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場・波・粒子-3.1-まず粒子

2019-12-05 06:59:20 | 科学論
 前回の記事(2019/10/28)の続きで、量子力学で問題となっている波と粒子の二重性の話です。まずは関連する年表を示します。

[2015] 原子分子 抜け穴の無い量子もつれ実験。ベルの不等式破れの実証。日経サイエンス2019/02にレビュー。
[1982] 原子分子 アスペによる量子もつれ実験。ベルの不等式破れの実証。
[1986] 原子分子 アハラノフ=ボーム効果の実証。ベクトル・ポテンシャルの電子波の位相への効果。
[1974] 原子分子 1電子による二重スリット実験
[1964] 原子分子 量子もつれにおけるベルの不等式
[1964] 原子分子 アハラノフ=ボーム効果の提唱。
[1935] 原子分子 EPRパラドックス(EPR paradox)の提唱
[1926] 原子分子 シュレーディンガー方程式(Schrödinger equation)
[1925] 原子分子 ハイゼンベルクの行列力学(Matrix mechanics by Werner Heisenberg)
[1924] 原子分子 ド・ブロイの物質波(Matter wave/ de Broglie wave)
[1913] 原子分子 ボーア、電子軌道の量子条件から線スペクトルを説明
[1905] 光・電磁気 アインシュタイン「光電効果の光量子仮説
[1905] 運動学 アインシュタイン「特殊相対性理論
[1900] 光・電磁気 マックス・プランク「プランクの公式

 プランクによる箱の中の輻射のエネルギー量子化、アインシュタインによる光電効果の光量子仮説で電磁波(光波)は波と粒子の属性を併せ持つのではないかとの考えが生まれました。さらに電子軌道の量子条件とそれを説明するための物質波の仮説を経て、ミクロの世界ではあらゆるものが波と粒子の属性を併せ持つ量子だということになりました。併せ持つとは言っても古典的な波と粒子の属性には互いに相いれないものもあります。つまり量子の姿の一面である波や粒子は、古典的な波や粒子とは全く同じものではなく、その属性の一部は持っていないのです。

 量子が古典的な波や粒子の属性の何をうしなっかを知るには、まず古典的な波や粒子の属性とは何だったかをはっきりさせなくてはなりません。まずは粒子から考えてみましょう。

 粒子とは微小な物体と言えば間違いないでしょう。そしてニュートンの規則(2019/11/18)で述べたようにニュートンによれば物体は"拡がり(extension)","硬さ(hardness)","不可入性(impenetrability)","可動性(moveability)"および"慣性(inertiæ)"を持ちます。"拡がり(extension)"は体積や形状に、"硬さ(hardness)"と"不可入性(impenetrability)"は弾性や剛性に対応し、"可動性(moveability)"は速度や加速度に、"慣性(inertiæ)"は質量に対応します。こうしてみると粒子とは微小な固体であり流体ではありません。粒子とは限らない物質というものを一覧してみましょう。

 固体:体積も形状も一定。拡がり・硬さ・不可入性を持つ。
 液体:体積一定、形状不定。固体容器で形状を保てる。拡がりと不可入性を持つ。
    ある種の液体同士では不可入性を持たない。
 気体:体積も形状も不定。拡がりや硬さは持たない。気体同士では不可入性を持たない。
    ある種の固体に対しては不可入性を持つ。

 しかしアポガドロの分子論以降、固体も液体も気体も物質はすべて微小な粒子である分子や原子でできており、三態の違いはただ単位粒子同士の結合状態の違いに還元されました。物質と粒子はほぼイコールとなったのです。しかし分子や原子やさらには電子や素粒子ともなれば、人が視覚的な経験で捉えている古典的な粒子の属性のいくつかは曖昧なものとなります。具体的には大きさ(体積や拡がり)硬さ不可入性というものが曖昧になります。

 人が粒子や物体の大きさや形状を観測するには視覚または触覚を使います。視覚は対象に光を当てて反射や散乱、透過などで相互作用した光を観測するものです。ここで可視光線の替わりに他の放射線や音波や電磁波などを使えば拡張された視覚とも言うべき方法になります。触覚は自分の体で対象に触って感じる力を観測するものです。直接触らなくても別の物体を介して間接的に触っても観測はできます。さらに別の物体を介して接触する力を、人の触覚神経での観測ではなくメーターなどの何らかの表示機器で視覚情報に変換すれば定量的な測定ができます。触覚をナノの世界に拡張した測定機器が走査プローブ顕微鏡で、中でも原子間力顕微鏡は触覚そのものと言えるでしょう。

 どちらにしても使用する道具自体の大きさが精度の限界を決めます触覚代替の方法では対象から表示部分まで通常物質の物体で繋がっていますから、視覚代替よりも不利です。視覚代替では対象に当てるものが粒子ならばその大きさ、波ならば波長が精度の限界を決めます。さらに、当てるものと対象との相互作用の違いにより観測される大きさは異なります。典型的な例は、X線や電子線による回折像と中性子線による回折像の違いです。中性子は電荷を持たず電子との静電相互作用はしないので原子核の位置が見えますが、X線や電子線で見えるのは電子雲の広がりによる大きさです。さらにもっと一般化すれば、触覚や触覚代替法は通常物質である原子や分子と観測対象との相互作用を観測しています。それはすなわち原子周囲の電子雲と観測対象との相互作用です。触覚代替と言える手段では道具は電子雲1種類だけなので、視覚代替とは異なり観測される大きさは原理的には1種類だけです。

 さらに不確定性理論の登場により、古典的粒子の持っていた確定した位置と運動量という属性も量子は制限されてしまいました。とはいえ経験論を徹底するならば、そもそも確定した位置と運動量というものは理想的モデルである質点にのみが持てる属性だったということは注意しておきたいと思います。古典的粒子というのは小さいとはいえ大きさや、その大きさの範囲内への不可入性をも持つ概念でした。ニュートン力学における質点の属性としての粒子の位置というのは実は粒子の重心の位置です。そしてミクロの世界では、そもそも大きさが観測的には曖昧であるので質点としての位置も曖昧になっているはずです。


 少し横道ですが、19世紀以前には重力場や電場や磁場を渦動やエーテルといった物質的なもので"説明"しようとする理論が多数提案されました。原子論以前のこととて、これら物質的概念は物体(固体)も連続体(流体)もありましたが、つまりは物質的概念は説明不要としていたことになります。しかし上記のように、現在では物質的なものの方が"場"によって説明されるようになっているわけです。

続く

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