目立たないが、よく見ると美しい花を咲かせる「シュンラン」。かつては野山で普通にみられた日本原産の野生蘭だ。今では野原ではほとんど見かけなくなった。「春蘭の水の匂のほかはせず 後藤比奈夫 花びら柚子」。
(2023年春 南鷹尾)
2023年春の花シリーズ
「ジャイアント・スノードロップ」(春の花シリーズ 23-01)
「セツブンソウ」(春の花シリーズ 23-02)
「ユキワリイチゲ」(春の花シリーズ 23-03)
「福寿草」(春の花シリーズ 23-04)
「ミチノクフクジュソウ」(春の花シリーズ 23-05)
「福寿海」(春の花シリーズ 23-06)
「ロウバイ」(春の花シリーズ 23-07)
「シナマンサク」(春の花シリーズ 23-08)
「八重寒紅」(春の花シリーズ 23-09)
「カラスノエンドウ」(春の花シリーズ 23-10)
「クモマグサ」(春の花シリーズ 23-11)
「スイセン」(春の花シリーズ 23-12)
「ペーパー ホワイト 」(春の花シリーズ 23-13)
「キズイセン」(春の花シリーズ 23-14)
「スイートアリッサム」(春の花シリーズ 23-15)
「ヒマラヤユキノシタ」(春の花シリーズ 23-16)
「クロッカス」(春の花シリーズ 23-17)
「ツルニチニチソウ」(春の花シリーズ 23-18)
「ムスカリ」(春の花シリーズ 23-19)
「キルタンサス」(春の花シリーズ 23-20)
「サクラソウ」(春の花シリーズ 23-21)
「ジャノメエリカ」(春の花シリーズ 23-22)
「芝桜」(春の花シリーズ 23-23)
「ネモフィラ」(春の花シリーズ 23-24)
「カレンデュラ」(春の花シリーズ 23-25)
「ヒアシンス」(春の花シリーズ 23-26)
「菜の花」(春の花シリーズ 23-27)
「バラ咲きジュリアン」(春の花シリーズ 23-28)
「沈丁花」(春の花シリーズ 23-29)
「キュウリグサ」(春の花シリーズ 23-30)
「シデコブシ」(春の花シリーズ 23-31)
「カタクリ」(春の花シリーズ 23-32)
「コシノコバイモ」(春の花シリーズ 23-33)
「ミツマタ」(春の花シリーズ 23-34)
「紅ミツマタ」(春の花シリーズ 23-35)
「ショウジョウバカマ」(春の花シリーズ 23-36)
「シュンラン」
シュンランの基本情報
学名:Cymbidium goeringii
和名:シュンラン(春蘭) その他の名前:ジジババ、ホクロ
科名 / 属名:ラン科 / シュンラン属(シンビジウム属)
特徴
シュンランは、北海道から九州に広く分布し、日本を代表する野生ランです。シンビジウムの仲間で、主に里山や人里に近い山地の雑木林などに自生し、古くより季節の花や祝いの花として親しまれてきました。
葉は細く、縁には細かいぎざぎざ(鋸歯)があります。地下には数個のバルブが連なり、太い根がたくさん伸びています。春に緑色の花を1茎に1花、まれに数花を咲かせます。花後には花茎が伸びて果実がつきます。堅い果肉の中には、粉のようなタネが無数に入っています。秋も深まるころには地下に翌年の花芽を抱き、そのまま寒い冬を落ち葉の中でじっと過ごし、春を待ちます。
この仲間は古くから東洋ランと呼ばれ、名花・秀花の選別も多く行われ、古典園芸植物としても親しまれています。丈夫な植物ですが、きれいにつくるには少しコツが必要です。
基本データ
園芸分類 山野草,ラン
形態 多年草 原産地 北海道~九州
草丈/樹高 10~30cm 開花期 3月下旬~4月
花色 緑,まれに褐色,朱金,黄
耐寒性 普通 耐暑性 普通
特性・用途 常緑性,日陰でも育てられる
春蘭の俳句
ひえびえと春蘭の土こぼれたる 下田稔
ほくり咲き秋田支藩の武家屋敷 高澤良一 宿好
ドア開ける度び春蘭の匂ひ立つ 稲畑汀子
交りや春蘭掘りてくれしより 高田つや女
山人に春蘭を掘る向きかえて 長谷川かな女 花 季
己が葉の影春蘭に濃かりけり 奈王
憂き日々にあり春蘭の薄埃 桂 信子
掘りきたる春蘭花をそむきあひ 立子
掘りささげたる春蘭のはげしき根 赤松[ケイ]子
春蘭と二月の雲のゆく下に 軽部烏帽子 [しどみ]の花
春蘭と蕨四五本とを得たる 岸風三楼 往来
春蘭にうづまく髪を臥せしかな 長谷川かな女 雨 月
春蘭にくちづけ去りぬ人居ぬま 杉田久女
春蘭にこころのぞかれゐたりけり 吉野義子
春蘭に佇ち紅梅にふり返る 岸風三樓
