音楽と映画の周辺

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ジェレミー・スタイグ/ビル・エヴァンス・トリオ 『What's New』

2005-10-09 18:48:49 | ジャズ
 「フルートと言われて連想する言葉は?」と聞かれたら,まぁ,9割以上の人は,「流麗」「優雅」といった言葉をあげるだろう。しかし,少し考えてから「アグレッシブ」と答える人がいたなら,その人は,間違いなく,ジェレミー・スタイグのプレイを耳にしたことがある人である。

 録音は,1969年1月30日,2月3日,4日,5日,3月11日で,パーソネルは,次のとおり。

 ジェレミー・スタイグ(fl)
 ビル・エヴァンス(p)
 エディ・ゴメス(b)
 マーティ・モレル(ds)

 曲目は,次のとおり。

 ストレート・ノー・チェイサー
 ラヴァー・マン
 ホワッツ・ニュー
 枯葉
 タイム・アウト・フォー・クリス
 スパルタカス 愛のテーマ
 ソー・ホワット

 ジェレミー・スタイグは,1942年,NY生まれのフルート奏者。19才の時のバイク事故で,顔面の左半分が麻痺してしまう。ジャケット写真でも分かるとおり,右利きのスタイグの場合,唇の左側が吹き口にあたる。この事故はフルート奏者にとって致命的とも思われたが,スタイグはボール紙とテープで作ったマウスピースを口に含んで空気の漏れを防ぎ,これを克服したという。
彼のプレイはいずれの曲でもソウルフルだが,掉尾を飾る「ソー・ホワット」が凄絶。コンクールなら,予選でふるい落とされること間違いなしのプレイだが,そのスタイルは聴く者を圧倒する。スタイグにとって「喘ぐこと」「呻くこと」は,「フルートを吹くこと」の一部に成り切っている。これは,決して侮蔑の意味で言っているのではない。

 ビル・エヴァンスにとっては,これがヴァーヴ最後の録音。
「ソー・ホワット」は,「墨絵のような」とエヴァンスが自らライナーを担当した『Kind Of Blue』でのプレイと比べるのも面白い。興味深いのは,ソロをスタイグに渡したエヴァンスが,程なくプレイを止め,テーマに戻るまで一音も発していないこと。その間の4分強はピアノレス。しかし,エディ・ゴメス,マーティ・モレルの2人がリズムをしっかり刻んでいることもあって,音楽は全く弛緩しない。ここは,素晴らしい。
因みに,スタイグとエディ・ゴメスは,同じ Music & Art High School に通っていた頃からデュオをしていた間柄だそうだ。エヴァンスが音楽を3人に委ねたのには,そういった事情もあったのではないか。

ホワッツ・ニュー
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ユニバーサル ミュージック クラシック

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