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感染症内科への道標

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ATS/IDSA市中肺炎ガイドライン2019

2019-11-30 | 臓器別感染症:呼吸器系

論文名: Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America

雑誌: Am J Respir Crit Care Med Vol 200, Iss 7, pp e45–e67, Oct 1, 2019

著者名: Joshua P. Metlay et al.

Recommendations

  • Question 1: 成人CAPでは診断時に下気道分泌物のグラム染色・培養を採取すべきか?
  • Recommendation. 外来診療では喀痰のグラム染色・培養をルーチンで採取しないことを推奨する(strong recommendation, very low quality of evidence).

入院患者においては以下の場合において喀痰のグラム染色・培養を推奨する

    1. 重症である場合(特に挿管されている)場合(strong recommendation, very low quality of evidence)
    2. a. MRSA, 緑膿菌を想定した治療がなされている場合(strong recommendation, very low quality of evidence)

  b. 過去にMRSAか緑膿菌の感染歴がある場合(特に気道) (conditional recommendation, very low quality of evidence)

    c. 90日以内に入院し点滴での抗菌薬投与歴がある (conditional recommendation, very low quality of evidence).

  • Summary of the evidence. 

CAPの原因菌検索を行う理由として 1) 耐性菌の可能性 2) 抗菌薬を狭域にできるかもしれない 3) 公衆衛生上の必要性 4) 初期治療に反応しなかった場合の備え 5) CAPの疫学の更新

ただしルーチンでの検査が予後を改善したという質の高いエビデンスに乏しい

喀痰の評価で得られる事が少ない事が患者予後に与える影響の乏しさの原因

委員会では投票の結果、これまでのガイドラインと同様、成人CAP入院患者におけるルーチンの喀痰培養検査については賛成も反対もしない立場を維持する.

委員会では重症肺炎およびMRSA・緑膿菌リスクの高い場合の喀痰培養検査を推奨した.MRSA・緑膿菌リスクの高い場合、初期抗菌薬でそれをカバーした場合は陰性結果をもってde-escalationの根拠として良いかもしれない.最もMRSA/緑膿菌感染リスクとなるのは、過去の感染歴と90日以内の経静脈的抗菌薬投与歴だったため、この場合は培養検査を推奨した.

  • Question 2: 診断時に血液培養を採取すべきか?
  • Recommendation. 外来診療では血液培養の採取を推奨しない (strong recommendation, very low quality of evidence). 入院診療ではルーチンの血液培養採取は推奨しない (conditional recommendation, very low quality of evidence).

入院中、以下の場合において血液培養の採取を推奨する

    1. 重症 (strong recommendation, very low quality of evidence); or
    2. a. MRSA, 緑膿菌をカバーする初期抗菌薬が投与されている場合 (strong recommendation, very low quality of evidence)

    b. 過去にMRSA, 緑膿菌に感染歴がある場合 (conditional recommendation, very low quality of evidence)

            3. 90日以内に入院し経静脈的抗菌薬投与を受けている場合

  • Summary of the evidence. 

血液培養の有無による予後への影響について質の高いstudyはない.

非重症CAPでは血液培養陽性率は2%(外来)-9%(入院)程度+初期抗菌薬からの抗菌薬変更につながらない+コンタミネーションのため不適切な抗菌薬投与につながる.

 

  • Question 3: 成人CAPの診断時にレジオネラ・肺炎球菌尿中抗原検査を行うべきか?
  • Recommendation. 

重症を除き (conditional recommendation, low quality of evidence)、ルーチンでの尿中肺炎球菌抗原検査を推奨しない (conditional recommendation, low quality of evidence), 

ルーチンでの尿中レジオネラ抗原検査を推奨しない(conditional recommendation, low quality of evidence)

以下の場合は除く

    1. 疫学的にレジオネラ感染の疑いが強い場合
    2. 重症の場合 (see Table 1) (conditional recommendation, low quality of evidence).

重症では尿中レジオネラ抗原と下気道検体のレジオネラ培養検査か拡散増幅検査を行うことを推奨 (conditional recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence. 

