湧水めぐり・まち歩き 藤川格司

水を調べている日々を書き込む予定です。最近は熱海のまち歩きを楽しんでいます。

富士山の地下水(3)湧水の分布と地質

2019年06月11日 | 富士山の地下水
富士山の地下水(3)湧水の分布と地質

富士山の湧水の分布を示します。南西麓富士宮の湧玉池、白糸の滝、猪之頭湧水、北麓富士吉田の湧水と忍野八海、富士五湖、東麓御殿場市の湧水、南東麓三島の楽寿園小浜池と柿田川、南麓富士の今泉、原田、比奈湧水など数多くあります。まずは地質との関係をざっくり説明します。



富士山の地質と湧水の位置
富士火山地質図は産業技術総合研究所地質調査総合センターのHPからダウンロードしました。黒点は湧水の位置を示します。これは、現地調査で位置を求めています。南西麓の山腹の湧水は抜けているところもあると思います。
ここでは大きく区分して見ることにします。



地質図は噴火時期(活動期)による区分で表示しました。区分は凡例にあるように、須走―b、c、d期、富士宮期、星山期です。白抜きの部分は星山期以前の地質になります。
星山期は古富士火山を示し、それより新しい須走―b、c、d期、富士宮期は新富士火山だと思ってください。
噴火時期(活動期)と湧水の位置を重ねることで、どの地質と関係するか見ていきましょう。



星山期(約10万年前~17000年前)の火山噴出物と湧水の分布
古富士火山噴出物は新富士火山噴出物に本当にすっぽり覆われていて姿を見せません。山麓に少しだけ姿を見せています。古富士火山の噴出物と湧水の位置を重ねてみました。地質と湧水はあまり関係がないようです。富士宮の白糸の滝と御殿場周辺に少し重なりがあり、関係がありそうです。しかし、古富士火山噴出物は、山麓では水を透しにくい層として活躍しているようです。古富士火山はボーリングをしないと調べることができないの研究が進んでいません。それをいいことに、山麓では火山麓扇状地堆積物として水を透しにくいとし、山腹より上では水を浸透して地下水を涵養していると仮定しています。
安原(2003)によると、富士山は過去約1万年くらい間に噴出された水を透しやすい新富士火山噴出物によって表面部分が覆われており、その下に古富士火山噴出物があります。古富士火山を作る主な地層は火山泥流と言って水を透しにくいため、古富士火山は難透水層の役目を果たします。このため、現在の富士山は大きく見れば、新富士火山噴出物が地下水を溜める帯水層となり、その下の受け皿となる古富士火山の上に乗っかているという二重構造をしているものと考えられています。



富士宮期(約17000万年前~8000年前)の火山噴出物と湧水の分布
新富士溶岩の初期で富士山全体を大きくカバーしています。新富士溶岩は南東麓では三島溶岩流、南麓では大淵溶岩、南西麓では大宮溶岩、白糸溶岩、北麓では猿橋溶岩と呼ばれています。
富士山の南東、南、南西麓の湧水はこの時期の溶岩と関係が深そうです。溶岩の末端部分で流出しているように見えます。南東麓の三島溶岩末端の柿田川湧水は日量100万トン以上の地下水を流出しています。これらの湧水は南東側斜面の地下水をすべて集めたように見えます。



そして、南麓の今泉湧水などは集中して溶岩流の末端から流出していることがわかります。上の図にあるように、今泉湧水を調査している時、なぜここに集中して流出しているのか不思議でした。愛鷹山を回り込んだ溶岩流の末端から流出していることがわかります。しかし、黒い円で示した今泉湧水の西側も同じ条件なので、湧水があってもいいはずです。過去には三日市浅間神社の湧水があったそうですが、枯れてしまったようです。地質だけではわからないということですかな。
南西麓の湧玉池なども溶岩流の末端で流出して、流量が多い湧水です。
北麓には湧水が少なく、溶岩流など地下に潜っていてわからないことが多いです。しかし、富士五湖を形成していることから、膨大な量の地下水があるはずです。



須走―b期(約5600万年前~3500年前)の火山噴出物と湧水の分布
この時期の溶岩とは関係がないようです。地下水の涵養に貢献していると思います。



須走―c期(約3600万年前~2300年前)の火山噴出物と湧水の分布
この時期は、富士山の山体崩壊があり、御殿場岩屑なだれとそれに伴う御殿場泥流が発生しました。東麓の御殿場周辺の湧水はこの時期の地質と重なります。図から湧水が多く分布して他の山麓と異なることがわかります。湧水量の少ない湧水が数多く存在し,現地調査の時は見つけるのが大変でした。
忍野八海周辺も関係がありそうです。そして、富士宮周辺もこの時期の噴火と重なっています。



