☆毎日をキラリ!と

キラリ!と光るのは、ちょっと無理かもしれないけれど、どんなことにも前向きに・・・

ちいちゃんのかげおくり 前編

2012年07月12日 | その他
 かげおくりって遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、お父さんでした。

出征をする前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、お母さんを連れて、

先祖の墓参りに行きました。

その帰り道、青い空を見上げたお父さんがつぶやきました。

「かげおくりのよく出来そうな空だなあ。」

「えっ、かげおくり?」と、お兄ちゃんが聞き返しました。

「かげおくりってなあに?」と、ちいちゃんも尋ねました。

「十、数える間、 かげぼうしをずっと見つめるのさ。 十と言ったら、空を見上げる。

すると、かげぼうしがそっくり空に映って見える。」と、お父さんが説明しました。

「父さんや母さんが子供のときに、よく遊んだものさ。」

「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」と、お母さんが横から言いました。

ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手をつなぎました。

そして、みんなでかげぼうしに、目を落としました。

「まばたきしちゃ、駄目よ。」と、お母さんが注意しました。

「まばたきしないよ。」ちいちゃんとお兄ちゃんが約束しました。

「一つ、二つ、三つ。」と、お父さんが数えだしました。

「四つ、五つ、六つ。」と、お母さんの声も重なりました。

「七つ、八つ、九つ。」ちいちゃんとお兄ちゃんも一緒に数えだしました。

「十!」

 目の動きと一緒に、白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました。

「すごーい。」と、お兄ちゃんが言いました。

「すごーい。」とちいちゃんも言いました。

「今日の記念写真だなあ。」と、お父さんが言いました。

「大きな記念写真だこと。」と、おかあさんが言いました。

 次の日。

 お父さんは、白いたすきを肩から斜めにかけ、日の丸の旗に送られて、列車に乗りました。

「身体の弱いお父さんまで、いくさに行かなければならないなんて。」お母さんがぽつんといったのが、

ちいちゃんの耳には聞こえました。

ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。

万歳をしたかげおくり。 片手を上げたかげおくり。 足を開いたかげおくり。

いろいろなかげを空に送りました。

けれど、いくさが激しくなって、かげおくりなど出来なくなりました。

この町の空にも、焼夷弾や爆弾を積んだ飛行機が飛んで来るようになりました。

そうです。広い空は楽しいところではなく、とても怖いところにかわりました。












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ちいちゃんのかげおくり 後編

2012年07月12日 | その他
夏の初めのある夜、空襲警報のサイレンで、ちいちゃんたちは目を覚ましました。

「さあ、急いで。」 お母さんの声。

外に出ると、もう、赤い火があちこちに上がっていました。

お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手につないで、走りました。

風の強い日でした。

「こっちに火が回るぞ。」 「川の方に逃げるんだ。」 誰かが叫んでいます。

風が熱くなってきました。炎の渦が追いかけてきます。

お母さんはちいちゃんを抱き上げて走りました。

「おにいちゃん、はぐれちゃだめよ。」 

お兄ちゃんが転びました。 ひどい怪我です。 お母さんはお兄ちゃんをおんぶしました。

「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ。」

けれど、沢山の人に追い抜かれたり、ぶつかったり・・・ ちいちゃんはお母さんとはぐれました。

「お母ちゃん、お母ちゃん。」 ちいちゃんは、叫びました。

その時、知らないおじさんが言いました。「お母ちゃんは、後から来るよ。」

そのおじさんは、ちいちゃんを抱いて走ってくれました。

暗い橋の下に、沢山の人が集まっていました。 ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。

「お母ちゃん。」 と、ちいちゃんが叫ぶと、

おじさんは、「見つかったかい、良かった、良かった。」 と降してくれました。

でもその人は、お母さんではありませんでした。 ちいちゃんは独りぼっちになりました。

ちいちゃんは、沢山の人たちの中で眠りました。


朝になりました。

町の様子はすっかり変わっています。 あちこち、煙が残っています。どこが家なのか・・・。

「ちいちゃんじゃないの?」 と言う声。

ふり向くと、はす向いの家のおばさんが立っています。

「お母ちゃんは?お兄ちゃんは?」 と、おばさんが尋ねました。

ちいちゃんは、泣くのをやっとこらえて、言いました。 「お家のとこ。」

「そう、お家に戻っているのね。おばちゃん、今から帰るところよ。一緒に行きましょうか?」

おばちゃんは、ちいちゃんの手をつないでくれました。 二人は歩き出しました。

家は焼け落ちてなくなっていました。 「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋。」

ちいちゃんがしゃがんでいると、おばさんがやってきて言いました。

「お母ちゃんたち、ここに帰ってくるの?」 ちいちゃんは、深くうなずきました。

「じゃあ、大丈夫ね。あのね、おばちゃんは、今から、おばちゃんのお父さんのうちに行くからね。」

ちいちゃんは、また深くうなずきました。

その夜。 ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてある ほしいいを少し食べました。

そして、壊れかかった暗い防空壕の中で眠りました。 (お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ。)

曇った朝が来て、昼が過ぎ、また、暗い夜が来ました。

ちいちゃんは、ざつのうの中のほしいい をまた少しかじりました。

そして、壊れかかった防空壕の中で眠りました。


明るい光が顔にあたって、目が覚めました。 (眩しいな。)

ちいちゃんは、暑いような寒い様な気がしました。 ひどくのどが渇いています。

いつの間にか、太陽は、高く上がっていました。 そのとき、

「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」 と言う、お父さんの声が、青い空から降ってきました。

「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」 と言うお母さんの声も、青い空から降ってきました。

ちいちゃんは、ふらふらする足を踏みしめて立ち上がると、たった一つのかげぼうしを見つめながら、

数えだしました。

「一つ、二つ、三つ。」 いつの間にか、お父さんの低い声が、重なって聞こえ出しました。

「四つ、五つ、六つ。」 お母さんの高い声も、それに重なって聞こえ出しました。

「七つ、八つ、九つ。」 お兄ちゃんの笑いそうな声も、重なってきました。

「十!」 ちいちゃんが空を見上げると、青い空にくっきりと白いかげが四つ。

「お父ちゃん。」 ちいちゃんは呼びました。 「お母ちゃん、お兄ちゃん。」

その時、身体がすうっと透き通って、空に吸い込まれていくのが分かりました。

いちめん空の色。

ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。 見回しても見回しても、花畑。

(きっと、ここ、空の上よ。) とちいちゃんは思いました。

(ああ、私、おなかが空いて軽くなったから、浮いたのね。)

その時、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、笑いながら歩いてくるのが見えました。

(なあんだ、みんな、こんなところにいたから、来なかったのね。)

ちいちゃんは、きらきら笑い出しました。 笑いながら、花畑の中を走り出しました。

夏の初めのある朝。 こうして、小さな女の子の命が、空に消えました。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー以下省略


小学3年生の国語の教科書にのっている物語のひとつです。

今の子供たちは、どんな気持ちで読んでいるのかなあ・・・ と、ふと、思いました。


いじめ問題が 後を絶たないこの頃。 子供たちの気持ちも、親たちの気持ちも、先生方も気持ちも バラバラであるように

思えます。いろんな問題が、そう簡単に 解決できるものではないでしょうが、守ってあげれる立場の人間が、辛い気持ちでいる

子供の心に 寄り添ってあげることくらいは、出来るんじゃないかと思います。このままでは、政治も含めて 日本は駄目になる 

と感じる この頃です。



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