を書いておくことにしよう。

 ソング・フォー・ヘレン
 ワルツ・フォー・デビー
 ターン・アウト・ザ・スターズ
 ノエルのテーマ
 リフレクションズ・イン・D
 ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ
 ハロー・ボリナス
 スパルタカス愛のテーマ
 スィンス・ウィ・メット
 ピース・ピース
 ユア・ストーリー
 ラッキー・トゥー・ビー・ミー

どれもいい演奏だが,ビル・エヴァンスが父を思って書いたという「ターン・アウト・ザ・スターズ」,ジミー・ヴァン・ヒューゼンの佳曲「ヒアーズ・ザット・レイニー・デイ」,そしてレナード・バーンスタインがミュージカル「オン・ザ・タウン」のために書いた「ラッキー・トゥー・ビー・ミー」がしみじみとした味わい。素晴らしい。

ワルツ・フォー・デビー ~ビル・エヴァンスに捧ぐ ~
ジャン=イヴ・ティボーデ
ポリドール

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ジェレミー・スタイグ/ビル・エヴァンス・トリオ 『What's New』

2005-10-09 18:48:49 | ジャズ
 「フルートと言われて連想する言葉は?」と聞かれたら,まぁ,9割以上の人は,「流麗」「優雅」といった言葉をあげるだろう。しかし,少し考えてから「アグレッシブ」と答える人がいたなら,その人は,間違いなく,ジェレミー・スタイグのプレイを耳にしたことがある人である。

 録音は,1969年1月30日,2月3日,4日,5日,3月11日で,パーソネルは,次のとおり。

 ジェレミー・スタイグ(fl)
 ビル・エヴァンス(p)
 エディ・ゴメス(b)
 マーティ・モレル(ds)

 曲目は,次のとおり。

 ストレート・ノー・チェイサー
 ラヴァー・マン
 ホワッツ・ニュー
 枯葉
 タイム・アウト・フォー・クリス
 スパルタカス 愛のテーマ
 ソー・ホワット

 ジェレミー・スタイグは,1942年,NY生まれのフルート奏者。19才の時のバイク事故で,顔面の左半分が麻痺してしまう。ジャケット写真でも分かるとおり,右利きのスタイグの場合,唇の左側が吹き口にあたる。この事故はフルート奏者にとって致命的とも思われたが,スタイグはボール紙とテープで作ったマウスピースを口に含んで空気の漏れを防ぎ,これを克服したという。
彼のプレイはいずれの曲でもソウルフルだが,掉尾を飾る「ソー・ホワット」が凄絶。コンクールなら,予選でふるい落とされること間違いなしのプレイだが,そのスタイルは聴く者を圧倒する。スタイグにとって「喘ぐこと」「呻くこと」は,「フルートを吹くこと」の一部に成り切っている。これは,決して侮蔑の意味で言っているのではない。

 ビル・エヴァンスにとっては,これがヴァーヴ最後の録音。
「ソー・ホワット」は,「墨絵のような」とエヴァンスが自らライナーを担当した『Kind Of Blue』でのプレイと比べるのも面白い。興味深いのは,ソロをスタイグに渡したエヴァンスが,程なくプレイを止め,テーマに戻るまで一音も発していないこと。その間の4分強はピアノレス。しかし,エディ・ゴメス,マーティ・モレルの2人がリズムをしっかり刻んでいることもあって,音楽は全く弛緩しない。ここは,素晴らしい。
因みに,スタイグとエディ・ゴメスは,同じ Music & Art High School に通っていた頃からデュオをしていた間柄だそうだ。エヴァンスが音楽を3人に委ねたのには,そういった事情もあったのではないか。

ホワッツ・ニュー
ビル・エヴァンス・ウィズ・ジェレミー・スタイグ,ビル・エヴァンス,ジェレミー・スタイグ,エディ・ゴメス,マーティ・モレル
ユニバーサル ミュージック クラシック

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ビル・エヴァンス・トリオ 『Explorations』

2005-09-15 10:35:04 | ジャズ
 ビル・エヴァンスのリヴァーサイド時代は,1956年の『New Jazz Conceptions』から1963年の『Bill Evans Trio at Shelly's Manne-Hole』まで。

