災害で「孤立」した時にどう対処したらいいか。地方の集落や都心のマンションで、住民たちが知恵を絞っている。住民がヘリポートをつくったり、高層階に取り残されても大丈夫なように飲料水などを備蓄したりしている。「公助」が遅れても、住民たちの力で乗り切ろうとする取り組みだ。

 首都直下地震では停電でエレベーターが動かなくなると、高層マンションが「孤立」状態になる。木造住宅密集地の火災や倒壊などで膨大な数の消火や救助が想定され、耐震性や耐火性のあるマンションへの対応は後回しになる。ライフラインも1週間は途絶え、「公助」に期待できない。

 一般社団法人マンションライフ継続支援協会の飯田太郎専務理事は「巨大地震の時、マンションへの支援は間違いなく遅くなる。自立して生活を継続できるよう、住民たちで計画し準備しておくべきだ」と話す。

 4棟の高層マンションが立つ、東京都港区の「芝浦アイランド」には約1万人が住む。災害時、住民が1週間、マンション内でしのげるよう準備している。エレベーターが止まると、高層階まで物資を運べなくなるため、分譲の各階に飲料水や食料、簡易トイレを備蓄している。

 4棟のうちの一つ、49階建ての「グローヴタワー」の防災計画は約50ページ。災害対策本部の立ち上げやマンホールトイレの設置、近くの運河の水の利用法などを定める。計画に基づき、年1回訓練している。

 計画を支えるのは災害発生から1週間のシミュレーションだ。翌日に「余震で船酔い状態の人が階下に」、3日目から「ペット等のトラブル深刻化」などと時系列で想定している。

 芝浦アイランド自治会防災担当役員、岩崎鉄平さん(38)は「地方なら横のつながりがあるが、都会は希薄。仕組みを作り、日ごろからコミュニケーションを取ってないといざという時に動けない」と話す。

■地方の集落では…

 昨年10月、瀬戸内海の離島・百島(ももしま、広島県尾道市)の住民が、島の耕作放棄地にヘリポートをつくった。島民50人が約45メートル四方の場所の草を刈り、雑草や石を運び出して整地した。

 南海トラフ巨大地震で3メートルをこえる津波が想定されている。島外に避難するには船しかなく、港が被災すれば孤立してしまう。

 島民約530人の約7割は65歳以上。「津波が来たらこの家で死ぬしかないんよ」。自主防災会事務局長の赤松嗣美(つぐみ)さん(71)は、東日本大震災直後、お年寄りが話すのを聞いた。

 以前住んでいた大阪で阪神大震災を経験した赤松さんは「助けられる人は、地域で助けたい」と考えた。住民たちで自主防災会を組織し、昨春から計画を進めてきた。

 ヘリポートの適地を見つけて地主と話し合い、土地を借りることにこぎつけた。ヘリが着陸する部分に「H」のマークを石灰で書き、薄くなったら赤松さんたちが書き足している。

 昨年11月の訓練で初めてヘリが着陸。誘導や安全確認など、役割分担も住民で決めた。住民の熱意におされ、市は今年度ヘリポートの一部を舗装する。赤松さんは「孤立の不安はいつもある。ヘリポートは安心感につながる」と話す。

 住民主導のヘリポートづくりは高知県越知町など各地で広がっている。ただ、適地がない所も多い。内閣府の調査では、中山間部の孤立可能性のある集落でヘリの駐機場所があるのは18%にとどまる。

 静岡県東伊豆町大川地区は、約10年前から、隣の伊東市の漁業者と協定を結び、漁船で避難する計画を立てている。年1回漁船で脱出訓練を繰り返す。宿泊施設のテニスコートだった場所をヘリポートにした。

 集落への主な道路は海岸近くを走る国道のみ。崖が迫り、土砂崩れ土石流の危険箇所に取り囲まれている。1978年の伊豆大島近海地震で道路が寸断され、集落は孤立した。自主防災会の飯田伊三男会長(72)は「孤立した時、住民の安否確認をし、どう避難するかが課題」と話す。

 昨年2月の豪雪で孤立が相次いだ山梨県。孤立集落を調査した沼野夏生・東北工業大名誉教授(地域計画)によると、調査した39集落の9割が、交通が途絶えても1週間以上生活を継続できると答え、4割近くは半月以上できると答えた。

 自給的に食料を備蓄し協力態勢がある集落では、安否確認や自発的に除雪をするシステムが働いていた。沼野さんは「都市部に比べ、山間部の集落は孤立に対応し回復しようとする力がある」と指摘する。

 「単に交通が寸断された『孤立』と、避難が必要な『災害状態』を分ける必要がある。行政は平時から集落と情報を共有し、どうなったら避難するか合意形成しておくべきだ」と話す。

 新潟県中越地震の調査をした、糸長浩司・日本大教授(農村計画)は「集落を孤立から自立に変え、分散・自立・循環型にする必要がある。緊急時に役立つように共同ストック空間の『倉』を集落に復活させ、防災の拠点にし、いざという時に外から支援ができる態勢にすべきだ」と提案する。その上で「若い世代の定住や集落と町の二地域居住なども必要だ」と話す。(