制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

2010年度政府予算案をざっとみると... その2

2010年01月18日 10時02分09秒 | 予算・事業仕分け
昨日に続き、2010年度政府予算案の社会保障関連費(27兆2686億円)の内訳をみていきたい。

平成22年度社会保障関係予算等のポイント
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan010.pdf

年金が10兆3207億円で2.7%増、医療が9兆46694億円で4.3%増、介護が2兆803億円で1.1%増、福祉等が5兆4081億円で16.2%増。前年度と比較すると、福祉等の伸びの大きさが目立つ。
さらに福祉等の内訳をみてみると、子ども手当の創設が大きい。その内訳は、給付費が2兆2554億円、事務費の国庫負担が166億円、システム経費の助成が123億円となっている。その他にも、母子保健対策等総合支援事業が81億円と76%増。地域の子育て支援が総額3836億円、母子家庭等対策が1678億円、自立支援給付が5719億円などと、いずれも5~10%程度の増。

子ども手当は2兆2843億円と、福祉等の半分ほどを占めている。それでも、2010年度は半額給付で、児童手当を暫定的に残したために、児童手当の地方負担分の5680億円と事業主負担分の1790億円は含まれていない。マニフェストどおりに全額国庫負担すると2兆3345億円が必要になるとの説明だったことを考えると、2011年度には、福祉等に2兆3千万ほどが上乗せになり、7兆7千億円ほど(約40%増)になる。

これまで、日本の社会保障費は他国と比べて、年金が占める割合が大きすぎ、福祉等が少なすぎるとされてきた。ようやく他国並みに福祉等=現役世代への給付が大きくなったようにも思えるが、伸びの大半が手当(現金給付)であり、子育て支援などのサービスの給付(現物給付)はわずか。手当にまわす予算を子育てしやすい環境整備に充てるべきとの批判も、もっとものように思える。

雇用に関しても大きく伸びている。雇用保険の国庫負担が1602億円から3010億円とほぼ倍増。貧困・困窮者支援も14億円から34億円と額は小さいものの倍増。雇用維持費(事業主が、休業や出向などにより雇用を維持した場合に支給される助成金)が581億円から7452億円と大幅に増加している。現政権に求められていることは、雇用を守り、国民の生活を支援することであり、それを反映させた予算案といえる。

とはいえ、このペースで社会保障費が伸びていくと、2011年度には、年金と医療が10兆円ずつ、福祉等と介護を合わせて10兆円と、総額で30兆円に近づくことになる。税収が37兆円(よほど景気が上向かないと、2011年度にはさらに下がるおそれもある)ということを考えれば、現行の諸制度を維持できるとは思えない。社会保障費の分配が高齢者に偏っているからといっても、年金給付や高齢者医療を絞ることはできないだろうし、消費税をいくら引き上げたとしても賄えないかもしれない。

民主党の石川議員の逮捕により、政府予算案の議論はしばらく空転しそうである。野党となった自民党は、小沢幹事長の進退を巡って「4億円」の疑惑を追及する暇があったら、税収の落ち込みと社会保障費の伸びを整合性あるものにするためにどうするつもりなのかを追及してほしい。国民のためを思うならば、与党・野党の立場をこえて「日本社会をどちらの方向に持っていくべきか」「民主党が考える『第3の道』とは、具体的にどのようなものか」を徹底的に議論してほしい。

2010年度政府予算案をざっとみると... その1

2010年01月17日 09時41分06秒 | 予算・事業仕分け
日経BPのホームページに、昨年末に公表された2010年度(平成22年度)政府予算案について整理し、解説した記事が掲載されている。
この記事を足がかりに、このブログでは、社会保障政策の観点から見直してみたい。

小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」
22年度予算で日本の景気は良くなるのか?
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=1

なお、財務省のホームページに詳細な情報が掲載されている。何かあれば、こちらで確認していただきたい。

平成22年度予算政府案
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan.htm

まず、日経BPの記事(表)を使って、ざっとしたところを掴んでおきたい。
歳出の規模は、92兆2992億円。今年度と比べて3兆7512億円も増加している。「コンクリートから人へ」や「控除から手当へ」などの基本的な考え方に基づく予算の組みなおしや「事業仕分け」がなされたが、いったい何にいくら使われていて、政権交代に伴って何を削ったのかは、よくわからない。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=3

