文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

『ワルちゃん』痛烈な復讐劇がもたらす爽快なカタルシス

2021-12-22 00:04:23 | 第8章

『おじさんはパースーマン』の連載終了後、「小学五年生」では、引き続き、〝憎まれっ子、世にはばかる〟を地でゆく強烈なひねくれ小僧が、悪戯に精を出し、画稿狭しと幅を利かせる、タイトルもズバリそのものの『ワルちゃん』(81年4月号~83年3月号)へとバトンタッチされる。

学校で、一番の鼻摘み者であるワルちゃんは、今日も担任教師やクラスメートに、陰湿な嫌がらせを受けていた。

だが、ネガティブな扱いを受ければ受けるほど、ワルちゃんの悪戯へのポテンシャルは、ムクムクとせり上がり、教師やクラスメートに対し、心理的打撃となって余りある意趣返しを繰り返しては、溜飲を下げるのであった。

毎回、予断を許さぬどんでん返しで、皮肉な結末を迎えてゆく『ワルちゃん』だが、数あるエピソードの中でも、まごうことなき傑作が、後にワルちゃんのライバルとして君臨するガン太との初対決を綴った「転校生ガン太登場」(82年4月号)の巻である。

「勉強は出来ないけど、頭は強い」というガン太から、強烈な頭突きを喰らったワルちゃんが、その石頭を封じ込めるべく、やった秘策がローラー車を使って、ガン太をペシャンコにすることだった。

以来、ガン太の頭は団扇のように薄く広がり、ワルちゃんに、頭突きを喰らわそうとするも、そよ風だけが送風されるという、苦味に満ちた落ちが付く。

このシリーズの肝と為すところは、喧嘩や虐め、差別といった子供世界を支配する負の縮図を、いつの時代においても、抜き去り得ない現実として捉えながらも、それでも、相手に負けずに、立ちはだかってゆく勇気とバイタリティーが大切だというメッセージが、言外の意味を持つメタファとして、テーゼの中に盛り込まれている点にある。

従って、毎回登場してくる教師やクラスメートらが、揃いも揃って嫌な輩ばかりという、ヘイトフルなループ構造を辿るシリーズでありながらも、ワルちゃんの痛烈な復讐劇が、頗る爽快なカタルシスをもたらすため、作品総体に漂う陰暗要素も極めて薄いのだ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