もう1つの感性の本棚

書くことを仕事にしている者として、日常をどのような感性で掬い取るか。

街の縁取り43~淋しいのはお前だけじゃない。富山編。

2006-11-14 18:48:49 | 街の縁取り
 先日、富山市に出張で行った際、ランチをどこで食べるか駅の周辺を少しウロウロ
した。
 中途半端な時間帯ということだけでなく、再開発が進んだ結果なのか、駅近くに食べ物を出す路面店がない。ホテルや駅ビルしか目に入らず、大通り沿いに牛丼屋がある程度だった。
 路面電車にでも乗って足を延ばせばまた違うと思うが、繁華街の匂いは駅前に漂っていなかった。

 が、これは正確には間違いだったことにすぐに気づく。

 一画だけポルノ館を中心に呑み屋が建て込んでいるところがあった。その空間は、駅前の整然とした街並みとうって変わって、その場所だけが建て増しの連続の末、地権が入り組んで開発対象から漏れて放置されているような雰囲気に覆われていた。

 ポルノ館もやっているのか廃業しているのかひと目では分からない。ポスターは新しいので実際にはやっている風だったが、もぎりのブースは手元しか見えないような布に覆われていて確信が持てなかった。
 その周りの呑み屋は昼間のせいだろう、人の気配がない。

 それでも空間は生きているらしかった。

 直感的に、市川森一脚本の名作ドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」を思い起こした。借金苦などそれぞれ事情がある連中が潰れかけた小屋に住み込んで大衆演劇をやるという設定だった。
 まるでドラマのセットのような、という気持ちが湧くのは、自分が部外者であり、自らそういう視線以外で対象を見られないせいだろう。現実には、セットではなく、そこは生きた実人生が綴られている舞台であり、小綺麗でのっぺりとした空間に身を置いていることからすれば、内側に飛び込んでみたいという誘惑に溢れている。そして、自分のように冷やかしで踏み込んではいけないような聖地にも感じる。


 富山にはまた行くが、その空間をなぞりながらウロウロする自分を思い浮かべる。