次は最近咲き始めたニセアカシア、あるいはハリエンジュである。
この樹木は咲き終わると次々と花弁を地面に散らすので初めてアカシアがさいていたことが分かることも多い。
学名からしてニセアカシアと呼んでいるのだがら、混乱が起きるのも仕方のないことだろうか。
早春のミモザも好きだが、ハリエンジュの白い花はわたしたちの心を捉える。
(2019-05 神奈川県川崎市 道端)
アカシアというと1960年の安保闘争の頃の「アカシアの雨がやむとき」を思い出される方も多いだるう。
この雨のように降るアカシアの花は、ほんらいのアカシアではない。ニセアカシアのことである。
日本でミモザと呼ばれるものが本来のアカシアである。俳句でも多く歌われるが、その多くはニセアカシアのことだろう。
1 アカシアの雨にうたれて
このまま死んでしまいたい
夜が明ける 日がのぼる
朝の光のその中で
冷たくなったわたしを見つけて
あの人は
涙を流してくれるでしょうか
2 アカシアの雨に泣いてる
切ない胸はわかるまい
思い出のペンダント
白い真珠のこの肌で
淋しく今日もあたためてるのに
あの人は
冷たい瞳(め)をして どこかへ消えた
3 アカシアの雨がやむとき
青空さして鳩がとぶ
むらさきの羽の色
それはベンチの片隅で
冷たくなったわたしのぬけがら
あの人を
さがして遙かに 飛び立つ影よ
ニセアカシア (Robinia pseudoacacia) は北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木。和名はハリエンジュ(針槐)。日本には1873年に渡来した。用途は街路樹、公園樹、砂防・土止めに植栽、材は器具用等に用いられる。季語は夏である。
一般的に使われる名称であるニセアカシアは、種小名のpseudoacacia(「pseudo=よく似た acacia=アカシア」)をラテン語から直訳したものである。
分布
北アメリカ原産で、ヨーロッパや日本など世界各地に移植され、野生化している[1]。
特徴
樹高は20-25mになる。葉は、初夏、白色の総状花序で蝶形花を下垂する。奇数羽状複葉で小葉は薄く5-9対。基部に1対のトゲ(托葉に由来)がある。小葉は楕円形で3-9対。5-6月頃、強い芳香のある白い蝶形の花を10-15cmほどの房状に大量に咲かせる[2]。花の後に平たい5cmほどの鞘に包まれた4-5個の豆ができる。
きれいな花が咲き、観賞用として価値が高いことからもともとは街路樹や公園用として植栽された[3]。しかし、繁殖力が強く、根から根萌芽が多数出ることや、切り株からの萌芽力が極めて高いことなどで嫌われている。さらに、風で倒れやすい[4]ことなどの課題もある。棘のない園芸用の品種もある。
材の年輪は明瞭[5]で、気乾比重が0.77とミズナラと同程度に重く[6]、日本に産する広葉樹材の中でも強度が高い[3]。こうした特性を利用した床材も利用されている[3]。耐久性が高いためかつては線路の枕木、木釘、木炭、船材、スキー板などに使われた。
葉、果実、樹皮には毒性があり、樹皮を食べた馬が中毒症状を起こした例がある[7]。
有用植物としてのニセアカシア
食用
花を花穂ごと天ぷらにして食べるほか、新芽は和え物や油炒めで食べることができる[8]。
花をホワイトリカー等につけ込んでつくるアカシア酒は強い甘い花の香りがする。精神をリラックスさせる効果があると言われる。
花から上質な蜂蜜が採れ、有用な蜜源植物である。ニセアカシアを蜜源として利用する地域は東日本に多く、2005年のはちみつ生産量の44%がニセアカシアによる[3]。特に長野県でははちみつの74%がニセアカシアの花を「みつ源」としている[3]。
緑化資材
緑化資材として、ハゲシバリの別名で知られる。マメ科植物特有の根粒菌との共生のおかげで成長が早く、他の木本類が生育できない痩せた土地や海岸付近の砂地でもよく育つ特徴がある。このため、古くから治山、砂防など現場で活用されており、日本のはげ山、荒廃地、鉱山周辺の煙害地などの復旧に大きく貢献してきた[4]。北海道では、耕作放棄地、炭鉱跡の空き地などの管理放棄された土地がニセアカシアの分布拡大の一因となっている[9]。
近年、本来の植生を乱すなどの理由で、緑化資材に外来種を用いることが問題視され、環境省の特別要注意外来植物[10]に指定され、近年はあまり使われていない。 根系支持力が高く[11]山地砂防緑化資材として使われたことはあるが、30年を超えると地表近くを這うロープ状の根系が枯死し、根系支持力が衰えるため倒れやすくなる問題がある[4]。
繁殖力が強いため、ニセアカシアの除去は簡単にはできず、除草剤の適切な処理が最適と考えられている[3]。