Falgueraらの177人を対象とした尿中抗原検査による標的限定治療vsガイドラインに則った治療を無作為に比較した試験では死亡・再燃・ICU入室率・入院期間・抗菌薬投与期間に有意差を認めなかった.その後の262人を対象とした培養検査+レジオネラ尿中抗原検査を基にした標的限定治療もガイドラインに基づいた治療と予後に違いを認めなかった.医療費と抗菌薬の選択に関する観察研究でも尿中肺炎球菌抗原検査の有無で違いは無かった.それと対象的に尿中抗原検査に基づく治療で死亡率が低下したとする観察研究もある.ただし、その効果が尿中抗原検査による直接的な影響なのか、単に治療過程の改善を示す一つのマーカーに過ぎないのかは区別していない.

  • Rationale for the recommendation.

無作為試験では尿中抗原検査の効果は示されなかったが、観察研究では死亡率につながった報告もあり、重症に限り尿中抗原検査を推奨することとした.

  • Question 4: 成人CAPの診断時に気道検体でインフルエンザウイルス検査を行うべきか?
  • Recommendation. 

インフルエンザ流行期であれば迅速分子生物学的検査を行うことを推奨する(strong recommendation, moderate quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

インフルエンザ迅速検査は抗原検査から核酸増幅検査に移り変わっている。インフルエンザ検査の予後への影響についてのstudyは見つけられなかったが、今回の推奨はIDSAの一般的なインフルエンザ診療ガイドラインの推奨と合わせた

  • Question 5: 成人CAPでは抗菌薬投与を保留する際臨床的判断に血清プロカルシトニンを併用すべきか?
  • Recommendation.

CAPとして臨床的に疑わしく、画像的に確認できた場合、プロカルシトニンの値にかかわらず初期抗菌薬を投与することを推奨する (strong recommendation, moderate quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

プロカルシトニンが<0.1mg/Lでウイルス感染 、>0.25mg/Lで細菌性肺炎の可能性が高いとする報告もあるが、近年の入院患者を対象とした研究では両者を区別することのできるプロカルシトニンの閾値を定めることはできなかった.プロカルシトニンの細菌感染症に対する感度が38-91%と幅広いことは、プロカルシトニン単独ではCAPに対する抗菌薬投与を差し控えるのに用いることはできない事を示している.

  • Question 6: 臨床的予後予測ルールを用いて入院/外来治療の判断を行うべきか?
  • Recommendation.

 入院の判断において臨床的予後予測ルール(特にCURB-65よりPneumonia Severity Indexを推奨)を用いる事を推奨する (strong recommendation, moderate quality of evidence) .

  • Summary of the evidence.

CURB-65と比べるとPSIは死亡率をより高い検出力で区別できる.2つの他施設無作為試験ではPSIを用いる事で、より多くの患者を安全に外来治療できる事を示した. PSIと比較するとCURB-65は初期治療をどこで行うかの判断に用いるにはあまり役に立たない.CURB-65 2点以下の49人の患者に対し外来/入院診療の安全性について調べた研究では予後の違いを認めなかった.

  • Question 7: 一般病床に入れるかICUのような高度医療病床に入れるか判断す際は予後予測ルールを用いるべきか
  • Recommendation. 

血管作動薬や機械換気を要する患者は直接ICUに入院させる事を推奨する(strong recommendation, low quality of evidence).

血管作動薬・機械換気を要さない患者についてはIDSA/ATS 2007 minor severity criteriaを臨床的判断に併用して高度医療病床に入れるかどうかを判断 する事を推奨する(conditional recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

 PSI と CURB-65 は入院させた患者の診療のレベルの選択を補助するようには作られていない。高度医療病床の必要性を判断するために作られた予後予測モデルもある (ATS 2001, IDSA/ATS 2007, SMART-COP, and SCAP score).

2007 IDSA/ATS CAP guidelinesはICU入室を要する重症肺炎についての基準を記載しており,meta-analysisでは1つの大項目、又は3つの小項目を満たした場合のICU入室予測感度84%, 特異度78%と報告している. SMART-COPは血管作動薬・人工呼吸器を要する患者を予測するのに用いられるが,IDSA/ATS minor criteriaと5項目で重複する. SMART-COP3項目以上を閾値とするとICU入室予測の感度は79%, 特異度は64%だった.

  • Question 8: 外来診療ではどの抗菌薬を初期治療に選べば良いか?

