2014年4月26日
これもひどい話だ(オバマの慰安婦発言もひどく、それは今日の別のエントリーに記した)。
「中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は25日、輸送船を差し押さえられた商船三井が供託金支払いに応じたことについて「対日賠償(問題)に新たな時代を開いた」と称賛する社説を掲載した。社説は供託金支払いが「対日民間賠償問題での重大な勝利」と強調。商船三井が「巨額の賠償金」を払ったことは「中国だけでなく韓国やほかのアジア諸国の被害者を鼓舞する」としたうえで、「対日賠償の動きが今後活発化するかもしれない」との見通しを示した。 中国政府はこの問題について「一般的な商業契約上のもめ事であり、中日戦争の賠償問題とは関係ない」との見解を示しているが、共産党系紙がこれを否定した形だ。同紙は、「中国は過去、弱すぎた」と述べ、国力が強大となった現在、日本側に何ら遠慮する理由がないとの見方を示した。」(共同 25日 産経)。
自由主義社会でない中国で、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が、共産党や政府の意向に反する記事を配信することは考えられないので、これは共産党の意向を反映したものであることは間違いない。その目的は、こういう過激な内容で、日本や国際社会の反応を見るための‘観測気球’であると同時に、国際世論を中国に有利な方向に導くことにあると言えるだろう。すなわち、国内での賠償請求を、すべて中国政府の責任をパス スルーして、すべて日本の責任とすることにより、国内の不満を押さえると同時に、賠償金をむしり取り、更に韓国や東南アジアなどの国民の邪心・金銭欲を煽って、世界的な日本への賠償請求運動を起こさせ、日本の地位と国力を弱めようとする目的と見られる。全く仁義も、法も、理性もない、ただただ身勝手でふざけた話だ。しかし、すでに彼らは国際世論の形成に向けて動いているということである。
日本政府は後手に回っていると言わざるを得ない。商船三井が約40億円の供託金を支払ったことについて、中国側は「中国の裁判所は法に基づいて裁決し、商船三井も法に基づき金を支払った」と強調している。中国国内の「法に基づいている」と言えばそれが通る前例を作ってしまったことは否定できない。今後、戦時賠償の民間請求はもちろん、個人請求も多発し、それが中国の法に基づいて処理され、その多くで被告とされた日本企業・日本は敗訴し、どんどん差し押さえが進むことだろう?! こういう最悪の事態にならぬよう、日本政府のしっかりした対応、毅然とした対応、そして中国政府の理性と分別ある行動を期待したいものである。
この問題にはわかりにくさがあることに鑑み、以下では背景と、今後の展開について、私の理解を深める意味も込めて、まとめてみた。
《中国は「戦争賠償とは無関係」とは言うが、果たして…?》
まず中国が何を言っていたのかを確認しておきたい。
「中国外務省の秦剛報道局長は21日の記者会見で、上海の裁判所が戦後補償をめぐる訴訟に絡み、商船三井の船舶を差し押さえたことについて「この案件は一般的なビジネス契約上のもめ事であり、中日戦争の賠償問題とは関係ない」との主張を展開した。 中国政府との関係を否定してビジネス上の個別の問題へと矮小化することで、中国は1972年の日中共同声明に反していないとアピールしたいようだ。 秦氏は「中国は引き続き、外国から(中国に)投資している企業の合法的な権益を法に基づいて守る」とも強調した。」(21日 共同)。
さすがの中国も、各国と対応する窓口の政府は、あまり出鱈目も言えないので、各国企業に不安を与えないように、細心の注意を払っているように思える。チャイナリスクが広がると、企業が逃げ出し、困るのは中国だからである。だから、中国は上述の環球時報などで、様子見をしながら、政府の対応を決めていこうとしているはずだ。いわば、この二者は役割分担しているのだろう(中国の社会主義は随分と、‘便利なシステム’?ではある!)。これを、わかりやすく解説してくれているのが、次の朝日社説である。
