羽黒蛇、大相撲について語るブログ

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小説「四神会する場所」 中村淳一

2016年10月22日 | 小説
金の玉 第二部

四神会する場所

1.羽黒蛇
 
 夏場所十三日目、金の玉に敗れた羽黒蛇は、自分がひとつの虚ろな器になってしまったような気がした。
 国技館の土俵で、金の玉とともに立った、たかだか六分か七分の時間。その始まりから終わりまでの間のことが羽黒蛇の脳裏から去らない。羽黒蛇の時間はそこで止まってしまった。
 あれは、一体何だったのだろう。羽黒蛇は思う。
あの時、自分はこの世ならぬ別の次元にいた。彼にはそうとしか思えなかった。

 敗戦の翌日、午前中に流れた、金の玉が再起不能となったというニュース。
ああ、やっぱり。羽黒蛇は思う。
 あの闘いで、私を別の世界に連れて行った男は、その場にこの私を残したまま、私にはもう手の届かない場所に去って行ってしまった。
 そして、この私は。その世界にとどまったままだ。
 彼と同じ場所に行くことはできなかった。そして元の世界にも、もう戻れない。

 私は力士として最高の境地まで到達した男だ。羽黒蛇は思う。
だが、その境地に突然やってきた男は、別の領域に私を連れて行った。
あの闘い。円の相撲の完成者と、直線の相撲の完成者の闘い。円は直線を包みこむことはできなかった。突き破られた。
だが、羽黒蛇は思う。
円が直線に敗れたわけではない。羽黒蛇六郎兵衛が、金の玉征士郎に敗れたのだ。たった一度の闘いで。

 あの領域の闘いを知った者は。羽黒蛇は思う。
もう元の世界では闘えない。

 私が二十六年間の人生で築き上げてきたものは、たかだか十秒かそこらの闘いで崩れ去ってしまった。

 十四日目の伯耆富士戦。千秋楽の玉武蔵戦。
 羽黒蛇は土俵に立った。
 だが、彼にはその取組の記憶がない。虚ろな一つの器がその場に置かれていただけだ。
五十二の勝ち星を連ねた大横綱は。
三つの黒星を重ねた。
 
千秋楽の翌日。
羽黒蛇は、金の玉が入院している病院に赴き、彼を見舞った。
いや、見舞うという言葉は当たらない。
彼は、逢いたかったのだ。金の玉征士郎にもう一度。

その男は病室に横たわっていた。目を瞑り、静かに眠っていた。
傍らに二人。ひとりは父である武庫川親方。もう一人の女性は、母親であろう。

「横綱、お見舞いありがとうございます」武庫川親方が頭を下げた。
羽黒蛇もまた静かに頭を下げた。
しばしの沈黙が続く。
 金の玉征士郎の親に、私は一体、何を語ればよいのだろう。

 羽黒蛇は、語り始めた。あの日。土俵の上で何があったかを。自分が何を感じたかを。
それは、三十五回闘い、一度も敗れることがなかった力士が、最後に土俵の上にその身を置いた時間である。
羽黒蛇は語り終えた。
ひとりの力士として自分はご子息に及ばなかった、それが、彼が話した結びの言葉だった。
武庫川は、一度も口をはさむことなく、羽黒蛇の話を聞き続けた。
十秒ほどの沈黙のあと
「征士郎は、相撲に憑かれた奴でした」武庫川がぽつりと言った。
「何でそうなったんでしょうね。親方の私がそんなことまで望んではいなかったのに」
武庫川は再び、羽黒蛇に向かって頭を下げた
「横綱、ありがとうございます。今の言葉、こいつには何よりの、はなむけです。
横綱にそこまで言っていただいてこいつも本望でしょう」

武庫川は、ベッドの傍らに置かれたパイプ椅子に置かれていた新聞を取り上げた
「世間からも、随分と褒め称えてもらって」
無敗力士。
十九歳で不朽の伝説となった男。
ここ数日、メディアでの金の玉征士郎の取り上げられ方にはすさまじいものがあった。

「何で」
武庫川が、また話し始めた
「何でうちの息子だったんでしょう。横綱が、大横綱羽黒蛇関が及ばなかったですって。
何で、そんなところまで行っちゃったんでしょうね。私はそんなこと望んじゃいなかった。横綱にも、たった一度ではなく、十回でも二十回でも対戦していただきたかった。その中で一度でも横綱から勝ち星を得ることができたら、それを親子で喜び合って、一生の自慢話にして。私はそれで充分だったんです。」
羽黒蛇は何も言えなかった
「横綱、申し訳ありません。折角、横綱に来ていただいたのに」
 武庫川は、ベッドに横たわる我が子の手を取った
「横綱、さっきのお言葉、ありがとうございます。こいつのこれまでの人生は、横綱のさっきのお言葉で報われた。そう思うことができます」
 羽黒蛇は気付いた
「この人は、自分が発したたった一言を糧にして、これからの長い日常を、息子の介護という重い現実を抱えながら生きていくのだ」
羽黒蛇は深々と頭を下げた。
「親方」
羽黒蛇は決心した。
虚ろとなった中にひとつの思いが浮かび、その思いは徐々に大きくなってきていた。
今、その思いは羽黒蛇の心を占めた。
そうだ、そうであらねばならない。金の玉征士郎が別の世界に去っていき、あの闘いが彼の最後の闘いであったのならば、羽黒蛇六郎兵衛も、あの闘いに殉じよう。
あれは至高の闘いだった。これからどんなに力士生活をつづけたとしても、あれを超える闘いはもう無い。
そしてその決心を最初に伝えるべきはこの人だ。至高の闘い。その相手となった男の、最も身近な人。
「私は、引退します」
武庫川の顔に驚きの表情が走った。何かを言おうとした。が、結局なんの言葉も、その口からは発っせられなかった。

羽黒蛇は病室をあとにした。

 「又造さん」
弘子が、話し掛けてきた。
そう言えば、横綱が部屋にいた間、こいつ一言も口をきかなかったな。曲がりなりにも征士郎の母親だ。息子がこうなってしまった直接の原因を作った相手だ。話をする気にはなれなかったのだろう。
「羽黒蛇って」
やはりそうか。恨み言を言って来たら、窘めねば。
「渋いわあ」
何だと
「今まであんまりそんな風に思ったことなかったんだけど。身近でみたら、いい男ねえ。大人の男の、深みと色気が滲み出ちゃってる。そこらの小娘にはちょっとわからないでしょうね。私、見惚れちゃった」
今のこの状況で、最初に言う台詞がそれか。
でもたしかにこいつはこういう奴だった。

十四年間、会っていなかったというのがなんだか嘘みたいだ。ずっと一緒にいたような気がする。こいつ、いつ戻って来たんだっけ。又造は、ちょっと考えた。昨日だ。
又造は昨日の情景を思い出した。
十四年ぶりに逢う我が子。その息子はベッドに横たわっていた。弘子は狂乱した。征士郎の体に取りすがって、何度も何度も「ごめんね。ごめんね」という言葉ばかりを繰り返した。