 

  • Recommendation.
  1. 健康な外来成人患者であれば以下を推奨 (Table 3):
  • amoxicillin 1 g three times daily (strong recommendation, moderate quality of evidence), or
  • doxycycline 100 mg twice daily (conditional recommendation, low quality of evidence)
  • macrolide (azithromycin 500 mg on first day then 250 mg daily or clarithromycin 500 mg twice daily or clarithromycin extended release 1,000 mg daily) ただし肺炎球菌の耐性率が25%以下の地域に限り (conditional recommendation, moderate quality of evidence). 

   2. 並存症のある外来成人患者であれば以下を推奨 (Table 3):

  • Combination therapy:
    • amoxicillin/clavulanate 500 mg/125 mg three times daily, or amoxicillin/ clavulanate 875 mg/125 mg twice daily, or 2,000 mg/125 mg twice daily, or a cephalosporin (cefpodoxime 200 mg twice daily or cefuroxime 500 mg twice daily)
    • macrolide (azithromycin 500 mg on first day then 250 mg daily, clarithromycin 500 mg twice daily or extended release 1,000 mg once daily) (strong recommendation, moderate quality of evidence for combination therapy), or doxycycline 100 mg twice daily (conditional recommendation, low quality of evidence for combination therapy)

を併用

  • Monotherapy:
    • respiratory fluoroquinolone (levofloxacin 750 mg daily, moxifloxacin 400 mg daily, or gemifloxacin 320 mg daily) (strong recommendation, moderate quality of evidence).
  • Summary of the evidence.

 抗菌薬についてのRCTでは治療法の優劣に関するevidenceは乏しい.

入院患者に対する高用量経口AMPCや外来・入院患者に対するAMPC/CVAの研究は以前から有効性が示されている.

DOXYに関しては対象患者が少なくデータが限られる.65人を対象としたDOXY 100mg/12hr iv vs LVFX 500mg/24hr ivの比較ではDOXYの優位性が示されており、通常抗菌薬を対照とした無作為試験でもDOXYは反応の速さと抗菌薬変更の少なさと関連していた.

  • Rationale for the recommendation.

並存症のない外来患者ではAMPC 1g/8hr毎又はDOXY100mg/12hr毎を推奨した.AMPCの推奨は入院患者に対して有効性が示された文献を基にした.DOXYの推奨は試験データが限られているものの広域である事を理由とした。専門家は初回投与は200mgを推奨しているがこの方法で予後が改善するというデータはない.

前回のCAPガイドラインを改定するにあたり、委員会はルーチンでのマクロライド単剤使用に強い推奨を与えなかった.これはマクロライド耐性肺炎球菌による治療失敗のためである.ただしマクロライド耐性肺炎球菌の少ない地域ではマクロライド単剤使用も選択肢となる.

並存症のある患者ではより広域の治療を行うべきである.1. 初期治療が不適切だとより悪い予後を招きやすいため 2. 医療施設との接触や抗菌薬の投与歴があり耐性菌のリスクが高いため 

H. influenzaeに加え M. catarrhalis, S. aureus, グラム陰性桿菌が原因菌となりうる.

βラクタム系とマクロライド又はDOXYの併用を推奨した.これでDOXY、マクロライド耐性肺炎球菌やβラクタマーゼ産生Haemophilus influenzae, 腸内細菌,MSSA, Mycoplasma, Chlamydophilaをカバー可能である. 単剤で推奨した抗菌薬でも多くの菌に有効である.

以前のguidelineにあった、過去に推奨抗菌薬のうちどれかで治療を受けている患者は耐性リスクを考慮し他の抗菌薬を使用する習慣については許容する.MRSA, 緑膿菌リスクのある患者については外来治療になる事が稀であるが、これらの菌をカバーできる抗菌薬を要するかもしれない. We also highlight that although patients with significant risk factors for CAP due to MRSA or P. aeruginosa (see Recommendation 11) are uncommonly managed in the outpatient setting, these patients may require antibiotics that include coverage for these pathogens.

 

  • Question 9: MRSA, 緑膿菌リスクのない入院患者ではどの初期抗菌薬を使用すれば良いか?
  • Recommendation 9.1. 

MRSA, 緑膿菌リスクのない非重症CAPであれば以下のいずれかを推奨する

  • β-lactam (ampicillin /sulbactam 1.5–3 g/6 h, cefotaxime 1–2 g / 8 h, ceftriaxone 1–2 g daily, ceftaroline 600 mg / 12 h) + macrolide (azithromycin 500 mg daily , clarithromycin 500 mg twice daily) (strong recommendation, high quality of evidence), or
  • fluoroquinolone単剤 (levofloxacin 750 mg daily, moxifloxacin 400 mg daily) (strong recommendation, high quality of evidence).

macrolide又はfluoroquinoloneが使用できない場合:

  • β-lactam (ampicillin/sulbactam, cefotaxime, ceftaroline, ceftriaxone) + doxycycline 100 mg twice daily (conditional recommendation, low quality of evidence).
  • Summary of the evidence.

