音楽と映画の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

ビル・エヴァンス・トリオ 『Explorations』

2005-09-15 10:35:04 | ジャズ
 ビル・エヴァンスのリヴァーサイド時代は,1956年の『New Jazz Conceptions』から1963年の『Bill Evans Trio at Shelly's Manne-Hole』まで。

 リヴァーサイド時代のアルバムでは,スコット・ラファロ(b),ポール・モチアン(ds)との4部作が有名である。
その中では,表題の『Explorations』が間然する所がなく,『Portrait in Jazz』と同じくらい,あるいはそれ以上に,よく聴いたアルバムだ。各曲の演奏時間は必ずしも長くはないが,3人の交歓,ソロとも充実しており,4部作の中では一頭地を抜くものだと思う。

 曲目は,次のとおり。

 イスラエル
 魅せられし心
 ビューティフル・ラヴ
 エルザ
 ナルディス
 愛は海よりも
 アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー
 スウィート・アンド・ラヴリー

 名演の誉れが高い演奏ばかり。「エルザ」「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」は,「イスラエル」などの影に隠れがちだが,センシティヴで素晴らしい演奏だと思う。特筆すべきは,「愛は海よりも」のセンスの良さ。最後にほんの少しテーマを弾くだけなのに,冒頭から,聴く者にその曲を感じさせずにはおかない。ただただ,感嘆。
しかし,この盤での白眉は,やはり,「ナルディス」だと思う。テーマの後,最初のソロはラファロがとるが,バックでは囁くような調子でエヴァンスの助奏が鳴り続ける。やがて渾然一体となり,気付いたときはエヴァンスが主旋を弾き,ラファロがこれに寄り添うといった感じ。この演奏は,このトリオ,もっと言えば,ジャズ・ピアノ・トリオが到達した1つの頂点といっても差し支えないように思う。

 ラファロのプレイについては,『Sunday at the Village Vanguard』の方が聴き応えがあるのかもしれないが,前記のとおり,「ナルディス」での内省的なプレイが素晴らしい。
モチアンは,トリオの性格上,どうしてもリズム・キーパーとしての役割が重くなるが,見事なブラッシュ・ワークで,2人を支えている。モチアンについては,あまり語られることがないが,録音盤では,1963年12月の『Trio '64 』がビル・エヴァンス・トリオでの最後の収録になるようだ。

 ビル・エヴァンスのプレイは,殊更に「リリシズム」「耽美的」といったことが強調されているような気がする。そういった面があるのは否定しないが,「リリシズム」といった言葉で表現できるのは,彼の音楽の極々一端に過ぎない。ヴァーヴの『Bill Evans at Town Hall』はもちろん,この盤の「スウィート・アンド・ラヴリー」などを聴かれた方なら,私見にご賛同いただけるのではないだろうか。

 なお,ラファロ亡き後,ビル・エヴァンスが目指したものは,ラファロ,モチアンと到達した音楽的頂点を取り戻すことだった,といった言い方がされることもある。
しかし,これは,チャック・イスラエル,ゲイリー・ピーコック,エディ・ゴメス,マーク・ジョンソン,マーティ・モレル,ラリー・バンカー,エリオット・ジグモンド,ジョー・ラバーバラといったプレーヤー達に対し,コーテシーを欠く表現ではないだろうか。
ビル・エヴァンス,スコット・ラファロ,ポール・モチアンのトリオに対する愛情・追慕といったものの裏返しかもしれないが,やはり適切ではないように思う。

ビル・エヴァンスが亡くなったのは,1980年9月15日。時の経つのは本当に早い。

Explorations

Riverside/OJC

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チック・コリア・クァルテット 『フレンズ』

2005-09-11 23:11:31 | ジャズ
The One Step.


