せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

ゆらゆらと 再誕

2007-10-15 18:44:50 | その他
気が付いた時には私はもうそこに居て、忘れた頃に私はもうそこに居ないのだと思い出した。笑いながら走っていく子供が"私を"通り抜けて、どこかへ走っていく。
―・・ああ、そろそろ鐘が鳴る頃だ。


ローレライ Side


歩くような感覚で、けれど実際は浮遊するように軽い体を滑らせながら、その町並みを眺めた。天とはこんなにもあの街に似ているのか。それとももう一つの世界とやらは地球と同じ形をしているのか。あるいは、私は思念なのかもしれないが。
立ち止まって、ゆるりと自分の手を見た。・・いや、地面を見た。俄かに、とは言い難いほど薄く、ガラスのように透けた手が夢のように思えた。けれどどことなく確信をもって言える。私は死んだのだ。
かと思えば何故か此処にいる。どうしてかと問えば幽霊としか言えないのだからお笑い草だ。けれど私に未練などあったのか。どうにもこの世は可笑しなことばかりらしい。

そして私は、思いを馳せるとそれが見えるらしかった。できれば生前からこうであって欲しかったと思うと、思わず笑いが零れた。生きていれば不審な目で見られただろうが、今や私は誰にも見えていないのだからその心配もなかった。人の心が誰にも覗けはしないように。


初めに浮かんだのは私の尊敬すべき師であり、隊を総統されていた方だった。
ぼんやりとした視界から、徐々に見えてきたところで、思考は凍りついた。やはりというべきか、体中に巻かれた包帯に縛り付けられるようにして、横たわっていた。動けないのだ、迅速の剣術を使いこなし、全てを力でねじ伏せてきた隊長・・スクアーロは。

「ローズ」

声が響いたことで、生前の癖か敬礼の姿勢をとってしまった。生きていようがいまいが見えはしないというのに。此処に存在する"居ない"私に、尚もスクアーロはうわ言のように言い続ける。

「そろそろお前の所に逝けそうだぜぇ」

なんと嘆かわしいことか。そう思って閉じた瞼の裏に、二度とその光景は見えなくなった。


次に見えたのは、男であり女であるという、四六時中混乱させられた人だった。
私が死ぬ前、常のようにしていたことを、また鏡の前で繰り広げながら、一度回ってみたり、と。一人で行うファッションショーだと言っていたか。けれど以前のようにその横に居たはずの私の姿はない。

「やっぱりこっちの服の方がいいかしらぁ」

楽しげにゆたいながら服を取っては投げ、取っては投げ、とするうちに、部屋の中は強盗でも入ったかという様な有様になった。溜息を吐いた。それを片付けるのは私の役目だったからだ。

「・・マリーちゃんにも着せてあげたかったわ」

肩を竦めると、そこには柄にもなく眉を下げるルッスーリアの表情が映っていた。思わず目を見開いて後ずさると、その光景は消えてしまった。


意図せずしても思い浮かんだのは、金色のゆるい線と銀のティアラ。
いつになく大勢を切り裂いたらしいベルフェゴールの服と顔は真っ赤に染まっていた。こんなに荒れているということは、誰かと口論にでもなったのだろうか。・・いや、今までこんなことはなかったはずだ。

「ローズマリー」

背筋が凍る思いをした。服の内側へ氷を投げ入れられるような、そんな冷たい声。常に楽しげだった"王子"の面影は、今や見る影もなかった。そこに居るのは、"Prinse The Ripper"、"切り裂き王子"そのものだった。

「帰って来いよ。王子の言うこと、聞けないわけ?」

その声に、私は返すことができないのだと思うと、絶望に視界が歪んだ。


意図して思い浮かべたのだ。武器を幾重にも背負った背中。
そこは私が死んだ場所だった。いつになく真剣な表情はやはり、我が君の笑みのためなのだろう。それを踏みにじった私を、レヴィ・ア・タンは許さないだろう。

「くそ、何故あんな奴の為に!」

やはりな、と目を閉じた。顔を歪めるその表情は見るに耐えない程怒りに震えていた。武器を握る手も、心なしか硬い。

「何故、ローズが死ななければならなかった!」

どく、と波打った心臓の音に、その光景はかき消されてしまった。悲願に歪んだ表情を、私は忘れることなどできないだろう。


ふと浮かんだものは小さく、けれど大きな存在感を持っていた。
小さ過ぎる彼にとって、その廊下は果てしなく長いように感じられた。けれど浮遊していく速さはいつにも劣らず、よく会話を交わしつつ歩いたものだ。彼が・・・マーモンが覚えているかどうかは、わからないのだが。

「この廊下は長いね」

静まり返った廊下に、ひとりごとのような、それでいて人に語りかけるような、そんな声が響いた。ふと止まった顔が、こちらを向く。・・いや、振り返っただけなのだろう。けれどあまりに的確にこちらを見ていて、そう錯覚した。

「君が居ないと暇で仕方がないよ、ローズ」

また背を向けて進みだした背中は滲んで消えた。・・そうか、私は。


ゴーラ・モスカ、並びに我が君を視ようとしたとことで、ふつりと視界が事切れた。
目に浮かんだそこは、ホワイトノイズの飛び交う暗い部屋だった。違和感を覚えつつも、何故か動かしているという感覚のある手を眺めた。透けていない。けれど、感覚もない。一体自分はどうしてしまったというのだろうか。
不安を覚えつつもその名を口にしようとして、また噤んだ。どうしてだろうか。私は"その名を知っている"のに、"知らない"のだ。言葉にすることができない。

「・・ボ、ス」

かろうじて出した声は機械的で私の声ではないように思えた。今更ながら、息をしているという感覚もない。私は一体、どうしてしまったというのだ。ゾンビにでもなって、蘇ったとでもいうのだろうか!

「何だ」

恐怖を覚えるほど機嫌の良さそうな表情が目の前に見えた。その横には、ゴーラ・モスカ。何故。何故だろう。何故私は此処にいるのだろう。何故、"私は生きているのだろう"。

「・・どうして生きてんのかって顔だな?」

声を上げて笑った彼の名を私は今だ思い出せずにいた。ただその表情が何かを思わせたのか、ふとある名が浮かぶ。けれどこんな名前ではないはずなのだ。

「答えは簡単だ。俺がお前を生き返らせた、ただそれだけだ」

あまりに支離滅裂な答えだった。けれど何故か頭は納得し、体は勝手に動いた。その膝元に跪いて、私のものとは明らかに色の違う黒髪を零しながら声を発した。

「・・・ローレライの思惑のままに」

こうして私は再誕し、ローレライと"出会った"のだ。

―――
(ゆらゆらと 再誕)

もう意味わかんない(二度目)
でも勢いに任せて書きました。
・・・がんばったよ、僕(何