「この訴訟の由来をひもとけば長く複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのは難しい特殊な民事紛争だ。…略… 話の始まりは古い。1936年、上海の海運会社が日本の会社に船2隻を貸した。やがて日中戦争が起き、船は日本軍に徴用され、44年までに沈没した。その日本の会社を今に引き継ぐのが商船三井だ。 中国の会社側の創業者遺族は戦後すぐ来日して交渉、のちに東京で提訴したが敗れた。中国で88年に改めて提訴し、07年に一審で勝訴。10年に確定した。 その後も和解の話し合いは続いたが、破談となって遺族側は差し押さえを申請した。 日中は72年の国交正常化の際「戦争賠償請求は放棄する」と合意した。だが、中国側の法廷は、安全海域でのみ船を航行するとした契約の不履行を重視した。ふつうの民間企業同士の訴訟としての扱いだ。 中国側は、戦争賠償の放棄とは別に残る問題として①強制連行・労働②慰安婦③遺棄化学兵器を挙げ、折に触れ日本側に対応を求めている。今回の件はいずれにも当てはまらない。日本企業がかかわるトラブルは、戦前の中国で多かったはずだ。ただ、87年に中国で民事の法制度が変えられた際、それ以前の案件は88年末まで受け付け、以後は時効成立とした。今回に似たケースが蒸し返されることは考えにくい。 むろん、中国では司法は完全に独立しているわけではない。共産党政権は差し押さえをあえて止めなかったとみられる。それによる対日関係への影響をどう考えたかは不透明だ。…略… 日中間の経済交流は切っても切れない関係にある。どの国同士でもあるように、民間の紛争は絶えないだろう。できるだけ政治から遠ざけ、実務的に解決できるようにすることが、日中双方の国益にかなう。」(24日 朝日社説抜粋)。
これを一見すると、今回の商船三井の事例は特殊なものであって、こういう条件を備えた訴訟は少なそうに思える。というのも、戦前にちゃんとした契約がなされていること、そして88年の時効成立までに、提訴がなされていなければならないという最低二つの条件が満たされていなければならないわけだから、これをクリアしている案件は少ないだろうと予測できそうだからである。これはなかなかの正論であるように思える。
しかしこれをもって朝日の主張が正しいと見るのは早計であるだろう。なぜなら、例によって、朝日には日中の主張のいずれが正しいのかといいう最も重要な観点がないから、日本が主張している「中国の戦後賠償は、放棄されており、中国の個人や民間からの賠償請求に日本が応じる義務はない」という基本的な考えが確認されないまま、「どっちもどっち」論で、お互いの歩み寄りを要求している。これは本来、日本から取れないはずのものを取れる可能性があるところまで持っていく議論だから、基本的に、中国の利益に加担する姿勢になっている。もう一つは、この説明を見る限りでは、今後このようなことが起きることは少なそうなイメージを出しているが、上述の環球時報の論述を合わせ考えると、先の見通しは何もない。朝日は基本的に、韓中の国益には関心があっても、日本の国益には関心がないから、中国から多くの訴訟が起こされれば、それをしっかり受け止めるべきだと日本政府に迫るだろう。そしてこの社説で振りまいたイメージとの矛盾は、自分たちは中国の主張を客観的に伝えただけで、中国からの訴訟が増えたのは被害者の事情によるもので自分達があずかり知らぬことだと、逃げを打つだろう(これはこれまで彼らが使って来た常套手段)。したがって、この社説に記載されている内容は、中国の主張の解説であり、中国や朝日が匂わせていることを信じてよいものかどうかは、なんとも言えない、と言うよりもむしろ疑いの目で見るのが正しい態度だろう。
《日本政府は、中国からの請求に、安易、無節操に応じてはならない。もう民間、個人を問わず、戦争賠償は終了している!》
ところで肝心の日本政府の対応であるが、
「菅義偉(すが・よしひで)官房長官は24日の記者会見で、中国の裁判所が戦後補償をめぐる損害賠償訴訟で商船三井所有の貨物船を差し押さえた問題について「時効ではないということで裁判になった特異な事例だ」と指摘しながらも、「裁判が終わり、示談が始まっているところだった。中国側も戦後賠償とは違うと発表しているので、分けて考えるべきだ」と述べ、日本政府がこれ以上介入する必要はないとの認識を示した。 差し押さえが多発する可能性に対しては「かなり前のことは時効ということで法的、客観的に処理してほしい」と求めた。」(25日 産経)。
菅長官は、当初、中国による差し押さえは「日中共同声明」の精神に反するとしていたものを、一転して「戦後賠償とは分けるべきだ」として、今回の補償金支払いを容認したのであるが、これはこれまでの日本政府の方針とも必ずしも一致せず、その根拠も明らかにされておらず、非常にわかりにくい言明である。これでは民間や個人からの賠償請求を日本として認めることになりかねない。政府は、何がしかの裏約束をしての話なのか、しかしもしそうなら、環球時報はさすがにあのようには書かないだろう。それとも中国とは話を付けないまま、このような事例は少ないものとして、認めることにしたのか? しかし、現在はそうであっても、まだ出て来る人がいるかもしれないし、更には、屁理屈を付けて訴訟を成立させたり、提訴の書類などの偽造捏造をされると、対象が大きく膨らむ可能性がある。それとも、どうすべきかがわからないまま、とにかく間に合わせ、とりあえずの譲歩によって凌いだと言うことなのか?
