羽黒蛇、大相撲について語るブログ

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平成24年・2012年9月場所前(真石博之)

2012年08月31日 | 相撲評論、真石博之
白鵬が2場所連続で優勝を逸したのは横綱になってから初めてのこと。初日、とり急いで豊ノ島にたぐられ、同体で落ちて取り直しの不安なスタート。そのあと、勝っても土俵に手をついたり、弱音を吐いたり、以前にはなかったことでした。それでも後半は本来の相撲を取り戻し、大関5人を連破したあたりでは復調を感じさせました。14日目の稀勢の里戦での立ち合いの変化は、気負い過ぎて2度ならず3度まで、まるで相手を見ていない稀勢の里に責任の大半があると思いますが、横綱らしからぬことではあります。








○迎えた千秋楽の日馬富士との全勝対決は無残なものでした。張られて左上手を取られたあとに、右下手を引きつけられた瞬間に腰が延び、そこを上手から振られました。目を疑ったのは、この振りに白鵬が土俵際まで飛んでしまったことです。腰が軽いのです。ここで勝負あり。腰をぶつけてくる日馬富士の寄りにあっさりと土俵を割りました。負けて、支度部屋に引き上げる愛知県体育館の長い長い裏通路の途中で、膝に手をおいて、しばらく動かなかったのは、自らの力の衰えへの落胆だったように見えました。








○何度か指摘した通り、白鵬は下り坂に入っています。だからといって、横綱審議委員会の鶴田会長(元日経新聞社長)が「白鵬のピークは過ぎた」とマスコミの前で広言して歩くのは如何なものでしょうか。横綱昇進に関して意見を述べるのが横審であって、現役横綱をこき下ろす立場にはないはずです。そもそもが、大相撲に縁の無かった門外漢。大手マスコミの社長経験者でたらい回しにしている横審会長人事に問題ありなのです。舟橋聖一、高橋義孝といった相撲を熟知した洒脱な横審会長を懐かしむ昨今ではあります。



 



○日馬富士。鋭い立ち合いと動きながら技をくり出す相撲が戻っての全勝優勝でした。幕内で2番目の軽量という体力のハンディキャップは大きく、連続優勝はできないと予想しますが、かりに連続優勝したとしても、横綱にすべきではないと考えます。直近の5場所の勝ち星が、8勝、11勝、11勝、8勝、8勝とあまりにお粗末なこと。多用する張り手が下品で見苦しいことが反対の理由です。何度も書いてきた通り、瞬間風速の2場所だけを見て横綱を決める昇進基準は間違っているのです。5場所位は見るべきです。



加えて、マスコミの前での優等生的な発言とは裏腹に、実は大の問題児、との話も聞きます。








○その千秋楽決戦。マスコミは、「29年ぶりの千秋楽全勝対決」と囃したてました。前例に従って番付順に取組を組めば、白鵬日馬富士戦は12日目でしたが、全勝対決を後にまわしたのです。大相撲は興行なのですから、クライマックスを最後に持っていく今回のやり方が当り前。遅すぎたのです。「当日になっての休場の場合、優勝争いの取組でも組み直しはしない」といった前例に従う他の悪習も改めるべきでしょう。








○「いい相撲取だなぁ」と思うのが妙義龍です。腰をきれいに割った仕切りが見事です。叩かれても前に落ちない稽古量の多さ、幕内平均を15㌔も下回る体重での正攻法の押しが魅力です。鶴竜を低い姿勢のまま持っていった電車道。把瑠都に対して徹底した左おっつけから両差しで寄り切った胸のすく相撲。久し振りに興奮しました。新小結で勝ち越して2場所連続の技能賞。好漢! 一層の精進を期待します。








○さて、またまた無粋な四股名です。宮城野部屋の白鵬の内弟子が十両に昇進して山口改め大喜鵬。70人の関取の中で8人目の「鵬」(鳳を含む)で5人目の「大」。陳腐すぎる上に、



(

おん

)
がよくありません。




おん


を聞いただけで字が浮かんでこない四股名は落第です。ほうましょう、ごうえいどう、てんかいほう、じょうこうりゅう、とくしんほう。どれもこれも、もっともらしい漢字を並べただけで頂けません。





○いつぞやもご紹介しましたが、佐渡ケ嶽部屋の「琴」、九重部屋の「千代」など、部屋で四股名を統一する傾向が強まり、関取のいる31部屋のうち11部屋にのぼります (別紙『部屋別勢力分布』の◎)。加えて、師匠・前師匠の四股名の一部を弟子に強要する部屋が5部屋(同○)。これでは、まるで全体主義です。



本来、四股名は関取一人一人の属性(出身地、本名など)や履歴(恩人、学校など)を表す個性的なもののはずです。今、良い四股名といえば、鳰の湖(琵琶湖の古名)、隠岐の海ぐらいのもの。出てきた時にはオヤオヤと思った黒海や把瑠都でしたが、出身地を端的に表していて、今やマシな部類になっています。








