<ゼロ戦とグラマン>
◆戦争とモダンデザイン
【閑話休題】
こんにちは!
デザインコンサルタントの木全(キマタ)です。一般の方に向けて工業デザインのエッセンスについて書いたり、デザイナーとの付合い方などについて書いています。御相談がありましたら、コメントをくださいね。コメントによるご質問には基本的に無料でお答えいたします。
株式会社ビートップツー (木全が取締役を勤めています)
木全の自己紹介
★デザインセミナー講師も承ります。「講演.com」
★横浜市「無料デザイン相談」 ※横浜市に事業所のある方限定。
★墨田区「無料商工業アドバイザー派遣」 ※墨田区に事業所のある方限定。
もうすぐ終戦記念日です。テレビでも戦争関連の番組が多く放映されています。
今回は、少し脱線して戦争とモダンデザインについて少し考えてみました。
■政治に利用されたモダンデザイン
モダンデザインの発展にとって、戦争との関係は避けては通れないところがあります。
工業化社会の進展は世界大戦の歴史と重なっています。国家間の競争がはげしく、自国民の優秀性を誇示するために技術やデザインが政治に利用されました。
戦時体制は指揮系統の明確化を必要としており、自国軍内の軍服や階級章や勲章などの差別化、他国軍との差別化も重要なデザインの役割でした。
それらは学生服やセーラー服の例をあげるまでもなく、今でも様々なファッションやアイテムにそのイメージが流用されています。現代の企業内にも、机の天板の大きさ、椅子の背もたれの高さ、肘掛の有無など、役職や階級の差別化に利用されています。
■戦争とモダンデザイン
戦争は高性能な兵器を迅速に効率よく大量に生産することを国民に要求します。
兵器がばかりではなく、国内の士気高揚のため自国内で供給できる材料だけを使った日常の住宅や家具や生活用品も大量生産して国民に供給する必要もあります。その際自国の優秀さをアピールする上で、モダンデザインは大きな効果を発揮しました。
戦争という状況の中で悲惨な結果しか生み出さないことがわかっている軍事目的や政治目的のためではあっても、機能的な製品を大量生産する、自国民の愛国心を鼓舞する美しさを作り出す、という強制的な要求に答え、産業技術とモダンデザインは急速に発展しました。
ジョン・へスケットは著書「インダストリアルデザインの歴史」のなかで、「デザイナーの多様な仕事にあらわれた人間本来の創造力が、生活の向上をもたらす有益な目的に用いられるか、抑圧と破壊の道具として用いられるかは、ますます政府機関の決定に左右されるようになってきている。しかも、この政治組織のもつ決定的影響力が減少するきざしは、目下のところほとんどない。」と悲観的な見解を書いています。
■有意性と有用性
軍事目的や政治目的やその結果を斟酌せず、外観デザイン(有意性)だけを取り上げれば戦争中のデザインにも見るべきものがあります。しかし、有用性の視点から見たとき、戦時下においてモダンデザインの思想は完全に抑圧されていました。
田宮俊作は著作「田宮模型の仕事」のなかで、戦車のプラモデルの取材で世界中をめぐった際に気がついたこととして、アメリカの戦車にはエスケープハッチ(脱出口)がついていたが、日本やソ連の戦車にはない。アメリカは危機に際して脱出し生還せよと考えているのに、日本は最後まで戦えと考えていたと書いています。
柳田邦男は著作「ゼロ戦コンセプトの成功と失敗」(「この国の失敗の本質」より)の中で、次のように指摘しています。
日本とアメリカの戦闘機の比較を行い、アメリカの戦闘機は防弾を重視し、パイロットの背後を守る鋼板製アーマープレートと燃料タンクを防護するシーリングゴムを搭載し、搭乗員の安全を第一に設計していたのに対し、ゼロ戦は軽量化、空中戦での旋回性能を重視するあまり、そのどちらも搭載しなかった。最も大切なパイロットを守る機能を無視していた。
人間工学がアメリカで始まった背景には、人間を守るという製品に求められる当然の思想(有用性)があります。日本にはその思想がなかった。ゼロ戦の設計思想は、戦争という状況がどれほど命を軽視してしまうかという実例です。
そこに人間のためのデザインはありません。
モダンデザインは、使う人にとっての有意性と有用性の二つがそろってはじめて人間のためのものになるのです。
来週の更新は、夏季休暇でお休みさせていただきます。
