コロナウィルス対策でもう2週間以上、「社会的距離」生活を送っている。家に閉じこもっている。サンパウロではさら22日まで延長された。強制的にレストランはテイクアウトとデリバリーだけになり、スーパー、食品店、パン屋以外は店を閉めている。オフィスも閉まり、メーカー、交通その他の基幹業務以外の会社はオフィスを閉め、従業員は家でテレワーク。外出を禁止されているわけではないので、まったく人通りがないわけではないが、そうとう街なかは静かである。
政府は他国と同じように未曾有の大不況に備えて(いくら備えても避けられないが)インフォーマル労働者に対して均一600レアルの支給、退縮積立金の切り崩し、従業員を解雇しないことを条件にした企業への特別融資、資金繰りのための特別融資などをこの一週間で一気に発表した。ブラジルは極端な財政赤字に陥ってきたため赤字幅を法令で定めており、それを超えて支出すると大統領、地方自治体の長は訴えられるため、特別予算を編成するためにいち早く「緊急事態宣言」を出した。またどうせ不況でインフレはおこらないからレアル札を増刷したらいいという声まで出てきている。
ここまではどの国でも共通した動きだと思うが、ただブラジルが大きく違うのは大統領がコロナウィルスを「ちょっとした風邪」と定義し、また「ブラジル人は強靭なので下水に飛び込んでもへっちゃらだ」ということを公の場で言うだけでなく、支援者のマニフェストに飛び込んで握手をして、いっしょに写真を撮ったりして、自政府の保健相が自粛を訴えているのと真っ向から反対するという、凄まじいことがおこっていることである。いわばコロナウィルスとそれへの対応が「政局」になってしまっているのである。
市民はというと、人にも会えなく、行き場所を失ってそうとうストレスは溜まっているが、やはり他国の状況から言って相当危ない、またブラジルの医療体制がどれだけひどいかを知っているため、失業、収入を失うことも怖いけど、コロナウィルスも怖いと緊張感をもって耐えているように見える。もしデクレットで規制をなくして通常に戻すようにしても、自己判断がきき、大部分の市民や会社はすぐには戻らないと思う。このあたりの判断の健全さがあれば、この国はトップがどうであれ、この未曾有の事態を乗り切ることができると僕は信じる。
ブラジルの森林火災の急増がが世界的な話題となっており、ブラジル政府に国際的なプレッシャーがかかってきている。もともとINPE(全国宇宙研空所)が発表したデータに大統領がイチャモンをつけ、所長の解任にまでつながったことから、マスコミで大きくとりあげられることになった。たまたま同時期に開催されたG7でも議題にされ、2200万ドルの緊急援助が醍庵されたが、それを大統領は内政干渉だと断わるものの、後に干渉がないなら受けるというお粗末さを見せている。要するに世界の中での環境問題の重要さ、デリケートさについて認識していなかったために混乱しているのである。
直接的な影響は、穀物メジャーの森林伐採地域期の穀物の扱いのボイコット、伐採地域の牧場の牛皮の輸入ボイコット、さらにサーモン養殖業者によるブラジル参大豆のボイコットなどにあらわれてきている。政治ではなく、産業界からの圧力の大きさは見逃せない。この先、どのように広まり、またどのようにブラジル政府が反応していくかは注目される。
火災と一言で言われているが、実際はサトウキビ農場の火入れや自然火災も含まれるので、増加分のすべてが人為的な違法伐採とその後の火入れではないのは事実である。それを差し引いてもデータを見ると今年の増加は激しい。
マスコミで使用されているINPEのデータはサテライト画像を含めて次のリンクで確認することができる。
Programa Queimada
8月31日までの「火災箇所」は90,501で前年同期間と比べて71%増加になっている。マスコミでさかんに報道されたときは81%だったので、軍隊を投入してから少しは沈静化したものと思われる。それにしてもこんな重要なデータがポルトガル語でしか公開されていないのは大きな問題だと思う。
ボーイングがエンブラエルを買収しようとしているニュースがマスコミを賑わしている。最初は地方用の中型機の部門が欲しいということだったが、軍用機の分野にも興味を示しているということが報道され始めている。
エンブラエルは1969年に設立された国営の航空機メーカーで、1994年に民営化されている。世界ではボーイング、エアバス、ボンバルディアにつづいて4番目のメーカーだ。エアバスが同じく中型機に強いボンバルディアと提携に入ったことから、ボーイングがエンブラエルに触手を伸ばすのは自然かもしれないが、エンブラエルはまだブラジル政府も拒否権を発動できる株を持っている。今日の新聞によると、政府は拒否権を手放す意志はないけれども、交渉のテーブルには座る意志を見せたようである。いずれにせよ軍需産業でもあるので、米国政府との二国間の交渉になるだろう。
それにしても業界再編性というか、大型の買収で一極集中が加速している。また外国企業がブラジルの優秀な企業を買ってしまうという流れも止まらない。僕の分野の広告業界では、もうずいぶん以前から国内資本の大手代理店は残っていない。電通もそのプレイヤーの一つでブラジルの代理店を買いまくってきた。
配車サービスの分野では、昨日、タクシーとプライベートカーの配車サービスをする99社を、中国のDiDi(ディディチューシン)が10億ドルで買うということも報道されている。
もう完全に世界のビジネスの土俵になっているわけで、もう逆戻りはないのだろうけど、それに唯一抵抗しているのは政府機関で、何も外国企業だけを対象にしているわけではないが、あらゆる障壁を設けて、ビジネスをややこしくし、コストのかかるようにしていると思われる。