あるいはまた、中国側の出方がわからないので、これだけに限って譲歩して、出方を見て今後の対応を決めて行こうということか? いずれの考えで今回の処置に踏み切ったのかはわからないが、とにかく今後は、非常に厳しい訴訟が多発するだろうから、一歩も引かぬ断固たる意志で、法と正義に則った毅然たる対応を要請したい。この問題の原則は次のようなものでなければならないだろう(政府には当然言わずもがなのことではあるだろうが、国民全体で確認しておくことが重要と思う次第)。
>1972年の日中共同声明で戦争賠償は放棄されており、これは個人であれ民間であれ、これに含まれているものと解釈されること_
中国で日本への民間賠償請求を認める動きが表面化したのは、江沢民政権が日本の歴史問題に繰り返し言及した1990年代だ。終戦直前に秋田県の花岡で中国人労働者が蜂起し死傷者が出た「花岡事件」をめぐって元労働者らが日本企業を提訴し、その後、中国人による日本での提訴が相次いだ。これを受けて日本の最高裁は2007年、日中共同声明により国家間だけでなく個人の賠償請求権も放棄されたとの初判断を示した。日中間で賠償問題は決着済みであることを確認したと言える。
>日本は、戦争賠償を行わなかったが、個人、民間への賠償も含め、準賠償と位置付けられる中国への資金援助、技術援助を行った_
中国政府が戦争賠償の代替として認識しているとも指摘される日本の対中政府開発援助(ODA)は、円借款も含め総額3兆6000億円以上になるが、中国の国民にはほとんど認識されていない。もし、この上更に中国が個人や民間への賠償を日本に求めてくるとなると、賠償金の二重取りの詐欺的行為にもなりかねず、こんな理不尽なことは許されない。
>ドイツでの個人への賠償(補償)も自国民対象であって、他国民の請求には応じていない_
以下はウイキペディア「戦争賠償」からの抜粋_
「第二次世界大戦を例にとるならば、日本の場合は国家間の戦争賠償、ドイツの場合は国家対個人の戦後補償にも応じている(ただしドイツの公式な立場は「個人が戦争で受けた被害を自国政府以外に請求することはできない」というものであり、ドイツ国民以外の戦争被害の請求は認めていない)
>日本企業の賠償責任は、特殊なものを除き原則として日中共同声明の規定によって免責であるはずだ_
商船三井が約40億円の供託金を支払ったことについて、中国側は「中国の裁判所は法に基づいて裁決し、商船三井も法に基づき金を支払った」と強調しているが、これはあくまでも中国の法律なのだから、少なくとも賠償問題については、特殊な場合を除き日本や、日本企業、日本人が縛られる必要はないはずだ。今回の例はあくまでも特殊な例とされるべきだし、それが日本政府の立場だろう。しかし、中国が放棄した賠償請求権に何が含まれていたのかは、議論の余地があるところらしいから、今後、戦時賠償の民間請求も個人の請求も中国の勝手な「法に基づいて」どんどん提訴され、差し押さえが進む危険性が高い。企業経営者が、きちんとリスク管理できるように、政府は企業を全面的に支援すべきだ。また企業自身の独自の施策を練る必要があるだろう。
いずれにせよ、中国との関係は、尖閣の領土問題だけではなく、今回の試算差し押さえという、ある意味、強硬手段の行使という宣戦布告を受けたわけであり、更に高い衝突の危険性があるレベルに達しているということである。政府のみならず、国民も「平和ボケ」を捨て去って、一致結束してこれから更に高まるだろう危機に対処する必要があるだろう。
これもひどい話だ(オバマの慰安婦発言もひどく、それは今日の別のエントリーに記した)。
「中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は25日、輸送船を差し押さえられた商船三井が供託金支払いに応じたことについて「対日賠償(問題)に新たな時代を開いた」と称賛する社説を掲載した。社説は供託金支払いが「対日民間賠償問題での重大な勝利」と強調。商船三井が「巨額の賠償金」を払ったことは「中国だけでなく韓国やほかのアジア諸国の被害者を鼓舞する」としたうえで、「対日賠償の動きが今後活発化するかもしれない」との見通しを示した。 中国政府はこの問題について「一般的な商業契約上のもめ事であり、中日戦争の賠償問題とは関係ない」との見解を示しているが、共産党系紙がこれを否定した形だ。同紙は、「中国は過去、弱すぎた」と述べ、国力が強大となった現在、日本側に何ら遠慮する理由がないとの見方を示した。」(共同 25日 産経)。
