仙台駅から岩沼駅を抜けると、車窓からの眺めが変わる。
線路が高架化され、高い位置から景色が見えるため、視界が広がった。
うっすらと、堤防工事中の海辺が見える。
かつての海岸は、びっしりと緑の松林が縁どっていたのに。
↓2007年3月1日
常磐線車窓から海岸方面の眺め(山下~坂元の間)
あの日の記録映像を目にしたことがある。
初め、沿岸部の緑の向こうに煙が見えた。
やがて、びっしり並ぶ木々が動いたかと思うと、濁流が姿を現した。濁流は、木々をなぎ倒して押し寄せる。
津波の第一波だった。
建物が動く。濁流に家々が流されていく。
猛スピードで何台もの車が走り去る・・・
今思えば、木々がなぎ倒されている間が、逃げる時を稼ぐ状況だった。
濁流はさらに集落へと、じわじわと迫る。
田園地帯は大河のようになり、やがて干潟のようになった。
その後、第二波が来る。
今度は、沿岸の木々も住宅も無くなって、高く上がった白波が押し寄せるのが見えた・・・
現在、常磐線は西側に移設。
山下駅も新しくなった。
新しい山下駅前には、スーパーマーケットと薬局ができ、新たな集落作りが進められている。
↓20017年3月1日山下駅ホームから駅前
駅の東隣には、建設中の大型建物が見える。
おそらくこれが、建築中の地域交流センターか。
↓2017年3月1日山下駅東
まさに、「平和を噛みしめる」である。
杜の都の宮町の端っこで、上杉近くにある、こぢんまりとした店。
地球瓶やガラス棚が並び、その中には煎餅がいっぱいだ。
「小萩堂」である。
震災前から知る店で、震災後に大丈夫かと寄ってみた。
店は以前のままでほっとした。
連れ合いは、ここの「いか煎餅」が気に入っていた。
私にとっては「いか煎餅」というと、岩手の宮古が思い浮かぶが、確かに、小萩堂の「いか煎餅」も美味いのだ。
だが、小萩堂の煎餅と言えば、焼き印も売りである。
仙台城に味噌樽や、七夕に萩といった、歴史や風物の絵柄が素敵だ。
風流な焼き印のせんべいが並ぶ中、一風変わった文字を刻むものがあった。
「九条せんべい」である。
仙台も、空襲で焼け野原になった。
堂々たる大手門も、軒を並べた店も住まいも、そして逃げ惑う人々をも火焔は襲い、痛ましい有様が広がった。
これを目の当たりにし、乗り越えた人々は、移り変わる時代の波にも、決して再びこの惨禍を繰り返さぬようにと願うのだ。
そして、戦禍を潜り抜けた店主の気骨が、せんべいに刻まれた。
世界へ、平和憲法を広めようと。
今日は文化の日。
自由と平和を愛し、文化をすすめる日である。(内閣府記載 「国民の祝日に関する法律」)
杜の都の九条せんべいを思い出して、関東の地でも東北に続く青空を仰いだ。
かつて、亘理の鳥の海近くで、阿武隈川沿いにあった店だ。
(↓2008年9月18日撮影:震災前の作間屋支店さん)
あの日、大地震の後に海の水が川を遡り、大きな堤防をも越えて、この店の界隈も壊していった。
作間屋支店さんは残っていたが、店のあった1階は浸水し、中の商品棚も機材も駄目になった。
(↓2011年11月9日撮影)
家族は着の身着のままで逃げおおせたそうだが、生業の基盤だった店を失ったことは、本当に辛かったろう。
各被災地を巡っている中、亘理の鳥の海に行くのに、何度もこの店の前を通った。
そのたびに、店の奥のほうに電球の灯りが見え、中で片づけをしているらしい様子を目にしていた。
ご主人が、何か使えるものはないかと思いながら片づけをしていたそうだ。
店を再開したいという思いは、震災後間もなくからあったようだが、毎日片付けに行く度に、むなしい気持ちになったという。
それでも、負けなかった。
ほとんどが駄目になっていた機材の中に、2つほど修理すれば使えるものがあったという。
知人が声を掛けてくれ、商品を入れる冷蔵棚を譲り受けた。
そして9月、作間屋支店は再び開店したのである。
(↓2012年12月11日撮影)
仙台から阿武隈橋を渡る大きな通りが国道6号線だ。
阿武隈橋からこの通りを南へ進むと、やがて産直販売の「おおくまふれあいセンター」が見えてくる。
この「おおくまふれあいセンター」の向かいに、新たな作間屋支店があった。
地元の食材を活かした「えんころ餅」は、機材がそろわないためにまだ作られないが、出来ることから一つずつ心を込めて作り出される菓子は、いずれも美味い。
棚に並ぶのは、手土産に適した焼き菓子だった。
実は、「仙台いちご」の銘柄で知られる、宮城県のイチゴ栽培の始まりは、亘理町だという。
宮城県南の亘理町、山元町は温暖な気候でイチゴの栽培が盛んであり、震災前は両町合わせたイチゴが東北一の生産量であった。
亘理と山元はリンゴの栽培も盛んで、収穫される果物を生かした加工品の開発にも力を入れている。
(参考:農林水産省「仙台いちごの復活」/宮城県「いちごの生産振興」)
再び歩み始めた「作間屋支店」さんは、地元の食材で郷土を表した品を出したいと、まずは亘理の産物であるイチゴとリンゴを使った、「いちごの悠里」「りんごの悠里」という菓子を作っている。