 「弘子」
 「はい」
 「お前も曲がりなりにも親方夫人なんだからな。たとえ、私と二人だけのときとはいえ、羽黒蛇なんて呼び捨てにするんじゃない。ちゃんと「横綱」と言うように」
 「はい、分かりました」
随分、素直だな。まあどうせ今だけだろう。
 「ねえねえ」
 今度は何だ
 「よ・こ・づ・な。引退するって言ってたね」
 「ああ」
 「征士郎のこと、すまないって思ったのかしら」
そんな簡単な理由ではないだろう、武庫川は思った。
それはあってはならないことだ、すぐに止めるべきだったのだろう。とも武庫川は思った。
だが、羽黒蛇のその言葉を、武庫川親方は心の中に温めておきたかった。少しの時間だけでも。
 「ねえねえ」
弘子がまた話し掛けてきた。
 「武庫川部屋だけど、どうなるの」
 「閉じる」
 「何だかもったいないね」
 「何を言っている。弟子は征士郎しかいなかったんだぞ。その征士郎が引退したんだ。閉じるしかないだろう」
 「そっか」
 二人は期せずしてベッドに横たわる征士郎を見やった。

「征士郎は」武庫川は思った。
「生きている」
征士郎に対する、今の、嵐のような讃仰の言葉も、哀惜の言葉も、ほんの短い日々で、静かになっていくだろう。
一部の相撲ファンは、時々は思い出してくれるかもしれない。でもそれだけのことだ。
征士郎のこれまでの人生。私は常にそばにいた。そしてこれから先もずっと。
少年時代の征士郎の姿が、又造の脳裏を駆け巡った。それは相撲に憑かれる前の、父を求めてやまない、何かにつけて、父に話し掛けてきた頃の征士郎の姿だった。
「征士郎」
又造は心の中で、たったひとりの我が子に呼び掛けた。
「また、父さんのところに戻ってきてくれたんだな」



2.近江富士

 金の玉の引退のニュースを聞いたとき、近江富士明は、大きな衝撃を受けた。高校時代、甲子園に三度出場し、ドラフト1位で指名されながら、彼が角界に進んだのは、この男を倒したい、と思ったからだった。
 初場所、幕下力士として。春場所、十両力士として。夏場所、幕内力士として。三度対戦して三度敗退。だがもう、彼と対戦することはできない。彼に勝利するという、近江富士の角界における最大の目標は失われてしまった。
 彼は、金の玉との三度の対決を、心に思い浮かべた。あのときの、土俵の上での感覚。それは、他の力士との対戦には無いものだった。おのれの心と体が常ならぬ世界に入り込んだあの感覚。それもまたもう二度と体験することはできないのだ。
 自分は、これ以上、角界にとどまる理由があるのだろうか。

 だが、自分が角界入門した際に語った約束。三年以内に横綱になる。その約束は世間に知れ渡っている。
 その約束を果たすには、再来年の初場所には横綱になっていなければならない。

 先の夏場所に、近江富士は、金の玉とともに新入幕力士となった。十一勝四敗。それが、近江富士が夏場所で残した成績だった。十三勝無敗。三賞を独占した金の玉以外に、ただひとり、近江富士は敢闘賞を受賞した。
 だが、今の自分は、一歳十一か月年長の兄、伯耆富士洋はもちろん、一歳七か月年少の弟、豊後富士照也にも及ばない。
 夏場所で、兄と弟が勝った、横綱玉武蔵と関脇荒岩に自分は勝つことが出来なかった。それが今の自分と、兄、弟との実力差である。

 中学を卒業した時の父、照富士の言葉を思い出す。
「もし、お前が相撲を始めたら、兄弟の中でお前が一番、強くなるのでないか、と思う」
「洋も照也も、儂を超えることはできないじゃろう。じゃが、お前は、儂には想像できん種類の強さをその身に秘めている気がする。儂はお前が化けるところを見たい、と思うちょる」

 だが、父は本当にそう思っていたのだろうか。兄、弟と違って、ただひとり野球の世界に身を投じた自分を、相撲の世界に呼び込むための甘言ではなかったのか。
 兄は強い。弟もまた強い。日頃、彼らとの三番稽古を重ねる明には、それがよく分かった。

 いずれにしても、近江富士は思う。
金の玉という目標は失われた。自分は残されたもうひとつの目標を成し遂げるしかないのだ。



3.豊後富士

 「金の玉、お相撲できなくなっちゃったんだね」
美少女が、同年配の少年に話し掛けた。
少年は、超絶的なという形容詞を付けたくなるような美少年である。
ふたりは都会の片隅の、やや装飾過剰と思われる五階建てのビルの一室にいた。
ふたりは体を重ね、その身に何も纏っていなかった。
相撲を取っているわけではない。
「ああ」
 少年、豊後富士照也が答える

 豊後富士、夏場所、七日目に金の玉に敗れたが、その前日、支度部屋で
取り囲む記者たちに対して、金の玉の相撲と、その日常を批判した男。
 金の玉が再起不能となったとき、豊後富士は、様々なメディアからコメントを求められた。
「しまったなあ」
というのが豊後富士の偽らざる気持ちである。金の玉の、そう遠くない日の崩壊の予感は何となくあったのに。
十代にして伝説となった男。再起不能という悲劇性も相俟って、今、金の玉征士郎に対して
世間は称賛の声、一色。
批判すべからざるものを批判した男。それが、今の豊後富士の世間における立ち位置だ。

「まあ、いいか」
豊後富士照也は気を取り直した。元々くよくよと悩むようなタイプではない。

 金の玉の話に相手がのってこないので、少女は別の話を持ち出した。
「照くんの成績表、新聞で見てみたけど、七勝八敗って書いてあった。あんまり良い成績じゃなかったんだね」
いやなことを思い出させるなあ。

 今日の相手の名前は、利菜。かなり可愛い顔をしてはいるが、デリカシーにはいささか欠けるようだ。
 照也の不機嫌な様子が伝わったのか、利菜はすぐに間違いなく良いことであるはずの話題に変えた
 「お兄さん、横綱になったね。」
 「ああ、明日、明治神宮で奉納横綱土俵入りをやる」
 そう、豊後富士照也の上の兄、大関伯耆富士洋は、夏場所、十四勝一敗で二度目の優勝
。場所後横綱に推挙された。
 「横綱土俵入りって、あの三人並んでするやつ」
 「そう」
 「照くんも一緒にするの」
 「ああ、太刀持をやる。下の兄貴が露払いだ」
 「太刀持って、あの刀を持っているほうの人のこと」
 「そう」
 「そうかあ。ただ、横に座っているだけの人より断然かっこいいよね。よかったね」
 「ああ、太刀持と露払いでは、番付が上のほうが太刀持をするのが決まりだから」
 豊後富士はいささか誇らしげに教えた。
  それにしても相撲の話ばかりだな。
 「なあ、もう相撲の話はやめないか。こんなときにも相撲の話というのは疲れる」
 「あっごめんね。照くんとお付き合いが始まったから、お相撲のこと色々勉強したんだ」
なるほど、相手の仕事の話をすれば、相手が喜ぶと思ったわけか。ずいぶん単純だな。
それにしても、今、変なことを言ったな。
「お付き合いって。誰が」
「え。照くんと私だよ。決まってるじゃない」
「どういう意味で使ってるんだ」
利菜は急に不安になった
「ねえ、照くん。別に今すぐでなくてもいいけど。利菜のこと、お嫁さんにしてくれるんでしょう」
何だと。
豊後富士は思わず、起き上がった。
「こんなことするのも、もう三回目だし」
そうなのか。そんなこと、いちいち覚えていない。
「私、照くんが初めてだったんだから」
利菜が誇らしげな顔をして照也のほうを見る。
そうか、そういえば、最近、
おや、久しぶりに、デビュー戦に当たったな。と思ったことがあったけど、
相手はこの子だったのか。