上記のページに2つの表がある(いずれも、財務省の「平成22年度予算のポイント」より)。

平成22年度 一般会計予算フレーム「歳出」
主要経費の分類による予算の変化「コンクリートから人へ」

2つの表をみると、前年度比で大きく伸びているのは、社会保障関連費。24兆8344億円から27兆2686億円で、2兆4342億円(9.8%)の伸びである。伸び率だけでみれば、食料安定供給関連費が33.9%が最も大きいが、増減額は、2940億円に留まっている。
社会保障費は、高齢化の進展に伴い、今後も増えていくことは確実である。そのため、歳入に合わせて歳出を抑えるためには、どこかでどこかで2兆4千億円ほど削らなければならない。そうしないと、歳出はさらに膨らみ、歳入との差を賄うために国債を発行し続けなければならなくなる(これ以上の国債発行は、金利の上昇を招き、日本経済を崩壊させかねない)。

もっとも大きく削られているのは、公共事業関連費。7兆701億円から5兆7731億円で、1兆2970億円(18.3%)の削減である。他にも恩給関連費や経済協力費、エネルギー対策費が削減されているが、とうてい2兆4千億円とバランスさせるに至らず、歳出の規模が過去最大になってしまったということだろう。

なお、歳入については、下記のページをみていただきたい。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=1

平成22年度 一般会計予算フレーム「歳入」

この表のポイントは、税収が37兆3960億円と8兆7070億円も減少していること、公債金(国債発行額)が44兆3030億円と税収を上回っていること、税収の落ち込みを、その他収入(いわゆる埋蔵金)の10兆6002億円で賄っているけれども2011年度予算でも同じことはできないだろうということである。

このような財政状況をみると、医療・介護の給付費をはじめとする社会保障費の伸びを抑制する政策は良くないとばかり言っていられないことがわかる。明日は、財務省のホームページに掲載されている「各予算のポイント」をみていきたい。

各予算のポイント
・社会保障関係予算
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan.htm

行政刷新会議、今年度前半の重点を選定 そのうちの1つが医療・介護

2010年01月13日 09時41分08秒 | 予算・事業仕分け
行政刷新会議が12日に開催され、今年6月までに取り組む規制・制度改正の重点分野として、(1)環境・エネルギー、(2)医療・介護、(3)農業、(4)保育・職業能力開発などの雇用・人材の4分野が選ばれた。今後、4つの分科会が設定され、議論が進められる。
また、事業仕分けの結果が新年度の予算案にどのように反映されたかが報告された。議員からは、「横串の入れ方が不十分」「今回限りで終わっては、同じことの繰り返しになる」などの意見が出された。

事業仕分けの結果が予算案にどのように反映されたのかについては、しっかり見ていく必要がある。このブログで取り上げた経済産業省の「安心ジャパン・プロジェクト」を例に、いかに役人が「面従腹背」でやり過ごそうとしているかをみていきたい。

安心ジャパン・プロジェクトの要求額は、32億円。民間が創意工夫を凝らしているのだから、わざわざ国が手掛ける必要はない、厚生労働省と重なっているなどの意見が出されて「廃止」となっている。経済産業省は、その通りに「廃止」しているが、その代わりに「規制改革の検討に必要なデータ収集・分析、新たな制度構築の検討等のための調査研究事業として20億円を計上」としている。調査研究事業に20億円も必要なのだろうか。しかも、内容は、行政刷新会議が重点的に取り組む4分野のうちの1つと同じである。大いに疑問が残る。
直島大臣には「政治主導」を発揮していただいて、この予算の使い道をしっかり監視してほしい。いつの間にか執行されていて、役にも立たない調査ばかりしている(名目上は)コンソーシアムに億単位のばらまきがなされているようなことにだけはしてほしくない。

平成22年度経済産業省予算案の概要
http://www.meti.go.jp/press/20091225013/20091225013.html

平成22年度経済産業省関連予算案のPR資料(一般会計(製造産業局、商務情報政策局、商務流通G))
医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出調査研究事業(P.35)
http://www.meti.go.jp/press/20091225013/20091225013-13.pdf

経済産業省でも厚生労働省に見習って、政策の評価をしてはいかがだろうか。「医療・介護・保育等の分野への民間サービス事業者等の参入を阻害している規制や制度等の見直しを進めるため、大規模データ収集・分析等の調査研究を行う事業を実施」する必要があるとは思えない。そもそも、民間の参入を阻害しているのは何か、それを経済産業省が主導して見直すことができるのか、見直した場合にどれほどの市場が創出されるのかなどについて何も考えることなく、いきなり大規模な調査をするのは、あまりにも無謀。
それでも20億円の予算を投じるとすれば、数十億円~百億円規模(年間)の新規市場を創出できるものと期待したい。1年後に評価して、もしその見通しが立たないということならば、サービス政策課には、類似の事業は手掛けさせないぐらいの厳しいハードルを設定すべきである。

