7月場所の資料をお送りいたします
○八百長問題で開催中止となった3月場所。もし開催していれば、初日の前々日に東日本大震災が起こっていたことになります。その八百長問題が、まだ完全な解決に至っていなかったとはいえ、5月場所は、入場料を半額にして、4億円前後にはなるはずの収益金の全額を義援金とするのが良いと思っていました。
しかし、文部科学省の言いなりの相撲協会が出した結論は「入場無料の技量審査場所」。私は入場券の抽選に外れてしまいましたが、二人の先輩のご厚意で、4日目(水)と9日目(月)を観戦することができました。
両日とも、1階は7分、2階は5分の入りで、本場所の月曜や水曜より明らかに入りが良く、4人用の枡席をゆったりと2人か3人で見る人が多かったのも無料のせいでしょう。会場の雰囲気も本場所とは違っていました。立ち合い直前の数秒は息をのんでシーンと静まりかえり、力士への掛け声は一切ありません。
鶴竜が立ち合いに変化した時、落胆の溜息は本場所よりも大きく、長く続きました。観衆が本場所よりもウブなのです。就学前の子供の歓声の多さも目立ちました。これが新しい大相撲ファンの誕生に結びつけば結構なことです。
NHKの中継放送の中止を受けて相撲協会が配信したインターネットは、最大同時アクセスが平均1万2千件で、昨年の名古屋場所の2倍以上だったとか。映像は鮮明で、十分、テレビの代りになりました。ただ、スポーツ中継の基本であるはずの“here and now”をまるで無視して、知っていることをチャラチャラと喋りまくる元テレビ朝日のDアナが担当の日には、音声を切って見ていました。
○その技量審査場所。白鵬が朝青龍の記録に並ぶ7連覇で19回目の優勝を果しました。中盤まではまったく危な気なかったのですが、日馬富士と魁皇に、ともに7場所ぶりの敗戦を喫し、しかも、完敗でした。
とくに優勝が決まった後の魁皇戦の負け方は腑に落ちません。まだ26歳。下り坂にさしかかるには若すぎますが、一抹の不安を感じました。この優勝で、白鵬の持給金が大台の1000円にのりました。大鵬、千代の富士、北の湖、朝青龍、貴乃花に次ぐ史上6人目。大横綱の仲間入りです。場所ごとに支給される給金は持給金4000倍ですから400万円超となります。(詳しくは別紙『持ち給金ランキング』の脚注をご覧ください。)
○ある親方が「次の大関は魁聖だ」と言ったとか。そうかもしれません。本名はリカルド・スガノ。父方の祖父母が日本からブラジルに渡った日系3世。初土俵は平成18年9月で、出世は驚くほど速くはありませんが、今、相撲が化けている最中なのです。一方、純粋日本人の大関候補筆頭の稀勢の里はといえば、またまた同じ失敗を繰り返し、大関の座に近づいた折角の連続10勝をご破算にしてしまいました。栃煌山、豊ノ島、豪栄道は上位での勝ち越しが続きません。2場所で21勝を挙げ、7月場所で大関に挑戦する琴奨菊は、両差しになれなくてもガブれる力をつけた点に期待しているのですが・・・。
○魁皇が千代の富士の持つ通算1045勝にあと1勝に迫りました。名古屋場所の目玉は、「白鵬の8連覇」「琴奨菊の大関とり」と並んで「魁皇の通算最多勝」でしょう。記録達成の瞬間、マスコミの大騒ぎを尻目に、ご本人は、むしろ触れられたくない素振りを見せることでしょう。その理由は、魁皇自身が漏らした『(諸先輩と違って)負けが沢山あるよ』という言葉にあります。横綱に昇進できず、大関に留まったからこそ達成できた最多勝であることは、魁皇自身が一番よく分っており、『先輩を抜いた気はない。その中味が違う』と心底思っているのです。幕内での負数は、千代の富士の253敗に対して魁皇は2倍以上の573敗です。
昨年1月場所に幕内での最多勝を達成した時も、NHKのインタビュールームに行くことを断っています。それが、力士・魁皇の魅力、人間・古賀博之の魅力です。