豊後富士に交際を求めてくる女の子の数は、計り知れない。その中で、照也の基準をクリアした女の子がいれば、照也は時間の許す限り、お相手を務める。多くは一日限りのことだ。
 この利菜という女の子は、照也の基準を軽く超えるレベルだった。それがために相手が言うところによると三回も逢うことになったようだ。
 だが、この俺が処女を捧げた相手だから、お嫁さんに、というのか。一体いつの時代の話だ。こんな子が今どきいたのか。

 豊後富士はしばし考えた。ルックスは、あらためて眺めて見ても、自分のストライクゾーンの真ん中にかなり近い。
しかしこのことを、その行為のみを割り切って楽しめることができない、そういう女の子だというのであれば、残念ではあるが、今日が最後だ。
 豊後富士照也は黙ったまま、自分の傍らに不安げに横たわる女の子をその腕に抱いた。
 この女の子に対して、あるいはさらに続いていたかもしれないその場合の、エネルギーの総和を、今日のこの日にすべて注ぎ込む。
豊後富士の脳裏を、力士の間で、あるいは最もよく使われているかもしれない四文字が駆け巡った。
一日一番。
それは、あくまでも、その精神で、という意味で、この日の総取組数を意味しているわけでは無い。


  
4.伯耆富士

 横綱昇進前後のあわただしかった日々もようやく落ち着いてきたある日の夜。
 新横綱、伯耆富士は、師匠である父、一代年寄、照富士としばし談笑する機会を持った。
 ふたりの話題は、先ずは、金の玉征士郎のことだった。金の玉に対する、次男近江富士の強い気持ちもふたりは熟知していたし、豊後富士の金の玉に対する発言のこともある。

 新横綱、伯耆富士洋。彼は金の玉征士郎をどう捉えているのか。
 金の玉と本場所の土俵で三度対戦したのは、ただひとり、近江富士明のみ。二度対戦した力士も二人のみ。彼と対戦し敗れた力士は三十一人。伯耆富士もその中のひとりである。
 夏場所の優勝力士、伯耆富士。が、十四勝一敗だった彼の星取のその一敗は言うまでもなく、金の玉征士郎に喫したもの。世間が彼の優勝を、金の玉の突然の退場による、棚ぼたと評しているのは、重々承知だ。
 これから伯耆富士は、角界の最高峰、横綱としての輝かしい日々が始まる。
 だが、それに先立って、金の玉について、彼は、おのれの心の中でどう折り合いをつけるのか。
 照富士は、それをおのれの長男に問うた。
 「人としては、あんなことになって痛ましい、気の毒だと思いますが、相撲のことに限れば、一度対戦しただけで、リベンジする機会も永久に失われたわけですから、勝ち逃げ。ずるいなあ、と思いますよ」
 「そうなのか」
 「ええ。でもたしかにすごい力士だったな、と思います。対戦していて粛然とした気持ちになりました。相撲も、彼と取り組んだあとは、自分が技能派力士などと呼ばれているのがばかばかしくなります」
 「そうか」
 「彼については、相撲の歴史の中でも特別な力士だったと思うしかないですね。敗戦を悔やむより、一度でも対戦したことを幸運だったと。そう考えることにします」
 「なるほど」
 「それに、私は決して親方を超えられないわけですし、自分を超えたところに、たくさんの力士がいる。金の玉関ひとりにこだわることもないでしょう」
 「うん、何だそれは」
 「いやだなあ、親方自身が言われたことではないですか」
 「儂はお前にもそんなことを言ったのか」
「ええ、だいたい親方がお酒を呑んでおられた時ですが、何度も聴いていますよ
。照也も同じだそうですね。あいつも親方がそう思っておられるということは知っていますよ」
 照富士は、しばし黙った。酔うと口が軽くなる自分の性癖に舌打ちした。さてどう取り繕うか。難しいな
「洋、何はともあれ、兄弟三人による横綱土俵入という、儂の夢をかなえてくれたのはお前だ。明治神宮での奉納土俵入りの時は、涙が止まらなかったぞ。見事な雲竜型だった」
「親方のご指導のお蔭です」
「儂とお前は、相撲の歴史が始まってから、初めての親子横綱なんだからな」
伯耆富士洋がにやりと笑った
「親方。それだって、親方の予想では、真ん中にいるのは明だったのではないのですか」
「儂はそんなこともお前に言ったのか」
「はい、何度も」
さて、どうフォローしよう。そう言えば、明が一度だけ、儂に訊ねてきたことがあったな。
あれは、自分を相撲の世界に誘うための嘘だったのでしょうと。
そういう訳ではないのだが、よし、この場で使わせてもらうか
「親方、気にされなくてもいいですよ」
黙ってしまった照富士を見て、伯耆富士洋が、再び言葉をかけた。
「親方の言われていることは、よく理解できます」
「そうなのか」
「ええ、明本人は不満なようですが、今のあいつの出世スピード。相撲の経験があったわけではないものにできるようなもんじゃないです。空恐ろしいです。まあ、小さいころからあいつは何をやってもすごかった」
洋は、弟、明とともにグローブとボールや、バットを持って、身体を動かしていた小学生時代のことを思い出していた。あいつは二歳年上の俺より上手かったのだ。運動では、何をやっても明にはコンプレックスを感じていた。相撲を始めてから、そのコンプレックスからやっと逃れられたのに、その世界にも明がやってきた。
「親方、あいつなら本当にやってしまうかもしれません。公約通り、入門後三年以内の横綱昇進を」
伯耆富士の顔がふっと崩れた。
「実は照也に約束させていることがあるんですよ」
洋の表情は変わらない
「お前はこれから、可能な最年少記録をすべて更新する、そう決心しているようだけど
横綱については、一歳近く更新しろと。三年後の初場所に横綱になっていれば、最年少記録更新ですが、それだと、明が公約通り横綱になっても、バファローズに約束した、横綱になってから数場所務めたら、相撲をやめてバファローズに入団するというのを守るのは難しい。一年を数場所と言い張るのはちょっと苦しい」
照富士は、伯耆富士の顔を凝視した。こいつは一体何を言っているのだ。まさか、まさか。
「私と照也にも意地があります。三兄弟による横綱土俵入りどころじゃない。もっともっと親方を喜ばせてさしあげます。時期は、そうですね。二年後の夏場所くらいでしょうか。たったひと場所だけかもしれませんけどね」
照富士は、わが長男が何を言おうとしているのか、正確に理解した
「親方に見せて差し上げます」
照富士は、洋の次の言葉を全身全霊で受け止めようと、心と体を整えた。
「三兄弟同時横綱を」

