11月場所の資料をお送りいたします
○白鵬が豪栄道に呆気なく負けた10日目、飛んできた座布団が髪のない頭に当りましたが、この災難のほかは印象が薄い秋場所でした。日馬富士、稀勢の里が相変わらず不甲斐なく、決して盤石ではない白鵬が楽に逃げ切ってしまった、つまらない場所でした。千秋楽を待たずに決めた優勝14回は、朝青龍の15回に次ぐとのこと。この二人の数字はライバル不在の証明だろうと思い、大横綱とそのライバルの関係を探るために、別紙『6大横綱とライバル』を作ってみました。参考までに年2場所時代の双葉山もつけてみました。
○優勝20回以上の6大横綱の、①初優勝から最後の優勝までの場所数、②優勝回数、③優勝率=②÷①、④上記①の期間での他の力士の優勝 を一覧にしました。優勝率が低いほど強いライバルがおり、優勝率が高いほどライバルが少ないという仮説にたっています。強いライバルがいたのは、北の湖と貴乃花になります。北の湖には前半に輪島、中盤に二代若乃花、後半に千代の富士と隆の里。貴乃花の場合はほぼ全期間にわたって曙と三代若乃花、後半に武蔵丸がいました。これに対して、ライバルが少ないのは、やはり朝青龍と白鵬です。朝青龍には後半での白鵬、白鵬には初期での朝青龍だけなのです。
○「ミスター・ガッカリ」と名づけたところ、「その通りだ」「可哀想だ」とご感想が寄せられた稀勢の里。ここ2場所続けて相撲内容で白鵬に勝っていましたが、秋場所では格の違いと言わざるを得ない完敗でした。解説の貴乃花が『負けない稽古、土俵を割らない稽古を』と言いましたが、部屋に強い相手はいないのですから、前々から言われている「出稽古をしろ」という意味でしょう。また、『稀勢の里は長身力士に弱い』と指摘したのが3日目のゲスト把瑠都だったのは意外でしたが、その通りで、当の把瑠都や琴欧洲を苦手にしていましたし、当日も隠岐の海に下手な相撲で負けました。13日目に豪栄道に完敗したあと、審判部長の鏡山が『横綱になる可能性はないと思う』と発言したのですが、果して、どうなのでしょうか。
○別紙「26横綱の昇進前の戦績」から、稀勢の里の昇進可能性を探ってみます。(欄外に稀勢の里の戦績)「昇進前の勝率」は休みを負けとした勝率②で見ます。勝率が6割(9勝6敗)を下回っているのは、稀勢
の里の他は琴櫻、北の湖、三重ノ海、千代の富士、隆の里の5人だけですから、昇進の可能性は低いことになります。5人のうち、早熟・北の湖と晩成・千代の富士は大関わずか3場所で、優勝1回を含む36勝と38勝で駆け上がった突然変身型。隆の里は大関9場所平均がほぼ12勝、優勝も2回と大関昇進後成長型。琴櫻と三重ノ海は、大関でも横綱でも弱く、横綱昇進の直前と直後だけが良かった眉唾型です。
次に「昇進年齢」では、稀勢の里がここから2場所連続優勝して昇進したとしても、27歳6カ月で十分に遅い年齢ですし、「入門からの場所数」も70場所となり、これを上回るのは北の富士、琴櫻、三重ノ海、隆の里の4人だけです。最後に「優勝」。優勝せずに昇進したのは相撲協会の汚点となった双羽黒だけで、とにかく優勝しないと話になりません。こう見てくると、横綱昇進は極めて難しいという推論になります。
○前回も稀勢の里に触れましたが、その時に第一線記者からいただいたご返信を紹介させていただきます。『先代鳴戸親方の言う「頭」、まったく同感です。というか、どんなスポーツでも一流アスリートは皆、頭がよいのだと思います。一部の相撲記者の間では「相撲偏差値」という言葉が言われています。偏差値75は安美錦です。白鵬もかなり高い力士だと思います。残念ながら稀勢の里はこれに当てはまらないというのが、記者の間の一致した見方です。相撲偏差値は番付とは比例しません。三段目力士でも、まるで三役力士にインタビューしているのではないかと錯覚するときがあります。出番前の関取衆が付け人の指示を仰ぐといったケースも珍しくありません。 <中略> 取材を通じても“体重信仰”がより顕著になったことが感じられ、ちょっとがっかりさせられることもなくはありません』。
