かしゃ― ん。
のん気で高くて澄んだ音を立てて、私が大事に大事にしていたトンボ玉が落ちた。あ、一個欠けてる。あーあ。結構気に入ってたのに。そう思いながらぶつかった相手を軽く睨みつける。ばーかばーかお前これどうしてくれんのさ。人にあげるつもりだったのにさ。おいこら銀八、わかってんだろ。目だけで言ってみる。
「え、何?何コレ、なんで先生睨まれてんの?」
「自分の胸に聞け」
うわこいつ気付いてないようっざ。うわうっざ。最高にうっざ。はぁ、と溜息を吐いて拾いに掛かると、馬鹿も拾うのを手伝ってくれた。ていうかお前の所為だよ。拾ってくれなくていいから弁償しろ(いややっぱ結構あるから拾って)。
「・・なー、これ、何?硝子玉にしては気取りすぎてね?ビー玉の分際で」
「お前にとってビー玉って何だ。・・これはトンボ玉ってーの。全部手作り」
「羽戸崎の?」
「馬鹿だろお前馬鹿だろ私にできたら定春だってできるわ」
ちょお前どんだけ不器用なんだよ、と言われてむかついたので脛を蹴り上げておいた。ひとりで悶えてたけどほっとくに限る。立ち上がると、スカートの裾を引っ張られた。何、と睨むと、私の足元を指差す。
「なぁ、一個残ってっぞ」
「・・それ、欠けたからいらない。銀八いるならあげる。いらないなら責任持って捨てておいて」
巾着の紐を腕に通しながら単調に言うと、少し悩んだ後で「んじゃ、ありがたく」と言ってそれを白衣のポケットにしまった。どことなく嬉しそうだなんて、そんな。こんな欠けた硝子玉のどこがいいんだか。
もう一度溜息を吐くと、気にしない様子で銀八は何かを投げ付けてきた。「いたっ、」地味に痛かった。拾い上げて見てみると、どうやら飴玉のようだった。苺ミルク味。「やるよ」下から聞こえてきたので、好意に甘えることにした。「じゃ、ありがたく」銀八の真似をして言ってみた。そのまま銀八を放置して歩き出す。帰られたらなんか格好悪い。なんかフられるよりアレだ。
飴を口に入れれば昼に飲んだ苺牛乳の味がした(そういやあれも銀八から貰ったんだっけか)。
巾着の口を掴んで呟くと、澄んだ音が漏れた。チャリ、
「よしっ、いっちょ告白しますか」
どうせ無理だけどね。口の中だけで呟いた。苺ミルク味に溶けていった。
『いわばお守りみたいなもんですよ。別に思い入れなんてありません』
嘘だな、あれは絶対何かあった。恨めしそうにこっちを睨んだ目を思い出して苦笑する。捨てる、なんて、んなもったいねーことできるわけねーだろ。羽戸崎のものなのに、そんな無碍にする奴が居たら、ぶっ殺してやりたいくらいだ。そう思いながら欠けてしまった硝子玉を取り出してみる。透明な土台に綺麗な水玉だ。
・・いや、居た。羽戸崎が思っている奴、あいつは羽戸崎のことを何とも思ってない上にその気持ちを知っていて、そして何よりクラス公認のサディストだ。全くなんで羽戸崎もあんな奴のことが好きなのか。
無意識に力を込めていたらしくて、指からはいつの間にか血がでていた。ああ、このまま血が止まらなくなっちまって死んだら、羽戸崎は少しでもこっちを見てくれるんだろうか。俺の為に泣くんだろうか。
我ながら、愚かしい考えだと思った。
「っは、痛ぇ」
そう苦し紛れに呟いた。降り出した雨に消えていった。
―――
(水玉飴玉硝子玉)
銀八→主人公→沖田。かわいそうな二人。
どっちも諦めてる片思い。せつない(殴
トンボ玉、私はそんなに好きじゃないですけどね(何