照富士と伯耆富士の話は、それで終わった訳ではない。
「そう言えば、お前たち、歌手になるんじゃなかったのか。あの話は、どうなった。」
「本当だったら、夏場所後の休みの間にレコーディングするはずだったんですけどね。延期です。」
「何で」
「親方、金の玉関が、ああなってしまったのに、今、われわれ兄弟が、あんな歌を世の中に出せる訳がありません。もし、やってしまったら、一体どう言うことになってしまうか。想像したくもありません。」
「どんな歌なんだ。」
「ずいぶんと昔に人気のあった女子プロレスのペアが歌っていた歌をアレンジしたものだそうです。どんな試練がこようとも、土俵に咲かすぞ、兄弟花を。これが僕らの青春さ」
「ううむ」
「さびの部分は、兄から弟へ。と叫びながら、私がふたりに手を差し伸べる。明と照也が手を差し出してこれを受ける。でその途中で、明がくるっと、向きを変える。次は弟から兄へ、と続きますが、さっきと逆ですね。明は、また途中で向きを変えます」
「ううむ」
「照也のシングルデビューも延期です。僕は土俵の王子様。ルックス抜群。相撲も抜群。どんな相手もいちころさ」
「そんな歌詞なのか。それじゃ、他の力士連中から、反感をかうぞ」
「このあと、ちゃんとフォローの歌詞が入ります。だったら、いいんだけどね、って。僕は土俵の王子様。王様の、横綱目指して修行中。ドスコイ、ドスコイ。このドスコイのところで、四股、鉄砲、すり足のフリが入ります。」
「ひどいな」
「ええ、ひどいです」
「あの照也が、よくそんなのをOK したな」
「あいつ、世の若い男性に妬まれていますからね。ネットでも、色々書かれています。自分は三枚目の部分もあるんだよ、とアピールしたいようですね」
「ううん、何となくだが、もっと叩かれるような気がするぞ」
「私もそう思います。いたい。すべっている。とか色々言われてしまうんじゃないかと思いますね。むしろ、ああいう顔を持って生まれてしまったのだから、もうあきらめて、高飛車な美少年キャラに徹したほうがいいんじゃないですかね。女の子に対してはどうも、そっちでやっているようですが。これ逆にしたほうがいいんじゃないかと思います」
「それ、照也に言ってやったのか」
「えっ、言いませんよ、そんなこと。本業でもないことで、なんで私が、弟にそこまで教えてやらなきゃいけないんです」
「お前、冷たいな」
「ま、私も若い男性のひとりですから。どこかで痛い目にあったらいいんだ。と思っているのかもしれません。」
「ううむ」
「そのほうがあいつのためにもなるでしょう。おっ、無意識のうちに兄として最善の対処をしているではありませんか」
「ふうむ。」
いたい。すべっている、か。こいつ。自分も一緒になって歌うほうのことはどう思っていたんだろう。訊いてみようか。まあ、どうでもいいか。
「まあ、好きなようにやってくれ。でも歌を出すと言うときは、普通、師匠に許可を得るもんじゃないのか。事後報告だったよなあ」
「ちゃんと事前に許可いただいていますよ。師匠がお酒を呑まれているときに。そうか、そうか、それは楽しみだって、師匠ご機嫌でした」
照富士はしばし黙った。
「ま、いずれにしても、そんな歌、中止になって良かった」
「親方、中止じゃありません。延期です。ひと場所。名古屋場所のあとの休みにレコーディングです」



5. 羽黒蛇

横綱羽黒蛇は、師匠である庄内親方に引退することを告げ、同時に、相撲協会に引退届を提出した。協会は、驚愕した。
師匠が、理事長が、何度も翻意するよう、説得したが、羽黒蛇の決心は変わらなかった。
ただひとり、届けを提出した数日後、羽黒蛇の元に訪れた武庫川親方の言葉には心が動いた。
息子のために、
武庫川は、そう言った。
横綱は、相撲を続ける義務があると。
羽黒蛇は、その言葉を心に刻み、あらためて熟考した。が、やはり、相撲をやめる、という決意は変わらなかった。

羽黒蛇には、人生の師とも呼ぶべき人物がいる。
六十歳代半ば。とある思想団体の主宰者と言うべき立場にいる人物であるが、その団体自体、あまり知られていない。世間的に高名な人物ではなかった。
が、政財界、学界、芸術界に至るまで、彼を師と仰ぐ者は多く、この国において、隠然たる影響力を持っていた。
二年前、後援者に紹介を受け、この人を知った羽黒蛇もまた、魅せられた。以降、年に数回その元を訪れていたのである。
普段は寡黙な羽黒蛇も、この人に対しては、しばしば自らを語った。
かつて、長田記者に話した、羽黒蛇が考える、相撲の三つの理想についても、この人には語っていた。加えて、自らが目指すもの。また己に課している土俵の上での信念なども披歴した。
いつも、ニコニコと羽黒蛇の話を聴く師であったが、この信念についての話の際は、瞬時、怪訝な顔をして、何かを言おうとしたが、結局何も言われなかった。
この師に対しては、引退することを報告しなければならない。
羽黒蛇は、師を訪れた。