○その体重信仰で心配なのが遠藤です。師匠の追手風(大翔山)が言ったのです。「まだ、幕内の身体ではない。160kgは欲しい」。今、遠藤は146kg。柔らかい立ち合いから、離れて良し、組んで良し。組めば、型を持っている上に臨機応変の相撲をとります。この魅力ある取り口を160kgでとれるか甚だ疑問です。
大翔山はといえば、もっぱら半身からの下手投げ。アマチュア横綱なのに、幕内22場所、2枚目止まり。その原因は腰痛で、どう見ても186kgが重すぎたのです。今も検査役の中で際立って太っています。
○拙著「『うっちゃり』はなぜ消えたのか」で一番いいたかったのは「肥満が相撲をつまらなくした」ということです。肥満でバネを失った腰ではできない「うっちゃり」、腹が邪魔でかからない「内掛け」、重すぎて上らない「吊り上げ」が激減した一方で、肥満で簡単にバランスを崩すために、「はたきこみ」「突き落とし」「送り出し」が激増しました。いずれも、手に汗を握る前に勝負がつく、つまらない決まり手です。
○肥満の蔓延を止める方法として、「立ち合いの本当の正常化」を説く先達のご意見を再び紹介します。
『今は、手をおろす前に呼吸を合わせようとにらみ合い、立つときに瞬時手をおろしている。これでは、体重のある者の当たりが強くなって有利。正常な立会いとは、双葉山時代以前の立合いで、両手をしっかりおろして静止してにらみあい、そこで呼吸を合わせて立つ立会いです。立会いの当たりは減速されます。
早く立った者が有利とは限らなくなり、軽量の者もわざを発揮しやすくなります』。
一方、私の提案は安直なもので、①「BMI(肥満値)50以上」②「180kg以上」の出場停止でした。
○別紙「幕内力士のBMI・体重・身長」をご覧ください。 (BMI=体重 kg÷身長 m÷身長 m)
上記の出場停止の条件①と②の両方に該当するのが、臥牙丸、佐田の富士、天鎧鵬、富士東、豊響、碧山の6人です。いずれも、体重以外に見るべきものがない魅力に乏しい力士と思いますが、如何でしょうか。
次に、180kg以上ではないがBMIが50以上なのが琴奨菊、舛ノ山、琴勇輝、豊ノ島、豪風、徳勝龍、千代大龍、稀勢の里の8人。逆に、BMIは50以下だが180kg以上なのが魁聖、栃乃若の2人です。
一番右の「要減量kg」は、BMIを50に、あるいは体重を180kgに落すために必要な減量kgです。
2場所毎に体重測定をしますので、次の測定で減量できていなければ出場停止としてはどうでしょうか。
○豪栄道が白鵬と3大関を破って11勝をあげ、大関への足がかりをつかみました。本人も「これからにつなげていきたい」と明言しました。妙義龍以下をまったく寄せつけない稽古場での無敵の強さを本場所でも出せたようです。13日目、稀勢の里に押し込まれたところをイナし、差しにくるところを右からおっつけて押し出したのは出色でした。続く14日目、苦手にしていた高安が突いてくるところを厳しくおっつけ、頭をつけ、のど輪で圧倒したのも大進歩に思えました。白鵬より1歳若いだけ。時間はありません。
○日経新聞元社長の鶴田卓彦氏の後任に読売新聞元社長の内山斉氏が就いた横綱審議会委員長。大手新聞社の社長は立派に務めたのでしょうが、ご両所とも相撲は門外漢です。前任者同様のトンチンカンなことを言わなければいいと思っていた矢先、秋場所を総括した中で、日馬富士について『(足首を痛めていたが)綱の意地で場所を乗り切った点では評価したい』と述べました。怪我があるのなら、まず、それを直して、優勝争いに加わるのが横綱の務めです。怪我を理由に、10勝の横綱を評価するとは困ったものです。