まずは有識者を集めて現状の確認と議論をしっかりし、簡単なプレ調査をして仮説を検証する。その上で本格的な大規模調査をするという現実的な進め方に転換してほしい。20億円の予算を「民間事業者等」に渡し(コメントでいただいた癒着が疑われるような怪しげな会社とは契約しないように!)、そこを通して全国数ヶ所のコンソーシアムに再委託(=ばらまき)。1年後に報告書が上がってくるので、それをホームページに掲載しておしまいにするという、仕分けられてしまった某案件のような進め方は撤回してほしい。

このブログ(制度改正Watchは、始めたばかりのとても小さいブログだが、ようやくGoogleサジェストの検索キーワードに登場するまでになった。閲覧いただいている方々には感謝したい)を使って、この案件をしっかり「監視」していきたい。国民は、調査研究に20億円を注ぎ込むことには納得しないだろうし、実施を望まないだろう。
これ以外にも「廃止」したはずの交付金を名目をかえて継続しているなどと報じられている。事業仕分けの結果を監視する第三者機関を設置しないと、巻き返しを許し、派手なだけの「パフォーマンス」になってしまう。ぜひとも検討していただきたい。

財務省のホームページに厚生労働省が反論 しかし...

2009年11月29日 10時11分03秒 | 予算・事業仕分け
事業仕分けで診療報酬の配分を見直すようにと評価されたことを受けて、財務省が「医師の給与が高止まりしている」などと引き下げの主張を整理したホームページを公開した。このブログでも21日に紹介し、「厚生労働省も自らの主張をホームページなどを使って展開すべきだろう」と書いた。
その1週間後の27日(金)に、厚生労働省が反論をまとめてホームページで公開した(見落としていたが)。

厚生労働省
「平成22年度予算編成上の主な個別論点(医療分野)」に対する見解について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002shz.html

財務省のアピールをみて政務三役が「正しい情報を伝えないといけない」と反論をまとめるように指示したとのこと。残念ながら、マスコミに大きく取り上げられることもなく、厚生労働省のトップページからのリンクが見当たらないためにアピールするに至っていない。「本日の新着情報」のリストから探さなければならないようでは、本当に反論する気があるのだろうかと思ってしまう(過去の新着情報一覧に移されてしまったら、誰も見なくなるだろう)。
また、報道発表の内容そのままと思われるページデザインも地味である。「伝える」と「伝わる」の違いは大きい。これでは、国民に何を伝えたいのか、何をアピールしたいのかわからない。残念ながら、伝わっていない。

例えば、財務省のホームページには、「医師の所得が右肩上がりで、この不況下にも関わらず、高止まりしている」。ゆえに、「診療報酬の引き下げといっても、医師にとっては大したことはない。会社員の冬のボーナスが大幅に減ると報道されているぐらいなのだから、2%の引き下げなんて甘いものでしょう?」といった国民への明確なメッセージがある。
それに対して、厚生労働省のホームページでは、「診療報酬=医師の報酬ではありません」、「医師の給与は総費用のうち一割」としか言っていない。これでは「だから何なのか」と問いたくなる。この先は、書かなくてもわかってもらえると思ったら、大きな間違いである(国民は、それほど親切ではない)。「看護師の所得が500万円少々、医師の所得が1500~2500万円だから、医師の給与を2/3にしても大丈夫。それで3%の引き下げ分を吸収できる」と言いたいのだろうか。そうでないなら、何を言いたいのかをはっきりと書くべきである。例えば、「配分の見直しで生み出される財源は大きくありません」から始まり「医療再生のためには、もう一段の検討や努力が必要です」で終わる。これでは、見直しの方針に対して、どうしたいのかはまったく伝わらない。事業仕分けの結果に対して、あるいは、財務省の診療報酬の引き下げの方針に対しての明確なメッセージがどこにも見当たらないのである。

財務省のホームページは、国民に「診療報酬を引き上げるか、現状維持か、引き下げるか。どうだろうか?」と問いかけている。副大臣が自ら語り、その全文をホームページに掲載している。しかしながら、厚生労働省が反論したのは「財務省」に対して。しかも事実を示しただけである。国民に自らの主張をわかってもらいたいとどこまで考えたのだろうか。もっとできることがあったのではないだろうか。かなりの疑問が残る、とても残念なホームページである。

まだ間に合う。これでは駄目だと指示を出しなおしたほうがよい。

「診療報酬の引き上げを求めます。医師の給料を増やすために使うのではありません。医療を再生するために、本当に必要なところに使います。具体的には、...」ぐらいの明確なメッセージが求められているのではないだろうか。