居室で、羽黒蛇は、報告した。師は、何も言われなかった。
羽黒蛇は、問わず語りに自分の心境を話した。師の前では、どうしても饒舌になってしまう己を自覚していた。
武庫川親方以来、二人目のことであったが、金の玉との対戦の際、土俵の上で何を感じたかも語った。
師は、常と変わらぬ温顔で、羽黒蛇の話を静かに聴いていた。
語り終わった。
師は、しばしの沈黙のあと、静かに言葉を紡ぎだした。
「いつか、横綱がどういう信念を持って土俵にあがっておられるか、話されたことがありましたな。どんな信念でしたかのう」
「はい、土俵の上で無駄な動作はしない。待ったはしない。立ち合いで変わらない。叩かない。そして後の先の立ち合いです」
それらは、羽黒蛇が敬愛し、目標とする双葉山の信念でもあるはずだ
「たしかに、そういう信念を持つことによってたどりつける境地というのもあるのかもしれませんなあ」
師は、ふっと、笑みを浮かべた
「横綱は、ずいぶんとたくさんのものを背負って土俵に入られているのですね」
何だって
「それから、金の玉関のこと、神の領域、至高の闘いですか」
師が、瞬時厳しい顔になった。
「横綱らしくもない。大袈裟な物言いです」
この人は、私がたどりついたあの境地を、一笑に伏すのか。
いかに師といえども、あの闘いを愚弄することは許せない。いや、所詮、真に闘った者でなければ理解出来ない境地なのだろう
「顔色が変わられましたか。では、言い方を変えましょう」
羽黒蛇は、師を見つめた。
「横綱は、たかだかそんなところにとどまっておられるおつもりか。どんな背景があったにせよ、ただひとつの闘いを特別なものとして、自ら高みにおく、無駄な心の使い方です。」
師の顔が元の温顔に戻った
「では、横綱にひとつお話しをさせていただきましょう。この話、元の出典は、私もよく知らんのです。私は下村湖人という作家が書かれた次郎物語という小説で知りました。横綱、次郎物語はご存知か」
「いえ、知りません」
「そうですか。私の少年時代には、NHKのドラマにもなったし、必読の書だったのですがなあ」
師は、話始めた
「昔、ある寺にいた若い僧が諸国を修行の旅に出て、数年たって寺に戻ってきたのですな。で、師匠にあたる僧が、どうだった、と訊いたら、若い僧は、地面に円を描いたのです。さらに、それだけか、と訊ねたら、その地面に描いた円をさっさと消したのです。
話は、それで終わりです。」
師は、黙った。
一体、どういう意味なのか。羽黒蛇には分からなかった。
師は、この私に何を伝えようとしているのだろう。
羽黒蛇は、師の先程からの話も合わせて考えた。
分かった。
羽黒蛇には分かった。自分がなぜ、金の玉征士郎に及ばなかったのか、それも今は理解した。こんな簡単なことだったのだ。
今、金の玉と対戦したら、もう後れをとることはない。いや、勝つのは私だ。だが、そんなことはもうどうでもいい。
力士として最高の境地か。私は、何と未熟だったのだ。
神の領域。至高の闘い。馬鹿馬鹿しい。何もかも馬鹿馬鹿しい。
「先生、私は」
今のこの私の気持ちを、どう伝えればいいのだろう。いやこの人に説明など不要だ。ただひとこと伝えればよい
「相撲を取ります」
師は、静かに頷いた。
「今、横綱が、どういうお気持ちになられたか、私にも分かると思います。そのお気持ちを言葉で表現することなど不要なのですが、まあやってみましょう」
師は、手を叩いて秘書を呼び、書の準備をするように、と命じた。
準備が整った。
「では、横綱に一筆進ぜよう。」
師は、伸びやかに筆を運んだ。
「ま、こんなところですかな」
師が書き上げたのは、
融通無碍の四文字だった。見事な字だった。
師は、その書を羽黒蛇に渡した。横綱はその書を押しいただいた。
しばらくののち、羽黒蛇は、師のもとを辞した。
居室を出ようとした羽黒蛇を、師が呼び止めた。
「横綱、その書をどうなさる。」
そう問われた横綱は、師の方を振り返り、手に抱えていた書を、自らの、目の前に掲げた。
しばし、書を眺めた。
そして、
破り捨てた。

はっはっは。
師は可々大笑した。


帰り道。
大悟してから書を破り捨てたときまでの高揚した気持ちも徐々に静まっていった。
その静まった羽黒蛇の心にひとつの映像が浮かぶ。
金の玉征士郎。
神の押し。
だが、それは羽黒蛇自身が名付けたもの。

私は、あの男を打ち破ることができる、ただひとりの力士だったのだ。
だが、私が未熟だったばかりに。
すまん、許してくれ。征士郎。

羽黒蛇の目から一筋の涙がこぼれた。


横綱羽黒蛇六郎兵衛は、引退届を撤回した。



6.武庫川

 その電話は、六月になって受けた。
武庫川親方、本名、里井又造は、岡山県、昔の国名で言えば、美作国の領域が彼の出身地だ。彼は三人兄弟の二番目。兄の名は、初造。弟の名は、更造。
力士になったのは、又造のみ。兄は高校教師。弟は役所勤めと、至って固い職業だ。ふたりとも地元に残っている。
兄の又造からの電話だった。
聴けば、兄の、高校一年生の長男が、相撲取りになりたい、と言い出し、武庫川部屋への入門を希望しているという。従兄の残した事績に大変な感銘を受けたとのことであった。
兄は、長男を連れて、今度の休みに上京すると言った。
「いえ、それには及びません、兄さん」
又造は答えた。
「私がそちらに迎えに行きましょう」


入門を希望する甥を迎えに、武庫川は、故郷に向かった。
兄に伝えていた時間より、かなり早い時間に、武庫川は、最寄り駅に到着した。
今夜は、相当に遠い親戚まで、兄の家に集まってくるという。
そして、明日は。入門を希望する少年に対する激励パーティー。

武庫川は、久しぶりの故郷を、ひとりで歩いてみたかったのだ。

タクシーを降りてから、町をしばらく歩き、吉井川のたもとに着いた。
又造の少年時代と変わらぬ流れがそこにあった。
この町は、昔は、相当に栄えた鉱山町だったそうだ。だが、その繁栄は、祖父の世代まで。
父が大人になった頃には、その最盛期はもう過ぎていた。
この静かな町で又造は育ち、十五歳の春に、夢を抱いて上京した。
もう二十四年も前のことだ。
二十四年、その前半は力士で、その後半は親方だったわけだ。
彼は、ふと自分の今の年齢に二十四を足してみた。
まだ、親方を停年になる年齢にも達しないことに気付いた。
征士郎があんなことになって、私の人生ももう終わったような気になっていたが、私はまだ、若いのだな。これからの人生でまだ何か夢を持つことがゆるされるのだろうか。
私の部屋に入門を希望する少年がいる。武庫川部屋は、これからも続くことになった。
師匠の夢と言えば、最高の力士を育てることだな。
武庫川は、笑いだしたくなった。
最高の力士だと。
私がこれまでに持った、たったひとりの弟子は、今をときめく大横綱に、自分は及ばなかったと言わせた力士だ。
そんな夢を今さら見れるか。

羽黒蛇は、引退届を撤回したと、数日前に又造は聞いた。が、それが、自分が横綱に告げた言葉が効を奏したのだ、とは、武庫川には思えなかった。
息子のために、横綱には相撲を続ける義務がある、か。何て薄っぺらな言葉だろう、そんな言葉で人の心が動くものか。
武庫川の心に、わが子の姿がわきあがった。それは、息子が再起不能となってから、心の奥深くにしまいこんだ、相撲に憑かれたあとの征士郎の姿だった。
征士郎、横綱が、言っていたぞ。お前と対戦した時、ご子息と私は、二人だけで別の境地に立っていましたと。

征士郎、お前は一体どこに行っていたのだ。
お前は何を目指したのだ。
お前が目指したものの先には一体何があったのだ。
それは、本当に目指さなければいけないものだったのか。
お前は、あの日、あの土俵で最後の瞬間に一体何を見た。
征士郎、父さんに分かるように教えてくれ、征士郎。

答えはない。
だが、又造には分かっていた
答えはすぐそばにある。
その答えを認めるのは、この私がその答えを認めてしまうのは、征士郎があまりにも可哀想だ。

里井征士郎は、私の息子だ。たったひとりの大切な大切な我が子だ。
だが、力士金の玉征士郎は、存在させてはならなかった。
私は、お前が五歳の時から、たったひとりの親として、お前のことを精一杯可愛がった。母に去られたお前が不憫だったしな。
父さんは、今頃になって思うことがある。
ひとがやらなければならない俗事のすべてを振り捨てて、ただひたすらに、己が定めた高みを目指す。それは許されることではないのではないのか。
お前はひとが踏み込んではならない場所に、足を踏み入れてしまったのではないのか。
でも俺は、結局、何もできなかった。何もしなかった。許してくれ、許してくれ、征士郎。
その道を進んではいけないと、父さんは、この私の全てをかけて止めなければならなかったのだ。