○八百長処分で角界から追放された関取は、幕内7人、十両10人の17人にのぼりました(ほかに幕下以下6人と年寄2人の合計25人)。この欠員を埋めるために、7月場所では、新十両7人と再十両6人の大盤振舞となりました。しかし、3勝4敗で負け越した垣添と荒鷲まで昇進させたのは納得できません。ここまでしても、欠員が4人ある番付になってしまったのですから、2人を無理に昇進させず、欠員を6人にすればよかったのです。もともと、幕内42名・十両28名は、「定員」ではなく「上限」なのですから。
この大量昇進によって、十両26人のうち15人までが自己最高位の地位に上りました。 (別紙『番付』の「最高」の欄が空白なのが自己最高位の力士です)
○新十両・再十両あわせて13人のうち学生相撲出身が8人を占めました。一見、学生相撲復権のようですが、十両に上った力士には先の見えた年長者が多いのです。再十両は、平成16年11月場所を最後に関取の座を失い、三段目に7場所もいた濵錦(日大)が34歳で執念の復活を果たしたのをはじめ、32歳の垣添(日体大)、30歳の上林(近大)、28歳の双大竜(農大)、27歳の松谷(駒大)、24歳の妙義龍(日体大)。
新十両は、なんと入門11年目・32歳の華王錦(東洋大)と4年目の南改め天鎧鵬(日大)です。一方、外国人は入門して2年の碧山(ブルガリア)と入門して10年になる隆の山(チェコ)の東欧勢、それにモンゴルの荒鷲(花籠)で、3人とも新十両。また、学生相撲でもなく外国人でもない、たたき上げの「元来組」は、いずれも新十両で21歳の千代の国(九重)と27歳の持丸改め飛天龍(立浪)です。再十両6人の平均年齢は29.2歳と驚くほど高く、新十両7人の平均年齢も新十両らしからぬ26.1歳。言葉は悪いですが、大量追放のあとの虫干しの感があります。 (別紙『小島貞二先生の「3つのGA」の得点と人数』)
○十両に上った13力士のもうひとつの特徴は軽量力士が多いことです。十両全体で26人のうち、140kgに満たない力士は10人。そのうちの8人までもが7月場所での昇進力士です。これによって、十両の平均体重は1月場所より9kgも減って146kgになりました。体重が増えすぎて俊敏さに欠ける今の大相撲にとっては歓迎すべきことです。 (別紙『長身・短身/重量・軽量/年長・年少/・・・・』)
○田子ノ浦部屋から初めて関取(碧山)が生まれたことによって、とんだ珍現象が起りました。出羽海一門には11の部屋がありますが、関取がいないのは本家の出羽海部屋だけになってしまったのです。部屋を興して一気に大部屋に育てた「角聖」常陸山自らが十両に昇進して以来112年間、関取の絶えることがなかった出羽海部屋でしたが、昨年の5月場所の普天王を最後に遂に途絶えました。今の出羽海(鷲羽山)が平成8年2月に先代(佐田の山)から部屋を継承した時には、幕内3人十両1人がいました。以来15年余、それを上回ることは一度もなく、今日の事態に至っています。今、部屋頭は幕内戦績0勝1敗の珍記録を持つ34歳の幕下・鳥羽の山。さぁどうする!出羽海! (別紙『部屋別勢力分布』)
○25人を大相撲界から追放し、17人の年寄を降格処分にした放駒執行部に対する内部の反発が強いといいます。その腹の内は「八百長は他でも沢山やっているのに、どうして俺だけ、どうしてうちの部屋だけ」といったところでしょう。確かに、処分の根拠になったのが、春日錦ただ一人のEメールと証言だけなのですから、八百長全体からすれば偏った処分でしょう。
八百長の存在は昔から「公知の事実」。「八百長をやるバカ、やらないバカ、それを口にする奴はもっとバカ」という名言がありました。ところが今回は、口にするどころか、歴史上初めて物的証拠が出たのです。「とがめのないのをねたむバカ」が加わってはいけません。
平成23年7月2日