須走―d期(約2300万年前~現在)の火山噴出物と湧水の分布
この時期の溶岩は、北麓で富士吉田を超えて流れています。この時期の溶岩と富士吉田周辺の湧水の位置が重なっています。青木ヶ原樹海も形成されています。



富士山の湧水めぐりをしていますが、抜けているところもあると思います。補足として、神谷 他(2017)の資料から静岡県側の湧水位置を示します。黄色い丸印で湧水の位置関係を示しました。愛鷹山周辺の湧水以外はほぼ網羅しているようです。しかし、富士山の南西麓の山腹に調査していない湧水があることが示されています。富士宮期の溶岩と関係しているようです。今後、調べてみます。


次は同位体分析のことや湧水ごとに流出メカニズムを説明したいと思います。


参考文献
安原正也(2003)富士山に降った雨水はどう流れるか?、地質ニュース、590,31-39.
神谷貴文 他(2017)富士山南部における地下水の水質成分の地理的特徴とその起源、
地学雑誌、126,1,43-71.
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5 コメント

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白糸や三島の湧水の地質 (GEN)
2022-11-03 01:13:48
藤川さま、有意義にみてます。白糸の溶岩ですが湧水の下にあります。これは白糸溶岩Ⅰで柱状節理が発達していのは白糸溶岩Ⅱです。山元(2014)は白糸溶岩Ⅰを白糸溶岩としていますが、実際は白糸溶岩Ⅱです(山本ほか,2022)。高田ほか(2016)の火山麓扇状地堆積物は地質用語ではありません。火山麓扇状地は地形用語です。扇状地を形成している堆積物って普通は透水層では?原田の湧水や三島の湧水は愛鷹ロームの上に溶岩が流れています。ローム層が不透水層とするのが自然です。なお、白糸の滝の湧水説は小川(  )の伏流水説もあります。富士宮市HP、花と緑の課の環境から入って富士宮市域自然調査研究会の第一次報告に書いてあります。ご参考に
返信する
コメントありがとうございます (藤川格司)
2022-11-03 09:52:41
コメントありがとうございます。
研究させていただきます。
返信する
白糸の滝 (GEN)
2022-11-04 12:07:37
続きで
私は以前は高校で地学を教えていました。この度、白糸や柿田川が高校の教科書に掲載されました。この教科書の明に間違えがあるので白糸を指摘しているのですが・・・溶岩があるのに古富士泥流としてます。
さて高校生は課題研究があります。こちらから疑問を投げかけます。そうすと湧水箇所が説明している白糸の滝の看板とあいません。古富士と旧期溶岩の境界からの湧水、白糸はそうだが、隣の富士山側の音止めの滝の湧水はすくなすぎる。ほかは境界で湧水するかと言えばそうでない。白糸の滝の湧水が最も多いところと少ないとことがあるのはどうしてか、滝口の水は湧水か、滝口の白糸の滝の西側にも古富士あるけど湧水はほとんどない。白糸の滝の滝口にあるお鬢水の湧水は?等があります。高校生が目に見える範囲で疑問に持つことはたくさんあると思います。せっかく教科書に掲載されたのですから答えを見つけたいと目下この辺を調査中です。ご協力頂ければ幸いです。
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溶岩名 (GEN)
2022-11-04 21:26:49
土先生が適当に呼んだ白糸溶岩(定義してない)どうやら津屋の白糸溶岩Ⅰ、Ⅱ、Ⅲらしいですが、山元(2014)は白糸溶岩Ⅱを白糸溶岩と命名してます。ここでモデルがことなります。土先生は猪之頭でも猪之頭溶岩と呼んでいましが、津屋(1968)の猪之頭溶岩はⅠ、Ⅱ、Ⅲとあります。白糸、猪之頭も津屋(1968)では分布もばらばらです。高田ほか(2016)ではもっと別々です。高田ほか(2016)を使用するにはまだまだ対応していないように思えるのですが、もちろん土先生の溶岩名は論外だと思います。溶岩は地層とは違います。単層やラミナに定義がありますが溶岩の定義はなんでしょうかどうでしょう。
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溶岩名 (GEN)
2022-11-04 21:26:49
土先生が適当に呼んだ白糸溶岩(定義してない)どうやら津屋の白糸溶岩Ⅰ、Ⅱ、Ⅲらしいですが、山元(2014)は白糸溶岩Ⅱを白糸溶岩と命名してます。ここでモデルがことなります。土先生は猪之頭でも猪之頭溶岩と呼んでいましが、津屋(1968)の猪之頭溶岩はⅠ、Ⅱ、Ⅲとあります。白糸、猪之頭も津屋(1968)では分布もばらばらです。高田ほか(2016)ではもっと別々です。高田ほか(2016)を使用するにはまだまだ対応していないように思えるのですが、もちろん土先生の溶岩名は論外だと思います。溶岩は地層とは違います。単層やラミナに定義がありますが溶岩の定義はなんでしょうかどうでしょう。
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