 リヴァーサイド時代のアルバムでは,スコット・ラファロ(b),ポール・モチアン(ds)との4部作が有名である。
その中では,表題の『Explorations』が間然する所がなく,『Portrait in Jazz』と同じくらい,あるいはそれ以上に,よく聴いたアルバムだ。各曲の演奏時間は必ずしも長くはないが,3人の交歓,ソロとも充実しており,4部作の中では一頭地を抜くものだと思う。

 曲目は,次のとおり。

 イスラエル
 魅せられし心
 ビューティフル・ラヴ
 エルザ
 ナルディス
 愛は海よりも
 アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー
 スウィート・アンド・ラヴリー

 名演の誉れが高い演奏ばかり。「エルザ」「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」は,「イスラエル」などの影に隠れがちだが,センシティヴで素晴らしい演奏だと思う。特筆すべきは,「愛は海よりも」のセンスの良さ。最後にほんの少しテーマを弾くだけなのに,冒頭から,聴く者にその曲を感じさせずにはおかない。ただただ,感嘆。
しかし,この盤での白眉は,やはり,「ナルディス」だと思う。テーマの後,最初のソロはラファロがとるが,バックでは囁くような調子でエヴァンスの助奏が鳴り続ける。やがて渾然一体となり,気付いたときはエヴァンスが主旋を弾き,ラファロがこれに寄り添うといった感じ。この演奏は,このトリオ,もっと言えば,ジャズ・ピアノ・トリオが到達した1つの頂点といっても差し支えないように思う。

 ラファロのプレイについては,『Sunday at the Village Vanguard』の方が聴き応えがあるのかもしれないが,前記のとおり,「ナルディス」での内省的なプレイが素晴らしい。
モチアンは,トリオの性格上,どうしてもリズム・キーパーとしての役割が重くなるが,見事なブラッシュ・ワークで,2人を支えている。モチアンについては,あまり語られることがないが,録音盤では,1963年12月の『Trio '64 』がビル・エヴァンス・トリオでの最後の収録になるようだ。

 ビル・エヴァンスのプレイは,殊更に「リリシズム」「耽美的」といったことが強調されているような気がする。そういった面があるのは否定しないが,「リリシズム」といった言葉で表現できるのは,彼の音楽の極々一端に過ぎない。ヴァーヴの『Bill Evans at Town Hall』はもちろん,この盤の「スウィート・アンド・ラヴリー」などを聴かれた方なら,私見にご賛同いただけるのではないだろうか。

 なお,ラファロ亡き後,ビル・エヴァンスが目指したものは,ラファロ,モチアンと到達した音楽的頂点を取り戻すことだった,といった言い方がされることもある。
しかし,これは,チャック・イスラエル,ゲイリー・ピーコック,エディ・ゴメス,マーク・ジョンソン,マーティ・モレル,ラリー・バンカー,エリオット・ジグモンド,ジョー・ラバーバラといったプレーヤー達に対し,コーテシーを欠く表現ではないだろうか。
ビル・エヴァンス,スコット・ラファロ,ポール・モチアンのトリオに対する愛情・追慕といったものの裏返しかもしれないが,やはり適切ではないように思う。

ビル・エヴァンスが亡くなったのは,1980年9月15日。時の経つのは本当に早い。

Explorations

Riverside/OJC

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チック・コリア・クァルテット 『フレンズ』

2005-09-11 23:11:31 | ジャズ
The One Step.


 チック・コリアは好きなピアニスト。キーボード・プレーヤーといった方が良いのかな。
ただ,自分の知っているチックは,せいぜい,「タッチストーン」というユニットで活動している時まで。随分昔の話しだ ^^; 。
記憶に鮮明なのは,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』『ライト・アズ・ア・フェザー』といったところ。『レプリコーン』『マッド・ハッター』『タップ・ステップ』のあたりは,年代的には新しいはずだが,印象は薄い。
案外記憶に残っているのは,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』より前の,デイブ・ホランドらと組んだフリー色の濃い「サークル」というユニット。今なら,あの『パリ・コンサート』,それなりに楽しめそうな気もするが,残念ながら既に手元には無い。
というわけで,好きとはいっても,最近の状況は全く分からないし,随分デコボコがある。もっとも,このデコボコ,こちらの趣味が狭いせいもあるが,チック・コリアという人の芸の多彩さ・多様さもその一因ではある。
結局,自分にとって,チック・コリアは,『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』『リターン・トゥ・フォーエヴァー』,そしてこの『フレンズ』のチック・コリア,ということになりそうだ。