事業仕分けの成果 「中間搾取」と「無駄なところへのお金の流れ」のカット

2009年11月28日 10時10分34秒 | 予算・事業仕分け
事業仕分けが終わった。
これまで水面下でなされてきた予算をつくる過程の一部であるが、国民に広く公開することで、「政権交代によって、日本の政治が変わろうとしている」ことを印象づけることができた。削減額は目標の3兆円には達していないが、国民が税金の使い道に関心を持ち、仕分けの是非について普通に話すようになったこと、官僚が推進する事業の非効率さや国民とはかけ離れた金銭感覚への追及に拍手をおくったことにこそ、大きな意味がある。現在もスーパーコンピュータに関して議論が巻き起こっているが、「(使い道は例示しかできないが)世界1を目指す」から「科学技術の優位性を保つために世界1の演算能力を持つスーパーコンピュータが必要」という「目的化した手段」の逆側からのアピールが出つつある。縮減に仕分けられたからこその動きであり、大きな意味があったと評価できる(「廃止」とされても、当事者以外のどこからも反対の声があがらなければ、本当に「不要」な事業だったといえる)。

鳩山首相は、次のように語っている。

「この事業仕分けで一つ一つの事業というよりも、それが例えば途中で中間搾取みたいな形でですね、本当に必要な事業であっても本当に必要なところに回らないで、いろいろと無駄なところにお金が回ってしまっているというようなところを、むしろ大いにカットしていくという発想がまさに事業仕分けだと」
「その意味での中間搾取、本当に必要がないところにお金が流れているというところの説明に関しては、ノーベル賞を受賞された方々も理解をされていました。むしろそこはわかると」

このブログで取り上げてきたようなモデル事業や実証事業のスキームは「利権の温床」と疑われても仕方ない、民主党政権では認めないという意思表明と受け取ったがいかがだろうか(昨晩、コメントを頂いたようなことは、あってはならないこと。担当者が予定価格を漏らしていないか、採択地を決めるにあたってどのように評価したのかをきちんと調べて「やましいことは何もない」と表明すべきである)。
事業仕分け最終日の27日も、経済産業省のサービス産業生産性向上支援調査事業(14億円)が、「業務委託先の財団法人の活動への支援になってしまっている」や「再委託の契約についても、単独応札など不透明な例がある」と「廃止」とされている。


仕分け結果の詳細(11月27日分)
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009112701000848.html


これだけ財政が厳しくなると、「国が億単位の予算をとって、全国各地でモデル事業や実証事業を展開する」ような事業は縮小せざるを得ない。必然性が求められるし、今月の30日に一部のハローワークで試行される「ワンストップサービス」のように規模を小さくしつつ、現実的で、すぐにでも全国に展開できるもの(直前の予行演習的な事業)に限られるのではないだろうか。

それでは、国がなすべきことは何だろうか。安心ジャパン・プロジェクトの指摘でもあったように、民間でできることまで国が予算をつけて実証事業を展開する必要はない。障害となっている規制を撤廃し、国として考え方を示すべきことは示す。このような「環境整備」に注力すべきではないだろうか。昨日も書いたように、事業の規模は大きくなくても構わない。有識者を集めて、きちんと議論し、他の省庁と調整すべきことを調整する。業界から意見をきき、業界に対して国としての考え方を示す。国がこのようにしてくれたならば(かつ、これ以上のことをしないようにしてくれたならば)、民間企業は安心して事業を展開できる。「利権」がないので、変な「横槍」は入らない。このように、パイプに流れるお金を絞り、流し方を少し見直すだけで、大きな効果が得られる。しかも、政治も官僚も業界の関係も健全なものに近づけることもできる。

ぜひともスタンスを転換してほしい。

事業仕分け8日目 国土交通省のGISモデル事業を「予算大幅削減」

2009年11月27日 10時16分55秒 | 予算・事業仕分け
国土交通省の「モデル事業」として4つの事業が仕分けの対象となった。そのうち、地域づくりに取り組むNPOなどを支援する、「新たな公」によるコミュニティー創生支援モデル事業(3億円)は予算要求の9割削減、地理空間情報活用サービスモデル実証事業(1億円)は、予算要求の大幅削減が決定した。

