スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

予習?:対ガイナーレ鳥取戦@栃木SC通信

2008-03-29 01:09:08 | 栃木SC
※メンバーが大幅に変わっているために参考にならない可能性大

掲示されたロスタイム2分が経過しようとしていた。最後の攻撃機会が巡って来た。米田兼一郎がDFラインの背後へとパスを送る。追い付いたのは途中出場の金子剛。Pボックス右からのシュートは、しかしゴールマウスをはるかに越えていった。2―2のスコアを動かせず無常のホイッスルが鳴り響く。それは同時に今季の“終わり”を告げるものでもあった。
 
勝敗表とにらめっこしながら一喜一憂する。その楽しみは残り4試合を残した、11月の頭に奪われた。勝ち点で上回るチームがいつ転ぶのか。下から這い上がり、最終的に昇格圏内の4位に滑り込むためには。厳しい現実を突きつけられながらも、様々な状況を想定し、逆転のシナリオを描く作業は、もはや無意味なものとなってしまった。つまり、栃木SCが今季、J2へ昇格する望みは絶たれてしまったのである。微かに開いていたJへの扉は完全に閉ざされた。
 
三菱水島FC、アルテ高崎に沈黙していたFW陣がゴールを決め、堅守で鳴る守備陣が無失点に抑え勝利した栃木SCは、連勝を3に伸ばすべくガイナーレ鳥取(以下、鳥取)とのJ2準加盟対決に臨んだ。スタメンの11人はGK原裕晃、DFには左から石川裕之、山崎透、谷池洋平、高野修栄、米田と久保田勲がボランチを組み、左ワイドに小林成光、右ワイドに高安亮介が入り、好調を維持している横山聡と山下芳輝が2トップに起用された。FWの軸とされてきた上野優作は累積警告による出場停止だった。
 
水口洋次監督の辞任に伴いヘッドコーチから昇格したのが、鳥取のヴィタヤ・ラオハクル監督である。監督就任後は5戦して2勝2分1敗と結果を出している。この人、現役時代はブンデスリーガ1部ヘルタ・ベルリンに所属。短期間ながらタイ代表監督を務めた経験も持ち合わせている。国際経験豊かなラオハクル体制での着実なステップアップを目論むクラブとしての姿勢が伺える。

「ワクワクするゲーム運び」と柱谷幸一監督が評した前半は、栃木SCのワンサイドゲームだった。手綱をグッと引き寄せたのは、横山聡の開始5分の先制弾だった。CKからファーサイドで米田が折り返したボールをヘディングシュート。ゴール後のゴリダンスもばっちり決めてみせた。

米田と久保田がリンクマンとなり、前線と最終ラインの橋渡し役となることでボールがスムーズに動く。2トップも上手くボールを引き出した。ボールが走ったことで、必然的に人も動いた。ポゼッションで凌駕し、サイドチェンジも多用。ピッチを幅広く利し、小林と高安がサイドを幾度となく攻略した。サイドでのアドバンテージが活きたのが2点目である。内に絞った米田が右へはたき、高安が入れたロークロスを二アサイドで横山聡が突き刺す。僅か15分で2点のリードを得る。

スピーディなアタックは爽快感を漂わせ、素早いプレスは相手の攻撃の芽を摘んだ。圧倒的な攻勢は変わらず。山下が横山聡とのワンツーから、横山聡がFKから試合を決めにかかった。3度目の歓喜は訪れなかったが、45分間を鳥取陣内で過ごせた。
 
ビハインドを背負った鳥取は後半、早速2枚代えを敢行する。意図は「スペースを埋め、早いプレスをかけて栃木のリズムを乱す」(ラオハクル監督)こと。加えて4―4―2から変則的な3―5―2へシフトし、中盤に厚みを持たせた。
 