○このところ続いている相撲部屋の減少を象徴しているのが9月場所での再十両を決めた荒鷲の足跡です。平成14年に入門したのが荒磯部屋(二子岳 平成5年開設 20年定年で閉鎖)。去年、新十両を果たした時が花籠部屋(太寿山 平成4年開設 今年経営不振で閉鎖)。そして、再十両は峰崎部屋(三杉磯)で迎えたのです。前々回お送りした『相撲部屋の増減と変遷』にある通り、平成16年には55を数えた相撲部屋は47に減っています。その理由の一つは、花籠部屋閉鎖の実例が示す通り、相撲人気の低下による後援者の減少が相撲部屋の経営を直撃しているためです。ちなみに、峰崎部屋での関取誕生は、昭和63年12月の部屋創設以来初めて。荒鷲が移籍してきて直ぐに再十両を決めたのは、部屋としては、まことに目出度いことでした。これで、昭和に創設された部屋で関取を生んでいない部屋はなくなりました。








○来る平成25年は、年寄106人のうち昭和23年生れの9人が定年を迎える年寄定年ラッシュの年です(別紙『年寄年齢順一覧』)。9人のうち、式秀(大潮)、中村(富士櫻)、放駒(魁傑)、三保ケ関(増位山)、二所ノ関(金剛)の5人は部屋持ちの親方です。このうち二所ノ関部屋を除いては、部屋付き親方がいないか、定年間近の親方しかいませんので、部屋数の減少には、さらに拍車がかかることでしょう。








○別紙『都道府県別・国別勢力分布』をご覧下さい。平成12年から相撲どころ青森県の関取の多さが目立ち始め、19年3月場所には11名を数えるに至ります。顔ぶれは、安美錦、岩木山、高見盛、若の里、十文字(以上幕内 以下十両)、寶智山、海鵬、将司、安壮富士、武州山、北勝岩でした。その翌場所に、首位の座を奪ったのがモンゴルで、今もその天下が続き、関取の人数は群を抜いています。それでも、二番手は青森県で、ずっと8人以上の関取を輩出してきました。ところが、変調をきたしたのが昨年の八百長事件による安壮富士、将司、十文字の追放です。9月場所での関取は5名、しかも宝富士以外は30歳を越える年嵩です。代って勢力を増しているのが東京都の7人で、若い学生相撲出身が多いのが特徴です。








○番付などにある身長と体重は昨28日に測定されたものですが、遂に、恐ろしい事が起ってしまいました。幕内の平均体重が史上初めて160㌔の大台に乗ってしまったのです。幕内の平均体重を10年間隔で見てみますと、1960年(栃若時代)115㌔、70年(北玉時代)126㌔、80年(輪湖時代)139㌔、90年(千代の富士末期)149㌔、2000年(貴乃花末期)155㌔です。(いずれも初場所、少数点以下四捨五入)幕内の平均体重が45㌔も軽かった栃若時代の攻防のある相撲を望むのは、今や無理な注文なのです。



天鎧鵬、木村山、富士東が幕内に戻りましたが、こういう重いだけで技のない力士が幕内に増えてくると、大相撲はつまらなくなり、見る気が失せてきます。



ロンドン五輪でもそうでしたが、柔道がつまらない競技に成り下がっているのはルールの改悪が原因です。大相撲をつまらなくしている太り過ぎの原因にもルールが関わっているとの説があります。詳しくは次回といたします。



○<訂正とお詫びです> 「白鵬が2場所連続で優勝を逸したのは横綱になってから初めて」は間違いです。正しくは「一人横綱になってから初めて」です。

平成24年8月29日  真石 博之

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2012年08月02日 | 公益法人
日本相撲協会の新公益財団法人移行は認可されるか。








問①  新公益財団法人認可の最大のハードルは?








答 年寄名跡問題だ。相撲協会は平成23年12月27日に文科省に答申した『改革のための工程表』に、「(年寄名跡については)金銭授受の禁止、名跡の協会管理、年寄選考委員会を設けるなどの名跡取得プロセスの改善、現年寄に対する功労金の支給」などの案を盛り込んだ。


ところが、6月19日の評議員会では、平成23年度決算が約50億円赤字だったことなどを理由に功労金を給付しないことに方針を転換し、金銭授受による名跡譲渡が判明した場合は罰則を科することになったが、実態は功労金の代わりに親方が従来通りに後継者の指名権を保持できることになったようである。


19日の評議員会の後、ある親方が「後継者の指名権は認められた。今までと変わらないよ」と、ほくそ笑んでいたという記事(6月20日、毎日新聞)が気になる。






問②  公益財団法人が認可されない場合、国技館の土地、建物他内部留保金など協会財産を取り上げられるのか、また天皇賜杯は?