力士、金の玉征士郎。
その名は、相撲の歴史における、一瞬の光。一陣の風。
風は吹き荒れ、風は吹き去った。
あとに残るのは、たったひとつの伝説。
だが、伝説は真実ではない。
ひとつの伝説のもとに数多の、深く、重い真実がある。
ひとは、その真実の中から、己の心が求めるものだけを選んで、伝説を創る。

何年か振りに見る甥は、征士郎にあまり似てはいなかった。
ちょっとはにかんだような仕草をした。
相撲取りになりたいの。又造は訊ねた。
少年は、黙って頷いた。
普通の、ごく普通の、平凡な弟子の、普通の、ごく普通の、平凡な師匠になる。
それが、又造のこれからの人生の夢だ。
その夢の正しさを、又造は疑わなかった。



武庫川部屋への入門希望者は、他にもいた。今年、社会人になったもの。大学在学中のもの。高校二年生。前二者は、いずれも相撲の経験者である。プロの世界に進むのはあきらめて、それぞれ別の進路を選んだものの、金の玉征士郎の相撲を観て、あらためて大相撲の世界に飛び込むことを決心したとのことだった。

日は進み、入門希望者が武庫川部屋に参集した。まもなく名古屋場所。名古屋に向かう前日、四人の新弟子が、部屋の居間に並ぶ。みんな目を輝かせて、武庫川のほうを見ている。
私と征士郎は親子だった。だが、征士郎は私の弟子だったのだろうか。私は征士郎の師匠だったのだろうか。いや、世間でいうところの弟子ではなく、師匠でもなかった。征士郎に師匠らしい言葉は、何もかけることはできなかった。
でも、ここにいる四人は紛れもなく私の弟子だ。
武庫川は、この新弟子四人が、愛おしくてたまらない。
これが師匠になったものの気持ちなのか。武庫川にとっては初めて知る感情だった。

横には弘子が座っている。いささか緊張気味だ。又造は少し不安だ。一風変わったセンスの持ち主だし、遊び好きでもある。部屋のおかみさんとしてやっていけるのだろうか。この四人の母親代わりが務まるのだろうか。でも一緒にいたころも家事はてきぱきやっていた。大丈夫なのではないだろうか。
武庫川は、簡単に師匠としての挨拶をすませると、弘子に対して
「お前も、この子たちに何か言ってやりなさい」と促した。
「皆さん」
弘子が話し始めた。
「皆さんの四股名は私が付けますからね」
別れていた十四年の間で、弘子のセンスは、少しは洗練されたのだろうか。
そうであってほしい。
武庫川は可愛い弟子たちのために、切に願った。



                 7.荒岩

名古屋入りして間もない頃、荒岩は、照富士部屋の宿舎に出稽古に出かけた。今、最も充実した稽古のできる部屋だ。

その少女は、稽古場に突然入ってきた。しばしきょろきょろと周りを見渡したあと、何人かの後援者が既に座っていた上がり座敷の片隅にそっと座った。
照富士部屋の稽古は見学自由ではない。そんなことをしたら、一体どれだけの人数のファンが押し寄せるか。稽古を見物できるのは、特別な立場にある後援者に限られる。
だが、誰もその少女に退場するよう、告げることができなかった。

荒岩は、その少女から目が離せなくなった。世の中にこんな可愛い子がいたのか。だが、その女の子は、稽古土俵に居並ぶ力士たちの中でただひとりを凝視していた。その視線の先にいるのは、豊後富士照也。
荒岩には、風俗に勤める女性との豊富な経験はある。だが、それ以外の女性とはただの一度も付き合ったことはない。
男女の機微には至って疎い荒岩にも、その視線の強さ。そして豊後富士の、いささかうろたえた素振りから、この二人がただならぬ関係にあることは、察することができた。
豊後富士は、泥着を羽織って、稽古場から外に出た。その美少女もすぐにあとを追った。

荒岩も、泥着を羽織り、稽古場をそっと抜け出した。

荒岩の視線の先に、懸命に豊後富士に何かを訴える少女の姿があった。なだめる豊後富士。
しばらくして豊後富士はふたりの方を見ている荒岩に気付いた。
「ほら、見られちゃったじゃないか。俺はもう行くぞ」
その場に少女を残したまま、豊後富士が荒岩のところにやってきた。

「すみません、荒岩関。変なところをお見せして」
絶世の美少年と美少女の愁嘆場だ。それなりに見応えはあった。
「あの子、東京の子なんですよ。うちの名古屋での宿舎の場所を調べて、ここまでやってきたらしい。この前、ちゃんと別れること、言ってきかせたのに。しつこいなあ。楽しく遊べる子か、そうでないか。そういうの、今まで間違ったことなかったんですけどね。今回は失敗です。面倒なのに当たっちゃいました」
こいつ何を言っていやがる。
温厚で礼儀正しく、好青年との誉も高い荒岩亀之助は激怒した。
「俺は次期大関候補の関脇だ。こいつはただの平幕力士だ。ぶっとばしてやる。先場所だって・・・・・・負けたな」
そのことを思い出して、荒岩の動きが一瞬止まった。
豊後富士は、もう稽古場に姿を消していた

その女の子は、うずくまって、肩をふるわせて泣いていた。
荒岩は、一歩ずつ近づいた。
始発の新幹線で、ここまでやってきたのかな、可哀想に。
何か言葉をかけてあげたい。でも何を言えばいいのだろう。

僕は、吉原のソープ「ベルサイユ」のお姉さんたちには、評判がよい。
みんな
「関取は、優しくて、私たちをとても大切にしてくれる」
個室の中で、いつもそう言われる。
お客さんには、みんなそう言っているのかな、と思って、大将をはじめ部屋の何人かに訊いてみたことがあるけど、そんなこと別に言われたことない、ということだったから、お姉さんたちは、本当にそう思ってくれているようだ。
それに、お姉さんたちは、僕が何を言っても喜んでくれる。

この子も、僕が何を言っても喜んでくれるだろうか。

人の気配を感じたのか、
その子が、荒岩のほうを見た。
やっぱり可愛い。たまらなく可愛い
この子には先場所の星取表は見られたくないな。
荒岩は、そんなことを思った。
あの五日目の黒星を白星に変えられるなら、残りの一四日が、全部黒星になってもいい。

その女の子が立ち上がった
瞳に涙を浮かべたまま、じっと荒岩の顔を見ている
この女の子に、一体何を話せばいいのだろう。
何を言っても喜んでくれる、という気がしない。

「僕は」
とにかく何か言わなきゃ
「荒岩亀之助っていいます。
あっ、でも亀之助というのは、本名ではありません。
明治時代の大関の名前をそのままいただいたのです。」
何を言っているんだ、お前は。
この状況だ。もっと他に言うことがあるだろう。
その女の子が、微笑んだような気がした。ほんの少しだけ。
幻影だったかもしれないその表情に力を得て、
荒岩は訊ねた。
「お嬢さんは」
少女がじっと荒岩のほうを見つめる。
だが、黙ったままだ。
荒岩は、さっきの台詞、語尾をほんの少しだけ上げた。
名前を訊ねたつもりだったのだが、伝わらなかったのかもしれない。
太陽の光が、1度の、10分の1だけ向きを変えた時が経過して、
少女の口元が開いた。
「利菜です」
どんな字なのか。まだ荒岩には、分からない。
でもきっと、綺麗な字なのだろう。
荒岩は、そう思った。


