観光名所として人気が高い「東京スカイツリー」(東京都墨田区)が、634メートルの高さを生かして、雷の観測に活躍している。開業以来、落ちた雷は40以上で、意外な事実も分かった。

■開業以来42回

 「年間で10回を超えるような落雷が観測できる場所は、世界的にも珍しい」

 東京スカイツリーの天望回廊(450メートル)の上。普段は立ち入ることができない場所で、一般財団法人・電力中央研究所の新藤孝敏・研究アドバイザーらが雷を観測している。タワー最上部まで伸びる放送用アンテナの根元(497メートル)を囲むようにコイル状に銅線を置き、雷の電流の強さや流れ方を測る。2012年5月の開業から昨年まで、ツリーに落ちた雷は42を数えた。

 研究が始まって4年目。新藤さんによると「想像以上に収穫は多い」という。一般的に雷は夏は上空の高い位置にある積乱雲から「下向き」に放電する。しかしツリーでは、雷がツリーの先端から雷雲に向かって「上向き」に放電する例が数多く起きていることが分かったという。

 「上向き」の雷は、冬場の日本海沿岸で多発する、低い雷雲による雷の特徴だ。夏の都心で起きることは想定されていなかった。「上向き」は、一つの雷雲から1回しか放電せず、雷雲から何度も繰り返し放電する夏場の雷よりも強い電流が流れることが多い。14年に観測できた15回の雷のうち10回、12年も10回中8回が上向きだった。

ログイン前の続き■「被害防止に生かしたい」

 新藤さんは「高い場所で、これまでの想定とは違った雷が多発していることが分かっただけでも大きい。今後は上向きの雷の発生のメカニズムを解明し、高層マンションや鉄塔などへの落雷や雷被害の防止に生かしたい」と話す。

 東京管区気象台(東京・大手町)が、東京都心で14年に観測した雷は20。大半は雲の中で稲妻が光ったり、音がしたりしたものを職員が目視で記録したものだ。気象レーダーで1時間先までの雷雲の進路を予測できるが、地上に落ちた雷の電流の強さの観測は「どこに落ちるか分からないので、詳細な観測はできていない」という。

 気象観測のほかにもツリーの活用は広がっている。東京都墨田区では、ツリーに2台の防災用カメラを設置している。東京都でも15年度末から防災用の高所カメラを設置し、運用する計画だ。すでに都庁など4カ所に高所カメラはあるが、それよりも高い375メートル付近に2台取り付ける。防災通信課は「ツリーの高さを生かして、首都直下地震などが発生した時に、いち早く被害状況を把握するために活用したい」としている。