 チック・コリアは好きなピアニスト。キーボード・プレーヤーといった方が良いのかな。
ただ,自分の知っているチックは,せいぜい,「タッチストーン」というユニットで活動している時まで。随分昔の話しだ ^^; 。
記憶に鮮明なのは,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』『ライト・アズ・ア・フェザー』といったところ。『レプリコーン』『マッド・ハッター』『タップ・ステップ』のあたりは,年代的には新しいはずだが,印象は薄い。
案外記憶に残っているのは,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』より前の,デイブ・ホランドらと組んだフリー色の濃い「サークル」というユニット。今なら,あの『パリ・コンサート』,それなりに楽しめそうな気もするが,残念ながら既に手元には無い。
というわけで,好きとはいっても,最近の状況は全く分からないし,随分デコボコがある。もっとも,このデコボコ,こちらの趣味が狭いせいもあるが,チック・コリアという人の芸の多彩さ・多様さもその一因ではある。
結局,自分にとって,チック・コリアは,『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』『リターン・トゥ・フォーエヴァー』,そしてこの『フレンズ』のチック・コリア,ということになりそうだ。

 パーソネルは,次のとおり。

 チック・コリア(p,ep)
 ジョー・ファレル(ts,ss,fl)
 エディ・ゴメス(b)
 スティーヴ・ガッド(ds)

曲は,全てチック・コリアの作曲。
 
 ザ・ワン・ステップ
 ワルツ・フォー・デイヴ
 チルドレンズ・ソング#5
 サンバ・ソング
 フレンズ
 シシリー
 チルドレンズ・ソング#15
 カプチーノ

 一般的にどのような評価を受けているアルバムかよく分からないが,名盤だと思う。「エレピなんか使いやがって」という人は,先に『ザ・ビル・エヴァンス・アルバム』を聴いてしまった人かもしれない。このアルバムは,エレクトリック・ピアノも,使いどころを得れば,魅力的な楽器であることを教えてくれる好個の例。打ち込み全盛の時代に「エレピ 云々」というのもアナクロと言われそうなので,もう止めるが。

 収録曲が,いずれも良い。特に,「ザ・ワン・ステップ」「ワルツ・フォー・デイヴ」「サンバ・ソング」など。
プレーヤーでは,リーダーのチック,ジョー・ファレルも良いが,ベースのエディ・ゴメスがとにかく素晴らしい。雄弁だけれども,饒舌過ぎない。これが,エディ・ゴメスというベーシストの美点だと思う。彼はビル・エヴァンス・トリオのベーシストとして活躍したが,あのトリオで先ずあげられるベーシストといえば,やはり,スコット・ラファロ。しかし,個人的には,ラファロよりも好きなベーシストだ。『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』でのプレイも素晴らしかった。
チックと組んだベーシストには,『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のスタンリー・クラーク,『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』のミロスラフ・ヴィトウスがいる。彼らも,タイプは異なるが,いずれも異能のベーシスト達。チック・コリアという人,本当に良きベーシストに恵まれている。現在はどんなベーシストと活動しているのだろうか。

フレンズ
チック・コリア,ジョー・ファレル,エディ・ゴメス,スティーヴ・ガッド
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マウリッツィオ・ポリーニ ベートーヴェン『ディアベッリ変奏曲』

2005-09-11 14:14:26 | クラシック
 ディアベッリは大曲。通常の演奏でも50分強という長さ。アファナシエフになると優に1時間を超える。ハ長調という調性もあるせいか,ベートーヴェンの秘技をもってしても,厭かずに聴き通すのはなかなか大変である。

 この曲には,ブレンデルの新旧2つのすぐれた録音がある。旧盤は,BBCのテレビ番組のためのライブ録音。45才のブレンデルが見せる第23変奏アレグロ・アッサイでのスピード感,音の粒立ちはもの凄い。新盤においても,音楽的諧謔を押し出した解釈は変わっていないが,こちらは旧盤以上に,聴く人を驚かすような極端な表情付けは避けられているような気がする。

 ブレンデルのディアベッリは,2001年11月5日,アトリオン音楽ホール(秋田市)での生演奏に接したことがある。前半に,ハイドンのピアノ・ソナタ(Hob.XⅥ-44),モーツァルトの幻想曲(K.397),同ピアノ・ソナタ(K.310),後半にディアベッリ,というプログラム。ディアベッリは,ほぼ完璧な演奏だったように思う。コンサート・ホールであれ以上の経験をすることは,これからも,そうは無いような気がする。
当時,年齢などからして,ブレンデル最後の来日では・・・,などとも言われていたが,どうなのだろうか。因みに,秋田公演は同ツアー最後の演奏会であった。