 パーソネルは,次のとおり。

 チック・コリア(p,ep)
 ジョー・ファレル(ts,ss,fl)
 エディ・ゴメス(b)
 スティーヴ・ガッド(ds)

曲は,全てチック・コリアの作曲。
 
 ザ・ワン・ステップ
 ワルツ・フォー・デイヴ
 チルドレンズ・ソング#5
 サンバ・ソング
 フレンズ
 シシリー
 チルドレンズ・ソング#15
 カプチーノ

 一般的にどのような評価を受けているアルバムかよく分からないが,名盤だと思う。「エレピなんか使いやがって」という人は,先に『ザ・ビル・エヴァンス・アルバム』を聴いてしまった人かもしれない。このアルバムは,エレクトリック・ピアノも,使いどころを得れば,魅力的な楽器であることを教えてくれる好個の例。打ち込み全盛の時代に「エレピ 云々」というのもアナクロと言われそうなので,もう止めるが。

 収録曲が,いずれも良い。特に,「ザ・ワン・ステップ」「ワルツ・フォー・デイヴ」「サンバ・ソング」など。
プレーヤーでは,リーダーのチック,ジョー・ファレルも良いが,ベースのエディ・ゴメスがとにかく素晴らしい。雄弁だけれども,饒舌過ぎない。これが,エディ・ゴメスというベーシストの美点だと思う。彼はビル・エヴァンス・トリオのベーシストとして活躍したが,あのトリオで先ずあげられるベーシストといえば,やはり,スコット・ラファロ。しかし,個人的には,ラファロよりも好きなベーシストだ。『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』でのプレイも素晴らしかった。
チックと組んだベーシストには,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のスタンリー・クラーク,『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』のミロスラフ・ヴィトウスがいる。彼らも,タイプは異なるが,いずれも異能のベーシスト達。チック・コリアという人,本当に良きベーシストに恵まれている。現在はどんなベーシストと活動しているのだろうか。

フレンズ
チック・コリア,ジョー・ファレル,エディ・ゴメス,スティーヴ・ガッド
ユニバーサル ミュージック クラシック

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ドン・フリードマン・トリオ 『サークル・ワルツ』

2005-08-27 16:58:05 | ジャズ
 「知的で上品」「リリシズム」「ピアノの詩人」などの後に,「エヴァンス系」などという言い方をされ,挙げ句の果てに,「ビル・エヴァンスと比較される不幸なピアニスト」で締めくくられる。それが,大方のドン・フリードマン評だ。

 確かに,ドン・フリードマンのキャリアはビル・エヴァンスのそれのように輝かしいものではないのかもしれない。しかし,ジャズ・ピアノ史上,『サークル・ワルツ』のような不滅のアルバムを残した人が「不幸なピアニスト」であろうはずがない。「エヴァンス系」,「エヴァンス派」などというステレオ・タイプの物言いは,失礼極まりないと思うのだが,どうだろうか。
彼のアルバムは,ほかに『A day in the city』を聴いただけだが,おそらく,この『サークル・ワルツ』,彼の一世一代の名演だと思う。

 パーソネルは,次のとおり。

ドン・フリードマン(p)
チャック・イスラエル(b)
ピート・ラ・ロッカ(ds)

1962年5月14日,ニューヨークの録音。レーベルは,リバーサイド。プロデューサーは,オリン・キープニュース。
このアルバムの収録時,ドン・フリードマン27才,チャック・イスラエル26才,そしてピート・ラ・ロッカ24才。

 曲目は,次のとおり。

1 サークル・ワルツ
2 シーズ・ブリーズ
3 アイ・ヒア・ア・ラプソディ
4 イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ
5 ラヴズ・パーティング
6 ソー・イン・ラヴ
7 モーズ・ピヴォッティング

「ソー・イン・ラヴ」がピアノ・ソロで,ほかはトリオ。

 このアルバムの名盤たる所以は,4つのドン・フリードマンのオリジナル(1,2,5,6)が,いずれも佳曲で,なおかつ,好演であること。この人,演奏家としてだけでなく,作曲家としても素晴らしい天分に恵まれた人だ。