答 一般財団法人を選択することになる。この場合は、税制等の優遇があった財団法人時代に取得した国技館の土地建物や預貯金などの財産を公益目的の事業(例えば中学校の武道の必修科目の一つになった相撲の普及)に使え切らなければならことになっている。(一般財団法人整備法119条)国技館等の財産を即刻手放す必要はないが、公益目的支出計画に沿ってその資産がゼロになるまでは統括行政庁の監督下におかれることになる。(同123条)




天皇賜杯には、大正14年、相撲協会がスポーツ団体として異例の財団法人設立の認可を得たのは、一民間団体に天皇賜杯授与を認めることは出来ないということから、無理をして財団法人に認可した経緯がある。ある協会幹部は、公益財団法人の認可を取得出来なかったときは、「天皇賜杯は返還せざるを得ない」と語っている。(平成23年2月8日、読売新聞)








問③  結局は親方株問題と思いますが、今後の見通しは?





年寄選考員会、罰則規定などの内容にもよるが、公益財団法人認可の道が開けてきたのではないかと思う。




相撲協会を背負って立つ親方を選定する年寄選考委員会が重要だ。親方のみで構成する理事会(理事会が名跡取得を認可しなかったのは、八百長の中盆で悪名高かった元小結板井のみ)でなく、外部委員も参加する厳格公正な委員会にすることが必要だろう。




罰則規定を厳重に実施することだ。昭和47年1月に文部省(現文科省)の指示により相撲協会は寄付行為に「故意による無気力相撲に対する罰則規定」を制定したが、平成23年2月の八百長発覚まで一度も適用されなかった。現行の寄付行為規定では名跡を「譲渡・担保・相続」の対象にすることを禁じられているのに、高額の金銭で売買されていたのは周知の事実である。




新公益法人の所轄官庁は内閣府になる。年寄株売買を黙認してきた文科省のように甘くないはずだ。








2012年7月5日  尾形昌夫

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2012年08月01日 | 公表原稿(羽黒蛇、読者)
日本相撲協会の新公益財団法人移行は認可されるか。








問①  新公益財団法人認可の最大のハードルは?








答 年寄名跡問題だ。相撲協会は平成23年12月27日に文科省に答申した『改革のための工程表』に、「(年寄名跡については)金銭授受の禁止、名跡の協会管理、年寄選考委員会を設けるなどの名跡取得プロセスの改善、現年寄に対する功労金の支給」などの案を盛り込んだ。


ところが、6月19日の評議員会では、平成23年度決算が約50億円赤字だったことなどを理由に功労金を給付しないことに方針を転換し、金銭授受による名跡譲渡が判明した場合は罰則を科することになったが、実態は功労金の代わりに親方が従来通りに後継者の指名権を保持できることになったようである。


19日の評議員会の後、ある親方が「後継者の指名権は認められた。今までと変わらないよ」と、ほくそ笑んでいたという記事(6月20日、毎日新聞)が気になる。






問②  公益財団法人が認可されない場合、国技館の土地、建物他内部留保金など協会財産を取り上げられるのか、また天皇賜杯は?








答 一般財団法人を選択することになる。この場合は、税制等の優遇があった財団法人時代に取得した国技館の土地建物や預貯金などの財産を公益目的の事業(例えば中学校の武道の必修科目の一つになった相撲の普及)に使え切らなければならことになっている。(一般財団法人整備法119条)国技館等の財産を即刻手放す必要はないが、公益目的支出計画に沿ってその資産がゼロになるまでは統括行政庁の監督下におかれることになる。(同123条)




天皇賜杯には、大正14年、相撲協会がスポーツ団体として異例の財団法人設立の認可を得たのは、一民間団体に天皇賜杯授与を認めることは出来ないということから、無理をして財団法人に認可した経緯がある。ある協会幹部は、公益財団法人の認可を取得出来なかったときは、「天皇賜杯は返還せざるを得ない」と語っている。(平成23年2月8日、読売新聞)








問③  結局は親方株問題と思いますが、今後の見通しは?





年寄選考員会、罰則規定などの内容にもよるが、公益財団法人認可の道が開けてきたのではないかと思う。




相撲協会を背負って立つ親方を選定する年寄選考委員会が重要だ。親方のみで構成する理事会(理事会が名跡取得を認可しなかったのは、八百長の中盆で悪名高かった元小結板井のみ)でなく、外部委員も参加する厳格公正な委員会にすることが必要だろう。




罰則規定を厳重に実施することだ。昭和47年1月に文部省(現文科省)の指示により相撲協会は寄付行為に「故意による無気力相撲に対する罰則規定」を制定したが、平成23年2月の八百長発覚まで一度も適用されなかった。現行の寄付行為規定では名跡を「譲渡・担保・相続」の対象にすることを禁じられているのに、高額の金銭で売買されていたのは周知の事実である。




新公益法人の所轄官庁は内閣府になる。年寄株売買を黙認してきた文科省のように甘くないはずだ。








2012年7月5日  尾形昌夫