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ブラジルとブラジルのマーケティングあれこれ

ブラジルで日々おこることをマーケッターの目で解説するページ。広告業界の情報も。筆者はブラジル在住29年目。

ポンテプロンタ広告ブログ

ブラジル、サンパウロで活動する広告会社のブログです。展示会、イベント、マテリアル製作、調査・マーケティング・コンサルティングの分野で、主に日本の企業、政府関係機関の業務のお手伝いをしています。日本語とポルトガル語のバイリンガルでアテンドいたします。 www.pontepronta.com.br

ツーリズモ・ルアルの裏で

2010-08-07 09:16:59 | アグリビジネス
ツーリズモ・ルアルというのがはやっている。翻訳すると農村ツアーだ。ようするに都会の喧騒を逃れて、週末を農家がやっている民宿や、もうちょっと規模が大きいとホテル・ファゼンダ(農場ホテル)で過ごして野菜の収穫を手伝ったり、コーヒーを見たり乾燥・焙煎したりという農村暮らしを体験するというのものだ。たしかにサンパウロのスモッグ、渋滞、治安の悪さ、対人関係を考えると、そういう息抜きも必要だ。また、この街で子供をもっているとよくわかるが、外で子供を自由に遊ばせることがどれだけ大変かこと、またコストのかかることか。

でも反対にそういう都市疲弊家族を受け入れる方の事情はどうなのか。牧場はますます大規模化して100頭、200頭の規模ではとても食えなく、1000頭でも土地という資産はもっていても、手取りはサラリーマンの方がいいし、リスクがない。

コーヒーでも20ヘクタールぐらいでは、とてもじゃないがリスクに見合う手取りはない。野菜はもっと悲惨、農業の神様といわれた日系農家が90年の入管法改正と同時に日本へすっ飛んで行ったように、家族農業に毛の生えたぐらいの規模では成り立たない。農業技術も実はそんなに大したものではなく、使っていた労働者は簡単に覚えて、しかも彼らは低収入に耐えることができるので、野菜の安値にも強い。日系人はNHKを見るための衛星放送の払いもあるし、子供はそこそこの学校に入れなければいけない。だから出稼ぎがヒットしたのである。

ツーリズモ・ルアルの背景にはこういう事情があると思う。農業生産で金が稼げないので、何とか自分たちの経営資源で収入を増やすことができないかと考えた上での事業なのである。宿泊客の受け入れの収入が全体の半分以上になっているところが多いという。これは最初に書いたとおりマーケティング的に正しい。都市の子持ちの家族のニーズと農家の思惑が一致したのである。自分たちの経営資源に新しい意味(コンセプト)を与えて新しい商品として、必要としている顧客に提供するというのは非常に正しい。

しかし、僕はそこにブラジルの家族農業の疲弊を見る。フェイラ(露天市)からスーパーマーケットへ消費者の購買ポイントが移った時点から、ブラジルの農業は大型化が進み、家族農業は成り立たなくなっているにではないか。日系農家でいえば、一部、高級果実などはまだ生き残りの道があるかもしれないが、流通が力をもってきている現在、生産者の売り手市場の消滅というのは、非情な現実として迫ってきているのではないだろうか。

ブラジルの貧困問題の解決策の一つとして、家族農業の繁栄というのを高く評価していた僕としては複雑な思いをしている。規模に対抗するために組合があったのだが、組合は組合であるために競争原理からはずれて、少なくとも南米一といわれたものと、二番手がほぼ同時に潰れてしまった。

やはり農業は農業法人に任せて、これまでのプレイヤーは、今ブラジルが確実に歩んでいるサービス業に吸収されるべきなのだろうか。