平成25年10月28日 真石 博之
○白鵬が豪栄道に呆気なく負けた10日目、飛んできた座布団が髪のない頭に当りましたが、この災難のほかは印象が薄い秋場所でした。日馬富士、稀勢の里が相変わらず不甲斐なく、決して盤石ではない白鵬が楽に逃げ切ってしまった、つまらない場所でした。千秋楽を待たずに決めた優勝14回は、朝青龍の15回に次ぐとのこと。この二人の数字はライバル不在の証明だろうと思い、大横綱とそのライバルの関係を探るために、別紙『6大横綱とライバル』を作ってみました。参考までに年2場所時代の双葉山もつけてみました。
○優勝20回以上の6大横綱の、①初優勝から最後の優勝までの場所数、②優勝回数、③優勝率=②÷①、④上記①の期間での他の力士の優勝 を一覧にしました。優勝率が低いほど強いライバルがおり、優勝率が高いほどライバルが少ないという仮説にたっています。強いライバルがいたのは、北の湖と貴乃花になります。北の湖には前半に輪島、中盤に二代若乃花、後半に千代の富士と隆の里。貴乃花の場合はほぼ全期間にわたって曙と三代若乃花、後半に武蔵丸がいました。これに対して、ライバルが少ないのは、やはり朝青龍と白鵬です。朝青龍には後半での白鵬、白鵬には初期での朝青龍だけなのです。
○「ミスター・ガッカリ」と名づけたところ、「その通りだ」「可哀想だ」とご感想が寄せられた稀勢の里。ここ2場所続けて相撲内容で白鵬に勝っていましたが、秋場所では格の違いと言わざるを得ない完敗でした。解説の貴乃花が『負けない稽古、土俵を割らない稽古を』と言いましたが、部屋に強い相手はいないのですから、前々から言われている「出稽古をしろ」という意味でしょう。また、『稀勢の里は長身力士に弱い』と指摘したのが3日目のゲスト把瑠都だったのは意外でしたが、その通りで、当の把瑠都や琴欧洲を苦手にしていましたし、当日も隠岐の海に下手な相撲で負けました。13日目に豪栄道に完敗したあと、審判部長の鏡山が『横綱になる可能性はないと思う』と発言したのですが、果して、どうなのでしょうか。
○別紙「26横綱の昇進前の戦績」から、稀勢の里の昇進可能性を探ってみます。(欄外に稀勢の里の戦績)「昇進前の勝率」は休みを負けとした勝率②で見ます。勝率が6割(9勝6敗)を下回っているのは、稀勢
の里の他は琴櫻、北の湖、三重ノ海、千代の富士、隆の里の5人だけですから、昇進の可能性は低いことになります。5人のうち、早熟・北の湖と晩成・千代の富士は大関わずか3場所で、優勝1回を含む36勝と38勝で駆け上がった突然変身型。隆の里は大関9場所平均がほぼ12勝、優勝も2回と大関昇進後成長型。琴櫻と三重ノ海は、大関でも横綱でも弱く、横綱昇進の直前と直後だけが良かった眉唾型です。
次に「昇進年齢」では、稀勢の里がここから2場所連続優勝して昇進したとしても、27歳6カ月で十分に遅い年齢ですし、「入門からの場所数」も70場所となり、これを上回るのは北の富士、琴櫻、三重ノ海、隆の里の4人だけです。最後に「優勝」。優勝せずに昇進したのは相撲協会の汚点となった双羽黒だけで、とにかく優勝しないと話になりません。こう見てくると、横綱昇進は極めて難しいという推論になります。
○前回も稀勢の里に触れましたが、その時に第一線記者からいただいたご返信を紹介させていただきます。『先代鳴戸親方の言う「頭」、まったく同感です。というか、どんなスポーツでも一流アスリートは皆、頭がよいのだと思います。一部の相撲記者の間では「相撲偏差値」という言葉が言われています。偏差値75は安美錦です。白鵬もかなり高い力士だと思います。残念ながら稀勢の里はこれに当てはまらないというのが、記者の間の一致した見方です。相撲偏差値は番付とは比例しません。三段目力士でも、まるで三役力士にインタビューしているのではないかと錯覚するときがあります。出番前の関取衆が付け人の指示を仰ぐといったケースも珍しくありません。 <中略> 取材を通じても“体重信仰”がより顕著になったことが感じられ、ちょっとがっかりさせられることもなくはありません』。