 さて,演奏。
ドン・フリードマンのピアノは,基本的に,甘さを排したもの。「シーズ・ブリーズ」「ソー・イン・ラヴ」で見せる疾走感などは,明らかに,エヴァンスとは異なる資質を感じさせる。やはり,ドン・フリードマンは,ドン・フリードマン。ビル・エヴァンスのイミテーションではない。「エヴァンス系」などと言う十把一絡げの物言いで片付けられてはならない人である。

 チャック・イスラエルの控えめなベースも良い。「イン・ユア・オウン・スウィート・ウェイ」「ラヴズ・パーティング」の終わりで少しだけ見せる深々としたアルコの響きも,何とも言えない余韻を残す。実にセンスの良いベーシストだ。
ラファロのベースに賛辞は惜しまないが,「ホーンのような」と評される彼のベースは,時に,煩わしく思えるときもないではない。イスラエルを誉めるために,ラファロを腐す必要は全くないのだが。

 そして,ピート・ラ・ロッカのドラム。この人も,「小型エルヴィン」などと言われ,正当に評価されたとはいえない人だ。抑えの効いた「サークル・ワルツ」なども良いが,「シーズ・ブリーズ」「アイ・ヒア・ア・ラプソディ」での叩きまくるドラムも良い。
野口久光氏のライナーによると,仕事に恵まれなかった彼は,法律事務所や市立図書館で働いたり,タクシーの運転手をしながら,演奏活動をしていたのだという。
彼は,このアルバム収録の6年後,ミュージシャンの道を一時断念,弁護士としての道を歩むことになった。しかし,1979年,再び演奏活動を再開する。ジャズに対する夢,情熱を断ちがたかったのだと思う。

 このアルバムには,録音面で,音の歪み,音割れ,といった難もある。しかし,演奏の出来はそれを補ってあまりある。ピアノ・ソロの「ソー・イン・ラヴ」を除けば,5分~7分前後という演奏時間も,長からず短からずで,ちょうど良い。ジャズは難しくて・・・,という方にはお奨めしたいアルバムである。

サークル・ワルツ
ドン・フリードマン,チャック・イスラエル,ピート・ラ・ロッカ
ユニバーサル ミュージック クラシック

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ルビー・ブラフ&ジョージ・バーンズ 『プレイズ・ガーシュイン』

2005-08-21 14:04:13 | ジャズ
 中間派,穏健派と呼ばれる人達に対する評価は,その属する世界で様々のようだ。

 学問の世界で通説といわれるものには,「足して2で割る」式の,穏当な結論のものが少なくない。その意味で,通説=中間説といった面があるのは否定しきれない。確かに,現実や他説との妥協もある程度はやむを得ない。しかし,その分,理論の筋は見えにくくなる。両極端説におもねって中道を歩むというのは,こと学問の世界では,評価の分かれるところかもしれない。

 政治の世界の中間派はどうだろう。個性の強い面々の間に立つ仲裁者というイメージがあるのに加え,まぁまぁ,この人達に任せれば悪いようにはしないだろう,という安心感もある。案外,そうではなかったりもするけれど。

 それでは,ジャズの世界はどうだろう。
こちらの中間派は,概して評価が低い。少なくとも,昔はそうだった。スコット・ハミルトン(ts)を賞賛する声にしても,言外に「もちろん,ロリンズなどと同列には評価できない」といった雰囲気が漂っていた。このあたりは,今も変わってはいないのではないだろうか。
確かに,コルトレーン・スタイルやフリージャズの洗礼を受けたプレーヤー,オーディエンスからすれば,「今の時代にあれはないだろう」という気持ちも分からないではない。
ただ,中間派≒脳天気なお気楽ジャズ,向上心のないジャズ,というと,ちょっと違うような気がする。

 このアルバムも,分類しようとすれば,中間派ということになるのだろう。パーソネルは,次のとおり。

ルビー・ブラフ(cnt)
ジョージ・バーンズ(g)
ウェイン・ライト(rhythm g)
マイケル・ムーア(b)

ピアノレス,ドラムレスで,コルネット,ギター,リズムギター,ベース,という珍しい編成。1974年7月26日,カリフォルニアのコンコード・ブールヴァードでのライブ録音である。
曲目は,次のとおり。

1 スワンダフル
2 アイ・ガット・リズム
3 誰も奪えぬこの思い
4 首尾よくいけば
5 サムボディ・ラヴズ・ミー
6 バット・ノット・フォー・ミー
7 サマー・タイム ~ バイディン・マイ・タイム
8 ラヴ・ウォークト・イン
9 エンブレイサブル・ユー
10 ライザ

