せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

らいらっく。

2007-05-26 23:05:00 | その他
「‥家に帰ったら、誰も居ませんでした。蝋燭の明かりは点いたままで、人だけ消えてしまったかのような、そんな物悲しさがあったんです」

彼女の手の中の茶がカタカタと揺れる。何かに怯えるように握り締められた湯飲みは、その不安の大きさで握りつぶされてしまいそうだ。その様子に、少なからず眉を顰める。

「気付けば叫んでいました。『兄さん、銀、高杉、辰馬、先生』意味もなく繰り返しながら声がなくなるくらいまで泣きました。けれどみんなは帰って来なかった」

もちろん、その次の朝は声がでなかったです、と、伏せ目がちに呟いた。ふとすれば消えてなくなってしまいそうな、そんな儚さをもって、彼女はどこを見るでもなく視線を彷徨わす。どこを、見ているのだろうか。

「しばらくして、兄さんが真っ青になって帰って来たんです。続いて辰馬が珍しく顔を顰めながら入ってきて、そのあと、引きずるようにして、銀が、動かな い」

そこまで言うと、声が唐突に途切れる。湯飲みの震えは加速していくばかりで、ついには、手からすべり落ちて、地面に転がった。地に染みが広がっていく。

「高杉 を、 連れて帰って、来たん です」

頭の隅に、こんな話を聞いて何になるのかという考えが浮かぶ。敵の事情など知ったことではない。だが突き放すこともできないのは、何故だろうか。

「私、怖くて、何も、できなくて。だから、高杉の傍に、居ようと思ったんです。でも、」
「・・・でも、どうしたんだ」

嗚咽を抑えるように口を押さえて、晋助は、と、震える肩を隠そうともせずに、ぼろぼろと泣く。それは後悔や悲しみの類から来るような表情ではなかった。それは、そこにあるのは、恐怖だった。

「彼は、彼は違った・・!!彼は後悔していたんじゃなかった、憎んでいたんじゃなかった・・!!!彼はっ・・・!・・彼は、ただ、破壊を望んでいただけだった・・・っ」


―――
(落花流水)
話しているのは蘭。相槌(視点)は聖(土方)。