○その体重信仰で心配なのが遠藤です。師匠の追手風(大翔山)が言ったのです。「まだ、幕内の身体ではない。160kgは欲しい」。今、遠藤は146kg。柔らかい立ち合いから、離れて良し、組んで良し。組めば、型を持っている上に臨機応変の相撲をとります。この魅力ある取り口を160kgでとれるか甚だ疑問です。
大翔山はといえば、もっぱら半身からの下手投げ。アマチュア横綱なのに、幕内22場所、2枚目止まり。その原因は腰痛で、どう見ても186kgが重すぎたのです。今も検査役の中で際立って太っています。
○拙著「『うっちゃり』はなぜ消えたのか」で一番いいたかったのは「肥満が相撲をつまらなくした」ということです。肥満でバネを失った腰ではできない「うっちゃり」、腹が邪魔でかからない「内掛け」、重すぎて上らない「吊り上げ」が激減した一方で、肥満で簡単にバランスを崩すために、「はたきこみ」「突き落とし」「送り出し」が激増しました。いずれも、手に汗を握る前に勝負がつく、つまらない決まり手です。
○肥満の蔓延を止める方法として、「立ち合いの本当の正常化」を説く先達のご意見を再び紹介します。
『今は、手をおろす前に呼吸を合わせようとにらみ合い、立つときに瞬時手をおろしている。これでは、体重のある者の当たりが強くなって有利。正常な立会いとは、双葉山時代以前の立合いで、両手をしっかりおろして静止してにらみあい、そこで呼吸を合わせて立つ立会いです。立会いの当たりは減速されます。
早く立った者が有利とは限らなくなり、軽量の者もわざを発揮しやすくなります』。
一方、私の提案は安直なもので、①「BMI(肥満値)50以上」②「180kg以上」の出場停止でした。
○別紙「幕内力士のBMI・体重・身長」をご覧ください。 (BMI=体重 kg÷身長 m÷身長 m)
上記の出場停止の条件①と②の両方に該当するのが、臥牙丸、佐田の富士、天鎧鵬、富士東、豊響、碧山の6人です。いずれも、体重以外に見るべきものがない魅力に乏しい力士と思いますが、如何でしょうか。
次に、180kg以上ではないがBMIが50以上なのが琴奨菊、舛ノ山、琴勇輝、豊ノ島、豪風、徳勝龍、千代大龍、稀勢の里の8人。逆に、BMIは50以下だが180kg以上なのが魁聖、栃乃若の2人です。
一番右の「要減量kg」は、BMIを50に、あるいは体重を180kgに落すために必要な減量kgです。
2場所毎に体重測定をしますので、次の測定で減量できていなければ出場停止としてはどうでしょうか。
○豪栄道が白鵬と3大関を破って11勝をあげ、大関への足がかりをつかみました。本人も「これからにつなげていきたい」と明言しました。妙義龍以下をまったく寄せつけない稽古場での無敵の強さを本場所でも出せたようです。13日目、稀勢の里に押し込まれたところをイナし、差しにくるところを右からおっつけて押し出したのは出色でした。続く14日目、苦手にしていた高安が突いてくるところを厳しくおっつけ、頭をつけ、のど輪で圧倒したのも大進歩に思えました。白鵬より1歳若いだけ。時間はありません。
○日経新聞元社長の鶴田卓彦氏の後任に読売新聞元社長の内山斉氏が就いた横綱審議会委員長。大手新聞社の社長は立派に務めたのでしょうが、ご両所とも相撲は門外漢です。前任者同様のトンチンカンなことを言わなければいいと思っていた矢先、秋場所を総括した中で、日馬富士について『(足首を痛めていたが)綱の意地で場所を乗り切った点では評価したい』と述べました。怪我があるのなら、まず、それを直して、優勝争いに加わるのが横綱の務めです。怪我を理由に、10勝の横綱を評価するとは困ったものです。
平成25年10月28日 真石 博之