まもなく、名古屋場所が始まる。

ひと月半の時を経て、
四神は再び会する。



名古屋場所 番付
             前場所の成績
東横綱 羽黒蛇 26歳  12勝3敗
西横綱 玉武蔵 30歳  12勝3敗
東張出横綱 伯耆富士 22歳 14勝1敗 新横綱
東大関 若吹雪 23歳   9勝6敗
西大関 早蕨  26歳   9勝6敗
東関脇 金の玉 19歳  13勝  新関脇  引退
西関脇 荒岩  20歳  10勝5敗
西張出関脇 曾木の滝 23歳 7勝7敗 新関脇
東小結 緋縅  24歳   7勝8敗
西小結 早桜舞 31歳  10勝5敗  再小結
東前頭筆頭 松ノ花 24歳 9勝6敗
西前頭筆頭 豊後富士 18歳 7勝8敗
東前頭2  安曇野 29歳 9勝6敗
西前頭2  神翔  37歳 9勝6敗
東前頭3  若飛燕 23歳 5勝10敗
西前頭3  光翔  34歳 8勝7敗
東前頭4  萌黄野 30歳 9勝6敗
西前頭4  北斗王 35歳 7勝8敗
東前頭5  若旅人 33歳 8勝7敗
西前頭5  竹ノ花 22歳 5勝10敗
東前頭6  神天勝 23歳 9勝6敗
西前頭6  神剣  34歳 5勝10敗
東前頭7  近江富士 20歳 11勝4敗
西前頭7  神王  31歳 5勝10敗
東前頭8  芙蓉峯 32歳 4勝11敗
西前頭8  光翼  34歳 8勝7敗
東前頭9  青翔  25歳 9勝6敗
西前頭9  神天剛 21歳 8勝7敗
東前頭10 獅子王 29歳 3勝12敗
西前頭10 高千穂 31歳 5勝3敗7休
東前頭11 優翔  29歳 8勝7敗
西前頭11 光優  32歳 5勝10敗
東前頭12 神天勇 24歳 5勝10敗
西前頭12 月桜  32歳 7勝8敗
東前頭13 光聖  28歳   4勝11敗
西前頭13 筑洲山 28歳  11勝4敗   再入幕
東前頭14 飛鳥王 34歳   5勝10敗
西前頭14 翔翼  28歳   7勝8敗
東前頭15 雪桜  32歳   5勝10敗
西前頭15 印南野 25歳  10勝5敗   新入幕
東前頭16 神優  35歳   6勝9敗
西前頭16 白鳥  26歳   6勝9敗
東前頭17 蒲生野 22歳   8勝7敗   新入幕

 引退した金の玉、番付掲載特例措置により、幕内力士は43名


               完


四神会する場所、作者より

2016年10月22日 | 小説
作者より

金の玉(第一部)に関しての記載です。

1. 本小説世界における四股名について

主人公の四股名として、作者が当初考えていたのは、若旅人だった。本名は、村里歩。父親は、村里稜。
小説の冒頭、紙に書いて示される四股名は若旅人であり、名乗るには気恥ずかしい、少女趣味の四股名だな、というのがその時の感想である。
ちなみにその四股名を考えた主人公の母親は、可憐でひたすら優しい。主人公が五歳の時に病死する。
その他、当初設定では、時代の第一人者は、芙蓉峯。前時代の覇者は、獅子王。大関は、三兄弟長兄以外は北斗王と安曇野。
三兄弟は、神剣(みつるぎ)、神王、神翔。
もう一人の若きライバルは、早桜舞(はやおうぶ)。横綱桜舞の息子で、三兄弟とは、母親同士が姉妹の、従兄弟という設定であった。
さらには、さらなる同世代のライバルとして、ふたりの金髪碧眼の外国人力士まで考えていた。四股名は、青翔と神優。
だが、前記のような設定では、まるで話が動かなかった。
で、今、書き進めている四股名となった。
前記の四股名は、本小説世界の他の幕内力士の四股名として使った。

当初の設定の際、今の時代に受けそうな字面が格好よい四股名。という気持ちもあったわけだが、私自身は、そういう四股名は、好きではない。前記の四股名、今の私の趣味からいえば、心にしっくりこない四股名である(若い頃は、空想上の力士に、その種の四股名を付けて、本ブログにもご収載いただいた「理想の相撲、理想の力士、そして現実の相撲」の文章中に記載している理想的と考えていた相撲界の状況を想像世界で創り上げた。その状況で、心の中で、ひと場所を頭の中の想像だけで取り終わらせていた。ただ、その遊びについては、現実の相撲の番付で、現実の力士でやることのほうがはるかに多かった。実は今もときどきやっている。この遊び、さすがにすべての幕内力士の十五番を、というのは頭の中だけでは無理だ。だから概ね、三役以上の力士に限定してやっている。もうやめよう。とは思っている)。

実はこの小説には、前記のような四股名は出てこない別バージョンもある。
そちらを決定版としてもよいのだが、
現実の相撲界が、今の時代の、流行りに則ったような四股名より、伝統的、古典的な四股名に回帰してほしい、という願いをこめて、あえて残すことにした。
すなわち、かつてその種の四股名が大流行した時代があった。だが、今はその流行は過ぎ去り、昔風の四股名が復活している。というのが当小説世界である。
故に、30歳代以上と20歳代以下の力士の四股名の傾向にかなり差がある。またそれが、この小説世界で、幕内の30歳以上の力士が16人となった理由でもある。

2. 本小説世界の時代背景について
管理人さんから、本小説について、登場人物の優勝回数に無理があるのでは、とのご指摘をいただいたことがあった。
この小説では実在する横綱として貴乃花まででてくる。
この小説は、今より未来の話とするという逃げかたがありそうだが、羽黒蛇の愛するアイドルが脱退するというエピソードがあり、この小説の舞台となっている年代はいつなのか、ほぼ特定されてしまう。
照富士26、玉武蔵23、羽黒蛇15という優勝回数をどうあてはめるか。
貴乃花は、二場所連続全勝、優勝7回という実績を残して横綱になった。
が横綱昇進後間もなく故障が発生し、その優勝回数は、一桁にとどまった。曙、武蔵丸も横綱にはなったが、ともに優勝回数は、5回程度にとどまり、その時代は照富士が第一人者となる(ただし、照富士を、貴乃花と同年配以下とすると、息子たちとの年齢差が少なすぎる。十歳代半ばで父親にならなければならなくなる。照富士の主たる活躍期間は、千代の富士時代の末期から世紀の変わり目あたりまで、というのが妥当かと思う)。そして、朝青龍、白鵬の時代の代わりに、玉武蔵、羽黒蛇の時代があった。
これが、本小説世界の時代背景である、
とさせていただく。

力士の高齢化について(中村淳一)