「地理空間情報」を扱うITシステムは「GIS」のことであり、モデル事業は今回が初めてではない。仕分け人からの指摘どおり、相当に一般化したITシステムである。
公開された説明資料によると、モデル事業の必要性として、「個人情報の取扱い等に関するルールの整備」と「地理空間情報の標準化の推進」の2つの課題があり、検証して解決することで、新たなサービスが創出できるとのこと。民間主導での新規サービスの創出・展開やデータの標準化の検証ならば、経済産業省が担当してもよいし、具体例として提示されている「地理空間情報を活用した高齢者複合支援サービス」は厚生労働省や消防庁、警察庁が担当してもよい。道路をはじめとする地理空間なので、国土交通省が担当するしてもよい。このように「GIS」に関しては、様々な理由をつけて複数の省庁が同じようなモデル事業を繰り返してきた。逆にいえば、国土交通省が新たにモデル事業を展開する必要はないといえる。

モデル事業(説明資料)
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov26-pm-shiryo/1-63.pdf

「個人情報の取扱い等」に関しても、通常時の取り扱い方と非常時の取り扱い方のルール、様々な主体が共有して活用することに関するルールの議論は、様々なところでなされてきている。一般的な個人情報の保護と活用のルール=バランスの議論があり、災害発生時などに「弱者」となる可能性が高い高齢者や障害者などの個人情報の保護と活用のルールがある。さらに、取り扱う個人情報が一般的な情報か、センシティブな情報かというレベルに応じて、ルールが決まることがある(例えば、医療機関が管理する医療情報か、それとも介護事業者が管理する介護情報か、民間企業がサービスの提供のために管理している個人情報か)。個人情報を管理し共有する機関=主体が、医療機関か介護事業者、民間企業や地域住民かによってもルール=守秘義務のかかり方や遵守すべきガイドラインが違ってくる。
緊急時には、保護されるべき個人情報であっても第三者に提供するというルールの場合、「緊急時」とはどのような時か、誰が判断するのか、提供先で情報の目的外使用や不適切な管理がなされた場合に誰が責任をとるのか。逆に、必要としているにも関わらず個人情報だからと提供しないことによって生じた不利益に対して誰が責任をとるのかなど、考えなければならないことは多くある。

しかし、国土交通省が改めてそれらの議論をゼロから始めなければならないことはないし、地理空間情報に紐づけて考え方を整理し実証する必要性はあまり感じない。
予算が大幅に削減されても続けるとすれば、各分野の有識者を集めて、個人情報の取り扱いについての論点を整理した上での議論、これまでに各省庁で行ってきたモデル事業をレビューした上での地理空間情報のデータフォーマットなどの標準化の議論をする。1年間かけて(これまでに、どこでも検討されていない)実証して明らかにしなければならないことが見つかったとすれば、仕分け人にも必要性が伝わる「具体例」を出せるのではないだろうか。今回の「具体例」に書かれていることは、10年ほど前に出されていてもおかしくないような内容である。

新たなサービスの創出にあたって、この2つの課題が障壁になっていたとすれば、国の考え方・方針を打ち出すことで自然にサービス産業が立ち上がるだろう。ここまでくれば、民間に任せたほうがよい。


仕分け結果の詳細(11月26日分)
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009112601000905.html

事業仕分け7日目 安心ジャパン・プロジェクトを「廃止」

2009年11月26日 10時13分10秒 | 予算・事業仕分け
このブログで注目していた経済産業省の安心ジャパン・プロジェクト(32億円)の「廃止」が決まった(「廃止」が9人、「予算計上見送り」が3人、「予算縮減(3分の1程度に)」が1人、「予算要求通り」が1人)。開始時間が遅れたため、あまり聞けなかったが、仕分け人からは、「民間が創意工夫して取り組んでいること」「事業の意味がよく分からない」「法制度や規制の見直しに取り組むのが先」などの意見が相次いだようである(このブログで主張してきたことと一致!)。
経済産業省は、「医療」は厚生労働省が所管、それ以外を「周辺」と位置づけているが、「介護」も「福祉」も大半は厚生労働省が主管しているはず。この住み分けの考え方では、経済産業省が「周辺産業」を育成しなければならないことへの説得力はないだろう。仕分け人と議論がかみ合わなかったところをみると、趣旨が伝わる説明ができなかったようであるが。


経済産業省
平成22年度予算概算要求等に係る事前評価書
http://www.meti.go.jp/policy/policy_management/22fy-hyouka/17.pdf

インターネットで公開されている上記の情報によると、「安心ジャパン・プロジェクト」は、以下のような構成となっている。

(1)健康共創プラン
・高付加価値健康長寿サービス創出基盤整備事業
・地域見守り支援システム実証事業
・車載ITシステムを活用した緊急医療体制構築のための実証事業
(2)地域生活インフラ形成促進事業
(3)安心子育て環境整備事業