真石 博之
○八百長問題で開催中止となった3月場所。もし開催していれば、初日の前々日に東日本大震災が起こっていたことになります。その八百長問題が、まだ完全な解決に至っていなかったとはいえ、5月場所は、入場料を半額にして、4億円前後にはなるはずの収益金の全額を義援金とするのが良いと思っていました。
しかし、文部科学省の言いなりの相撲協会が出した結論は「入場無料の技量審査場所」。私は入場券の抽選に外れてしまいましたが、二人の先輩のご厚意で、4日目(水)と9日目(月)を観戦することができました。
両日とも、1階は7分、2階は5分の入りで、本場所の月曜や水曜より明らかに入りが良く、4人用の枡席をゆったりと2人か3人で見る人が多かったのも無料のせいでしょう。会場の雰囲気も本場所とは違っていました。立ち合い直前の数秒は息をのんでシーンと静まりかえり、力士への掛け声は一切ありません。
鶴竜が立ち合いに変化した時、落胆の溜息は本場所よりも大きく、長く続きました。観衆が本場所よりもウブなのです。就学前の子供の歓声の多さも目立ちました。これが新しい大相撲ファンの誕生に結びつけば結構なことです。
NHKの中継放送の中止を受けて相撲協会が配信したインターネットは、最大同時アクセスが平均1万2千件で、昨年の名古屋場所の2倍以上だったとか。映像は鮮明で、十分、テレビの代りになりました。ただ、スポーツ中継の基本であるはずの“here and now”をまるで無視して、知っていることをチャラチャラと喋りまくる元テレビ朝日のDアナが担当の日には、音声を切って見ていました。
○その技量審査場所。白鵬が朝青龍の記録に並ぶ7連覇で19回目の優勝を果しました。中盤まではまったく危な気なかったのですが、日馬富士と魁皇に、ともに7場所ぶりの敗戦を喫し、しかも、完敗でした。
とくに優勝が決まった後の魁皇戦の負け方は腑に落ちません。まだ26歳。下り坂にさしかかるには若すぎますが、一抹の不安を感じました。この優勝で、白鵬の持給金が大台の1000円にのりました。大鵬、千代の富士、北の湖、朝青龍、貴乃花に次ぐ史上6人目。大横綱の仲間入りです。場所ごとに支給される給金は持給金4000倍ですから400万円超となります。(詳しくは別紙『持ち給金ランキング』の脚注をご覧ください。)
○ある親方が「次の大関は魁聖だ」と言ったとか。そうかもしれません。本名はリカルド・スガノ。父方の祖父母が日本からブラジルに渡った日系3世。初土俵は平成18年9月で、出世は驚くほど速くはありませんが、今、相撲が化けている最中なのです。一方、純粋日本人の大関候補筆頭の稀勢の里はといえば、またまた同じ失敗を繰り返し、大関の座に近づいた折角の連続10勝をご破算にしてしまいました。栃煌山、豊ノ島、豪栄道は上位での勝ち越しが続きません。2場所で21勝を挙げ、7月場所で大関に挑戦する琴奨菊は、両差しになれなくてもガブれる力をつけた点に期待しているのですが・・・。
○魁皇が千代の富士の持つ通算1045勝にあと1勝に迫りました。名古屋場所の目玉は、「白鵬の8連覇」「琴奨菊の大関とり」と並んで「魁皇の通算最多勝」でしょう。記録達成の瞬間、マスコミの大騒ぎを尻目に、ご本人は、むしろ触れられたくない素振りを見せることでしょう。その理由は、魁皇自身が漏らした『(諸先輩と違って)負けが沢山あるよ』という言葉にあります。横綱に昇進できず、大関に留まったからこそ達成できた最多勝であることは、魁皇自身が一番よく分っており、『先輩を抜いた気はない。その中味が違う』と心底思っているのです。幕内での負数は、千代の富士の253敗に対して魁皇は2倍以上の573敗です。
昨年1月場所に幕内での最多勝を達成した時も、NHKのインタビュールームに行くことを断っています。それが、力士・魁皇の魅力、人間・古賀博之の魅力です。
