カウライ男の随想 十四
その夜。天下の美味の饗宴がイネさんの囲炉裏で開かれた。
アマゴはアメゴとも呼ばれる淡水魚で鮭の一種であり、成長すると三十センチほどの大きさになり、体側に赤い小判模様の斑点があり、その味は魔味と言ってよい。四国、九州の川の上流、水温のひくい清流にすむ魚である。
土地っ子は潜って鉄砲槍でさして獲るが利口な魚で岩塊のえぐられた奥にじっと身を隠している。
菊之助は手際よく、とっておきのドブを持参していた。
囲炉裏の煙で眼を細くしながら塩をふった串刺しのアマゴの香ばしい薫りが部屋に充満している。
…たかで今夜はでっしら獲れよった!先生も若いけんど猿じゃのう!…学校の職員室にあった縄文の郷土読本の昔も渓流で獲ったんかのう?…そうはゆくまい、だいいち、投網はなかっつろう…。
私はアマゴ三匹とドブを茶碗で五杯も飲んだ。
…先生には負けたぞね…菊之助は籠にアマゴを十数匹いれたのを腰に席を立った。
その頃、一般の農家では日に四度も食事をした。・
早い朝の食事をすませて四時間もすると小茶となり、二番茶は午後二時頃すませ…そして夜の食事となる。茶は食事を意味する言葉で…もう茶はすんだかのうし…はもう食事は終わったのかい…となる。食事が多いのはすき腹の要求もあるが茶の時間は激しい労働から休める唯一の休息になるのだ。
食事はひきわり麦飯を、囲炉裏に串刺しのふかしカライモ(サツマ芋)を二本ほど口にしてからたべるのは昔からのならわしだった。 どの農家にも芋蔵が家屋のわきに掘ってあり、筵のしたに収穫したカライモが眠って出番を待って居る。
副食は季節ごとにとれたぜんまい、タケノコ、蕨、じゃがいもの煮付け、手製のコンニャクや豆腐は祭りの日に用意され、ほとんどが人参、牛蒡のみそ漬けをおかずにする。
その夜。天下の美味の饗宴がイネさんの囲炉裏で開かれた。
アマゴはアメゴとも呼ばれる淡水魚で鮭の一種であり、成長すると三十センチほどの大きさになり、体側に赤い小判模様の斑点があり、その味は魔味と言ってよい。四国、九州の川の上流、水温のひくい清流にすむ魚である。
土地っ子は潜って鉄砲槍でさして獲るが利口な魚で岩塊のえぐられた奥にじっと身を隠している。
菊之助は手際よく、とっておきのドブを持参していた。
囲炉裏の煙で眼を細くしながら塩をふった串刺しのアマゴの香ばしい薫りが部屋に充満している。
…たかで今夜はでっしら獲れよった!先生も若いけんど猿じゃのう!…学校の職員室にあった縄文の郷土読本の昔も渓流で獲ったんかのう?…そうはゆくまい、だいいち、投網はなかっつろう…。
私はアマゴ三匹とドブを茶碗で五杯も飲んだ。
…先生には負けたぞね…菊之助は籠にアマゴを十数匹いれたのを腰に席を立った。
その頃、一般の農家では日に四度も食事をした。・
早い朝の食事をすませて四時間もすると小茶となり、二番茶は午後二時頃すませ…そして夜の食事となる。茶は食事を意味する言葉で…もう茶はすんだかのうし…はもう食事は終わったのかい…となる。食事が多いのはすき腹の要求もあるが茶の時間は激しい労働から休める唯一の休息になるのだ。
食事はひきわり麦飯を、囲炉裏に串刺しのふかしカライモ(サツマ芋)を二本ほど口にしてからたべるのは昔からのならわしだった。 どの農家にも芋蔵が家屋のわきに掘ってあり、筵のしたに収穫したカライモが眠って出番を待って居る。
副食は季節ごとにとれたぜんまい、タケノコ、蕨、じゃがいもの煮付け、手製のコンニャクや豆腐は祭りの日に用意され、ほとんどが人参、牛蒡のみそ漬けをおかずにする。