アンリ・トロワイヤです。
この方は『女帝エカテリーナ』『大帝ピョートル』『チェーホフ伝』『パルザック伝』等の
伝記物の方が有名かも知れませんね。
で。。この『サトラップの息子』は自伝的な作品だったりしてます。
1920年、タラソフ一家は革命に揺れるロシアからフランスへ亡命します。
父アスラン、母リディア、長女オルガ、長男アレクサンドル、次男レオン、
祖母、家庭教師オルタンス・ボワロの七人で、
この作品の主人公は次男レオン、この時はまだ七歳でした。
亡命旅行の途中、寄港したヴェネツィアでの出来事は、
両親のズレを見事に現わしています。
パリ行きの汽車に乗り遅れたら大変と、しきりに時間を気にする父アスランに対し、
せっかく美しいヴェネツィアにいるのにゴンドラに乗らないなんて考えられない!
と言い張る母リディア。・・・でも決して我侭なわけじゃありませんヨ。
要するにお嬢様なのです。。
このエピソードは、一家に訪れる後々の出来事に対処する
アスランとリディアの特徴を物語る上で
総ての基本のようであり、とても興味深かったです。
父アスランは、ロシアでは名士でしたが、フランスでは投資に失敗し、
やる事為す事すべてが裏目に出て、一家はドンドン落ちぶれていくのです。
思っていたよりはるかに長い亡命生活は、かなり辛いものだったのですね。。
そして片や亡命の途中で知り合ったレオンの友人ニキータの父親は
ロシアではパッとしない銀行員だったにも拘らず、フランスでは少々汚い手を使い
豊かな生活をしています。
対照的な家族ですが、レオンの家族は貧しくても常に毅然としていて上品、
二キータの家族は生活は豊かでも、どこか後ろ黒い危険な状況の中にいます。
事実、ある日突然姿をくらまし、レオンと二キータもこの先、生涯会う事はありません。
レオン15歳、二キータ17歳でした。
この作品は、レオンとニキータが共同で小説を創作する約束をし、
お互いのアイデアを合わせて創作していく過程を描く友情物語でもあり、
亡命した二つの家族の、それぞれの生き様、時代と共に変節する暮らしぶり、
末路等を描いた作品でもあるのです。
常に視点はレオン。。
時代の激しい変化に乗り切れない両親と違い、未来に希望を描くレオンの視点ゆえ
小説自体は決して暗くありません。
でもレオンの父親アスランの、一家を支えるべく奮闘するフランスでの生活は
なんとも切なく・・・
家が差し押さえになり、家財道具を競売にかけられるシーン。。
慣れない営業で一軒一軒訪問し、人々から嘲笑されるシーン。。
これらの状況を、胸を痛めて見つめるレオンの心情にはホント、泣かされます。
二キータとの友情の描き方も独特で、お互い決して気が合うわけではないのに
どこか深いところで通じ合っていて、不思議な関係です。
二人で共同作業していた小説は結局頓挫。。
途中戦争が勃発し、それぞれ別の形で巻き込まれてしまうのです。
最終的にはレオンは作家として立派に大成し、姉オルガ、兄アレクサンドルも
それそれ努力して自立、そして二キータは・・・。
亡命生活の悲惨さ、亡命作家としての心情、没落家族の苦境等、
内容は悲惨でも、含むところもとても多く、不思議と楽しく読めた作品です。
何より文章の美しさ、簡潔さが素晴らしかったです。
素材提供:IKOI