自由主義社会でない中国で、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が、共産党や政府の意向に反する記事を配信することは考えられないので、これは共産党の意向を反映したものであることは間違いない。その目的は、こういう過激な内容で、日本や国際社会の反応を見るための‘観測気球’であると同時に、国際世論を中国に有利な方向に導くことにあると言えるだろう。すなわち、国内での賠償請求を、すべて中国政府の責任をパス スルーして、すべて日本の責任とすることにより、国内の不満を押さえると同時に、賠償金をむしり取り、更に韓国や東南アジアなどの国民の邪心・金銭欲を煽って、世界的な日本への賠償請求運動を起こさせ、日本の地位と国力を弱めようとする目的と見られる。全く仁義も、法も、理性もない、ただただ身勝手でふざけた話だ。しかし、すでに彼らは国際世論の形成に向けて動いているということである。
日本政府は後手に回っていると言わざるを得ない。商船三井が約40億円の供託金を支払ったことについて、中国側は「中国の裁判所は法に基づいて裁決し、商船三井も法に基づき金を支払った」と強調している。中国国内の「法に基づいている」と言えばそれが通る前例を作ってしまったことは否定できない。今後、戦時賠償の民間請求はもちろん、個人請求も多発し、それが中国の法に基づいて処理され、その多くで被告とされた日本企業・日本は敗訴し、どんどん差し押さえが進むことだろう?! こういう最悪の事態にならぬよう、日本政府のしっかりした対応、毅然とした対応、そして中国政府の理性と分別ある行動を期待したいものである。
この問題にはわかりにくさがあることに鑑み、以下では背景と、今後の展開について、私の理解を深める意味も込めて、まとめてみた。
《中国は「戦争賠償とは無関係」とは言うが、果たして…?》
まず中国が何を言っていたのかを確認しておきたい。
「中国外務省の秦剛報道局長は21日の記者会見で、上海の裁判所が戦後補償をめぐる訴訟に絡み、商船三井の船舶を差し押さえたことについて「この案件は一般的なビジネス契約上のもめ事であり、中日戦争の賠償問題とは関係ない」との主張を展開した。 中国政府との関係を否定してビジネス上の個別の問題へと矮小化することで、中国は1972年の日中共同声明に反していないとアピールしたいようだ。 秦氏は「中国は引き続き、外国から(中国に)投資している企業の合法的な権益を法に基づいて守る」とも強調した。」(21日 共同)。
さすがの中国も、各国と対応する窓口の政府は、あまり出鱈目も言えないので、各国企業に不安を与えないように、細心の注意を払っているように思える。チャイナリスクが広がると、企業が逃げ出し、困るのは中国だからである。だから、中国は上述の環球時報などで、様子見をしながら、政府の対応を決めていこうとしているはずだ。いわば、この二者は役割分担しているのだろう(中国の社会主義は随分と、‘便利なシステム’?ではある!)。これを、わかりやすく解説してくれているのが、次の朝日社説である。
「この訴訟の由来をひもとけば長く複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのは難しい特殊な民事紛争だ。…略… 話の始まりは古い。1936年、上海の海運会社が日本の会社に船2隻を貸した。やがて日中戦争が起き、船は日本軍に徴用され、44年までに沈没した。その日本の会社を今に引き継ぐのが商船三井だ。 中国の会社側の創業者遺族は戦後すぐ来日して交渉、のちに東京で提訴したが敗れた。中国で88年に改めて提訴し、07年に一審で勝訴。10年に確定した。 その後も和解の話し合いは続いたが、破談となって遺族側は差し押さえを申請した。 日中は72年の国交正常化の際「戦争賠償請求は放棄する」と合意した。だが、中国側の法廷は、安全海域でのみ船を航行するとした契約の不履行を重視した。ふつうの民間企業同士の訴訟としての扱いだ。 中国側は、戦争賠償の放棄とは別に残る問題として①強制連行・労働②慰安婦③遺棄化学兵器を挙げ、折に触れ日本側に対応を求めている。今回の件はいずれにも当てはまらない。日本企業がかかわるトラブルは、戦前の中国で多かったはずだ。