文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

父性の象徴 デカパン ピーターパン・シンドロームの極致 ダヨーン

2019-10-04 00:12:43 | 第2章

デカパンは、大きな縦縞のトランクス一丁という奇抜な風貌ながらも、社会規範を重んじるモラリストであり、企業の社長や学校長、医者や科学者といった社会的に権威の高い役回りが多い。

温厚さの中にも威厳を備えた鷹揚な佇まい、その懐の深い篤実な性格から、『おそ松』ワールドの父性の象徴として例えられる存在だ。

デカパンのモデルは、当時、「週刊少年サンデー」の編集長だった堧水尾道雄だが、トレードマークの縦縞のパンツから、傘やライターなどの日用品から食品、延いては犬や猫などのペットといったバラエティーに富んだアイテムをことあるごとに取り出すギャグは、1920年代から30年代に『けだもの組合』や『いんちき商売』、『マルクス兄弟の二挺拳銃』等のスラップスティック喜劇で一世を風靡したアメリカの人気コメディー・カルテット、マルクス兄弟からインスパイアされたものだ。

マルクス兄弟の中でも、取り分け人気の高かったハーポが、コートに隠し持った様々な品物を瞬時に取り出すナンセンスなイメージをそのまま引用したという。

『おそ松』ファミリー最後の人気スターであるダヨーンは、警察官、泥棒、漫画家、教師、商店主等、多岐広汎に渡る役柄を演じ切るおそ松ファミリー随一のオールラウンドプレーヤーであるものの、緊張感に欠けた垂れ目や緩み切った開けっ放しの口元、そして、語尾に「だよーん」を付ける幼児口調が、現実のまま怠慢さを想起させるように、その人物像は、食い意地が張り、目先の快楽を優先して職務放棄してしまう、幾分自己抑制力や大人としての道義的責任感が欠落した性質を帯びている。

年齢に相応しい精神の発達を遂げていない、俗に言うピーターパンシンドロームの極致とも言うべきキャラクターだ。

ダヨーンのモデルとなったのは、つのだじろうの実弟で、日本有数のリュート奏者として名高い角田隆である。

彼は、ガラス板を持って、大口を開け、息を吹き掛けると、頬が膨らんでユニークな顔になるという不思議な特技を持っていた。

ダヨーンの無限に膨張する大きな口は、彼のそんな珍芸を元にして生まれたものだ。

因みに、藤子不二雄Ⓐの人気漫画『フータくん』に登場するテツカブもまた、彼をモチーフにして作られたキャラクターだ。

このように、『おそ松くん』のほぼ執筆パートナーと言っても差し支えないであろう高井は、その後、自身も大人向けナンセンス漫画の中堅気鋭として活躍する傍ら、フリーの作画スタッフ(チーフ)として、1968年秋頃までフジオ・プロ(詳細は後述)に在籍。その後も、ココロのボスやレレレのおじさんの原型を模るなど、特にキャラクター作りと作画面において、そのタレントを遺憾なく発揮し、第一期赤塚不二夫黄金時代を支えた。

高井の遊び心溢れるデザインセンスに大きな示唆を受けた赤塚は、その鮮やかなシュール感覚を旺盛な胃袋で薬籠中物として消化し、そこに更なる土着の色を混じえることで、『天才バカボン』以降のあらゆるキャラクターデザインを実質一人で施すようになり、バカボンのパパ、ニャロメ、ケムンパス、べし、ベラマッチャ、ウナギイヌ等、より過激で、斬新な赤塚ギャグのスター達を無尽蔵に作り出してゆく。

強烈なバイプレイヤー達の培養で、その作品世界に俄然弾みを付けた『おそ松くん』は、それらのキャラクターに、明確な性格が振り当てられ、やがて主人公である六つ子の存在感が薄らいでくるようになる。

激しい個性がぶつかり合うこれらバイプレイヤーによる共振作用が、ドラマをより一層活性化させ、『おそ松』ワールドは異常なボルテージと伸張力に包まれたバラエティー色濃厚な世界構造を確保するに至ったのだ。

 


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