薪炭材
生育がきわめて早く痩せ地でも育つこと、材が固くゆっくり燃焼するので火持ちが良いこと、そしてある程度湿っていても燃えることなどの利点があるため、薪炭材としても用いられていた。1950年代まで、一般家庭の暖房や炊事、風呂の焚きつけなどに使う火力は、ほとんどが薪(まき・たきぎ)や炭に依存していたため、ニセアカシアは大変有用な植物であった。北海道に多く植えられたのも、寒冷地の暖房用燃料としての需要が多かったためである。
外来種問題
国交省千曲川河川事務所が千曲川(信濃川)河川敷のニセアカシア伐採実施時に設置した告知看板。
日本には1873年に導入された[12]。日本やヨーロッパの自然環境に定着したニセアカシアは、外来種として多くの問題を発生させている。ニセアカシアが侵入したことで、アカマツやクロマツなどのマツ林、ヤナギ林が減少し、海岸域や渓畔域の景観構造を大きく改変させていることが確認されている[13]。ニセアカシアは単独で木本の生物多様性を低下させるだけでなく、好窒素性草本やつる植物をともなって優占し、植生を独自の構成に変えてしまう[13]。また、カワラノギクやケショウヤナギなどの希少種の生育を妨害する[14]。
これらの悪影響を危惧し、日本生態学会は本種を日本の侵略的外来種ワースト100に選定した。日本では外来生物法の「要注意外来生物リスト」において、「別途総合的な検討を進める緑化植物」の一つに指定されている。「要注意外来生物リスト」は「生態系被害防止外来種リスト」の作成に伴い平成27年3月に廃止された為、現在は後者のリストに記載されている。各地の河川敷などに猛烈な勢いで野生化しており、2007年秋には天竜川、千曲川流域の河川敷で伐採作業が行われた[15]。一方で、要注意外来生物に指定された根拠については科学的に証明できないとして反論している報告もある[16]。
ニセアカシアとアカシア
明治期に日本に輸入された当初は、このニセアカシアをアカシアと呼んでいた。後に本来のアカシア(ネムノキ亜科アカシア属)の仲間が日本に輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ぶようになった。しかし、今でも混同されることが多い。本来のアカシアの花は放射相称の形状で黄色く、ニセアカシアの白い蝶形花とは全く異なる。
この樹木は咲き終わると次々と花弁を地面に散らすので初めてアカシアがさいていたことが分かることも多い。
学名からしてニセアカシアと呼んでいるのだがら、混乱が起きるのも仕方のないことだろうか。
早春のミモザも好きだが、ハリエンジュの白い花はわたしたちの心を捉える。
(2019-05 神奈川県川崎市 道端)
アカシアというと1960年の安保闘争の頃の「アカシアの雨がやむとき」を思い出される方も多いだるう。
この雨のように降るアカシアの花は、ほんらいのアカシアではない。ニセアカシアのことである。
日本でミモザと呼ばれるものが本来のアカシアである。俳句でも多く歌われるが、その多くはニセアカシアのことだろう。
1 アカシアの雨にうたれて
このまま死んでしまいたい
夜が明ける 日がのぼる
朝の光のその中で
冷たくなったわたしを見つけて
あの人は
涙を流してくれるでしょうか
2 アカシアの雨に泣いてる
切ない胸はわかるまい
思い出のペンダント
白い真珠のこの肌で
淋しく今日もあたためてるのに
あの人は
冷たい瞳(め)をして どこかへ消えた
3 アカシアの雨がやむとき
青空さして鳩がとぶ
むらさきの羽の色
それはベンチの片隅で
冷たくなったわたしのぬけがら
あの人を
さがして遙かに 飛び立つ影よ
ニセアカシア (Robinia pseudoacacia) は北米原産のマメ科ハリエンジュ属の落葉高木。和名はハリエンジュ(針槐)。日本には1873年に渡来した。用途は街路樹、公園樹、砂防・土止めに植栽、材は器具用等に用いられる。季語は夏である。
一般的に使われる名称であるニセアカシアは、種小名のpseudoacacia(「pseudo=よく似た acacia=アカシア」)をラテン語から直訳したものである。
分布
北アメリカ原産で、ヨーロッパや日本など世界各地に移植され、野生化している[1]。
特徴
樹高は20-25mになる。葉は、初夏、白色の総状花序で蝶形花を下垂する。奇数羽状複葉で小葉は薄く5-9対。基部に1対のトゲ(托葉に由来)がある。小葉は楕円形で3-9対。5-6月頃、強い芳香のある白い蝶形の花を10-15cmほどの房状に大量に咲かせる[2]。花の後に平たい5cmほどの鞘に包まれた4-5個の豆ができる。
