グローバル・タックス研究会 ~Study Group On Global Tax~

貧困のない、公正かつ持続可能なグローバリゼーションのための「グローバル・タックス」を提言する、市民研究グループです。

開発のための革新的資金源に関するオスロ会議 報告

2007-02-28 | 国際連帯税&リーディンググループ国際会議

<オルタモンド・暫定報告>  

開発資金調達のための連帯税に関するリーディング・グループ
   第二回プレナリー会合


INTERNATIONAL CONFERENCE
Leading Group on Solidarity Levies to Fund Development
Second Plenary Meeting

     
会場:オスロ(ノルウェー)Radisson SAS Plaza Hotel
日時:2007年2月6、7日
会議オフィシャル・ウェブサイト www.innovativefinance-oslo.no

1.会議の概要
 ミレニアム開発目標のターゲット・イヤーである2015年が着々と迫りつつあるなかで、「開発資金調達のための連帯税に関するリーディング・グループ」、第二回プレナリー会合(以下、オスロ会議)が、ノルウェー政府の主催のもと2007年2月6、7日オスロで開かれた。リーディング・グループ国、オブザーバー国、国際機関、学術界、NGOが招かれ、オルタモンドからは田中事務局長をはじめ3名が参加した。
昨年2月に開かれた革新的開発資金に関するパリ国際会議で「リーディング・グループ」が設立されたが、その第1回プレナリー会合は2006年ブラジリアで開催され、オスロ会議はその第2回会合として開催された。

本会議のスピーカーの目玉としては、フランスの連帯税イニシアティヴ実現に大きく貢献した、ジャン・ピエール・ランドー氏が登壇し、議論から行動へと訴えた。その他、関係国際機関、NGOが比較的多くのスピーチの機会を与えられ、政府代表者の発表は限られたものであった。会議冒頭において、ノルウェー国際開発大臣、エリク・ソールハイムは「国際社会の大きな課題として、安全保障、環境、そして貧困の問題がある。我々はこれからその貧困問題の解決のための議論をしようとしているが、議論で終わってはならず、イニシアティヴを開始しなければならない。これは単に、政治的意思の問題である。重要なのは、さらなる開発資金を動員することであり、メカニズムを作り出すことではない。ノルウェー政府はUNITAID、IFFim、AMCを支持していく。通貨取引税や租税回避・資本流出も重要な課題であり、これらは今後より大きな問題となっていくだろう。環境問題も非常に重要であり、特に気候変動の観点から、ノルウェーは航空CO2排出税から航空連帯税としてUNITAIDに拠出する」と語った 。

今回の会議の焦点は、第一に、フランス主導の国際航空連帯税・UNITAIDスキームが昨年から始動したことで、その進捗状況の確認と、第二に、グループ国から連帯税参加国が増えるのかどうか、そして第三に、今後の連帯税の展望、特に通貨取引税にむけた取り組みがなされるのかどうか、ノルウェー政府や他の国による新しいコミットメントが出されるかどうか、などが注目された。以下、簡潔にまとめる。

第一の点では、UNITAID関係者は、まず議論から行動への移行が不可欠であり、その点でUNITAIDは昨年秋の設立から現時点までにすでにプロジェクトを始動させており、成功していると強調した。その一方で、さらなる参加国の拡大が必要であると示された。年間3億ドル程度では、活動規模は限られる。そのため現実的な観点から、UNITAIDは限られた分野へ選択的・集中的に取り組んでいくとの方針が確認された。特に、ARVなどの医薬品の価格を引き下げることがUNITAIDの重要な機能として強調された。しかしNGO参加者からは、知的財産権の問題をUNITAIDがどう解決していくのかは極めて不透明であるとの指摘もあり、同関係者は「知的財産権の問題が難しい課題であることはみな十分承知しており、最終的な目標として、薬価の引き下げを目指して取り組んでいくことが重要」との返答がなされた。

