音楽と映画の周辺

核心ではなく, あくまでも物事の周辺を気楽に散策するブログです。

デュメイ/ピリス ラヴェル『ツィガーヌ』

2006-05-30 22:33:49 | クラシック
 N響で第1ヴァイオリンを弾いている鶴我さんが,『200CDヴァイオリン 弦楽器の名曲・名盤を聴く』のデュメイの項目の冒頭で,何とコメントしているかご存じだろうか。
曰わく,「写真で見ると,ノーメイクで『アダムズ・ファミリー』に出られそうな顔をしているが,デュメイの出す音は,深い想いに満ちている。」

 いくら何でも,これはあまりである。さすがに5分程度のメイクは必要であろう。私としては,ここは体を張ってでもデュメイを擁護したい。
確かに,私自身,デュメイがヴェロニカ・ハーゲンと入れたモーツァルトのK.364のジャケット写真を見て,「ふん,さながら,『Beauty and the Beast』といったところだな。ピリスというものがありながら,よもや, Beast ,麗しのヴェロニカに・・・」などと思ったのは事実である。認めよう。
しかし,「ノーメイクで『アダムズ・ファミリー』に出られそうな顔」と言ってしまっては身も蓋もない。その後にいかなる美辞麗句を重ねようとも手遅れである。「深い想い」はそのまま奈落の底に沈んでしまったことだろう。

 私は,この数日,上記の言辞が,デュメイの来日を遠ざける遠因となっていないか,日仏の文化交流等に影を落としてはいないか,など深く憂慮している。ワールドカップどころの話しではない。私でよければ,デュメイはもちろんのこと,親愛なるシラク大統領閣下とフランス国民に対し謝罪したい。上記のように思っているのは,必ずしもそうは多くないはずだと。

 さて,本CD収録の演奏,いずれも秀逸だが,デュメイの Beast 振りがいかんなく発揮されているのは,最後の『ツィガーヌ』。たっぷりとした導入部も素晴らしいが,これに続く主部がまた,細部にまで神経の行き届いた演奏。ピリスのピアノに支えられ,デュメイのヴァイオリンが,千変万化,めくるめく音色で様々な表情を見せる。題材からすれば,「フランス物」と言うには躊躇もあるが,そこは,やはりラヴェル。演奏者の血肉となっているのは疑いない。

 ジャン=ジャック・カントロフなどに比べ,地味な印象もあったデュメイだが,今や,紛う方なく,フランコ=ベルギー派のトップ。デュメイにはフォーレのヴァイオリン・ソナタの再録を希望したいところだが,はてさて,かなうだろうか。

フランク/ヴァイオリン・ソナタイ長調
デュメイ(オーギュスタン) ピリス(マリア・ジョアン)
ポリドール

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ロバート・ベントン監督 『クレイマー,クレイマー』

2006-05-23 22:16:10 | その他の映画
Henry Purcell - The Gordian Knot Unty'd, incidental music, Z. 597 Rondeau Minuet


 剣で断ち切るのは解決方法としては手っ取り早い。しかし,通常,それをもって「解(ほど)いた」とは言わない。何のことはない,早々に結び目の先端探しを諦めてしまっただけなのだから。幸いなことに,いや,かわいそうなことにと言うべきか,ジョアンナはそれに気付いてしまったのだ。
気になったのは,ラストシーンの,ジョアンナ(メリル・ストリープ)の肩越しからのぞいて見えるテッド(ダスティン・ホフマン)の目尻の皺。あれは,何だろう。笑い皺かな。ジョアンナの心情を思うと観る者としては複雑だ。

 『クレイマー,クレイマー』とくれば,からっとしたヴィヴァルディの『マンドリン協奏曲ハ長調』とばかり思っていたが,どうやら見当違いをしていたようだ。パーセルの『The Gordian Knot Untied(解かれたゴルディアスの結び目)』,これがエンド・タイトルで用いられた意味は誠に重い。

クレイマー、クレイマー [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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