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新書「デザインにひそむ<美しさ>の法則」(第4版)好評発売中
「売れる商品デザインの法則」(第2版)好評発売中
新書「中小企業のデザイン戦略 」(PHPビジネス新書) 好評発売中
新書「売れるデザインの発想法」(ソフトバンククリエイティブ新書)好評発売中
新書「マインドマップ デザイン思考の仕事術」(PHP新書)好評発売中
■株式会社ビートップ・ツー 工業デザイナーの転職アドバイザー
◆戦争とモダンデザイン
【閑話休題】
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もうすぐ終戦記念日です。テレビでも戦争関連の番組が多く放映されています。
今回は、少し脱線して戦争とモダンデザインについて少し考えてみました。
■政治に利用されたモダンデザイン
モダンデザインの発展にとって、戦争との関係は避けては通れないところがあります。
工業化社会の進展は世界大戦の歴史と重なっています。国家間の競争がはげしく、自国民の優秀性を誇示するために技術やデザインが政治に利用されました。
戦時体制は指揮系統の明確化を必要としており、自国軍内の軍服や階級章や勲章などの差別化、他国軍との差別化も重要なデザインの役割でした。
それらは学生服やセーラー服の例をあげるまでもなく、今でも様々なファッションやアイテムにそのイメージが流用されています。現代の企業内にも、机の天板の大きさ、椅子の背もたれの高さ、肘掛の有無など、役職や階級の差別化に利用されています。
■戦争とモダンデザイン
戦争は高性能な兵器を迅速に効率よく大量に生産することを国民に要求します。
兵器がばかりではなく、国内の士気高揚のため自国内で供給できる材料だけを使った日常の住宅や家具や生活用品も大量生産して国民に供給する必要もあります。その際自国の優秀さをアピールする上で、モダンデザインは大きな効果を発揮しました。
戦争という状況の中で悲惨な結果しか生み出さないことがわかっている軍事目的や政治目的のためではあっても、機能的な製品を大量生産する、自国民の愛国心を鼓舞する美しさを作り出す、という強制的な要求に答え、産業技術とモダンデザインは急速に発展しました。
ジョン・へスケットは著書「インダストリアルデザインの歴史」のなかで、「デザイナーの多様な仕事にあらわれた人間本来の創造力が、生活の向上をもたらす有益な目的に用いられるか、抑圧と破壊の道具として用いられるかは、ますます政府機関の決定に左右されるようになってきている。しかも、この政治組織のもつ決定的影響力が減少するきざしは、目下のところほとんどない。」と悲観的な見解を書いています。
■有意性と有用性
軍事目的や政治目的やその結果を斟酌せず、外観デザイン(有意性)だけを取り上げれば戦争中のデザインにも見るべきものがあります。しかし、有用性の視点から見たとき、戦時下においてモダンデザインの思想は完全に抑圧されていました。
田宮俊作は著作「田宮模型の仕事」のなかで、戦車のプラモデルの取材で世界中をめぐった際に気がついたこととして、アメリカの戦車にはエスケープハッチ(脱出口)がついていたが、日本やソ連の戦車にはない。アメリカは危機に際して脱出し生還せよと考えているのに、日本は最後まで戦えと考えていたと書いています。
柳田邦男は著作「ゼロ戦コンセプトの成功と失敗」(「この国の失敗の本質」より)の中で、次のように指摘しています。
日本とアメリカの戦闘機の比較を行い、アメリカの戦闘機は防弾を重視し、パイロットの背後を守る鋼板製アーマープレートと燃料タンクを防護するシーリングゴムを搭載し、搭乗員の安全を第一に設計していたのに対し、ゼロ戦は軽量化、空中戦での旋回性能を重視するあまり、そのどちらも搭載しなかった。最も大切なパイロットを守る機能を無視していた。
人間工学がアメリカで始まった背景には、人間を守るという製品に求められる当然の思想(有用性)があります。日本にはその思想がなかった。ゼロ戦の設計思想は、戦争という状況がどれほど命を軽視してしまうかという実例です。
そこに人間のためのデザインはありません。
モダンデザインは、使う人にとっての有意性と有用性の二つがそろってはじめて人間のためのものになるのです。
来週の更新は、夏季休暇でお休みさせていただきます。
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