わたしはあるひと宛てに、3つのキーワードを打った。
調べると居場所がわかるキーワードを…
そして、その3つのキーワードの後に
”わたしは、ここで暮らしている”と…
きっと男性のことを探してくれるだろう…
”かけがえの無い存在だった”に違いないからだ。
男性は、いつもの様に眠りについた。
日中働き詰めなのでぐっすりと眠っている。
相変わらず、子どものような寝顔だ。
しばらくしてわたしは痕跡を残さないように
荷物をまとめ静かに外に出た。
月明かりの中で水の音だけが聞こえた。
そして、エンジンをかけその場を離れた。
急に雨がしとしとと降り始めた。
やがてそれは激しいものとなった。
風がふき、木々が猛獣のように暴れ回り
明け方までそれは続いた。
まるで、今までの出来事を消滅させるように…
一緒に過ごすうちに、わたしはだんだん不安になってきた。
今は、あの日の出来事を忘れているけれど、
いつか思い出す日がくるかもしれない。
わたしのあの日の姿を思い出してしまったら…
そして、男性がそれを口にしてしまったら…
わたしの体はすべて雫となり消滅してしまう。
満月の夜…
二人で月を眺めている…
心が震えた…
わたしは、この時ある決断をしたのだった。
平屋の中で目覚め、手を伸ばし少し木の戸を引くと、
外はもう明るくなっていた。
あたり一面霧に覆われていて、その霧はすべての生き物に
生きる力を与えていた…
花びらの中心にも、長い葉っぱの先にも雫がついて、
それらをしっとりと濡らしていた。
やがてそれらに朝日が差し込み幻想的な風景が広がった…
昨日の出来事を思い出していると男性が目を覚ました。
わたしはすぐに、「あなたは誰ですか…」
と聞いた。
しかし、その男性は記憶を失っていて
何も思い出すことが出来ないようだった。
自分が誰で、何をしに来たのか…そして昨日の出来事も
全て忘れていたのだった。
それから数日たった…
その間の記憶も曖昧で、ときどきうずくまって痛みに耐えている姿を見た。
しかし、その時以外は活き活きとして少年のように笑い
全身汗だくになってたくましく働いてくれた。
二人とも本当に些細な事でたくさん笑った…
そうしているうちに、その男性の素性などどうでもよくなっていった。
…どうやら、二人の命は奪われなかったようだ。
わたしは、水の底から男性を抱いたまま水面に上がった。
満月がキラキラと輝き水面にも写っていた。
元の姿に戻るまで後数時間…
人魚の姿のまま男性を抱き体が温まるのを待った。
痛みが体中を支配する。
金色の髪の毛は全て抜け落ち水に溶け、黒髪に変わる。
抜けるような皮膚の色も元通りになった…
そして濡れた体は、少しずつ服に覆われていった。
わたしは、元の自分に戻った。
やがて男性は目を覚まし、二人で平屋の中に入り
その夜は、そのまま眠ったのだった。