忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

77年間“上下逆さま”に展示されていた名画気づいた学芸員「戻して見ると深みが増した」

2022年11月02日 | 忘憂之物






東北大学名誉教授の西澤潤一氏が1971年、パリのマルモッタン美術館でクロード・モネの「睡蓮の池」をみると逆さまだった。西澤氏は中学生の頃に絵画部だったが、専門は電子工学、半導体デバイスだ。まさか87億円もする名画、芸術の都の専門家が気づかないはずもない。西澤氏は半導体関連の特許数が世界最多だが、べつに絵画の専門家ではないとして黙っていた。

それでも西澤氏は気になったのか、翌年も行ってみると、まだ逆さまのままだった。しょうがないから西澤氏は自分の名刺に「モネ、逆さまですよ」と書いて、こっそり美術館の守衛に渡したら、それが「ル・モンド」紙に載って騒ぎになった。マルモッタンの学芸員らはたぶん、環境保護と関係なく、モネの絵にトマトソースでもかけたいほど恥ずかしかったかもしれない。

その10年前にもニューヨーク美術館でアンリ・マティスの「船」が、イベント開催中の47日間も逆さまだった。延べ11万人以上が絵画を観に行った。みんな「さすが色彩の魔術師ですね」とか言っていたかどうか知らないが、客だけではなく学芸員も気づかなかった。最終日の前日、夕方になって観客のひとりが気づいたが、その理由は「パンフレットと反対だったから」。「脳トレ」のクイズのレベルだった。


モネの「睡蓮の池」の逆さまに気付いた西澤氏は、例えば小学校のとき「りんごが1個、みかんが1個あります。合わせて何個?」がわからなかった。多くの生徒は教師に忖度して「ここは2個だな」とか思考を放棄するが、西澤氏は「リンゴとみかんは別物だ。合わせることは可能なのか」とか考えてしまう。こういう子供でなければ将来、半導体から絶縁体へのホットエレクトロン注入理論を考案したり、半導体への不純物導入手法としてイオン注入法を発明したりしない。面倒臭い子供はのびのび育てたい。

ところでまた、逆さまが発覚したとか。オランダの抽象画家ピート・モンドリアン作の名画『ニューヨークシティーⅠ』が77年も上下反対だったとのことだ。気づいた学芸員は「突然、深みが増した」と感想を述べている。「ただのテープを張った板」にしかみえない私はよくわからないが、なるほど、まあ、そう言うならそうなんだろう。

逆さまは1941年から、ということだが、その年は真珠湾攻撃の年でもあった。その頃から「逆さま」にされていたのは、例えば「日本はアジア各地を植民地にしていた」だ。実際は逆だ。事実はこの年の真珠湾攻撃からアジア各国は植民地支配から脱していく。

日本を絶対に戦争に引きずり込む、という目的は達成されていた。追い込んで挑発し、真珠湾を攻撃させるまでは順調だったが、その後の展開はちょっと違っている。チャーチルの回顧録にも「即座に日本は粉微塵になる」とあるように、英米艦隊とB-17重爆撃機を誇る連合軍は「白人より2000年遅れた頭蓋骨」の野蛮人なんか瞬時に殲滅できると思っていたが、ふたを開けると「浮沈艦」と威張ったプリンオブウェールズも沈んでしまって、英米艦隊は過半以上がやられた。英国の力の象徴、シンガポールも陥落。チャーチルは枕を濡らしていた。

ドイツもイタリアも落とせなかった「落ちないはず」のB-17もゼロにやられた。太平洋の重要戦略拠点だったフィリピンも落ちた。半年待たずにインドネシア、ビルマ、フィリピンから白人が追い出され、インドもベトナムも植民地から脱せられるんじゃないか、と気づいてしまう。ルーズベルトは脳卒中で死ぬほど悔しかったに違いないが、つまり、逆に言うと日本はアジア各国を植民地にしたのではなく、植民地だったアジア各国を解放しているわけだ。

これも長らく「逆さま」にされてきた。誰かが指摘しても取り合ってくれなかった。それでも公然と指摘すれば政治家なら辞任に追い込まれたり、コメンテーターやら芸能人なら干されたり、当時の航空幕僚長、田母神氏も「日本は良い国だ」と逆を言ったらクビになったりした。戦後日本は「逆さま」に気付いても黙っている他なかった。


他にも「逆さま」に貼り出されたモノは戦後、それはそれはもう、たくさんあった。朝日新聞などは絵心があるつもりか、自分でアザミサンゴに「KY」とか削り掘ってみたりした。そもそも逆さまどころか「従軍慰安婦」とか「南京大虐殺」とか、こんな名画がございます、と紹介するが、いまではもう、自分で描いただけの駄作であることも判明している。


小学生の頃の西澤氏のようにはいかないが、なにか情報に触れた際、これは本当だろうか、これはおかしくないか、こういう見方はできないか、と思案するのも重要だ。知ったかぶりして「逆さま」のモノを真上から解説したりしていれば、実のところ、それが「逆さま」だったり、素人がふざけて描いたものだったりと周知されれば大恥もかく。それに世の中、逆さまばかりでもなく、隠し絵や騙し絵のような悪質なものも少なくない。一見すると害もないような、水洗便所のようにキレイなモノでもコトでも、注意深く目を凝らしてみると「見えて」くるものがあるかもしれない。

また、少し前も書いたが、騙し絵などは「一度見抜いたら、もう引っかからない」というのも大きい。ある程度「見方」というものがわかるからだ。ただ、別のトリックもあるから気をつけたい。2019年以降、いろんな種類があるようだが、かなりバレてきた。見抜く人は増えていると感ずる。しかし、見えていない人が悪いわけでもない。無関心で無防備なら見えなくて当然だし、いつの世も騙されるほうより騙すほうが悪いとしれている。

もうすぐアメリカ中間選挙がある。すでにいろんなコトが逆さまに、あるいは斜めに横にされている。朝日新聞みたいにまるまる自作の「作品」も少なくない。それらに気づけばモンドリアンの絵画が「突然、深みを増した」と学芸員が言うように、日本の歴史や日本の国柄が突然、深みを増してみえてくる。

驚くはずだ。日本という国は本当に深みのある国だ。




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