 殆どのβ-lactam/macrolide vs fluoroquinoloneを比較したstudyは非劣勢試験で規模が小さい←β-lactam/macrolide はfluoroquinolone単剤と同等の効果を示した

16 RCTs, 4,809 患者のsystematic reviewではfluoroquinolone単剤の方が治療失敗が少なく、下痢など副作用も少なかったが死亡率に差はなかった. 他の20試験のsystematic reviewではβ-lactam + macrolideとfluoroquinolone 単剤はβ-lactam単剤と比較し死亡率は低かった。

委員会はmacrolideやFQを使えない場合DOXYを推奨したが最近ではomadacyclineが非重症CAPに対しmoxifloxacinと同等という報告があるが、まだ方向が1報だけであり、今回の推奨から外した.

β-lactam単剤は後方研究でβ-lactam/macrolide併用と比較し死亡率が高かったため推奨から外した

  • Recommendation 9.2. MRSA, 緑膿菌リスクのない重症成人CAPでは以下を推奨する
  • β-lactam + a macrolide (strong recommendation, moderate quality of evidence);

又は

  • β-lactam + a respiratory fluoroquinolone (strong recommendation, low quality of evidence).
  • Summary of the evidence. 

重症CAPに対する治療を評価したRCTsが少なく, 異なる定義の観察研究を根拠とした. 10000人の重症患者を対象とした観察研究では macrolideを含む治療を受けた群は(ほとんどはβ-lactamと併用) macrolideを使用しなかった群と比較し有意な死亡率の低下を認めた (18% relative risk, 3% absolute risk) . β-lactam/fluoroquinolone vs β-lactam/macrolide を比較したsystematic reviewでは17の観察研究を含んでおりβ-lactam/fluoroquinoloneがβ-lactam/macrolideよりも死亡との相関を認めた.ただし決定的な推奨を出すには全体的に質は低い.

  • Question 10: 入院患者では誤嚥性肺炎を疑った場合嫌気性菌のカバーを加えるべきか?
  • Recommendation. 肺膿瘍や膿胸でない限りルーチンに嫌気性菌カバーを加えることを推奨しない (conditional recommendation, very low quality of evidence).
  • Summary of the evidence. 

誤嚥は成人の半数が睡眠中に起こしていると言われるほど日常的な出来事である. よって誤嚥性肺炎の本当の割合を評価することは困難であり、誤嚥性肺炎をその他と区別する定義はない. 全肺炎中5-15%が誤嚥と関連しているという評価もある.

胃内容物を誤嚥した場合、誤嚥性肺臓炎と判断される. ほとんどは 24 -48 時間で軽快し抗菌薬なしに支持的治療で改善する.

誤嚥性肺炎の細菌学的研究で高頻度で嫌気性菌を検出したが, しばしばかなり時間が経過した患者を対象にしていること, 経気管支鏡的手法で検体を採取していることが嫌気性菌の検出率が高いことに影響していると考えられる. 入院患者の急性誤嚥の研究では嫌気性菌はあまり重要な役割を果たしていないことが示唆されている.

ただし入院患者の誤嚥性肺炎で嫌気性菌をカバーした場合・しない場合の治療を比較したきちんとした臨床研究はない.

  • Question 11: 入院患者で緑膿菌・MRSAリスクの高い場合は広域抗菌薬で治療すべきか?
  • Recommendation.

広域抗菌薬を使用するかどうかの判断にはこれまでのHCAPの区分けをやめ(strong recommendation, moderate quality of evidence), MRSA か 緑膿菌のリスクがあるかどうかで判断することを推奨する (strong recommendation, moderate quality of evidence). MRSAの初期治療にはvancomycin (15 mg/kg every 12 h, adjust based on levels) か linezolid (600 mg every 12 h), 緑膿菌の初期治療にはpiperacillin-tazobactam (4.5 g every 6 h), cefepime (2 g every 8 h), ceftazidime (2 g every 8 h), aztreonam (2 g every 8 h), meropenem (1 g every 8 h), imipenem (500 mg every 6 h)がある.