「高付加価値健康長寿サービス創出基盤整備事業」の目的は、医療機関と福祉・介護の事業者などが連携してサービスを提供するにあたってのガイドラインの策定やデータの標準化、ITシステムの仕様検討などである。それにも関わらず、実施する内容は、コンソーシアムに1~3億円の予算をつけて、それぞれの地域で「高付加価値健康長寿サービス」を展開することになっている。その成果をもってガイドラインの策定などにつなげたいとの考えだと思われるが、順序を逆にして「有識者を集めて議論し、机上でガイドラインの策定などを実施。それでは現実と乖離したものになりかねないので、いくつかのフィールドで実際に使ってみて問題点を洗い出す(実証)。その結果を反映してガイドラインとして完成させ、全国の事業者などに提示する」ほうが適切に思える。
そもそも「高付加価値健康長寿サービス」とは何か、医療機関と民間事業者などが連携するにあたっての課題や策定すべきガイドラインは何かなどの議論を十分にしていない(少なくとも議論の内容が公表されていない)。それにも関わらず、20ヶ所のコンソーシアムに予算をつけることだけが決まっているということでは、「バラマキ」型の事業なのではないかと受け取られても仕方ないだろう。

仕分け人の意見どおり、「廃止」とされて当然の内容だが、医療機関と民間事業者などが連携してサービスを提供するチームアプローチの考え方、複数の機関、複数の職種(非専門職を含む)にまたがって患者=利用者の情報を共有するための考え方、情報の活用と情報の保護のバランス、国として定めるべきガイドラインやデータ交換の標準仕様などは、しっかり議論する必要があるし、国としての考え方を提示する必要もある。この事業の「復活」を狙うのではなく、経済産業省に期待されている「国が取り組むべきこと」に絞り込み、有識者を集めて地道に議論を積み上げるようにしてはどうだろうか。


また、「健康共創プラン」に含まれる「地域見守り支援システム実証事業」は、今年度から始まる3ヵ年計画の2年目にあたる。親にあたる事業の「廃止」が決まったのだから、社会保障カードの実証事業と同様、各コンソーシアムでは「出口戦略」を検討したほうがよいだろう(ここでも、あの「日本システムサイエンス株式会社」が登場する)。
この事業で実施中の内容をみると、「高付加価値健康長寿サービス創出基盤整備事業」の目的と大差ない。もし、地域見守りの8ヶ所に高付加価値で20ヶ所程度を加えて合計で37.5億円とし、同じスキームで全国各地にばらまこうという「共創プラン」だとすると、ちょっと... と思ってしまう(社会保障カードでの仕分け人の指摘から連想して)。

地域見守り支援システム実証事業
http://www.nss-med.co.jp/mimamori/index.html

採択コンソーシアム(8ヶ所)
http://www.nss-med.co.jp/mimamori/saitaku.html

3ヵ年計画の1年目で打ち切りにするか、継続できる限られた予算を使って健康共創プランの3つの事業で明らかにしたかったことを盛り込むようにするか(個人的には、打ち切ってもよいと思うが)。経済産業省の出方に注目していきたい。


仕分け結果の詳細(11月25日分)
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009112501000810.html

診療報酬の事業税(地方税)の非課税措置を廃止?

2009年11月22日 10時08分18秒 | 予算・事業仕分け
政府税制調査会は、地方税分の「査定」の結果を各省庁に通知した。具体的には、地方税の負担軽減措置で、その中には、50年以上前に導入されてから今日に至るまで続けられてきた開業医の診療報酬に対する事業税の非課税措置が含まれる。この措置を見直すことで、約960億円の増収になる。

開業医の免税「認めぬ」 50年来の優遇、税調見直し
http://www.asahi.com/politics/update/1120/TKY200911200416.html?ref=goo

開業医にこのような優遇措置があったことは、まったくといってよいほど知られていない。政府税制調査会は公平性の観点から廃止を求めてきたが、日本医師会などの反対で手をつけることができなかったとのこと。税収が8~9兆円あまりと大きく落ち込むなか、自民党が守ってきた「既得権益」に切り込み、財政状況の改善につなげて欲しい。

09年度税収、36兆円以下も=仙谷担当相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091121X476.html

この優遇措置は、開業医の事業所得のすべてにかかるものではなく、診療報酬のみ(5000万円以下)。1952年に診療報酬を引き上げられない代わりに税法上の特例を設けたもので、それが今日まで延々と続いている。診療報酬を非課税とする理由としては、収益を目的とする事業でないことなどが挙げられているが、それならば、介護事業者も介護報酬の事業税も優遇されるべきだし、NPOへの課税への優遇措置を拡大すべきだ、ということになる。このブログで何度も書いているが、開業医よりも福祉・介護の事業者のほうが事業所得は低いし、地域住民の生活を支える公共性・公益性の観点において特段の違いはない(財務省は、優遇措置が拡大することは避けたい)。50年前とは、地域住民の生活を支える保健・医療・福祉・介護の体制は大きく変わっている。当時と同じ論理では、そもそも開業医だけを優遇しなければらないのはなぜかを説明できなくなっている(年収が2000万円を上回っているにも関わらず、「零細な個人事業主なので経営が苦しい」「事務が大変」とは言えないだろう)。

