先日、久しぶりにテマケリアに行った。テマケリア(Temakeria)というのは、手巻き寿司専門店のことで、文字通り手巻寿司を中心に提供している日本食レストランのことである。日本では考えられない海苔を半分使った大きなもので、三角に巻いてたっぷりと「具」が入っている。
この業態が一般になったのは、10年くらい前からである。ブラジルでの寿司ブームは1990年代に米国の影響などを受けて始まったが、テマケリアが登場するまではメニューの一部として手巻きが取り入れられて人気を呼んでいたにすぎない。しかし、手巻きだけを抜き出して専門化した発想には感心する。この業態が一気に拡大した理由の一つは手軽さがブラジル人に受けたこともあるが、日本食レストランを経営するうえで常にネックになっている寿司職人が必要ないということである。握ったり、魚をネタ用におろす必要がなくて、いわば素人でも簡単にできることは、家庭で気軽にやってきて僕たち日本人にはわかる。職人いらずで人気も高い、となれば急成長するのも当たり前だ。箸を使わなくて食べれるというもう一つのファクターもある。
それは「世界で初めての手巻き専門店」と謳っている大手フランチャイズグループのYoi Roll´s & Temaki社の創業経緯でもわかる。同社のサイトによると、それまでイベントなでの日本料理の提供をしていたが、2002年のある週末に寿司バーの設置する契約が重なり、寿司マンの用意ができなかった。困り果てた経営者は簡単に素早くできる手巻きに絞り込んで出したところ大ウケしたということである。それがきっかけになって翌年一号店をサンパウロに開いている。
テマケリアで提供される手巻きの種類は多岐にわたるが、基本的に米国で発展した巻物の流れを汲んでいて、それらを細巻きにする代わりに円錐形に手巻きにするという具合である。使われるのはサーモンが主体で、極端なことを言えば、サーモンにいかにバリエーションをつけて出すかということに尽きると思う。単純に叩いてネギトロのようにしたものから、マヨネーズ、クリームチーズを混ぜ込んだものもある。Yoi Roll´s & Temakのメニューにはサーモンだけで24種類載っている。「なんちゃって寿司」と揶揄されるけど、これはこれでクリエイティブなメニュー開発と評価してもいいのではないか。
今回行った店で関心したのは大と小のサイズを選べることだった。たしかに胃袋の大きいブラジル人でも、でかいのを一つ食べればお腹がいっぱいになって、種類を楽しむということができない。僕には二つでちょうどいいボリュームだった。そしてもっと関心したのは、最初から醤油とワサビを混ぜたものが油差しのような容器に入れてテーブルに置いてあることだった。確かにこれが要るのである。溢れ出るように具が入っているから、日本人にトラディショナル方法で醤油皿で醤油をつけようとしたら具が皿にこぼれてしまう(僕は最初少しずつ具を食べて減らし、それからかぶりつくようにしている)。それでは醤油差しから手巻きに直接かければいいと思われるが、ブラジル人のワサビ好きは尋常ではないので、ワサビの入っていない醤油だけで寿司を食べるというのは許されない。だから最初からワサビの入った醤油が必要なのである。これにはもう少し解説がいるかもしれない。ブラジル人向けの寿司バーではネタにワサビをつけて握るなんてことはあまりしない。醤油皿にごってりとワサビを溶かして、それにどっぷり漬けて寿司を食べるのである。それが普通だから、手巻きのシャリにワサビをつけてという発想はありません。
巷の噂ではテマケリアも増えすぎて淘汰もおこっていると聞くし、お客に飽きられはじめているともいう。だからいろいろとメニュー開発をしたり、お客の便宜をはかることがおこなわれているのだけど、以前と比べて手巻き以外のメニューが増えているように思う。ヤキソバやシメジのバター焼きをだしたり、握り寿司も用意して、刺し身とのコンボを提供している。いわば回帰運動だが、こうなってくると一般の日本料理店との差がなくなり、テマケリアと名付ける意味もなくなってくるかもしれない。
最後にマーケッターとしていつも思うのだけど、テマケリアで使われている輸入品はサーモン、海苔とワサビぐらいなものである。トビコが人気があるのでそれが使われていることもあるが。サーモンはチリ産、海苔とワサビは中国製である。手巻き寿司という日本料理がこれほど普及していながら、日本のメーカーに益するところがないのである。これはある意味、販売機会の喪失である。日本では食品の輸出促進が課題となっているが、日本のものをそのまま出す時代は終わりつつあり、圧倒的なシェアをもつ「なんちゃって日本食」系のレストランに合わせた商材の開発が求められていると思う。
テマケリアには何十軒をもつグループもあり、業界はすでに大きくなっている。本物の味が評価されない「なんちゃって日本食」と言って敬遠するのではなく、テマケリアに合った食材の開発、提案といったものがあってもいいと思われる。例えば日本のある漁協が中国からの輸入品に対抗してブラジルでの海苔生産の可能性を探っているが、日本のおにぎりで使うフィルムシートにして販売するとかである。パーティーなどでも手巻き寿司はだされるし、また何とスーパーでも売られている。当然、海苔はぐったりととてもいただけたものではない。そういうときにフィルムに入った海苔は威力を発揮すると思う。レストランだったら作りおきにできる。あのフィルムシートはブラジルのメーカーではまだ作るのは難しいと思う。
この分野、ちょっと専門なので長くなりました。