初期治療でMRSA, 緑膿菌をカバーした治療を行なっている場合, 培養検査が判明するまでは継続することを推奨する (strong recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

HCAPは2005 ATS/IDSA guidelinesから院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎の治療として取り入れられ, 過去90日以内の2日以上の療養施設への入所歴,入院歴, 在宅点滴療法, 維持透析, 在宅創部処置, 家族の耐性菌保菌などのリスクのある場合が含まれる. HCAPの導入は通常の推奨抗菌薬ではカバーできない病原体を高頻度で検出していたからだが, いくつかの研究でHCAPの定義では薬剤耐性菌を予測できないことが報告されている. さらに, 広域抗菌薬が著しく増加したにもかかわらず患者予後が改善している様子は見えない.

MRSA, 緑膿菌感染に最も強く関連したのは特に気道からの過去の検出歴, 最近の入院及び経静脈的抗菌薬の暴露歴であった. まだ, 有効性が確認されたMRSA, 緑膿菌保菌を予測する点数システムはない.

観察研究では48時間経過し培養検査でMRSA, 緑膿菌がいないことが確認できればde-escalationしても安全であることが示されており, これは非盲検無作為前向き試験でも確認されている.

臨床家は地域のCAP患者におけるMRSA, 緑膿菌検出頻度を知っておくことを勧める

過去の気道検体のMRSA, 緑膿菌検出歴のある場合は非常に高い感染リスクがあることが十分なevidenceで確認できていることから、血液・喀痰培養の採取と通常のCAPに対する初期治療に加えこれらの病原体をカバーすることが推奨できる. MRSA, 緑膿菌に対する初期治療については2016 Clinical Practice Guideline from IDSA and ATS for the management of adults with hospital- acquired and ventilator-associated pneumonia を用いることを勧める.最近の入院と経静脈抗菌薬投与歴のある非重症CAPでは培養検査を行った上で広域抗菌薬は使用せず, 重症肺炎では標準的な治療に加えて抗菌薬のスペクトラムを広げ、48時間後の培養陰性を確認してからde-escalationすることを推奨する.

鼻腔MRSA迅速検査を支持するデータは多く、非重症CAPでは鼻腔スワブが陰性であればMRSA肺炎に対する治療を差し控えることができる. ただし陽性予測値はそれほど高くなく鼻腔スワブが陽性の場合でも喀痰血液培養を採取し,陰性だった場合はde-escalationすべきである. 

  • Question 12: 入院CAPではステロイドを使用すべきか?
  • Recommendation.

非重症CAPではルーチンでのステロイドの使用を推奨しない. (strong recommendation, high quality of evidence).

非重症CAPではルーチンでのステロイドの使用を推奨しない. (conditional recommendation, moderate quality of evidence).

インフルエンザ肺炎でのルーチンでのステロイドの使用を推奨しない (conditional recommendation, low quality of evidence).

不応性敗血症性ショックでのステロイド使用はSurviving Sepsis Campaignの推奨を用いることを勧める.

  • Summary of the evidence.

最初に出た2つのRCTでステロイド使用によりCAPの死亡率・入院期間・臓器障害が優位に低下することを示した.その後のRCTでは主要な臨床的有効性を示すことができていない. 

いくつかのmeta-analysesでは重症CAPでのステロイド使用により死亡率の低下を占めてしているが、用いた重症CAPの定義が異なっていた. ステロイドの副作用として有意な高血糖・二次感染の増加の可能性を認めた. ステロイド群での死亡率の増加を示した研究はなかった.

インフルエンザ肺炎では小規模後方研究のmeta- analysisではステロイド群で死亡率の上昇する可能性があることが示された.

  • Question 13: 成人CAPでインフルエンザ検査要請であれば抗ウイルス薬を含む治療をすべきか?
  • Recommendation.

入院患者でインフルエンザ検査陽性であれば発症後の期間に関わらずoseltamivirのような抗ウイルス薬を使用することを推奨する. (strong recommendation, moderate quality of evidence).

外来CAPでもインフルエンザ検査陽性であれば発症後の期間に関わらず抗ウイルス薬を使用することを推奨する (conditional recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

抗インフルエンザ薬のインフルエンザ肺炎患者に対する効果を評価した研究はない.外来CAP患者で抗インフルエンザ検査陽性となった場合の抗ウイルス薬の効果も示されていない.