 さて,前置きが長くなったが,ポリーニ。
こちらは,音楽的諧謔もさることながら,明解で,隈取りのハッキリしたヴィルトゥオーゾ風の音楽になりきっている。
素晴らしいのは,第10,13,16,21,23,25,28,32といったピアニスティックな変奏。特に,第13,23,28の強靱な打鍵,第16の正確無比のトリルなどは,ポリーニならでは。また,第21変奏に入る直前の「気」(うめき声?)には圧倒される。空間を音で埋め尽くさないでおくものかといった演奏は,息苦しさを感じるほど。当たり前だが,やはり,ブレンデルとポリーニでは,出来上がる音楽が全く違う。どちらを好むかは,聴く人次第。もちろん,「両方好き」も有りである。

 話しは変わるが,今年度のアトリオン音楽ホールでの県の自主企画コンサートはちょっと寂しい内容。5月のジュリアード弦楽四重奏団,6月のシカゴ・ブラス・ソロイスツはあったが,フルオケがない。後半の目玉は11月18日の佐藤卓史氏(2001年日本音楽コンクールピアノ部門第1位)のピアノ・リサイタル。全席自由で2千円。ショパンの『マズルカ』『舟歌』といったあたりは苦手だが,『ワルトシュタイン』は聴いてみたい。そう言えば,このホールでは,ゲルバーの『ワルトシュタイン』『告別』ほかを聴いた。あれは良い演奏だった。

秋田県総合生活文化会館(アトリオン音楽ホール)


ベートーヴェン : ディアベッリの主題による33の変奏曲 ハ長調 作品120
ポリーニ(マウリツィオ)
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11日のN響アワーはガリー・ベルティーニ

2005-09-05 21:37:11 | クラシック
 9月11日(日)の N響アワー(NHK教育 PM9:00~10:00)は,名演奏プレイバック。
今月は,今年3月17日に亡くなった名匠ガリー・ベルティーニが,N響定期に登場したときの記録。ペトルーシュカは,第1013回Cプロ。マーラーの3番は,第1014回Aプロ。因みに,第1015回Bプロは,ヴェルディのレクイエム。

~~~演奏曲目~~~

ストラヴィンスキー「ペトルーシカ(1947年版)」から (1987年2月6日収録)
マーラー 「交響曲第3番」から第6楽章 (1987年2月12日収録)

~~~~~~~~~~

 マーラーの3番の第1楽章,暫く俯き加減だったマエストロが,卒然と指揮台から棒を取り上げ,この大曲を振り始めた時の様子はちょっと忘れられません。感動的な演奏でした。今回は最終楽章だけのようで,ちょっと残念。選挙特番の裏になりますが,興味のある方は是非是非ご覧下さい。

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バーンスタイン/ウィーン・フィル シベリウス『交響曲第7番』

2005-09-02 19:31:35 | クラシック
 クレルヴォは除き,7曲あるシベリウスの交響曲の中で最高傑作はどれか。これは人それぞれだと思うが,どうも第4番という声が多いような気がする。しかし,好きな曲と言われて,4番をあげる人にこれまでお目にかかったことがない。
4番を一言でいうなら,「内省的な音世界」。始めて聴いた時,出だしの管と低弦の和音で「あっ,苦手かも・・・」と思ってしまった。第2楽章で幾分明るい表情も見せるが,全編,清冽である一方,鉛色の雲が垂れ込めている。「晦渋」というと大袈裟だが,この印象,今のところ容易に払拭できそうにない。

 さて,7番。これを最高傑作とする人も少なくない。私も7番派。
7番は,喩えるなら,キリッと冷やした辛口の白ワイン。「幻想曲」として着想されたと聞くが,その言葉から連想するような茫洋としたところはなく,むしろ,ドンドン削ぎ落として出来上がった,といった感じの曲である。

 表題は,レニーが亡くなる2年前のライブ盤。
シベリウスなら透明感,という人には,違和感の残る演奏かと思う。オケはもちろん優秀だが,弦・管とも,シベリウス演奏には必ずしも向いていないかもしれない。しかし,ウィーン・フィルは,レニーが要求するシベリウス特有の,万感を込めた「いち打」「ひと吹き」に実によく反応している。特に,最後のヴィヴァーチェ - プレスト以降の盛り上がり。これは尋常ではない。レニーとウィーン・フィルが創りあげる濃厚なシベリウス,個性的だが充実している。この演奏,個人的にはかなり気に入っている。

 「何を演奏してもマーラーになる」と揶揄されたレニーだったが,それは正確な物言いではない。何をやっても「バーンスタイン」になったのだ。それこそ,名指揮者の証というもの。

シベリウス:交響曲第5番&第7番
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ユニバーサル ミュージック クラシック

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