ただ、87年に中国で民事の法制度が変えられた際、それ以前の案件は88年末まで受け付け、以後は時効成立とした。今回に似たケースが蒸し返されることは考えにくい。 むろん、中国では司法は完全に独立しているわけではない。共産党政権は差し押さえをあえて止めなかったとみられる。それによる対日関係への影響をどう考えたかは不透明だ。…略… 日中間の経済交流は切っても切れない関係にある。どの国同士でもあるように、民間の紛争は絶えないだろう。できるだけ政治から遠ざけ、実務的に解決できるようにすることが、日中双方の国益にかなう。」(24日 朝日社説抜粋)。
これを一見すると、今回の商船三井の事例は特殊なものであって、こういう条件を備えた訴訟は少なそうに思える。というのも、戦前にちゃんとした契約がなされていること、そして88年の時効成立までに、提訴がなされていなければならないという最低二つの条件が満たされていなければならないわけだから、これをクリアしている案件は少ないだろうと予測できそうだからである。これはなかなかの正論であるように思える。
しかしこれをもって朝日の主張が正しいと見るのは早計であるだろう。なぜなら、例によって、朝日には日中の主張のいずれが正しいのかといいう最も重要な観点がないから、日本が主張している「中国の戦後賠償は、放棄されており、中国の個人や民間からの賠償請求に日本が応じる義務はない」という基本的な考えが確認されないまま、「どっちもどっち」論で、お互いの歩み寄りを要求している。これは本来、日本から取れないはずのものを取れる可能性があるところまで持っていく議論だから、基本的に、中国の利益に加担する姿勢になっている。もう一つは、この説明を見る限りでは、今後このようなことが起きることは少なそうなイメージを出しているが、上述の環球時報の論述を合わせ考えると、先の見通しは何もない。朝日は基本的に、韓中の国益には関心があっても、日本の国益には関心がないから、中国から多くの訴訟が起こされれば、それをしっかり受け止めるべきだと日本政府に迫るだろう。そしてこの社説で振りまいたイメージとの矛盾は、自分たちは中国の主張を客観的に伝えただけで、中国からの訴訟が増えたのは被害者の事情によるもので自分達があずかり知らぬことだと、逃げを打つだろう(これはこれまで彼らが使って来た常套手段)。したがって、この社説に記載されている内容は、中国の主張の解説であり、中国や朝日が匂わせていることを信じてよいものかどうかは、なんとも言えない、と言うよりもむしろ疑いの目で見るのが正しい態度だろう。
《日本政府は、中国からの請求に、安易、無節操に応じてはならない。もう民間、個人を問わず、戦争賠償は終了している!》
ところで肝心の日本政府の対応であるが、
「菅義偉(すが・よしひで)官房長官は24日の記者会見で、中国の裁判所が戦後補償をめぐる損害賠償訴訟で商船三井所有の貨物船を差し押さえた問題について「時効ではないということで裁判になった特異な事例だ」と指摘しながらも、「裁判が終わり、示談が始まっているところだった。中国側も戦後賠償とは違うと発表しているので、分けて考えるべきだ」と述べ、日本政府がこれ以上介入する必要はないとの認識を示した。 差し押さえが多発する可能性に対しては「かなり前のことは時効ということで法的、客観的に処理してほしい」と求めた。」(25日 産経)。
菅長官は、当初、中国による差し押さえは「日中共同声明」の精神に反するとしていたものを、一転して「戦後賠償とは分けるべきだ」として、今回の補償金支払いを容認したのであるが、これはこれまでの日本政府の方針とも必ずしも一致せず、その根拠も明らかにされておらず、非常にわかりにくい言明である。これでは民間や個人からの賠償請求を日本として認めることになりかねない。政府は、何がしかの裏約束をしての話なのか、しかしもしそうなら、環球時報はさすがにあのようには書かないだろう。それとも中国とは話を付けないまま、このような事例は少ないものとして、認めることにしたのか? しかし、現在はそうであっても、まだ出て来る人がいるかもしれないし、更には、屁理屈を付けて訴訟を成立させたり、提訴の書類などの偽造捏造をされると、対象が大きく膨らむ可能性がある。それとも、どうすべきかがわからないまま、とにかく間に合わせ、とりあえずの譲歩によって凌いだと言うことなのか?
