カウライ男の随想 十二
夏休みも田畑は忙しい季節で老若男女それなりに手ぬぐい鉢巻きをして汗まみれに働いた。学校の校庭で遊ぶのは低学年生徒の数人で普段は賑やかな子供逹の声もなく蝉の鳴く声だけいんいんと森から聞こえてくる。
職員も私をのぞいて全員休暇を取ってそれぞれの郷里へ帰っている。
私は早朝の草刈りをすませて朝飯を終えると腰に篭をさげて田圃の草取りにむかう。イネさんは手ぬぐいを姉さんかぶりにし、筒袖の単衣を裾まくりして慣れた足取りで田圃にはいる。 渓谷をはさんだ蔭の二反ほどの棚田である。足を入れた途端に蛭がぴったり吸い付いてくる。ひっぱっても身体を延ばし、口はふくらはぎに吸い付いたままだ。面倒なので全体をつかんでひねりつぶした。
畔で一休みしてると教え子の国香がいつのまにかお茶をいれにやってきた。どきっとした。彼女は青年学校にかよう、大畑井一の美少女で年は十六才、イネさんの姪になる。
黒い前髪のしたのやや細い眼は平家貴族をしのばせる美しい睫とうぶな魅力に輝いている。私が赴任した年に高等科を終えていた。 朝礼の時、高等科の横にならぶ十数人の青年学校生徒の視線を私はまぶしく受ける事がある。
ほとんど私とおなじ年の娘逹である。
草いきれの畔道にすわりこんでモッソウを開いてシラウオと牛蒡のみそ漬けをおかずに昼をとる。
遠くの棚田で数人が手をふっているのでよく見ると土居の千代喜だ。彼は長男で弱い父親に変わっていっぱしの大人の働きをしている。
二人の弟はきっと栃沢の奥へ秋肥を刈りにいってるのだろう。
六年生でも身体をくの字にまげて小山のような刈り草を背にする。
夏休みも田畑は忙しい季節で老若男女それなりに手ぬぐい鉢巻きをして汗まみれに働いた。学校の校庭で遊ぶのは低学年生徒の数人で普段は賑やかな子供逹の声もなく蝉の鳴く声だけいんいんと森から聞こえてくる。
職員も私をのぞいて全員休暇を取ってそれぞれの郷里へ帰っている。
私は早朝の草刈りをすませて朝飯を終えると腰に篭をさげて田圃の草取りにむかう。イネさんは手ぬぐいを姉さんかぶりにし、筒袖の単衣を裾まくりして慣れた足取りで田圃にはいる。 渓谷をはさんだ蔭の二反ほどの棚田である。足を入れた途端に蛭がぴったり吸い付いてくる。ひっぱっても身体を延ばし、口はふくらはぎに吸い付いたままだ。面倒なので全体をつかんでひねりつぶした。
畔で一休みしてると教え子の国香がいつのまにかお茶をいれにやってきた。どきっとした。彼女は青年学校にかよう、大畑井一の美少女で年は十六才、イネさんの姪になる。
黒い前髪のしたのやや細い眼は平家貴族をしのばせる美しい睫とうぶな魅力に輝いている。私が赴任した年に高等科を終えていた。 朝礼の時、高等科の横にならぶ十数人の青年学校生徒の視線を私はまぶしく受ける事がある。
ほとんど私とおなじ年の娘逹である。
草いきれの畔道にすわりこんでモッソウを開いてシラウオと牛蒡のみそ漬けをおかずに昼をとる。
遠くの棚田で数人が手をふっているのでよく見ると土居の千代喜だ。彼は長男で弱い父親に変わっていっぱしの大人の働きをしている。
二人の弟はきっと栃沢の奥へ秋肥を刈りにいってるのだろう。
六年生でも身体をくの字にまげて小山のような刈り草を背にする。