第二の点では、今回の会議では新たな航空連帯税参加国の表明はなかったが、オスロ会議までに約20カ国の参加表明があり、それぞれの国における導入への進捗状況や拠出規模などが表明された。フランス、ブラジル、ノルウェー、韓国、(英国)、などを除き、参加国の多くが途上国であるため、総体として大きな規模とならないことが改めて露呈された。導入のしやすさの観点から、経済活動に影響を与えないことが一つのねらいとされているため、税率も低く、資金増額の手段としては引き続き大きなインパクトとなり得ていない。そのために、国際社会の関心を集められないでいるという現状は参加国が少々増えても変わっていない。

第三の点では、この枠組みにおいて、航空連帯税のみならず、引き続きその他のオプション・アイディアを検討していくことが重要であるとの認識は共有されたが、通貨取引税導入に向けた具体的なコミットメントは正式には何も出されなかった。オスロ会議のために、ノルウェー政府から通貨取引税の政策研究を委託され、昨年12月に報告書をまとめたStamp Out Poverty(英国NGOネットワーク)はこの状況に失望の色を隠せず、他のNGOも同調し、ノルウェー政府のイニシアティヴには失望せざるをえないとの見解を会議において示した。これに対してノルウェー政府は、「今後も検討していく」と答えたが、リーディング・グループ政府代表者は基本的に静観の姿勢に終始した。また、新しいイニシアティヴとして今回示されたのが、イタリアやカナダが主導するAMC(Advanced Market Commitments)である。これは、途上国において蔓延する病気に対処する薬品開発が必要であるにもかかわらず、先進国の製薬会社にはそれを開発するインセンティヴがないために、各国政府が薬品開発に一定の保証を与え、その開発を促すという仕組みである。しかし、このメカニズムの有効性にはすでにNGOから疑問の声が上がっており、薬品開発市場に政府がどれだけ有効なインセンティヴを与えられるかは不透明である。会議では「単なる製薬会社への補助金制度になりかねない」との批判も出された。

その他、新たなる政府のコミットメントとしては、フィンランドがリーディング・グループに参加することが表明され、これでメンバー国は46カ国となった。また、連帯税参加国では、比較的新しいメンバーである韓国の積極姿勢が目立った。韓国政府はパン国連事務総長の就任もあり、国連の重要課題のひとつである開発問題に貢献する手段としてこのイニシアティヴを利用していく考えのようである。韓国は次のプレナリー会合の議長国として、今年7月に第3回プレナリー会合をソウルで開催する意向を表明した。

 また、この会議の一つの特徴は、航空課税と気候変動が一つのアジェンダとして取り上げられた点である。すでにノルウェー政府は、既存の航空機へのCO2排出税から、連帯税・UNITAIDに開発資金を拠出すると表明しており、ノルウェー政府としてこの点を独自色として打ち出したいという意向があったと思われる。しかしこの革新的メカニズムの枠組み自体がそもそも開発資金の増額のみを目的としており、環境規制の観点を含みきれない側面があるため、結果として会議での議論は特に実りがあるものとはならなかった。とはいえ、航空機のCO2排出への規制は京都メカニズムの枠外にあり、国際法的な観点からも困難な点が存在するが、何らかの対策が必要であることは十分に認識された。特に、気候変動の影響による自然災害の増加は、途上国にとって大きな脅威であり、このショックを吸収するための資金が必要とされているとの発表がなされた。

会議の主なアジェンダをまとめると、以下のとおりになる(プレナリー、分科会を含む)。

・ 航空券連帯税、UNITAIDの進捗状況
・ IFFim(予防接種のための国際金融ファシリティ)進捗状況
・ 航空連帯税と気候変動
・ 通貨取引開発税(CTDL)
・ AMC (Advanced Market Commitment)
・ デジタル連帯基金の進捗状況
・ リミッタンス(移民の海外送金)
・ タックス・ヘブン、資本逃避
・ 開発のためのマイクロ・ファイナンス、民間部門とのパートナーシップ
・ その他、各関係者からのスピーチ