あるいはまた、中国側の出方がわからないので、これだけに限って譲歩して、出方を見て今後の対応を決めて行こうということか? いずれの考えで今回の処置に踏み切ったのかはわからないが、とにかく今後は、非常に厳しい訴訟が多発するだろうから、一歩も引かぬ断固たる意志で、法と正義に則った毅然たる対応を要請したい。この問題の原則は次のようなものでなければならないだろう(政府には当然言わずもがなのことではあるだろうが、国民全体で確認しておくことが重要と思う次第)。
>1972年の日中共同声明で戦争賠償は放棄されており、これは個人であれ民間であれ、これに含まれているものと解釈されること_
中国で日本への民間賠償請求を認める動きが表面化したのは、江沢民政権が日本の歴史問題に繰り返し言及した1990年代だ。終戦直前に秋田県の花岡で中国人労働者が蜂起し死傷者が出た「花岡事件」をめぐって元労働者らが日本企業を提訴し、その後、中国人による日本での提訴が相次いだ。これを受けて日本の最高裁は2007年、日中共同声明により国家間だけでなく個人の賠償請求権も放棄されたとの初判断を示した。日中間で賠償問題は決着済みであることを確認したと言える。
>日本は、戦争賠償を行わなかったが、個人、民間への賠償も含め、準賠償と位置付けられる中国への資金援助、技術援助を行った_
中国政府が戦争賠償の代替として認識しているとも指摘される日本の対中政府開発援助(ODA)は、円借款も含め総額3兆6000億円以上になるが、中国の国民にはほとんど認識されていない。もし、この上更に中国が個人や民間への賠償を日本に求めてくるとなると、賠償金の二重取りの詐欺的行為にもなりかねず、こんな理不尽なことは許されない。
>ドイツでの個人への賠償(補償)も自国民対象であって、他国民の請求には応じていない_
以下はウイキペディア「戦争賠償」からの抜粋_
「第二次世界大戦を例にとるならば、日本の場合は国家間の戦争賠償、ドイツの場合は国家対個人の戦後補償にも応じている(ただしドイツの公式な立場は「個人が戦争で受けた被害を自国政府以外に請求することはできない」というものであり、ドイツ国民以外の戦争被害の請求は認めていない)
>日本企業の賠償責任は、特殊なものを除き原則として日中共同声明の規定によって免責であるはずだ_
商船三井が約40億円の供託金を支払ったことについて、中国側は「中国の裁判所は法に基づいて裁決し、商船三井も法に基づき金を支払った」と強調しているが、これはあくまでも中国の法律なのだから、少なくとも賠償問題については、特殊な場合を除き日本や、日本企業、日本人が縛られる必要はないはずだ。今回の例はあくまでも特殊な例とされるべきだし、それが日本政府の立場だろう。しかし、中国が放棄した賠償請求権に何が含まれていたのかは、議論の余地があるところらしいから、今後、戦時賠償の民間請求も個人の請求も中国の勝手な「法に基づいて」どんどん提訴され、差し押さえが進む危険性が高い。企業経営者が、きちんとリスク管理できるように、政府は企業を全面的に支援すべきだ。また企業自身の独自の施策を練る必要があるだろう。
いずれにせよ、中国との関係は、尖閣の領土問題だけではなく、今回の試算差し押さえという、ある意味、強硬手段の行使という宣戦布告を受けたわけであり、更に高い衝突の危険性があるレベルに達しているということである。政府のみならず、国民も「平和ボケ」を捨て去って、一致結束してこれから更に高まるだろう危機に対処する必要があるだろう。
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