策を講じるも流れは容易には変わらない。フリーの横山聡が2度のシュート機会、小林、久保田がそれぞれ枠内を捕らえたシュートを放つ。が、「苦手ではない」横山聡の左足は精度を欠き、小林と久保田はGK井上敦史の好守に阻止され決定的な3点目が手にできない。

「2点差は危ない。うちが先に点をとればゲームは決まる。相手が取ると難しいゲームになる。相手にやらずにうちが取ろう」
 
ハーフタイムの柱谷監督の指示である。前半の余勢を駆って優勢に試合を押し進めるも絶好機を逸したことで、ゲームは決まらずに危惧した通り困難なものとなった。
 
鶴見聡貴のパスから堀池勇平が技ありのループシュート。中央を崩され、失点を喫する。楽勝ムードは一変した。点差を縮めたことで鳥取の活動量は増した。トップにボールが収まり始め、中盤の攻防で優位に立つ。対照的に栃木SCは振り出しに戻されたわけでも、引っくり返されたわけでもないのに浮き足立ってしまう。全体が間延びしてしまい、連動したプレイは鳴りを潜める。プレスの効力は次第に弱まる。インパクトプレイヤー深澤幸次、小原昇の投入も起爆剤とはならなかった。2度もクロスバーに救われたものの、悪しき流れを断ち切れない。相手のペースに合わせてしまう。そして後半42分、カウンターに沈んだ。鶴見の左からの折り返しを戸田賢良がプッシュ。同点とされる。

逃げ切るのか、それとも次のゴールを取りに出るのか。曖昧な栃木SCと、カウンター一本に絞った鳥取。統一感は欠如し、迷いが付け入る隙を与えてしまった。
 
結局、好機で勝るも欲しかった3点目を掴み切れず、仕留め損なっている間に被弾してしまい、痛み分けで勝ち点2を喪失。数字の上では可能性を残すも、4位・FC岐阜との差は絶望的な10に開いたことで、事実上の終焉を迎えることになった。

「狙っているサッカーは分かってもらったが、もっと足りない部分を個人が上げていかないと。内容はまずまずも結果がでなかったことは申し訳ない」
 
J2昇格の切り札としてシーズン途中からチームを率いた柱谷監督だが、求められ期待された結果を出すことは叶わなかった。

さて、注目されるのは進退。「最後まで諦めずに戦い、J2かJFLか結果が出た時点で社長と話し合いたい」としながらも、「やってみたい気持ちはある」と続投の意志があることを公の場で語った。そう思い至ったのは高安に深澤と荒削りな選手が日に日にプロへと成長する過程がこの上なく楽しいからであり、「これだけの熱狂的なサポーターはいない」と絶賛するサポーターとJへ行きたいからでもある。
 
そのためには、「数字上きびしく可能性が0でも、有料試合だから対価に見合う準備をしてベストの状態で100%出し切り、目の前の試合に勝つ」(柱谷監督)必要がある。来季も契約を結んでもらえるのか、それとも切られるのか。選手同様に今後は監督も試される。

JFL後期第13節 栃木SC2―2ガイナーレ鳥取 観衆3683人 @栃木県総合運動公園陸上競技場

〈ガイナーレ鳥取〉GK井上敦史、DF増本浩平、戸田賢良、徐晩喜(→畑野伸和)、田村和也(→徐暁飛)、MF中垣雅博、川田和宏(→西村英樹)、実信憲明、堀池勇平、FW鶴見聡貴、釜田桂吾

〈栃木SC〉交代:高安(→深澤)、横山聡(→小原)、高野(→金子)



『主体的に問題を解決できる逞しさ』

2ゴールを叩き出すも殊勲者になり損ねた横山聡が、悔しさを押し殺し振り返る。

「後ろを楽にさせられるように3点目、追加点が取れていれば、こういう結果にはならなかった」
 
柱谷監督が繰り返し強調したのも3点目だった。なるほど、勝ち点3と勝ち点1を分けたものは、数多の好機を作りながらも終ぞ得られなかった次のゴールだった。殊に後半の立ち上がり、ゴールに襲い掛かるも決め切れなかったことが後々まで響いた。また、2―0から2―1にされた際、再び突き放すゴールが生まれていればガイナーレ鳥取(以下、鳥取)の戦意が殺がれたことは容易に想像できる。失ったアドバンテージを取り戻すことで、精神的な余裕が生まれ、三菱水島FC戦(5―0)に続き大量得点での圧勝がなったかもしれない。