財務省は、昨日の診療報酬の引き下げ・開業医から勤務医への配分見直し要求に続き、税法上の特例への切り込みを狙っている。開業医主体の日本医師会としては、何としても阻止したいだろうが、これまで支持してきた自民党にはその力はない。今さら民主党支持に切り替えたところで、一度傾いた流れを止めることは難しい。厚生労働省を動かしても、対抗する力はない。

医師会が動かすことができる組織票は、それほどでもないことは、今夏の衆議院選挙でも明らかになった。日本医師会が守ってきた「既得権益」に切り込んでも自民党に巻き返されることはないし、民主・自民のどちらにつくのかで日本医師会内も足並みが乱れている。民主党はこう見切ったのではないだろうか。

日本医師会は「政治力」を使って、要望を次から次へと実現してきた。医療機関の地方税・国税の優遇措置がいかに多くあるか、以下の文書(PDF)をみればよくわかる。今回の廃止で終わる話ではなく、まだまだ先があるということである。

医療機関に関わる税制問題について
ー地方税(事業税等)・国税(租税特別措置)―
http://www.okinawa.med.or.jp/doctors/nenkin/nenkin-doc/h210827-2n.pdf

診療報酬の引き下げ・配分見直し 財務省がホームページで主張を公開

2009年11月21日 10時18分41秒 | 予算・事業仕分け
事業仕分けで、診療報酬の配分を見直すようにとの評価されたことを受けて、厚生労働省(中央社会保険医療協議会)と財務省の間の攻防が本格化しそうである。

「医師だけ高止まり」 診療報酬引き下げ、予算に反映へ
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009112003600.html

次期報酬改定の本体部分「原則引き下げ」―財務省が方針提示
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-25276.html

長妻大臣は、事業仕分けの前から診療報酬の引き上げを明言していた。マニフェストにもそのように書かれているので、民主党としては、国民生活に直結する分野の一つである、医療に手厚く予算配分したいと考えていることは確かである。しかし、政権を担当する与党となり、この財政状況では、「理念」どおりにはいかないのも確かである。
最も「現実路線」を選ばざるを得ない財務省からは、診療報酬を引き下げてもよいのではないか、引き下げても医師不足などの解決には影響が出ないのではないか、との考え方が出されている。
厚生労働省としては、2~3%の引き上げで、妥協したとしても現状の維持。財務省としては、2~3%の引き下げ。真っ向から対立すると不利になるのは財務省なので、国民に広く情報提供し、味方につけようとしている。
具体的には、ホームページに「病院の勤務医の年収は約1500万円、開業医の年収は約2500万円(月給200万円を超える)。開業医が1.7倍も高い」ことや、「後発品の水準まで薬価を引き下げれば、8000億円程度の引き下げが可能」などの客観的な事実を掲載。その上で、様々な機会をつかって「民間の給料が伸び悩み、雇用も不安定化している。公務員の給与を決める人事院勧告もマイナス。医師の給料だけが高止まりしているのはいかがなものか」との主張を展開していくことになると思われる。

診療報酬の1%は、約3400億円。内訳は様々だが、その全てを国民が負担している。「2~3%」とはいえ、小さい値ではない。

これまで診療報酬には、なかなか切り込めなかった。財務省は、事業仕分けから始まった「情報公開」が切り込みに有効だとわかった(実感した)のだろう。ぜひとも頑張って欲しいし、厚生労働省も自らの主張をホームページなどを使って展開すべきだろう。
なお、その際には、「医師の常識」と「国民の常識」のずれをあらかじめチェックすべきである。例えば、「ロハス・メディカル」の「ニュース~医療の今がわかる」をみてみたい。