 1974年というのは,ジャズ史的にはどのような年なのだろうか。マイルスの『ビッチェズ・ブリュー』が録音されたのが1969年。1974年は,クロスオーバー,フュージョン,といったジャズがそろそろ主流になりつつあった時期。ストレート・アヘッドなジャズをするプレーヤーにとって,もはやアメリカには居場所はなく,ヨーロッパに活動の舞台を移し始めた時期でもある。

 さて,中身だが,何とも小粋なアルバムに仕上がっている。
ルビー・ブラフは,1955年のダウンビート誌の新人部門で,クリティック・ポールをとったこともあるコルネットの名手。テクニックは申し分ないし,音色も素晴らしい。ジョージ・バーンズのギターもよくスイングしている。ウェイン・ライトとマイケル・ムーアの脇役陣も実に堅実なプレイ。時空を超えたところに定位を持つジャズ,それがルビー・ブラフらのジャズということになりそうだ。この辺りは,ほぼ10年おきにプレイ・スタイルを激変させたマイルスなどとは全く違う。
以下は,このライブの翌年,レス・トムキンスがルビー・ブラフにインタビューしたときのもの。ルビー・ブラフという人,作り出す音楽からは想像できないくらい,なかなか辛辣な人のように見える。

L.T Do you feel that the present musical climate is a receptive one for the music you’re playing?

R.B I’ve never seen any musical climate more or less receptive to anything. If you have a nice product, they like it; if you don’t they don’t. The world was always receptive to Bing Crosby, Louis Armstrong, Duke Ellington, Benny Goodman and anybody else who ever put anything together. There are no climates, no audience gaps, no generation gaps, no musical gaps. There’s only lousy performance gaps in this world—caused by lousy players, who stink up jazz and make people not want to go hear it.

 残念ながら,ルビー・ブラフ&ジョージ・バーンズ・クァルテットは,このライブの3年後,解消するに至った。ギターのジョージ・バーンズが亡くなったためだ。そして,コルネットのルビー・ブラフも,2002年,亡くなった。享年75才。

Braff & Barnes Quartet Plays Gershwin
Ruby Braff,George Barnes
Concord Records

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ブラウン/ローチ 『Clifford Brown And Max Roach』

2005-05-03 09:33:51 | ジャズ
 昨日,仙台からの客人が,「やはり,秋田より仙台の方が少し暖かいようだ」と話していた。確かに,一昨日は暑いくらいだったが,昨日はそれほど気温が上がらなかった。
もっとも,着ていたスーツの生地が厚手だったせいか,あまり違いは感じなかったが。

 5月に入ってしまったが,4月になると,ブラウン/ローチの「ジョイ・スプリング」を聴くのが恒例の行事になっている。
リッチー・パウエルのどこか東洋的な出だし,ブラウニーとハロルド・ランドでユニゾンのテーマ,ハロルド・ランドのソロ,この後ブラウニーのトランペットのソロだが,どこまでも,明るくハリのある音。そして,流れるようなフレージング。
クリフォード・ブラウンというと,破綻がなく,金太郎飴のようでつまらない,という人も時にいるけれど,そんなことはない。26才で夭折した天才が残した遺産はいずれも珠玉の宝のようなもの。テイク数だって決して多くはない。

 春つながりで言えば,まだ鉛色の雲が重く低く垂れ込めている2月に聴きたくなるのが,ビル・エヴァンスの「スプリング・イズ・ヒア」。
マイナー調の出だしだが,曲がパッと明るい表情を見せる瞬間がえも言われず素晴らしい。あと少しの辛抱,と思わせる瞬間である。この気持ち,冬の長い東北の人になら分かっていただけると思う。

 『Clifford Brown And Max Roach』に戻るが,せっかく前におさめられていることだし,と露払いではないが「ジョイ・スプリング」の前に「ダフード」を聴く。これも恒例。
曲自体の疾走感にも魅せられるが,さて,ローチのドラミング。
「メロディーに寄り添い過ぎで,説明過多のドラム」と毎年のように思う。
しかし,「ソロを締めくくるドラムロール直前のタイム・センスは天才的」と,これまた,毎年のように思うのだ。

クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ 2
ブラウン=ローチ・クインテット
ユニバーサル ミュージック クラシック

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