息の根を止め切れなかった詰めの甘さが、開幕当初から改善されることのなかった心許ない攻撃力が、勝機を逸し、J2昇格への可能性を消滅させた。まさに、今季の栃木SCを象徴するかのような幕切れだった。
 
この試合、ポイントは2つあった。ひとつは前述したように後半15分までに雌雄を決するゴールが奪えなかったこと。もうひとつは1点差とされてから、残り約30分間の戦い方の選択である。
 
「3点目を取りにいくために前からDFにいく」(横山聡)姿勢は、次の1点が留めの一撃と読んでいた前線の選手に共通した思いだった。だが、DFラインの4人は、それに追随できなかった。自陣の深いところから動けない。最終ラインは取り残されてしまった。ぽっかりと空いたバイタルエリアを“埋めていた”のは、皮肉にも相手選手だった。広大なスペースを有益に使い、立て続けにゴールを脅かした。綻びが生じていることは誰の目にも明らかだった。が、失点の兆候を感じながらも、水漏れ箇所を修復するには至らず。失うべくして1点を失った。前後の微妙な意識のズレが連動した守備の機能を低下させ、致命的な同点弾を許す要因となってしまった。
 
攻守に奔走したボランチの米田兼一郎が、ピッチで感じた戸惑いを口にした。

「徐々に全体が開いてしまい、セカンドボールを拾われた。疲れもあるが、意思統一が図れていなかった。どうやって守るのか。引くのか、前へ行くのか。チームとしてのゲームプランを、時間帯と点差を考えながらやれていれば・・・」
 
柱谷監督は珍しくまくし立てた。

「前の6人はプレスに行くも、後ろの4人は前に行けない。狙ったボールではないのに相手に持たれズルズルと下がる。4人が相手にガツンと寄せる。強さ、というんですかね。メンタル、フィジカル、戦術的な強さを持っていない。前に行けないのならば中盤とトップを下げてコンパクトにすればよかったが、調節できなかった」
 
以前からゲーム運びの拙さを、選手と監督は課題として挙げていた。リードしていても簡単に流れを明け渡してしまう悪癖は克服されないままだった。いなしきれず、何時の間にか相手のリズムに引き込まれてしまう。原因は「バランスを取りながらポゼッションする」(柱谷監督)力が不足しているからである。

苦し紛れのボールを入れてくる。そのテンポに付き合うことなく、DFラインでボールを回しながら呼吸を整える。捨て身で向かって来たらブロックを形成。好守から機を伺いカウンターを繰り出してゴールを陥れる。卓越した状況判断能力、もっといえば老獪さが備わっていないのである。
 
その点に関して柱谷監督は、こんな風に感じている。

「(ピッチ)サイドから指示を出すとできるが、90分間いい続けることはできない。自分たちでやれるように、やっていかなくてはならない部分。やれていないのはボールを正確に蹴れない技術が不足しているのと同じ要素」
 
個々人が常に気持ちをアラート(用心深い、敏感な)な状態に保つ必要性があることを執拗に訴え求めているが、一朝一夕には身につかないようだ。自主的に局面毎に生じる問題を解決できるだけの逞しさを指揮官は欲している。
 
試合を重ねることで経験値を上げ、パート・パートではできているゲームコントロールを90分間、絶やさずに持続させる力を養っていかなければならない。1―0の僅差でも勝ち切れる、憎たらしさを兼備した強いチームになるためには、まだまだ何段もの階段を登らなければいけないようだ。


最新の画像もっと見る