いくつかの観察研究ではoseltamivirはインフルエンザ検査陽性となった入院CAP患者の死亡率低下との相関を示した.発症2日以内に治療を開始することが最も良好な予後につながるが4-5日経過してもおそらく有効だろう

外来でのインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の使用は有症状期間の短縮と下気道合併症の減少につながるが、発症後48時間以内に使用することが最も有効である.

  • Question 14: インフルエンザ検査陽性のCAP患者では抗菌薬を含む治療をすべきか?
  • Recommendation.

インフルエンザ検査陽性でも臨床的・画像的にCAPに合致していれば標準的な抗菌薬を使用することを推奨する. (strong recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

細菌性肺炎はインフルエンザウイルス感染と同時あるいは遅れて症状の悪化として発症することがある.

インフルエンザと細菌性肺炎で入院した患者の10%が死亡する.2009年のH1N1インフルエンザパンデミックの際のでは死亡者の30%で細菌性肺炎が合併していた.

S. aureusが最も多い原因菌で、ついで肺炎球菌, H. influenzae, group A Streptococcusだった.これらの病原体の分布よりCAPに対し推奨されている標準的な抗菌薬が妥当である.

  • Question 15: 外来と入院CAPで経過が良好であれば抗菌薬投与はどの程度の期間投与すれば良いか?
  • Recommendation.

抗菌薬の投与期間は適正な臨床的安定性の評価で行い、最低でも5日間継続することを推奨: vital signの異常の改善 (strong recommendation, moderate quality of evidence).

  • Summary of the evidence. 

CAPの適正な治療期間についてのRCTは入院患者に限られている. その研究では3日間の点滴amoxicillinで改善した患者に追加で5日間の経口アモキシシリンを投与した群とプラセボ群, 2日間の点滴cefuroxime投与後に5日間 vs 8日間の経口cefuroximeを投与した群で違いはなかった. 同様の結果はlevofloxacin5日間750mg vs 10日間500mg/day, 点滴ceftriaxone 5日間 vs 10日間でも得られた. Meta-analysisでは5日間 vs 7日間の抗菌薬投与で同様の効果を示した.

Procalcitoninを参考にした投与法の研究もなされているが、多くの場合米国の標準的投与期間を大幅に超過してしまう. またウイルスとの混合感染やレジオネラ・マイコプラズマなどの病原体でprocalcitoninが上昇しない危惧もある.経時的procalcitonin測定法は平均的な滞在期間が標準的治療を上回る状況なら役に立つかもしれない.

5日間で改善が得られない場合高い死亡率と悪い臨床的予後と関連しており, 抗菌薬に耐性の病原体がいないか、膿胸や肺膿瘍のような合併症がないか、他に感染巣がないか再評価すべきである.

臨床的安定性を使用した場合、抗菌薬の投与期間が予後の悪化なしに短縮できたという報告があり, 全ての臨床家は臨床的安定性をCAP診療に使用すべきである.

長期の治療は髄膜炎・心内膜炎・他の心在性感染症・他のまれな病原体 (e.g., Burkholderia pseudomallei, Mycobacterium tuberculosis or endemic fungi)の際に考慮する.

5日間を治療期間とすることを支持する多くのstudyが重症CAPを除外しているが、合併症がなければこれらのstudyから得られた結果は重症でも当てはまると考える. 院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎ガイドラインと合わせるためMRSA, 緑膿菌のCAPの治療期間は7日間とすべきである

  • Question 16: 成人CAPでは改善が得られた場合画像的にフォローすべきか?
  • Recommendation.

5-7日間の間に症状が軽快した場合ルーチンで胸部画像検査を行うことを推奨しない (conditional recommendation, low quality of evidence).

  • Summary of the evidence.

肺炎の画像検査の再検の有効性のデータは少ない. 最もデータが得られているのは治療開始時に分からなかった悪性腫瘍を再検査で発見できるかどうか. 肺炎から回復した患者に悪性腫瘍が隠れている確率は1.3-4%程度、ほとんどが喫煙歴がある. 退役軍人の肺炎生存者を対象とした長期研究では9.2%に肺癌が見つかっているが診断までの平均期間は297日であり、退院後90日以内に診断できたのは27%にすぎず退院後のフォロー検査は得るものが少ない.

 

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