○八百長処分で角界から追放された関取は、幕内7人、十両10人の17人にのぼりました(ほかに幕下以下6人と年寄2人の合計25人)。この欠員を埋めるために、7月場所では、新十両7人と再十両6人の大盤振舞となりました。しかし、3勝4敗で負け越した垣添と荒鷲まで昇進させたのは納得できません。ここまでしても、欠員が4人ある番付になってしまったのですから、2人を無理に昇進させず、欠員を6人にすればよかったのです。もともと、幕内42名・十両28名は、「定員」ではなく「上限」なのですから。
この大量昇進によって、十両26人のうち15人までが自己最高位の地位に上りました。 (別紙『番付』の「最高」の欄が空白なのが自己最高位の力士です)
○新十両・再十両あわせて13人のうち学生相撲出身が8人を占めました。一見、学生相撲復権のようですが、十両に上った力士には先の見えた年長者が多いのです。再十両は、平成16年11月場所を最後に関取の座を失い、三段目に7場所もいた濵錦(日大)が34歳で執念の復活を果たしたのをはじめ、32歳の垣添(日体大)、30歳の上林(近大)、28歳の双大竜(農大)、27歳の松谷(駒大)、24歳の妙義龍(日体大)。
新十両は、なんと入門11年目・32歳の華王錦(東洋大)と4年目の南改め天鎧鵬(日大)です。一方、外国人は入門して2年の碧山(ブルガリア)と入門して10年になる隆の山(チェコ)の東欧勢、それにモンゴルの荒鷲(花籠)で、3人とも新十両。また、学生相撲でもなく外国人でもない、たたき上げの「元来組」は、いずれも新十両で21歳の千代の国(九重)と27歳の持丸改め飛天龍(立浪)です。再十両6人の平均年齢は29.2歳と驚くほど高く、新十両7人の平均年齢も新十両らしからぬ26.1歳。言葉は悪いですが、大量追放のあとの虫干しの感があります。 (別紙『小島貞二先生の「3つのGA」の得点と人数』)
○十両に上った13力士のもうひとつの特徴は軽量力士が多いことです。十両全体で26人のうち、140kgに満たない力士は10人。そのうちの8人までもが7月場所での昇進力士です。これによって、十両の平均体重は1月場所より9kgも減って146kgになりました。体重が増えすぎて俊敏さに欠ける今の大相撲にとっては歓迎すべきことです。 (別紙『長身・短身/重量・軽量/年長・年少/・・・・』)
○田子ノ浦部屋から初めて関取(碧山)が生まれたことによって、とんだ珍現象が起りました。出羽海一門には11の部屋がありますが、関取がいないのは本家の出羽海部屋だけになってしまったのです。部屋を興して一気に大部屋に育てた「角聖」常陸山自らが十両に昇進して以来112年間、関取の絶えることがなかった出羽海部屋でしたが、昨年の5月場所の普天王を最後に遂に途絶えました。今の出羽海(鷲羽山)が平成8年2月に先代(佐田の山)から部屋を継承した時には、幕内3人十両1人がいました。以来15年余、それを上回ることは一度もなく、今日の事態に至っています。今、部屋頭は幕内戦績0勝1敗の珍記録を持つ34歳の幕下・鳥羽の山。さぁどうする!出羽海! (別紙『部屋別勢力分布』)
○25人を大相撲界から追放し、17人の年寄を降格処分にした放駒執行部に対する内部の反発が強いといいます。その腹の内は「八百長は他でも沢山やっているのに、どうして俺だけ、どうしてうちの部屋だけ」といったところでしょう。確かに、処分の根拠になったのが、春日錦ただ一人のEメールと証言だけなのですから、八百長全体からすれば偏った処分でしょう。
八百長の存在は昔から「公知の事実」。「八百長をやるバカ、やらないバカ、それを口にする奴はもっとバカ」という名言がありました。ところが今回は、口にするどころか、歴史上初めて物的証拠が出たのです。「とがめのないのをねたむバカ」が加わってはいけません。
平成23年7月2日
真石 博之