春蘭に尾根つたひくる日のひかり 斎藤梅子
春蘭に山廬先生莞爾たり 植村通草
春蘭に松の落葉の深々と 川端龍子
春蘭に添えば消えてゆく痛み 本田ひとみ
春蘭に狐のごとき花芽出づ 堀口星眠
春蘭に畳の埃とぶことも 吉井幸子
春蘭に首をかしげてゐる男 出羽 智香子
春蘭のあえかの花に片時雨 行方克巳
春蘭のひともと陶の埃棚 伊藤敬子
春蘭の一鉢かくれなかりけり 後藤夜半 底紅
春蘭の一鉢を先づ病床に 高濱年尾
春蘭の匂ふ胎内くぐりかな 小形さとる
春蘭の古葉剪らんと思ひつゝ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
春蘭の咲きて使はぬ山の井戸 関戸靖子
春蘭の咲くをたしかむ山に入る 衣巻新風子
春蘭の固き蕾の解くる日を 田中冬二 麦ほこり
春蘭の幾株か減り雑木山 阿部みどり女 『陽炎』
春蘭の影濃くうすく昼しづか 桂 信子
春蘭の曾ての山の日を恋ひて 高浜虚子
春蘭の根を包みをる苔芽ぐむ 横光利一
春蘭の櫟の丘は伐られけり 和地清
春蘭の水の匂のほかはせず 後藤比奈夫 花びら柚子
春蘭の花さみどりに母恋ひし 中村しげ子
春蘭の花とりすつる雲の中 蛇笏
春蘭の花芽と信じ育てをり 水田ムツミ
春蘭の花芽をかぞえ癒えており 根岸たけを
春蘭の花芽伸び来し鉢を置く 長井伯樹
春蘭の花茎ゆらし軍靴くる 松浦敬親
春蘭の草に紛るる薄暮かな 隈加須奈
春蘭の葉のとどめたる牡丹雪 野沢節子 飛泉
春蘭の蕾もたぐる夕月夜 福田萬喜子
春蘭の裏庭にゐる媼かな 山本洋子
春蘭の風をいとひてひらきけり 敦
春蘭は山の消息お見舞に 志子田花舟
春蘭は日を吸ひ落葉日を返へし 上野 泰
春蘭やけんけん雉子も杉の奥 友二
春蘭やみだれあふ葉に花の数 高橋淡路女 梶の葉
春蘭やジャズの流るる異人館 中川 克子
春蘭や三十余年わが庭に 瀧井孝作
春蘭や僧の客間に良寛像 関森勝夫
春蘭や天城が降らす雲かぶり 青邨
春蘭や奈落をいそぐ水の音 松本美簾
春蘭や学問ほどの不確かに 鳥居美智子
春蘭や実生の松にかこまれて 星野立子
春蘭や尼に眉間の皺はなし 静塔
春蘭や山の音とは風の音 八染藍子
春蘭や度々の行幸の神武寺に 尾崎迷堂 孤輪
春蘭や徒食の爪はのびやすし 角川源義
春蘭や指を組みたる母の骨 栗林千津
春蘭や日かげ勝なる山の寺 四明句集 中川四明
春蘭や暗きに打てる紙砧 水原秋櫻子
春蘭や朝日集めてうすみどり 穂坂日出子
春蘭や杣とは違ふ足の音 和田祥子
春蘭や株ごとに持つ野の故郷 遠藤 はつ
春蘭や渡る他なき丸木橋 浦田 宏
春蘭や滝の芯のみよみがへり 黒坂紫陽子
春蘭や無名の筆の俗ならず 正岡子規
春蘭や男は不意に遺さるる 飯島晴子
春蘭や秩父も奥のどんづまり 江口千樹
春蘭や耳にかよふは竹の雨 草城
春蘭や記憶次第によみがへる 中村汀女
春蘭や野坂参三百歳に 柴野公子
春蘭や雨をふくみてうすみどり 杉田久女
春蘭や雨雲かむる桜島 秋櫻子
春蘭や雪崩の跡に土乾き 児玉 小秋
春蘭や雲の中にも殿の址 小澤満佐子
春蘭や香のかたちに香の灰 日野草城
春蘭を今朝の新聞紙に包む 内山忍冬
春蘭を得し素朴なる日を愛す 吉田草風
春蘭を得てかざしたる木の間の日 高濱年尾 年尾句集
春蘭を掘たる山を眺めをり 深川正一郎
春蘭を掘り提げもちて高嶺の日 高浜虚子
春蘭を掘り目隠をされてゐる 田中裕明 花間一壺
春蘭を掘る一株にとゞむべし 横田弥一
春蘭を移し植ゑたる庭の闇 加藤三七子
春蘭を穫て峡ふかき日を仰ぐ 塚原 夜潮
春蘭を置いてゆきたる見舞人 高濱年尾 年尾句集
春蘭を踏み大靴の悪霊たち 八木三日女 落葉期
春蘭を騒いで掘つて笹の山 岡井省二
春蘭活け吉川英治夫人の家 天野慶子
杣出の渓春蘭のふるへをり 石原八束
松売りや根に春蘭をくゝりける 妻木 松瀬青々
母の顔春蘭(ほくり)に重ね家郷恋ふ 原田孵子
淑気満つ春蘭の香を箸の尖き 安田鶴女
花一つ持ちて春蘭掘られけり 碧雲居句集 大谷碧雲居
花現れし春蘭いだき屋上より 軽部烏帽子 [しどみ]の花
若者の渇き春蘭水の辺に 細見綾子
葉の色に紛れ春蘭咲き初むる 下間ノリ
蔭の花春蘭の香に眼を見はる 臼田亞浪 定本亜浪句集
貧書斎春蘭花をあげにけり 富安風生
重湯飲めば春蘭の山河あり 相馬遷子 山河
雀ねらふ猫平然と春蘭嗅ぐ 長谷川かな女 花寂び
雲深くして春蘭の濡れゐたり 池上浩山人
風を着てさあ春蘭を掘りませう 栗林千津