新しい最低給料の額が昨日発表され、来年1月から適用される。788レアルから880レアルへ11.6%増額。現行のルールではインフレ率(INPC)に2年前の国内総生産を加算して決められる。2016年の予算を国会が承認したときは、870.89レアルが想定されていたので、それより高い調整率になった。
最低給料は公務員の給料、年金その他に直接適用され、また全体的に雇用者の給料を決める時の規準とされるのでインパクトは大きい。また政府にとっては、予算のときの額との差で47億7000レアルの歳出アップとなるという。膨大な財政赤字を抱えている上に、また障害が一つ増えた。
今年のインフレ(IPCA)は10.78%になりそうだ。10%を超えてやばいなと思っていたら、四捨五入したら11%ではないか! インフレはすべての価値修正(Correção Monetaria)にインデックスされる。労働者の給料は所属する組合と雇用者側の組合との合意で調整されるが、インフレ率以下にはならない。その結果、すべてのコストが上がり、企業はそのコスト上昇分を製品やサービスに転嫁するのでまた物価が上がり、給料に跳ね返ってという具合にどんどん膨れ上がっていくのである。
景気が悪く、消費者の購買力が落ちているのだからモノの値段は下がるだろうというのは、完全自由経済でのことで、上に書いたように人件費からして売上や利益に関係なく強制的に上げさせられるところでは、需要が落ちたからといって値段は下がらない。製品の値段にインフレを反映させることのできない企業は、利益を落とすか赤字に転落する。それを避けるには、経費を下げるために従業員を解雇するしかない。すると巷には失業者が増えてまた市場が冷める。
このようにブラジルのインフレは需要インフレではないのであるが、財政赤字を抑え切らない政府は利子を上げることによって安易に対応しようとする。今月は据え置きだったけど、来月から再び利上げサイクルに入ることが見込まれている。こんな高い利子を使って投資をしようという企業はいないから、ますます企業の投資マインドは冷え込む。消費者はクレジットでモノを買えなくなり、消費は落ち込む。今年のクリスマス商戦はひどい結果になり、クレジットの与信機関によると6.4%も落ちたという。
ブラジルはレアルプランまでこの負のサイクルにどっぷりと浸かってハイパーインフレに苦しんだのだが、また棺桶に足を突っ込もうとしているような嫌な予感がするのである。もっとも以前とは外貨準備高が違い、対外債務の利払いなどは問題になっていないので(内債はどんどん膨れて問題が顕在化しているが)、悪夢が戻ることはないだろうけど、やっぱり僕らにはトラウマになっている。
2002年に始まった経済成長はコモディティの国際価格の上昇、南米最大の消費市場を目指した外資の流入、そしてその結果起きた消費市場の加熱が理由である。PTが何かをしたわけではない。本来ならその余裕のあるときに労働法を含めて構造改革をしなければいけなかったのだが、政治家は構造を変えると取り分が少なくなるので、そのまま放置して、今からゾッとするような金額の汚職が進行したのである。
と悲観的なことを書き続けたが、楽観的なシナリオを少し書いてみたい。
為替がレアル安に動き、景気が落ち込んで株価が下がった状態の中、外資によるブラジル企業の買収がさかんに行われている。化粧品、食品メーカーから野菜専門のスーパーまでその範囲は広い。元ポンデアスーカの会長だったAbilio Dinisは、「企業のバーゲンが行われている」と不快感を表したが、これは取りも直さず、中期的、長期的にブラジルの国内市場が魅力を失っていないということである。車メーカーはもっとも生産、販売ともに落としている分野だが、レイオフ、集団休暇、新工場の操業延期などはしていても、目立った投資のキャンセルなどは発表していない。
次にレアル安は輸入品の値段を高くして、インフレの要因の一つとなってコスト高を招くのだが、それでもブラジル製品の国際競争力を高めるには必要なことである。だいたい以前の2レアルを割ったような相場が異常だったので、今は正常化しているとも言える。資金的には外国企業は投資しやすい環境だ。またレアル安は農業分野、資源の国際市場での相場低落をカバーしている。
最近よく聞かれるのは、今回は経済危機ではなく「政治危機」だという言葉で、上院と下院の議長がペトロブラス関連の汚職で捜査を受けていて、それぞれが大統領罷免の鍵を握るポジションにいることを利用して保身を第一に議会を運営するという茶番劇を演じているのを国内外の企業が信用しないのである。「政局が落ち着きを見せて、方向がある程度定まるまでは静観」というのが大方の本音だと思われる。したがって大統領の罷免あるいは、下院調査委員会での偽証かラバジャット捜査の妨害のどちらかで下院議長の議員権剥奪決まれば、企業も動き出すだろう。静観にも限界があり、企業というのは結局投資をしてモノやサービスを作って売らなければ生き残れないのだから、少しでも見通しがつけば引き出しからはプラン、銀行からは内部保留を出してきて仕事を始めると思われる。そのときのスピードは冬眠期間が長いだけに速いと思う。
問題はそれがいつなのかということである。