2.今後の展開
 会議の終わりに、以下のような表明がなされた。
 
<韓国:KIM Chan-woo 外務省>

 韓国政府は、今年3月からリーディング・グループの次の議長国を担うことになった。議長国として、以下の4点に特に取り組んでいく考えであり、7月のソウル会議でも検討することになるだろう。
① リーディング・グループの参加国拡大、特にアジア諸国
② 新しいアイディアの検討、具体的な成果の促進
③ 関係国、機関との強力なパートナーシップ
④ リーディング・グループの将来についての再検討

 <フランス:Jacques LAPOUGE 外務省>

 グループの将来については、今後も取り組み続けることが重要であり、長期的な視点で考える必要がある。航空券連帯税のみならず、新しいアイディアを今後も検討していくこと、大国を説得すること(特にドイツは重要であろう)、行動のために働きかけること、多くの国にこの革新的メカニズムを利用してもらうこと、市民社会の関与は非常に重要であること(「NGOの批判は我々にとって非常に有用であった」とコメント)、など。最後に、グループのウェブサイトがオープンになるので、情報の共有にぜひ利用してもらいたい。

<議長総括:Atle LEIKVOLLノルウェー外務省>

 このイシューを前進させていくことが重要である。我々はこの会議で、目覚しい進展をなしとげた。なぜ我々はこの問題に取り組んでいるのか、それは貧困との闘いのためである。それを思い出すことは非常に重要である。我々は正しい道のりにある。UNITAID やIFFimからはすばらしい進捗報告がなされた。それに加え、AMC、グローバル・デジタル基金と、我々は4つの具体的なイニシアティヴを進めている。我々は、リーディング・グループのなかで、これらの促進のためにさらに議論していかなくてはならない。引き続き取り組んでいくことが重要であり、ウェブサイトの活用などでネットワークを維持していくことが重要である。会議の議論に大きく貢献してくれたNGOに感謝したい。


3.評価、コメント、NGOの視点
 今回のオスロ会議は、会議前の時点から失望的な会議になるとの情報がNGO間で流れていた。ノルウェー政府は結果として、議長国の役割を無難にこなしただけで、特に大きな成果を生み出すには至らなかった。ノルウェー政府は今回、とにかく協力国の拡大に注意を払った模様である。NGOの求めるような通貨取引税や金融規制を早急に導入することになれば、ただでさえ積極的でない国々はグループから離れていくことになりかねない。したがって、「現状では、あまり大きな進展を図る時期ではない」との認識がノルウェー政府関係者にはあったようである。事実、今回のオスロ会議では、46カ国のメンバー国があるにもかかわらず、欠席した国が多数あったことは、非常に懸念される状況である。フランス、ブラジル、ノルウェーといった中心グループは、NGOの主張に十分理解を示しながらも、他国の説得に非常に苦労しており、ソールハイム国際開発大臣(ノルウェー)が「政治的意思の問題である」と強調したのも、そうした背景があるようである。NGOとしては、引き続き政府にプレッシャーを与えながらも、そうした政治的環境を十分に認識して戦略を考えることが重要であろう。

 ノルウェー政府はブラジリア会合に引き続き、NGOの政策提言を十分に会議に取り入れ、発言の機会も十分に与えた。各国政府代表とNGOがまったく同じテーブルで政策について議論するというのは、ノルウェー政府のNGO重視の姿勢をよく示している。その点は評価されてよいだろう。今後の韓国のイニシアティヴにおいても、NGOの政策提言活動はすでにこの枠組みでは欠かすことのできない存在になっており、韓国政府がどれだけそうした政策・アイディアを他国に広めることができるか、その力量が問われている。また日本の市民社会としても、韓国政府、韓国市民社会との連携を早急に模索していく必要がある。

 


                                     (了)

(文責 オルタモンド)





最新の画像もっと見る