診療報酬は破綻している~『現場協議会より』
http://lohasmedical.jp/news/2009/11/20103125.php

この記事の3ページ目をご覧いただきたい。勤務医の給与が1200~1500万円前後なのに対して、看護師は、500万円前後。給与が高すぎるといっても医師の半分程度。このような数値を明らかにした後に「病院が赤字になっているから、診療報酬を引き上げろ」「医師の給与が安いので、なり手がいない」と主張しても、なかなか通らないだろう。
どう考えても赤字になっているのは「経営の失敗」なのだから、突出している医師の給与を引き下げて、それでもどうしようにもならなくなってから、診療報酬を引き上げて欲しいと主張すべき。自分たちの「失敗」を棚に上げ、経営努力も不十分なまま。言われるがままに診療報酬を引き上げてよいのだろうか... その引き上げ分を保険料と税金などで負担する国民の大半はそのように考える。その感覚のずれに気づかずに「このままでは、地域医療が崩壊する」などと主張すると反発を招くだけである。

どちらの主張が通ることになるのかは別にして、国が積極的に情報を開示・提供して議論を促し、予算編成の過程を「透明化」することは、とても良いことである。


財務省
平成22年度予算編成上の主な個別論点
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/kobeturonnten.htm

事業仕分けの結果を受け、9項目の予算見直し指針決定 子ども手当は後退か

2009年11月20日 10時09分24秒 | 予算・事業仕分け
事業仕分けの前半5日を終えた成果は、いわゆる「埋蔵金」を含めて、1兆3千億円程度。これでは、目標の3兆円に届かないだろうし、税収の落ち込みを考えると、目標に達したとしても予算編成は厳しい。このように2日前に書いた。本日、さっそくと次の2つの動きがあった。

1つめは、事業仕分けの結果を受けての概算要求の見直し指示である。仕分けの対象になったのは、事業全体の1割程度。その結果を受けて類似の事業は合わせて見直す(査定する)ことは明らかにされていた。19日に開催された行政刷新会議にて、概算要求=予算の見直しの指針が明らかになった。それは、次の9つで、

独立行政法人などの過剰な基金返納
省内や他省庁間での類似事業の重複排除
補助金交付での不必要な団体の関与排除
モデル事業は必要性、効果を厳格に検証
広報、イベント経費は費用対効果を検証し、予算削減や重点化
情報技術(IT)調達の導入・運用コスト見直し
独立行政法人、公益法人向け支出の必要性検証
特別会計の必要性検証
地方に権限・財源を移管する方向で見直す

である。
この指針を受けて、省庁が概算要求を見直して報告することになる。予算を編成できるか、という危機的な状況なので、多少でも削る余地のあれば、どんどん削ってほしい。このブログで後半に注目している「安心ジャパンプロジェクト(経済産業省)」は、上記指針の3つ(重複、モデル事業、IT)が該当している。地域の課題への取り組みなので、地方に移管できるなら4つ。中間報告と指針の決定を受けて、前半よりも厳しく仕分けることになると思われるので、これまで以上に両者の攻防が楽しみである(少々、不謹慎か)。


2つめは、マニフェストに関連する事業も「聖域」なく見直すとの国家戦略室の方針である。予算編成に困っている財務省も同調している。こども手当の予算2.1兆円も無事では済まないらしく、来月上旬には、事業内容や金額の算定根拠などの本格的なヒアリングが予定されているとのこと。長妻大臣は「所得制限なし、全額国費」、鳩山首相も「所得制限を設けないことが基本理念」と改めて述べているが、藤井大臣や管大臣は、所得制限を設けることや、地方自治体や事業主が財源を一部負担することも「議論の対象になる」と述べている。こちらも、両者が牽制し合っているような状況である。

「所得制限なし」貫く=子ども手当-長妻厚労相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091119X987.html

子ども手当、地方や企業も負担検討…菅国家戦略相
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091119-567-OYT1T01242.html

次の国会に提出が予定されている「子ども手当法案」は、実は「児童手当法改正法案」である。もし、所得制限を設けて、全額国費の方針から後退することになれば、実質的に、児童手当を「子ども手当」に名称変更するだけになる。その間にも、扶養控除の廃止などの税制の見直しは粛々と進められるだろう。そうなると、子育て中の世帯の多くは負担増になり、さすがに国民の理解は得られない。(参議院選挙があるため)何とか知恵を絞らなければならないが、この財政状況では「無い袖は振れない」のも事実。圧縮できなかった分は他の省庁が被ることになるのだから、厚生労働省には、なりふり構わず、お金をかき集めて吐き出す姿勢(誠意)が求められる。
なお、所得制限を設けるか否かは、子ども手当法の理念と目的にも関わることである。例えば、子育て中の世帯の経済的な負担を軽減するための手当と位置づけるならば、所得制限はあってよい。しかし、子どもに対する手当であり、子育てを担う世帯(世帯主=親を想定して)に支給すると位置づけるならば、所得制限は設けないとすべき。法の理念と目的に関わることなので、財政面のみから決められるものではない。