2016年10月05日 | 読者からのコメント、中村淳一他読者の投稿
力士の高齢化について

外国人力士についてはひとまずおいて。現在の相撲界で特徴的なことは力士の高齢化ということであろう。
この秋場所の幕内力士42人の内、30歳代の力士は17人。さらには29歳の力士が7人おり、30歳以上の幕内力士はさらに増加しそうな状況である。あるいは半数を超えるという可能性もありそうだ。
このブログにもご収載いただいている小説「金の玉」で、途中、その小説世界での幕内力士42人を列挙したのだが、30歳代の力士が16人。小説に少しでも現実感を持たせるには、多すぎたかな、というのが気になっていたのだが、現実の相撲界がそれを超えてしまった。
これは一時的な現象なのか。あるいは今後はこのようになっていくのか。
あるいは後者なのかもしれない、とも思う。と言うのは、今、様々なスポーツ界でトップレベルの選手の高齢化が進んでいるからである。
例えば、プロ野球。筆者の少年時代の印象でいえば、選手の全盛期は20歳代。30歳代になればベテランという目で見られていたかと思う。現在は、全盛期は30歳前後。30歳半ば以降もトップレベルの力を維持している選手も多く、20歳代であれば、まだ若手という印象である。
競泳界。筆者の少年時代、トップレベルの選手はおおむね10歳代であったかと思う。現在は、トップレベルは20歳代が主。フェルプスのように30歳を過ぎても金メダルを獲得する選手もあらわれている。
テニス界。1980年代には、ボリス・ベッカー、マイケル・チャンは17歳でグランドスラムチャンピオンとなった。マッツ・ビランデルも最初にグランドスラムチャンピオンになったのは、17歳か18歳だったと思う。女子も同様に10歳代で頂点に立った相当数の選手がいた。
現在、ビッグ4と呼ばれる選手の時代が長く続いているが、ジョコビッチ、マレーは今年29歳。ナダルは30歳。フェデラーにいたっては、すでに30歳代半ばである。
錦織圭は、これからまだまだ伸びしろがあり。今後さらにランキングをあげ、グランドスラム獲得の可能性もあり、と見られているようだが、この年末で27歳になる。
ボクシング界。かつて一世を風靡した往年の名選手、海老原博幸、ファイティング原田、西城正三、大場政夫、具志堅用高といったボクサーは、その主たる活躍時期は、20歳代前半であったかと思う。現状、全般的に全盛期と思われる時期はかなり高齢化している。
世紀の一戦と称されたときのフロイド・メイウェザー。マニー・パッキャオはともに30歳代後半であったし、バーナード・ホプキンスのように40歳以降も世界チャンピオンであり続けたボクサーもいる。
相撲界もこれらのスポーツと同様な趨勢となっていくのであろうか。
現在の横綱、大関陣は、照の富士を除く6人は30歳代。以前であれば、すぐにも一斉に退場し、時代が移り変わる。そうみられる状況のはずだが、まだしばらくは、時代の主役陣に大きな変更は無い、というのが今の大方の予想なのかな、と思う。
横綱、大関陣に限らず、三役、幕内上位の常連も30歳前後の力士が多くを占めている。
若手の影がうすく、マンネリ化した番付という見方もあるであろう。が、折角このような時代に遭遇したのだから、前向きに肯定的にとらえたい。
今の相撲界は、主役も脇役も、ずらりと並んだ、熟練の技をその身に備えたベテラン名優が演じる、豪華で贅沢な舞台。私はそう思っている。

琴欧洲と把瑠都(中村淳一)

2016年10月04日 | 読者からのコメント、中村淳一他読者の投稿
 その存在がなくなってから、その大切さに気付くということはよくあることだが、私は琴欧洲と把瑠都について、今、そのように感じている。
 外国人力士が席巻する現在の相撲界。が、モンゴル人力士を始め、中国人等東アジア圏の力士については、見た目は、日本人力士と変わらない。予備知識がなければ、日本人かそうでないかを見分けることは困難であろう。
 が、黄色人種系ではない力士については、その容姿は、はっきりと異国人であり、ほぼ日本文化の中に安住してきた相撲ファンにとっては、海の向こうからやってきた、まれ人である。
 見た目がはっきりと違う外国人力士。先ずは高見山、小錦、曙、武蔵丸。ハワイ人力士により相撲界の国際化は始まった。
 やがてモンゴル人力士が大挙してやってくるが、さらにこれまでには、皆無ではないにしろ、ほとんど無縁であった白人力士、黒人系力士もやってくるようになり、多くの関取も生まれた。
 そして、琴欧洲と把瑠都は白人力士の中で、大関まで昇進し、ともに優勝賜杯も抱いた。横綱となり、時代の主役として一翼を担うのでは、と目された時代もあったのである。またふたりはともにルックスにも恵まれており、世が世であれば、もっともっと、それこそ、かつての若貴並みの国民的人気を得てもよかったのではないか、という感想をもつ。
 爆発的な人気とならなかったのは、時代が朝青龍、白鵬という日本人ではない力士が天下を取っていた時期。もともと日本人のものであり、日本人が主役であるべき相撲界が外国人に乗っ取られてしまった。そのように感じていたファンが多かった時期に、さらにやってきたのが彼らだったからなのではないだろうか。
外国人力士にはいささか食傷気味であった時期に彼らは全盛期を迎えた。
 現在の相撲界も、横綱はモンゴル人力士が独占している。関取の中でモンゴル人力士の割合は今も相当な率に上る。が、さらにモンゴルの時代が続くのかと思わせた照の富士、逸ノ城が、すっかり停滞している現状をみれば、今後はわからない。また何より白人力士については先細りとなっていきそうな状況である。
 あらためて考えてみれば、天下を取る可能性をもち、人気の出る要素が満載であった琴欧洲、把瑠都は、相撲史のうえで、かなり特異な存在であったのであろうと思う。彼らの現役時代も、前述したような感想はそれなりに持ってはいたが、特異性の現状認識が不足していたな、と感じる。
 実際の歴史は、朝青龍から白鵬へ。時代を独裁する大横綱の時代が継続し、日馬富士、鶴竜という横綱が生まれたわけであるが、
 もし、白鵬、稀勢の里、琴欧洲、把瑠都の四横綱時代があり、白鵬の優勝回数が実際の半分程度で、さらには日馬富士、鶴竜が渋い存在の大関で、白鵬の優勝回数の半分と、日馬富士、鶴竜の、そのほとんどの優勝回数を、稀勢の里、琴欧洲、把瑠都の三人で分け合う。
 そんな時代がやってきていたら、相撲界には不人気な時代はほとんどなかったのではないか、そんなことも思う。

追記
現在の関取で、見た目がはっきりと日本人ではない異質な力士といえば、碧山、魁聖、栃ノ心、臥牙丸、阿夢露、大砂嵐の六人くらいかと思う。ひところに比べれば随分と少なくなってしまったな、と感じる。そして大砂嵐を除けば、彼らは30歳前後、ないし、それ以上の年齢である。幕下以下にも、私の知る限りでは、次の関取は確実と言いえる力士もいないようだ。カナダ人力士、誉錦も相撲界から去ってしまった。
異形の力士。私は見続けたい。外国に育った力士が、この日本の国に存在する相撲という世界に人生をかけてくれる、ということを有り難いことと思う。
前記六人の力士については、その存在を大切なものとしっかり認識して私は応援していきたい。