きれいな花が咲き、観賞用として価値が高いことからもともとは街路樹や公園用として植栽された[3]。しかし、繁殖力が強く、根から根萌芽が多数出ることや、切り株からの萌芽力が極めて高いことなどで嫌われている。さらに、風で倒れやすい[4]ことなどの課題もある。棘のない園芸用の品種もある。
材の年輪は明瞭[5]で、気乾比重が0.77とミズナラと同程度に重く[6]、日本に産する広葉樹材の中でも強度が高い[3]。こうした特性を利用した床材も利用されている[3]。耐久性が高いためかつては線路の枕木、木釘、木炭、船材、スキー板などに使われた。
葉、果実、樹皮には毒性があり、樹皮を食べた馬が中毒症状を起こした例がある[7]。
有用植物としてのニセアカシア
食用
花を花穂ごと天ぷらにして食べるほか、新芽は和え物や油炒めで食べることができる[8]。
花をホワイトリカー等につけ込んでつくるアカシア酒は強い甘い花の香りがする。精神をリラックスさせる効果があると言われる。
花から上質な蜂蜜が採れ、有用な蜜源植物である。ニセアカシアを蜜源として利用する地域は東日本に多く、2005年のはちみつ生産量の44%がニセアカシアによる[3]。特に長野県でははちみつの74%がニセアカシアの花を「みつ源」としている[3]。
緑化資材
緑化資材として、ハゲシバリの別名で知られる。マメ科植物特有の根粒菌との共生のおかげで成長が早く、他の木本類が生育できない痩せた土地や海岸付近の砂地でもよく育つ特徴がある。このため、古くから治山、砂防など現場で活用されており、日本のはげ山、荒廃地、鉱山周辺の煙害地などの復旧に大きく貢献してきた[4]。北海道では、耕作放棄地、炭鉱跡の空き地などの管理放棄された土地がニセアカシアの分布拡大の一因となっている[9]。
近年、本来の植生を乱すなどの理由で、緑化資材に外来種を用いることが問題視され、環境省の特別要注意外来植物[10]に指定され、近年はあまり使われていない。 根系支持力が高く[11]山地砂防緑化資材として使われたことはあるが、30年を超えると地表近くを這うロープ状の根系が枯死し、根系支持力が衰えるため倒れやすくなる問題がある[4]。
繁殖力が強いため、ニセアカシアの除去は簡単にはできず、除草剤の適切な処理が最適と考えられている[3]。
薪炭材
生育がきわめて早く痩せ地でも育つこと、材が固くゆっくり燃焼するので火持ちが良いこと、そしてある程度湿っていても燃えることなどの利点があるため、薪炭材としても用いられていた。1950年代まで、一般家庭の暖房や炊事、風呂の焚きつけなどに使う火力は、ほとんどが薪(まき・たきぎ)や炭に依存していたため、ニセアカシアは大変有用な植物であった。北海道に多く植えられたのも、寒冷地の暖房用燃料としての需要が多かったためである。
外来種問題
国交省千曲川河川事務所が千曲川(信濃川)河川敷のニセアカシア伐採実施時に設置した告知看板。
日本には1873年に導入された[12]。日本やヨーロッパの自然環境に定着したニセアカシアは、外来種として多くの問題を発生させている。ニセアカシアが侵入したことで、アカマツやクロマツなどのマツ林、ヤナギ林が減少し、海岸域や渓畔域の景観構造を大きく改変させていることが確認されている[13]。ニセアカシアは単独で木本の生物多様性を低下させるだけでなく、好窒素性草本やつる植物をともなって優占し、植生を独自の構成に変えてしまう[13]。また、カワラノギクやケショウヤナギなどの希少種の生育を妨害する[14]。
これらの悪影響を危惧し、日本生態学会は本種を日本の侵略的外来種ワースト100に選定した。日本では外来生物法の「要注意外来生物リスト」において、「別途総合的な検討を進める緑化植物」の一つに指定されている。「要注意外来生物リスト」は「生態系被害防止外来種リスト」の作成に伴い平成27年3月に廃止された為、現在は後者のリストに記載されている。各地の河川敷などに猛烈な勢いで野生化しており、2007年秋には天竜川、千曲川流域の河川敷で伐採作業が行われた[15]。一方で、要注意外来生物に指定された根拠については科学的に証明できないとして反論している報告もある[16]。
ニセアカシアとアカシア
明治期に日本に輸入された当初は、このニセアカシアをアカシアと呼んでいた。後に本来のアカシア(ネムノキ亜科アカシア属)の仲間が日本に輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ぶようになった。しかし、今でも混同されることが多い。本来のアカシアの花は放射相称の形状で黄色く、ニセアカシアの白い蝶形花とは全く異なる。