カウライ男の随想 十三
ある日の夕方、教え子の三谷清馬が…先生!今夜棒高飛びじゃ…と言って肩で息しながら知らせに来た。
…なんじゃ!急に棒高飛びって…お父が先生の都合聞いてこいと言うたけん…なるほど私は了解した。いつか校庭の砂場で手作りの竹竿で二米七十センチのバーを越えたことがあり…先生は棒高飛びをしちょったけん…と感心した顔の生徒逹に言ったことをおもいだした。…お父も渓流を鳥のように飛ぶけん…と言ったのが清馬である。 西峰では珍しい馬が清馬の家に飼われていた。兄の俊馬は名のとおり裸馬をあやつる名手である。一度、話に乗せられて裸馬に乗ったことがあり、その時はまさに命からがらだった。乗った途端に俊馬が尻をたたいたのでいきなり馬が駆け出したのだ。村道の曲がり道は土手ぎりぎりに曲がって走るので私は突き出た樹の枝を避けて必死になってくらいついた。
馬は農耕馬ではない。正式の競争馬だった。手綱をいくらひっぱっても言うことをきかない馬は沖の入り口で止まるとそのまま大畑井に引き返してくれた。私はそのおどおどした態度を馬に見破られすっかりなめられてしまったのだ。
間もなく、父親の三谷菊之助が長い竹竿二本抱えてやってきた。 ガンさんが今夜は奥の渕かヨ!わしはよう飛べんぞね…と菊之助を見て言った。
満月の光で轟々と音を奏でる渓谷の大きな岩が奥の渕に向かって威圧するような奇岩が見える。
…先生!わしの後についてきとうせ!落ちたら泳いだらええけん…。 と菊之助は竹竿を渓流に固定させると猿のように向こう岩へ飛んだ。私もそのとおり飛びついた。
岩の上に三坪ほどのひらたい所があった。菊之助は肩から投網を下ろし、拍子をとって高さ二米ほどしたの渕に投げ入れた。
引き上げた網に十数匹のアマゴが月光に銀鱗を躍らせている。
ある日の夕方、教え子の三谷清馬が…先生!今夜棒高飛びじゃ…と言って肩で息しながら知らせに来た。
…なんじゃ!急に棒高飛びって…お父が先生の都合聞いてこいと言うたけん…なるほど私は了解した。いつか校庭の砂場で手作りの竹竿で二米七十センチのバーを越えたことがあり…先生は棒高飛びをしちょったけん…と感心した顔の生徒逹に言ったことをおもいだした。…お父も渓流を鳥のように飛ぶけん…と言ったのが清馬である。 西峰では珍しい馬が清馬の家に飼われていた。兄の俊馬は名のとおり裸馬をあやつる名手である。一度、話に乗せられて裸馬に乗ったことがあり、その時はまさに命からがらだった。乗った途端に俊馬が尻をたたいたのでいきなり馬が駆け出したのだ。村道の曲がり道は土手ぎりぎりに曲がって走るので私は突き出た樹の枝を避けて必死になってくらいついた。
馬は農耕馬ではない。正式の競争馬だった。手綱をいくらひっぱっても言うことをきかない馬は沖の入り口で止まるとそのまま大畑井に引き返してくれた。私はそのおどおどした態度を馬に見破られすっかりなめられてしまったのだ。
間もなく、父親の三谷菊之助が長い竹竿二本抱えてやってきた。 ガンさんが今夜は奥の渕かヨ!わしはよう飛べんぞね…と菊之助を見て言った。
満月の光で轟々と音を奏でる渓谷の大きな岩が奥の渕に向かって威圧するような奇岩が見える。
…先生!わしの後についてきとうせ!落ちたら泳いだらええけん…。 と菊之助は竹竿を渓流に固定させると猿のように向こう岩へ飛んだ。私もそのとおり飛びついた。
岩の上に三坪ほどのひらたい所があった。菊之助は肩から投網を下ろし、拍子をとって高さ二米ほどしたの渕に投げ入れた。
引き上げた網に十数匹のアマゴが月光に銀鱗を躍らせている。