2014年のワールドカップの準備で「ワールドカップ法」ともいうべきものを国会は作ろうとしているのだけど、今週、FIFAの代表と下院の担当委員会との会合が行われた。以下にあげるようなさまざまな点について両者で思惑が異なっており、それのすり合わせをしようというものだ。
アルコール飲料のスタジアム内での販売
ブラジルのスタジアムでは国内法でビールを含めあらゆるアルコール飲料の販売が禁止されている。まぁ酔っ払って大変なことにならないようにという予防措置だ。アルコールがなくても「大変な」ことになることがあるのだが。日本のように野球場でうまいビールを、ということができなくなっている。
これがFIFAにとって大問題。バドワイザーが1986年から公式スポンサーとなり、今度の大会のスポンサー料は2500万ドルにもなっている。このスポンサー料と引き換えにバドワイザーはスタジアム内でのビールの独占販売の権利をもらっているのだ。バドワイザーはこの8月にブラジルでの生産、販売がはじまったばかりで、今度のワールドカップは最大のマーケティングチャンスだ。
実はこのバドワイザー、ブラジルとベルギーの合弁会社であるInBev社に2008年に買収されている。このInBevというのは、ブラジルの最大のビールメーカーであるAmbev社とベルギーのInterbrew社と合併してできた企業である。だから今やバドワイザーはブラジルの企業のビールになっている。
だからワールドカップのスタジアムで販売できないということはAmbev社の沽券にかかわることなので、あらゆる政治力を使っても販売を認めさせるだろう。ブラジルでロビー力がものをいうのはこういうときだ。
学生と高齢者の半額入場料
ブラジルは学生のコンサートや映画などの入場料は半額という美味しい学割制度をもっていて、政府はそれをワールドカップの入場料にも適用しようとしている。また65歳以上の高齢者向けにもそういう法律がある。因みに65歳以上の人は無料で地下鉄、バスに乗れるというようになっている。
それをワールドカップで同じようにやられてはたまらない、1億ドルの損害になるとFIFAは主張している。すでに高いので、損害を埋めるために「定価」の値上げもしたくない。政府も値上げしたら国民の不満が吹き出し選挙に影響する。でも半額をキャンセルしても不満はでる。難しいところだ。因みに2014年は大統領選挙の年である。
この件についてのソフトランディングは、ある一定の割合(10%ぐらいという)入場券を学生、高齢者に25ドルぐらいで売ることだという。ごまかして入手して入ろうとする輩が多出するから、入場口で身分証明書と突き合わせてのチェックが必要になるのだろうけど、実際がそれができるの? という感じ。また抽選の仕組みを作るのも大変だ。宝くじの仕組みは世界一といっていいぐらい進んでいる国だからブラジルは大丈夫か。
大会専用の裁判所?
このあたりは僕なんかはよくわからないのだけど、FIFAは大会の問題を専門に扱う裁判システムを求めている。だらだらと訴訟を抱えたくないのだろう。だいたいブラジルの裁判システムは時間がかかることで悪評が高く、これによって政治家を含めて大悪党たちが得している。大会で法的な問題があった場合、FIFAとしてはブラジルのリズムで裁判をやられてはかなわない、ということだろう。
でもこのあたりは国家の主権にかかわることだから、どのように解決するのだろう。報道によれば「連邦法務総監」なる役職に特別に裁判を立ちわせてスピード化するということを考えているらしい。
ロゴマークの無許可使用の取締り
これは絶対にやる。海賊版天国のブラジルだ、これは大いにやられる。やる方も真剣であらゆるものにロゴを使って便乗商売に走るだろう。
ブラジルの刑法ではライセンス侵害は3ヶ月以下の懲役となっているが、FIFAはこれを3ヶ月から1年にしろといっている。さすがにブラジル政府は刑法までいじらせることはしないだろうから、取締を強化するといった対応でごまかすしかない。
それにしてもけっこうブラジル政府は応戦に努めているように見えるから、FIFAの力も相当なものだね。これまで各国の政府はこんなふうにやられてきたのだろうか?